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結婚生活 2年2ヶ月 ~花びら舞うゲーム~
ゲームをはじめましょう
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侯爵領にはいくつかの街がありますが、屋敷から最も遠いその街の「裏通り36番街」は、貴族や富裕層の娯楽街です。
光あれば影がある。昼間は活気溢れる街の、日陰のようなエリアなのです。
「ルイディア様、こちらです」
カリンが優雅な仕草で、エスコートしてくれます。
彼は私の忠実な手足として、裏社会の情報を集めてくれています。頬に大きな火傷がありますが、整った顔立ちの青年です。
カリンを従え、酒場の奥にある階段を降りると、黒服に止められました。
「どなたかのご紹介ですか?」
横柄な態度に、カリンが口を開きましたが、そっと静止させました。主には従順でも、血気盛んなお年頃です。
「ルイディアと申します」
「た、大変失礼いたしました。どうぞごゆっくり」
「ありがとう」
サロンの扉を開けると、そこはまるで別世界です。
きらびやかなシャンデリアが天井から下がり、グラスを揺らす音が、男たちの熱気に満ちたざわめきに溶け込んでいます。
「まあ、随分と華やかですこと。まるで春の舞踏会のようですわね」
「マートル様がいました」
カリンが指差したのは、ポーカーの台でした。まったく、ポーカーフェイスとは程遠いのに、なぜその台で遊ぼうだなんて。負け確定ですね。
見慣れた金髪の後ろ姿。その左右には着飾った女性が、ぴったりと寄り添っています。なんて、窮屈そうなのでしょう。
「今夜は勝てますか?」
私が静かにそう囁いた、その時でした。
「え、どうしてここに!」
椅子から落ちそうなリアクション。
しかし、彼の視線はすぐにカリンへ向けられます。
「え、誰なんだい、そいつは!僕がいるのに、男と二人きりでこんな所に来るなんて、浮気は許せないよ!」
呆れてものが言えません。
自分の両腕には、レディの放漫な胸が引っ付いているのに。よくもそんなことが言えますね。
「彼は私の大事な友人ですわ」
私はにこりと微笑みました。
ええ、私は浮気などという低俗なことは、絶対に致しません。
「ねぇ、マートル様。その方はどちら?」
「今夜は、わたしたちがマートル様と過ごすのよ」
敵意を向けられました。
まぁ、「私たち」ですって?そういうお遊びも、旦那様のお好みなのでしょう。人の趣味嗜好や、お戯れには口出しはしませんけど。
「はじめまして。主人が大変お世話になっていますわ」
にこりと微笑みました。
「え?」
まさか、侯爵の跡取りが、こんな場所にいるとは、思っていなかったのでしょう。一瞬にして笑顔が消え失せました。
「侯爵令嬢、ルイディア様とは知らず、た、大変失礼いたしました」
すぐに察したようです。
どこかの貴族の娘かもしれません。顔はしっかり、覚えましたから。また、どこかでお会いしたときは……ね。
楽しみにしていらっしゃい。
「今夜は、夫婦でゲームを楽しみたいのです。その席、ゆずっていただけますかしら?右でも左でも、どちらでも構いません」
「譲るなんて、滅相もありません!」
「そうですわ!たまたまお会いしただけですもの、ね」
彼女たちは、あっという間に旦那様から離れていきました。
「素敵な奥様ですね、マートル様」
ふいに、妖艶な声が届きます。
「いらっしゃいませ、ルイディア様。お会いできて光栄です」
声の主は、美しいディーラーでした。彼女は手慣れた手つきでカードをシャッフルし、私の目をじっと見つめます。
「お相手していただけますか?」
「お手柔らかに」
私は柔らかく頷き、テーブルに腰を下ろしました。周囲の観客はさほど注目せず、二人だけの小さな世界が生まれます。
カリンはそっと私の後方に佇み、旦那様は口を開いて固まっています。
カードが配られ、私はゆっくりと手札を確認します。ディーラーの笑みが絶えず揺れる――。
その微妙な表情の変化を読み取りながら、駆け引きを楽しみます。
「ふふ、なかなかですわね」
ゲームの進行と共に、私は静かにカードを出します。
ディーラーもまた、手の内を見せずに、華麗に切り返します。互いの心理を読み合うこの瞬間――まるで舞踏会でステップを踏むように、互いに一歩ずつ探り合うのです。
そして、場の空気が十分に温まったところで、私は静かに言いました。
「さて、それでは本番の勝負に参りましょうか」
ルーレットの台へと視線を向けました。大勝負の幕開けです。
「おいくら賭けますか?」
ディーラーが不適に微笑む。
「私の私財全てです」
回りからどよめきが聞こえました。
「本気ですか?」
「私が買ったら、旦那様の負け分は、無かったことにしてくださいな。かなりの額でしょうからね」
「ギクッ!」
隣からうんざりする声。ここは無視します。
「私が負けたら、旦那様を好きにして構いませんわ。煮るなり焼くなり、ムチで叩いて蝋燭を垂らすも、お好きにどうぞ。泣いて喜びますわ」
「ええ!」
旦那様は驚きのあまり、椅子から転げ落ちました。なんだか、嬉しそうな表情ですね。
みかねたカリンが、仕方なく手を貸しています。
「本当に、素敵な奥様方ですね、マートル様」
ディーラーはふわりと微笑んだ。
光あれば影がある。昼間は活気溢れる街の、日陰のようなエリアなのです。
「ルイディア様、こちらです」
カリンが優雅な仕草で、エスコートしてくれます。
彼は私の忠実な手足として、裏社会の情報を集めてくれています。頬に大きな火傷がありますが、整った顔立ちの青年です。
カリンを従え、酒場の奥にある階段を降りると、黒服に止められました。
「どなたかのご紹介ですか?」
横柄な態度に、カリンが口を開きましたが、そっと静止させました。主には従順でも、血気盛んなお年頃です。
「ルイディアと申します」
「た、大変失礼いたしました。どうぞごゆっくり」
「ありがとう」
サロンの扉を開けると、そこはまるで別世界です。
きらびやかなシャンデリアが天井から下がり、グラスを揺らす音が、男たちの熱気に満ちたざわめきに溶け込んでいます。
「まあ、随分と華やかですこと。まるで春の舞踏会のようですわね」
「マートル様がいました」
カリンが指差したのは、ポーカーの台でした。まったく、ポーカーフェイスとは程遠いのに、なぜその台で遊ぼうだなんて。負け確定ですね。
見慣れた金髪の後ろ姿。その左右には着飾った女性が、ぴったりと寄り添っています。なんて、窮屈そうなのでしょう。
「今夜は勝てますか?」
私が静かにそう囁いた、その時でした。
「え、どうしてここに!」
椅子から落ちそうなリアクション。
しかし、彼の視線はすぐにカリンへ向けられます。
「え、誰なんだい、そいつは!僕がいるのに、男と二人きりでこんな所に来るなんて、浮気は許せないよ!」
呆れてものが言えません。
自分の両腕には、レディの放漫な胸が引っ付いているのに。よくもそんなことが言えますね。
「彼は私の大事な友人ですわ」
私はにこりと微笑みました。
ええ、私は浮気などという低俗なことは、絶対に致しません。
「ねぇ、マートル様。その方はどちら?」
「今夜は、わたしたちがマートル様と過ごすのよ」
敵意を向けられました。
まぁ、「私たち」ですって?そういうお遊びも、旦那様のお好みなのでしょう。人の趣味嗜好や、お戯れには口出しはしませんけど。
「はじめまして。主人が大変お世話になっていますわ」
にこりと微笑みました。
「え?」
まさか、侯爵の跡取りが、こんな場所にいるとは、思っていなかったのでしょう。一瞬にして笑顔が消え失せました。
「侯爵令嬢、ルイディア様とは知らず、た、大変失礼いたしました」
すぐに察したようです。
どこかの貴族の娘かもしれません。顔はしっかり、覚えましたから。また、どこかでお会いしたときは……ね。
楽しみにしていらっしゃい。
「今夜は、夫婦でゲームを楽しみたいのです。その席、ゆずっていただけますかしら?右でも左でも、どちらでも構いません」
「譲るなんて、滅相もありません!」
「そうですわ!たまたまお会いしただけですもの、ね」
彼女たちは、あっという間に旦那様から離れていきました。
「素敵な奥様ですね、マートル様」
ふいに、妖艶な声が届きます。
「いらっしゃいませ、ルイディア様。お会いできて光栄です」
声の主は、美しいディーラーでした。彼女は手慣れた手つきでカードをシャッフルし、私の目をじっと見つめます。
「お相手していただけますか?」
「お手柔らかに」
私は柔らかく頷き、テーブルに腰を下ろしました。周囲の観客はさほど注目せず、二人だけの小さな世界が生まれます。
カリンはそっと私の後方に佇み、旦那様は口を開いて固まっています。
カードが配られ、私はゆっくりと手札を確認します。ディーラーの笑みが絶えず揺れる――。
その微妙な表情の変化を読み取りながら、駆け引きを楽しみます。
「ふふ、なかなかですわね」
ゲームの進行と共に、私は静かにカードを出します。
ディーラーもまた、手の内を見せずに、華麗に切り返します。互いの心理を読み合うこの瞬間――まるで舞踏会でステップを踏むように、互いに一歩ずつ探り合うのです。
そして、場の空気が十分に温まったところで、私は静かに言いました。
「さて、それでは本番の勝負に参りましょうか」
ルーレットの台へと視線を向けました。大勝負の幕開けです。
「おいくら賭けますか?」
ディーラーが不適に微笑む。
「私の私財全てです」
回りからどよめきが聞こえました。
「本気ですか?」
「私が買ったら、旦那様の負け分は、無かったことにしてくださいな。かなりの額でしょうからね」
「ギクッ!」
隣からうんざりする声。ここは無視します。
「私が負けたら、旦那様を好きにして構いませんわ。煮るなり焼くなり、ムチで叩いて蝋燭を垂らすも、お好きにどうぞ。泣いて喜びますわ」
「ええ!」
旦那様は驚きのあまり、椅子から転げ落ちました。なんだか、嬉しそうな表情ですね。
みかねたカリンが、仕方なく手を貸しています。
「本当に、素敵な奥様方ですね、マートル様」
ディーラーはふわりと微笑んだ。
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