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ステージ 1 〈高校編〉
6. 俺だけを見ていろ
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リハーサルの合間、休憩時間になった。
候補生たちは、大粒の汗を流しながら水分補給やストレッチをしている。オレはフロアの隅に座り込み、タオルで汗を拭いていた。
TOMARIGIのメンバーは、さっきの動きをモニターでチェックしているようだ。声は聞こえないけれど、細かい打ち合わせが続いている。
「カイリッ」
話しかけようとしたけれど、カイリは一瞬こちらを向いただけで、他の候補生のと頃へ行ってしまった。
ズキンと心が痛む。
「ツバサ、ちょっといいか?」
しばらくすると、隣に蒼真先輩に手招きされた。
「はい!」
背筋が伸ばし、あとを追う。自販機コーナーの前に、蒼真先輩がいた。
「休憩中に悪い」
「いえ……」
先輩はオレの額に伝う汗を見て、ペットボトルを差し出す。
「飲みなよ」
「あ、ありがとうございます」
冷えたスポーツドリンクを一口飲むと、スッと身体に染み渡る。汗で火照った身体も少し落ち着く。
妙な間があった。それでも、意を決してオレは口を開いた。
「……あの、蒼真先輩」
「うん?」
「カイリを、元のポジションに戻してもらえませんか?」
オレの言葉に、先輩の表情がわずかに曇る。
「なぜ?」
「カイリは誰よりも努力していて、それが成果になっています。さっきのパフォーマンス、問題があったとは思えません。生意気なことを言ってすみません」
「続けて」
「それに、オレとのシンメも、今までで一番息が合っていたと思います。一緒に踊ると、互いに高めあえるんです」
言葉を選びながら、必死に伝える。
「俺と踊ったときより、もっと?」
低く落ち着いた声に、不機嫌さが混じる。
「それは、いえ、でも……」
言葉に詰まるオレを見て、先輩はにやりと口元を歪める。
「カイリが、好きなのか?」
その一言で、オレの顔は真っ赤になる。胸の奥が熱くなった。
「ち、違います!」
必死に否定する。カイリのことは大事な友人でライバルだ。それ以上の感情なんてない。
蒼真先輩は短く息を吐き、低く囁くように言った。
「いいよ」
「本当ですか?」
つい、前のめりになってしまう。
「その代わり、キスして」
蒼真先輩の手が、そっとオレの顎に触れた。
「え?」
「聞こえなかった?」
親指で軽く持ち上げられる。逃げられない距離感で頭が真っ白になる。言葉の重みが胸に突き刺さる。視線をそらせない。
「え、え……?」
声にならない驚き。彼の真剣な眼差しが、全てを制していた。
「キスしてくれたら、カイリのポジションは元に戻す」
胸の奥がざわつき、呼吸が浅くなる。蒼真先輩の真意は分からない。からかっているのだろか。そうに決まっている。オレとキスをしたいなんて、蒼真先輩が本気で思うわけがない。
悔しいな。でも本気じゃないなら、むしろーーーー。
「わ、わかりました……」
声が震える。
先輩は満足そうに微笑むと、オレの手をそっと握った。
長身をゆっくりと屈ませてる。散々踊って汗をかいたはずなのに、蒼真先輩からは、柑橘系の爽やかな香りがした。
距離が一気に近づく。先輩の手の温もりが直接伝わり、息が詰まる。オレの心臓は破裂しそうだ。
先輩はそっとオレの額に唇を寄せる。思わずぎゅっと目をつぶってしまう。
「蒼真先輩……」
無意識に、小さな声が漏れる。
そして、軽く触れた甘くて柔らかい感覚に、身体の奥が熱くなる。
「……ツバサ」
その言葉に、オレの全ての感情が震えた。友情も不安も、全て消え失せて、ただ蒼真先輩だけが心を占める。遠くから聞こえる音楽とフロアの雑踏も、暑さも、もう何も関係ない。
「俺だけを見ていろ」
蒼真先輩のその言葉だけが、何度も頭の中で繰り返された。
候補生たちは、大粒の汗を流しながら水分補給やストレッチをしている。オレはフロアの隅に座り込み、タオルで汗を拭いていた。
TOMARIGIのメンバーは、さっきの動きをモニターでチェックしているようだ。声は聞こえないけれど、細かい打ち合わせが続いている。
「カイリッ」
話しかけようとしたけれど、カイリは一瞬こちらを向いただけで、他の候補生のと頃へ行ってしまった。
ズキンと心が痛む。
「ツバサ、ちょっといいか?」
しばらくすると、隣に蒼真先輩に手招きされた。
「はい!」
背筋が伸ばし、あとを追う。自販機コーナーの前に、蒼真先輩がいた。
「休憩中に悪い」
「いえ……」
先輩はオレの額に伝う汗を見て、ペットボトルを差し出す。
「飲みなよ」
「あ、ありがとうございます」
冷えたスポーツドリンクを一口飲むと、スッと身体に染み渡る。汗で火照った身体も少し落ち着く。
妙な間があった。それでも、意を決してオレは口を開いた。
「……あの、蒼真先輩」
「うん?」
「カイリを、元のポジションに戻してもらえませんか?」
オレの言葉に、先輩の表情がわずかに曇る。
「なぜ?」
「カイリは誰よりも努力していて、それが成果になっています。さっきのパフォーマンス、問題があったとは思えません。生意気なことを言ってすみません」
「続けて」
「それに、オレとのシンメも、今までで一番息が合っていたと思います。一緒に踊ると、互いに高めあえるんです」
言葉を選びながら、必死に伝える。
「俺と踊ったときより、もっと?」
低く落ち着いた声に、不機嫌さが混じる。
「それは、いえ、でも……」
言葉に詰まるオレを見て、先輩はにやりと口元を歪める。
「カイリが、好きなのか?」
その一言で、オレの顔は真っ赤になる。胸の奥が熱くなった。
「ち、違います!」
必死に否定する。カイリのことは大事な友人でライバルだ。それ以上の感情なんてない。
蒼真先輩は短く息を吐き、低く囁くように言った。
「いいよ」
「本当ですか?」
つい、前のめりになってしまう。
「その代わり、キスして」
蒼真先輩の手が、そっとオレの顎に触れた。
「え?」
「聞こえなかった?」
親指で軽く持ち上げられる。逃げられない距離感で頭が真っ白になる。言葉の重みが胸に突き刺さる。視線をそらせない。
「え、え……?」
声にならない驚き。彼の真剣な眼差しが、全てを制していた。
「キスしてくれたら、カイリのポジションは元に戻す」
胸の奥がざわつき、呼吸が浅くなる。蒼真先輩の真意は分からない。からかっているのだろか。そうに決まっている。オレとキスをしたいなんて、蒼真先輩が本気で思うわけがない。
悔しいな。でも本気じゃないなら、むしろーーーー。
「わ、わかりました……」
声が震える。
先輩は満足そうに微笑むと、オレの手をそっと握った。
長身をゆっくりと屈ませてる。散々踊って汗をかいたはずなのに、蒼真先輩からは、柑橘系の爽やかな香りがした。
距離が一気に近づく。先輩の手の温もりが直接伝わり、息が詰まる。オレの心臓は破裂しそうだ。
先輩はそっとオレの額に唇を寄せる。思わずぎゅっと目をつぶってしまう。
「蒼真先輩……」
無意識に、小さな声が漏れる。
そして、軽く触れた甘くて柔らかい感覚に、身体の奥が熱くなる。
「……ツバサ」
その言葉に、オレの全ての感情が震えた。友情も不安も、全て消え失せて、ただ蒼真先輩だけが心を占める。遠くから聞こえる音楽とフロアの雑踏も、暑さも、もう何も関係ない。
「俺だけを見ていろ」
蒼真先輩のその言葉だけが、何度も頭の中で繰り返された。
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