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♯1
23. 片想いからの卒業
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北海道ドームツアー二日目が開幕した。
オレは昨夜の熱を、そのままステージにぶつけた。
身体は酷く疲弊していたが、心は驚くほど穏やかだった。それは、桐生さんとの関係が「恋人」という確かな形を持ったからだ。
『愛している』
夜明け前、静かに部屋を出て行った彼の言葉が、今もオレの心を支えている。
「片倉、着替え終わったか?蒼真のソロのあと、ダンスナンバー続くからな、しっかり水分補給と汗拭いとけよ」
伊勢が声をかけてくる。
「わかってる!伊勢こそ後半バテるなよ」
オレたちは、メインステージ裏の狭いスペースで、衣装替えをしていた。
背中には大量の汗をかいている。シャツが汗で張り付き肩甲骨あたりで引っ掛かる。それに気づいた伊勢が、オレの背中に手を伸ばした。
「あれ、なんか赤いぞ、片倉」
「え?」
伊勢の視線がオレの肌に刺さる。いっきに全身の、汗が引いてしまった。
昨夜、桐生さんが残していった熱の痕跡だ。たぶん、身体のあちこちにあるはずだ。
オレは過去最速で着替えを済ませると、
「あー……ああ、これ? 蚊に刺されたかな?どうりで痒いと思ったなぁ!」
伊勢が疑いの目をオレに向けた。
「冬の北海道に蚊なんているか?あ、もしかしたらーー」
伊勢が更に踏み込もうとした瞬間、救いの声が響いた。
「ほら、蒼真くんの曲が終わりますよ!伊勢くんの登場口はあっちですよ」
「なぁ、あのホテル、ダニでもいたかな?」
「いいから、早くスタンバイして下さい!」
湊さんが伊勢くんの背中を押した。
伊勢は不満そうにしながらも、湊さんの指示に従い、自分の持ち場に戻る。
「湊さん、あの……」
「片倉くん、僕は何も知らないです」
桐生さんは『湊くんに聞いた』と言っていた。湊さんは、オレの窮地を救うために、全てを察して、そして黙っていてくれたのだ。
「湊さん……ありがとう」
オレは深々と頭を下げた。湊さんは、いつもの優しく細い目で微笑んだ。
「ホテルにダニがいるなんて、失礼なこと言うよね、伊勢くん」
「本当だね」
「なんでかな、片倉くんのことになると、ひどく鈍感なんだから」
「え?」
「片倉くんの前だと、素直な少年に戻るんだよね」
「そうかな、まぁ、付き合いは長いけど」
「本音を言うと、僕は少し妬いています」
「湊さん?」
「なんてね、さぁ、出番ですよ。最高のステージにして下さい」
湊さんに、ポンと背中を叩かれた。
その時、オレの中に残っていた小さなトゲが、ポロリと取れた気がした。
「行ってきます!」
ステージへ駆け出すと、爆発するような歓声が迎えてくれた。
足元の床が震えている。音が身体を突き抜け、リズムが心臓を叩く。
ペンライトの海が波のように揺れて、オレはその光に包まれていく。
伊勢と目が合った。
出会った頃と同じ、はじけるような輝く笑顔がそこにあった。
あの頃、2人で夢見たステージに立っている。変わらずに一緒にいる。
それだけで、もう充分だった。
汗と光の中で、伊勢への想いが静かに溶けていった。
オレは昨夜の熱を、そのままステージにぶつけた。
身体は酷く疲弊していたが、心は驚くほど穏やかだった。それは、桐生さんとの関係が「恋人」という確かな形を持ったからだ。
『愛している』
夜明け前、静かに部屋を出て行った彼の言葉が、今もオレの心を支えている。
「片倉、着替え終わったか?蒼真のソロのあと、ダンスナンバー続くからな、しっかり水分補給と汗拭いとけよ」
伊勢が声をかけてくる。
「わかってる!伊勢こそ後半バテるなよ」
オレたちは、メインステージ裏の狭いスペースで、衣装替えをしていた。
背中には大量の汗をかいている。シャツが汗で張り付き肩甲骨あたりで引っ掛かる。それに気づいた伊勢が、オレの背中に手を伸ばした。
「あれ、なんか赤いぞ、片倉」
「え?」
伊勢の視線がオレの肌に刺さる。いっきに全身の、汗が引いてしまった。
昨夜、桐生さんが残していった熱の痕跡だ。たぶん、身体のあちこちにあるはずだ。
オレは過去最速で着替えを済ませると、
「あー……ああ、これ? 蚊に刺されたかな?どうりで痒いと思ったなぁ!」
伊勢が疑いの目をオレに向けた。
「冬の北海道に蚊なんているか?あ、もしかしたらーー」
伊勢が更に踏み込もうとした瞬間、救いの声が響いた。
「ほら、蒼真くんの曲が終わりますよ!伊勢くんの登場口はあっちですよ」
「なぁ、あのホテル、ダニでもいたかな?」
「いいから、早くスタンバイして下さい!」
湊さんが伊勢くんの背中を押した。
伊勢は不満そうにしながらも、湊さんの指示に従い、自分の持ち場に戻る。
「湊さん、あの……」
「片倉くん、僕は何も知らないです」
桐生さんは『湊くんに聞いた』と言っていた。湊さんは、オレの窮地を救うために、全てを察して、そして黙っていてくれたのだ。
「湊さん……ありがとう」
オレは深々と頭を下げた。湊さんは、いつもの優しく細い目で微笑んだ。
「ホテルにダニがいるなんて、失礼なこと言うよね、伊勢くん」
「本当だね」
「なんでかな、片倉くんのことになると、ひどく鈍感なんだから」
「え?」
「片倉くんの前だと、素直な少年に戻るんだよね」
「そうかな、まぁ、付き合いは長いけど」
「本音を言うと、僕は少し妬いています」
「湊さん?」
「なんてね、さぁ、出番ですよ。最高のステージにして下さい」
湊さんに、ポンと背中を叩かれた。
その時、オレの中に残っていた小さなトゲが、ポロリと取れた気がした。
「行ってきます!」
ステージへ駆け出すと、爆発するような歓声が迎えてくれた。
足元の床が震えている。音が身体を突き抜け、リズムが心臓を叩く。
ペンライトの海が波のように揺れて、オレはその光に包まれていく。
伊勢と目が合った。
出会った頃と同じ、はじけるような輝く笑顔がそこにあった。
あの頃、2人で夢見たステージに立っている。変わらずに一緒にいる。
それだけで、もう充分だった。
汗と光の中で、伊勢への想いが静かに溶けていった。
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