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#8 またしても新事実
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休憩室でひとりランチを食べていると、スマホにメールが届いた。
ファンクラブ会員限定のお知らせだ。
『ついにdulcis〈ドゥルキス〉海外新出!アジアツアー決定!先行チケット販売のご案内』
いつもなら、悲鳴をあげているはずのビッグニュース。
でも、今は画面の中の「チケット申し込み」の文字がやけに遠い。
先週、私の肌を熱く撫で回した指。何度も名前を呼んでくれた、あの掠れた声。
ファンなのに推しとの一線を越えた自分。何万人の観客の一人として、ペンライトを振る権利があるのだろうか。
私は逃げるように画面を閉じた。
何気なくテレビをつけると、耳馴染みのあるイントロが流れてきた。
『本日のゲストは、dulcis〈ドゥルキス〉のアラタさんです!』
画面いっぱいに、あの人の姿が映し出された。
『こんにちは、よろしくお願いします』
透き通るような肌、完璧な骨格。美容系アイドルとして絶大な人気を誇るアラタ。
白いスタジオライトの下、一分の隙もない角度で笑っている。
『美しさは努力の賜物です』
そのストイックな言葉、凛とした表情。
昨夜、シーツの上で私を求めていた、あの淫らな熱を帯びた瞳とは、まるで別人のようだった。
『ただ、誰かを愛すること。そして、愛されている自信。それに勝る美容液はありませんね』
スタジオにため息が漏れる。カメラに向かって投げられる、完璧なウィンク。
ああ、やっぱり、カッコいい。
『――え? いえいえ。もちろん、ファンのみなさんのことですよ』
軽やかに笑って、スタジオの空気をさらりと支配していく。
私があの夜抱きしめたのは、本当にこの人だったのだろうか。
「あらまぁ、立派なことを言ってるわねぇ」
百合さんがお弁当を片手に戻ってきた。画面のアラタを見ながら、やけに面白そうに笑っている。
「誰のおかげの美肌なんだか」
「え、百合さん……」
百合さんは私の目の前の席に座ると、
「ん?愛香ちゃん。なんか肌がいい感じねぇ」
百合さんがじっと私を覗き込んだ。
「さては――抱かれたわね。しかも、最高のセックスができたわね!」
「えっ!」
どうしてこの人は、こんか単刀直入なのだろう。
「あーん、ほらね!やっぱり女が美しくなるには、注射もサプリも必要ないのよ。好きな男に燃え尽きるまで抱かれてこそ、女は花咲くものなのよ」
アラタとの夜が、一瞬で脳裏を過る。
「あの、百合さん……。私、どうすればいいでしょう」
「なになに?聞かせてちょうだい」
百合さんは楽しそうに身を乗り出した。
「実は、その、相手の名前は伏せるのですが。ちょっと、いえ。わりと有名な方と……してしまったのです」
そこまで言うと、百合さんはテレビ画面をじっと見た。そして、ポンと手を叩いた。
「なんだ、愛香ちゃんの相手ってアラタなの?」
「えっ! なんで、わかったんですか!?」
私は驚きで箸を落としそうになる。アラタとの関係は、克哉と私だけの秘密のはずなのに。
「弟だもの」
「誰が、ですか?」
「だから、dulcis〈ドゥルキス〉のアラタはわたしの弟」
「ええ、ええええーーーー!」
ここに来て、また新情報が加わり、私の脳内は完全に停止した。克哉の右腕である百合さんが、国民的アイドルの姉!?
「なるほど、そっか。うんうん、わかったわ」
「いえ、私は全然状況がわかりません」
「いつまでも、男の克哉相手に満足してるようじゃ、姉としては心配だったのよ」
「えっ! 百合さん、知ってるんですか? 克哉とアラタが……、その、つまり……」
「まあね」
ふふっと、彼女は隠し事を楽しむように笑った。
「アラタに克哉を紹介したのは、わたしだからね」
百合さんは克哉の大学時代の先輩で、付き合いは10年以上と聞いている。
「医師と患者のはずが、妙な関係になったと聞いたときは驚いたけどね」
ぶっ、と思わずお茶を吐きそうになる。
あの二人の関係を、実の姉がそんなにあっさりと認めているなんて。
「克哉とアラタが真剣な交際ならともかく、そうではない以上、心を許せるパートナーが現れてほしいと、姉は願っていたわけよ」
「いえ、そんな関係とはちょっと違うような……」
専用セラピスト。
彼は確かにそう言った。でもそれは、要するに身体だけの関係ということではないだろうか。
女性不信を治すための練習台だもの。
そこに恋心なんてない。……そう思えば思うと、胸の奥がキリキリと痛む。
「そうだ、来週の水曜に予約したって聞いたわ。愛香ちゃんに会いに来るのね」
「そんはこと――ないですよ」
そのとき、ランチに行っていたスタッフが戻ってきたので、百合さんは「この話は内緒よ」と、悪戯っぽく囁いて会話を切り上げた。
ファンクラブ会員限定のお知らせだ。
『ついにdulcis〈ドゥルキス〉海外新出!アジアツアー決定!先行チケット販売のご案内』
いつもなら、悲鳴をあげているはずのビッグニュース。
でも、今は画面の中の「チケット申し込み」の文字がやけに遠い。
先週、私の肌を熱く撫で回した指。何度も名前を呼んでくれた、あの掠れた声。
ファンなのに推しとの一線を越えた自分。何万人の観客の一人として、ペンライトを振る権利があるのだろうか。
私は逃げるように画面を閉じた。
何気なくテレビをつけると、耳馴染みのあるイントロが流れてきた。
『本日のゲストは、dulcis〈ドゥルキス〉のアラタさんです!』
画面いっぱいに、あの人の姿が映し出された。
『こんにちは、よろしくお願いします』
透き通るような肌、完璧な骨格。美容系アイドルとして絶大な人気を誇るアラタ。
白いスタジオライトの下、一分の隙もない角度で笑っている。
『美しさは努力の賜物です』
そのストイックな言葉、凛とした表情。
昨夜、シーツの上で私を求めていた、あの淫らな熱を帯びた瞳とは、まるで別人のようだった。
『ただ、誰かを愛すること。そして、愛されている自信。それに勝る美容液はありませんね』
スタジオにため息が漏れる。カメラに向かって投げられる、完璧なウィンク。
ああ、やっぱり、カッコいい。
『――え? いえいえ。もちろん、ファンのみなさんのことですよ』
軽やかに笑って、スタジオの空気をさらりと支配していく。
私があの夜抱きしめたのは、本当にこの人だったのだろうか。
「あらまぁ、立派なことを言ってるわねぇ」
百合さんがお弁当を片手に戻ってきた。画面のアラタを見ながら、やけに面白そうに笑っている。
「誰のおかげの美肌なんだか」
「え、百合さん……」
百合さんは私の目の前の席に座ると、
「ん?愛香ちゃん。なんか肌がいい感じねぇ」
百合さんがじっと私を覗き込んだ。
「さては――抱かれたわね。しかも、最高のセックスができたわね!」
「えっ!」
どうしてこの人は、こんか単刀直入なのだろう。
「あーん、ほらね!やっぱり女が美しくなるには、注射もサプリも必要ないのよ。好きな男に燃え尽きるまで抱かれてこそ、女は花咲くものなのよ」
アラタとの夜が、一瞬で脳裏を過る。
「あの、百合さん……。私、どうすればいいでしょう」
「なになに?聞かせてちょうだい」
百合さんは楽しそうに身を乗り出した。
「実は、その、相手の名前は伏せるのですが。ちょっと、いえ。わりと有名な方と……してしまったのです」
そこまで言うと、百合さんはテレビ画面をじっと見た。そして、ポンと手を叩いた。
「なんだ、愛香ちゃんの相手ってアラタなの?」
「えっ! なんで、わかったんですか!?」
私は驚きで箸を落としそうになる。アラタとの関係は、克哉と私だけの秘密のはずなのに。
「弟だもの」
「誰が、ですか?」
「だから、dulcis〈ドゥルキス〉のアラタはわたしの弟」
「ええ、ええええーーーー!」
ここに来て、また新情報が加わり、私の脳内は完全に停止した。克哉の右腕である百合さんが、国民的アイドルの姉!?
「なるほど、そっか。うんうん、わかったわ」
「いえ、私は全然状況がわかりません」
「いつまでも、男の克哉相手に満足してるようじゃ、姉としては心配だったのよ」
「えっ! 百合さん、知ってるんですか? 克哉とアラタが……、その、つまり……」
「まあね」
ふふっと、彼女は隠し事を楽しむように笑った。
「アラタに克哉を紹介したのは、わたしだからね」
百合さんは克哉の大学時代の先輩で、付き合いは10年以上と聞いている。
「医師と患者のはずが、妙な関係になったと聞いたときは驚いたけどね」
ぶっ、と思わずお茶を吐きそうになる。
あの二人の関係を、実の姉がそんなにあっさりと認めているなんて。
「克哉とアラタが真剣な交際ならともかく、そうではない以上、心を許せるパートナーが現れてほしいと、姉は願っていたわけよ」
「いえ、そんな関係とはちょっと違うような……」
専用セラピスト。
彼は確かにそう言った。でもそれは、要するに身体だけの関係ということではないだろうか。
女性不信を治すための練習台だもの。
そこに恋心なんてない。……そう思えば思うと、胸の奥がキリキリと痛む。
「そうだ、来週の水曜に予約したって聞いたわ。愛香ちゃんに会いに来るのね」
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そのとき、ランチに行っていたスタッフが戻ってきたので、百合さんは「この話は内緒よ」と、悪戯っぽく囁いて会話を切り上げた。
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