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21. 深夜ホテルで密会
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「……もしもし」
かすれた声が、真夜中の部屋に響く。
『理久?』
低く、少しかすれた桐生さんの声。それが、現実の夜気の中で鼓膜を震わせる。
「何のつもりですか」
精一杯、冷たく言おうとした。けれど、唇が震えてうまく声が出ない。
『あのニュース、見た?』
「見ました」
『理久が泣いているかと思ってね』
「何をばかなことを」
乾いた声が出た。言葉の奥で、喉の奥が焼けるように痛い。
『どっちを信じたの?報道の内容か、あの夜のこと』
答えられず沈黙する。桐生さんは、なにかを飲み込むように息を整えた。
『明日、日本を発つ』
オレの全身が、一瞬で熱くなった。
「明日?」
海外の映画の撮影があることは聞いていた。全編マレーシアで撮影をするため、マレー語と英語のレッスンを受けていた。
『法を犯したわけでもないのに、高跳びだなんてさ。スケジュールを急遽前倒しにされて、明日の昼前には空の上だ』
「そうですか……、それは大変ですね」
『会いたい』
オレはスマホを握りしめ、言葉を失った。自分でだって、会いたいと願ってしまう本心がせめぎ合う。
「冗談はやめてください。オレは北海道で、明日もライブがあるんだ」
そのとき、違和感に気がついた。
受話器越しに、さっきから足音と何かを引きずるような音が漏れ聞こえた。電波が悪いのかと思ったが……。
その瞬間、コンコンと、控えめだが確かなノックが部屋のドアに響いた。
『理久。ドアを開けて』
「え、うそだろ?」
喉が焼けるように熱い。体が勝手に動いた。
ドアを開けると、夜の廊下の向こうに、黒いコートの男が立っていた。
「……どうして?」
桐生さんは、オレの頬に手を伸ばした。彼の指先が、オレの涙の跡を優しくなぞった。
「ひどい顔だ。本当に泣いていたんだな」
そのまま、桐生さんはスマホを耳から離し、通話を終了させた。
「泣いてなんか!」
オレが声を抑えながらも怒鳴ると、桐生さんは一歩踏み出し、ドアを押し開けてオレの部屋に入ってきた。
「どうやって、部屋を……?」
「湊くんに聞いた。事情があって、どうしても伝えたいことがあるとね。すぐに教えてくれたよ。君たちのマネージャーは、純粋で扱いやすいな」
桐生さんは、意地悪い笑みを浮かべた。その表情を見て、オレは再び怒りが湧き上がるのを感じた。
「こんなところに来るより、キレイな彼女のそばにいたらいい」
「彼女なんていないよ、恋人にしたい男は目の前にいるけどね」
「え?」
桐生さんは、オレの肩を掴み、そのまま壁に押し付けた。
そして、唇が触れた。拒めなかった。涙と一緒に、あの夜の記憶が甦る。
「嘘つき……っ」
「嘘なんて、ついてない」
息が絡み合い、ふたりの影が、暗い部屋の中でひとつに溶けた。
「んっ……。やめ、やめろよ」
「いやだ」
支配的なキスだった。スキャンダルの報道後、何よりも欲しかった彼の熱が、今、オレの全身を焼き尽くしていく。
ようやく唇が離れると、部屋に二人の荒い息遣いだけが響いた。
「なんのつもり?」
オレの問いに、桐生さんは黒いコートを床に投げ捨てる。
「事務所から『イメージアップのために女優との交際しろ』と言われたのは事実だよ」
桐生さんは、少しだけ目を伏せる。
「俺たちは会社の商品だからな。理久にはわかるだろう?」
当然だ。よく理解をしている。イメージダウンは最大の敵だと、何度も事務所から言われてきた。
「だったら、オレの部屋になんて来たらダメだ。せっかく、ゲイだなんて噂を払拭できたのに」
「理久も困るよな?人気アイドルがツアー中に、年上の俳優と密会だなんてさ。しかも、このままだと泥沼三角関係だ」
「な、笑い事じゃない!」
「ごめん、だけど……」
桐生さんは再び、オレの唇に軽く触れた。
「理久が泣いていると思ったら、どうしても会いたくて。羽田から最終便で飛んできた。君は、俺の全てを狂わせる」
「翔……」
張り詰めていた緊張と怒りが一気に崩壊し、オレは桐生さんの胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。
桐生さんは何も言わず、ただ優しくオレの背中を抱きしめた。
かすれた声が、真夜中の部屋に響く。
『理久?』
低く、少しかすれた桐生さんの声。それが、現実の夜気の中で鼓膜を震わせる。
「何のつもりですか」
精一杯、冷たく言おうとした。けれど、唇が震えてうまく声が出ない。
『あのニュース、見た?』
「見ました」
『理久が泣いているかと思ってね』
「何をばかなことを」
乾いた声が出た。言葉の奥で、喉の奥が焼けるように痛い。
『どっちを信じたの?報道の内容か、あの夜のこと』
答えられず沈黙する。桐生さんは、なにかを飲み込むように息を整えた。
『明日、日本を発つ』
オレの全身が、一瞬で熱くなった。
「明日?」
海外の映画の撮影があることは聞いていた。全編マレーシアで撮影をするため、マレー語と英語のレッスンを受けていた。
『法を犯したわけでもないのに、高跳びだなんてさ。スケジュールを急遽前倒しにされて、明日の昼前には空の上だ』
「そうですか……、それは大変ですね」
『会いたい』
オレはスマホを握りしめ、言葉を失った。自分でだって、会いたいと願ってしまう本心がせめぎ合う。
「冗談はやめてください。オレは北海道で、明日もライブがあるんだ」
そのとき、違和感に気がついた。
受話器越しに、さっきから足音と何かを引きずるような音が漏れ聞こえた。電波が悪いのかと思ったが……。
その瞬間、コンコンと、控えめだが確かなノックが部屋のドアに響いた。
『理久。ドアを開けて』
「え、うそだろ?」
喉が焼けるように熱い。体が勝手に動いた。
ドアを開けると、夜の廊下の向こうに、黒いコートの男が立っていた。
「……どうして?」
桐生さんは、オレの頬に手を伸ばした。彼の指先が、オレの涙の跡を優しくなぞった。
「ひどい顔だ。本当に泣いていたんだな」
そのまま、桐生さんはスマホを耳から離し、通話を終了させた。
「泣いてなんか!」
オレが声を抑えながらも怒鳴ると、桐生さんは一歩踏み出し、ドアを押し開けてオレの部屋に入ってきた。
「どうやって、部屋を……?」
「湊くんに聞いた。事情があって、どうしても伝えたいことがあるとね。すぐに教えてくれたよ。君たちのマネージャーは、純粋で扱いやすいな」
桐生さんは、意地悪い笑みを浮かべた。その表情を見て、オレは再び怒りが湧き上がるのを感じた。
「こんなところに来るより、キレイな彼女のそばにいたらいい」
「彼女なんていないよ、恋人にしたい男は目の前にいるけどね」
「え?」
桐生さんは、オレの肩を掴み、そのまま壁に押し付けた。
そして、唇が触れた。拒めなかった。涙と一緒に、あの夜の記憶が甦る。
「嘘つき……っ」
「嘘なんて、ついてない」
息が絡み合い、ふたりの影が、暗い部屋の中でひとつに溶けた。
「んっ……。やめ、やめろよ」
「いやだ」
支配的なキスだった。スキャンダルの報道後、何よりも欲しかった彼の熱が、今、オレの全身を焼き尽くしていく。
ようやく唇が離れると、部屋に二人の荒い息遣いだけが響いた。
「なんのつもり?」
オレの問いに、桐生さんは黒いコートを床に投げ捨てる。
「事務所から『イメージアップのために女優との交際しろ』と言われたのは事実だよ」
桐生さんは、少しだけ目を伏せる。
「俺たちは会社の商品だからな。理久にはわかるだろう?」
当然だ。よく理解をしている。イメージダウンは最大の敵だと、何度も事務所から言われてきた。
「だったら、オレの部屋になんて来たらダメだ。せっかく、ゲイだなんて噂を払拭できたのに」
「理久も困るよな?人気アイドルがツアー中に、年上の俳優と密会だなんてさ。しかも、このままだと泥沼三角関係だ」
「な、笑い事じゃない!」
「ごめん、だけど……」
桐生さんは再び、オレの唇に軽く触れた。
「理久が泣いていると思ったら、どうしても会いたくて。羽田から最終便で飛んできた。君は、俺の全てを狂わせる」
「翔……」
張り詰めていた緊張と怒りが一気に崩壊し、オレは桐生さんの胸に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。
桐生さんは何も言わず、ただ優しくオレの背中を抱きしめた。
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