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結婚生活 -3ヵ月 ~花が咲く前~
わたくしの未来の旦那様、どうか末永くお願いいたします
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「明日は晴れるといいですね」
私はポツリと呟きました。
冬は暖炉の温かさと外気の気温差で、サンルームのガラス窓も、結露で曇ってしまっています。
庭で咲いている椿の赤い花が、ぼんやりと輪郭だけで見えています。
『少し窓を開けましょうか』
マルス子爵夫人であれば、少しくらい寒くても景色を楽しもうとしますが、今日はそうはいけません。
「お母様、寒くはありませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
身体も心も弱いお母様。風邪でもひいて、明日のパーティーに不参加となったら、またお祖母様と揉めるのが目に見えています。
「お祖父様とお祖母様は、何時くらいにいらっしゃるのでしょうか?」
「雪が降らないといいわね」
前侯爵であるお祖父様は、息子であるお父様に爵位を継がせたあと、お祖母様のご実家の領地へと住まいを移しました。
高原に小さな屋敷を構え、のんびりと隠居生活を楽しまれていまく。
「久しぶりにお会いできますね」
「ええ、そうね」
お母様の表情が曇ります。
嫁と姑だから――ではありません。
何事もテキパキとこなす気の強いお祖母様と、臆病で自分から行動することができないお母様。
性格が真逆すぎて、合わないのも当然です。
「奥様、お夕食の最終チェックをお願いします」
年配のメイド長が、お母様に声をかけました。
今夜は、私の結婚相手である伯爵家のご次男、マートル様に初めてお会いする日なのです。
お祖父様の旧友である伯爵家を招き、夕食会を催します。
「ああ、ごめんなさいね。私はもう部屋で休みたいわ。ルイディアに任せておけば安心だわ」
そう言うと、お母様は自分の侍女を連れて自室に戻って行きました。
今夜のパーティーも、最初の挨拶だけ顔を出して、そのあとは部屋で休むのでしょう。
同じ屋敷に住んでいても、めったに顔を合わせることのないお母様です。
「あれでも、お前の結婚を喜んではいるのだよ」
いつの間にいたのか、お父様がため息をつきます。
「ええ、わかっています」
愛されていないとは思っていません。
ただ、お母様にとって、娘である私よりも、ご自身が何より大切で守るべき対象であることは、幼い頃からずっと分かっていました。
そのため、随分と寂しい思いをしたものです。
「お父様、私は幸せになれるでしょうか」
「お祖父様は、ルイディアの幸せを第一に考えて、この縁談を結んだはずさ。マートル君と、幸せな家庭を築けるだろう」
お父様の優しい笑顔に、ほっと癒されました。
――あのときは、ですが。
◆◆◆
それから、数ヶ月が経ちました。
「お祖父様にお手紙をお送りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
書き上げた手紙を、お父様の書斎に持って来ていました。
「ああ、もちろんだ。可愛い孫の手紙なら、喜ぶだろう」
「まぁ、お父様ったら。血文字で書いた呪符でも、喜んでもらえるかしら?」
ガタンッ!
壁に掛けられていた絵画が落ちました。単なる偶然ですわ。
「な、何を言うのだ, ルイディア」
「冗談です。ただ、なぜ、あのようなポンコツを私の夫に迎えたのか、お祖父様にお尋ねしたいと思いまして」
新婚早々、屋敷のメイドに手を出し、パーティーに行けば庭で他の淑女とお楽しみ。次々と不定を繰り返します。
コンコン。
書斎のドアが開かれ、執事が入って来ました。
「前侯爵様よりお手紙が届いております」
なんというタイミングでしょう。
無言でお父様が封を開け、読み始めます。
「しばらく旅に出ます」
「え?」
「ルイディア、残念だが、その手紙は届きそうもないね」
まったく、なんてことでしょう!
私はポツリと呟きました。
冬は暖炉の温かさと外気の気温差で、サンルームのガラス窓も、結露で曇ってしまっています。
庭で咲いている椿の赤い花が、ぼんやりと輪郭だけで見えています。
『少し窓を開けましょうか』
マルス子爵夫人であれば、少しくらい寒くても景色を楽しもうとしますが、今日はそうはいけません。
「お母様、寒くはありませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
身体も心も弱いお母様。風邪でもひいて、明日のパーティーに不参加となったら、またお祖母様と揉めるのが目に見えています。
「お祖父様とお祖母様は、何時くらいにいらっしゃるのでしょうか?」
「雪が降らないといいわね」
前侯爵であるお祖父様は、息子であるお父様に爵位を継がせたあと、お祖母様のご実家の領地へと住まいを移しました。
高原に小さな屋敷を構え、のんびりと隠居生活を楽しまれていまく。
「久しぶりにお会いできますね」
「ええ、そうね」
お母様の表情が曇ります。
嫁と姑だから――ではありません。
何事もテキパキとこなす気の強いお祖母様と、臆病で自分から行動することができないお母様。
性格が真逆すぎて、合わないのも当然です。
「奥様、お夕食の最終チェックをお願いします」
年配のメイド長が、お母様に声をかけました。
今夜は、私の結婚相手である伯爵家のご次男、マートル様に初めてお会いする日なのです。
お祖父様の旧友である伯爵家を招き、夕食会を催します。
「ああ、ごめんなさいね。私はもう部屋で休みたいわ。ルイディアに任せておけば安心だわ」
そう言うと、お母様は自分の侍女を連れて自室に戻って行きました。
今夜のパーティーも、最初の挨拶だけ顔を出して、そのあとは部屋で休むのでしょう。
同じ屋敷に住んでいても、めったに顔を合わせることのないお母様です。
「あれでも、お前の結婚を喜んではいるのだよ」
いつの間にいたのか、お父様がため息をつきます。
「ええ、わかっています」
愛されていないとは思っていません。
ただ、お母様にとって、娘である私よりも、ご自身が何より大切で守るべき対象であることは、幼い頃からずっと分かっていました。
そのため、随分と寂しい思いをしたものです。
「お父様、私は幸せになれるでしょうか」
「お祖父様は、ルイディアの幸せを第一に考えて、この縁談を結んだはずさ。マートル君と、幸せな家庭を築けるだろう」
お父様の優しい笑顔に、ほっと癒されました。
――あのときは、ですが。
◆◆◆
それから、数ヶ月が経ちました。
「お祖父様にお手紙をお送りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
書き上げた手紙を、お父様の書斎に持って来ていました。
「ああ、もちろんだ。可愛い孫の手紙なら、喜ぶだろう」
「まぁ、お父様ったら。血文字で書いた呪符でも、喜んでもらえるかしら?」
ガタンッ!
壁に掛けられていた絵画が落ちました。単なる偶然ですわ。
「な、何を言うのだ, ルイディア」
「冗談です。ただ、なぜ、あのようなポンコツを私の夫に迎えたのか、お祖父様にお尋ねしたいと思いまして」
新婚早々、屋敷のメイドに手を出し、パーティーに行けば庭で他の淑女とお楽しみ。次々と不定を繰り返します。
コンコン。
書斎のドアが開かれ、執事が入って来ました。
「前侯爵様よりお手紙が届いております」
なんというタイミングでしょう。
無言でお父様が封を開け、読み始めます。
「しばらく旅に出ます」
「え?」
「ルイディア、残念だが、その手紙は届きそうもないね」
まったく、なんてことでしょう!
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