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ステージ 1 〈高校編〉
7. 先輩の機嫌はオレ次第?
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蒼真先輩の言葉に頭が真っ白になった。
その瞬間、リハーサル室のドアが再び開き、伊勢さんが入ってきた。
「話し合いは終わった?」
そう言って、伊勢さんはニヤリと笑う。どうやら、蒼真先輩とオレの様子を遠くから見ていたらしい。
「盗み見はやめろ、趣味が悪い」
「かわいいツバサ君が襲われないように、ちゃんと見守っていたんだよ」
「おい」
蒼真先輩に睨まれ、伊勢さんは肩をすくめた。そして、オレの方を見るとにこりと笑う。
「蒼真ったら、ツバサとカイリに妬いてポジション変更なんて、公私混同だよね」
そう茶化しながら、伊勢さんの瞳は鋭く蒼真先輩を捉える。
「意外と子供っぽいんだよ。そういう、人間味あるところも、知られざる魅力なんだけどね」
伊勢さんの言葉は、優しさを含んでいた。
「とはいえ、明日のステージは誰のためか、ちゃんと考えないとね」
蒼真先輩は、伊勢さんの言葉に何も言い返せない。まるで、心を読まれたように、表情を曇らせた。
「……わかってる。反省したよ」
蒼真先輩は髪をかき上げながらつぶやいた。
「やけに素直だね。これからは、蒼真の機嫌が悪くなったら、ツバサに頼もうかな」
「え?えっと」
オレだけ会話についていけない。
「さ、リハーサルに戻ろうか。みんな待ってる」
伊勢さんが笑顔で呼びかけると、張りつめていた緊張の糸が、少しずつ緩んでいく。
そして、全員がフロアに戻ったところで、蒼真先輩は口を開いた。
「さっきの曲をもう一度やる。ツバサとカイリは、元のポジションに戻す」
候補生たちの間で、ざわめきが起こる。その中で、カイリはまっすぐ蒼真先輩を見ていた。
「ありがとうございます!」
カイリはそう言うと、深く頭を下げた。
「いや、いいんだ」
「でも、今回のこと、俺にとっては、すごくいい経験になりました」
まっすぐな瞳で、カイリは続けた。
「悔しい思いをして、だからこそ、やる気が出たんです。ツバサに負けたくない。でも、ツバサが輝いているところを、一番近くで見たい。そういう気持ちに気づきました」
そして、カイリはオレの方に振り返った。
「ツバサ、さっきはごめん。俺も嫉妬してた。嫌な態度を取ったこと、謝る」
「カイリ……」
オレは言葉を失い、ただ頷くことしかできなかった。カイリは、オレの肩を軽く叩くと、笑顔で言った。
「よし、全員集中!」
先輩の声に、胸が高鳴る。汗の熱さも忘れるほど、集中が高まる。
カイリと息を合わせると、自然に動きがそろい、互いのステップに信頼感が宿る。オレたちのシンメは、先ほどの小さな不協和音を経て、より力強く、滑らかになっていた。
踊り終えた瞬間、カイリとオレは笑顔で手をたたく。
観ていた蒼真先輩の視線は、少しだけ嫉妬を帯びていたが、今度は素直に称賛してくれる。
夜空の下、野外ステージのライトが揺らめくことを想像し、胸の奥が高鳴る。8月末のライブが、いよいよ始まろうとしている――
友情、憧れ、そして淡い胸のときめき。すべてがひとつに重なり、オレの心は、この夏にしか感じられない熱さで満ちていた。
その瞬間、リハーサル室のドアが再び開き、伊勢さんが入ってきた。
「話し合いは終わった?」
そう言って、伊勢さんはニヤリと笑う。どうやら、蒼真先輩とオレの様子を遠くから見ていたらしい。
「盗み見はやめろ、趣味が悪い」
「かわいいツバサ君が襲われないように、ちゃんと見守っていたんだよ」
「おい」
蒼真先輩に睨まれ、伊勢さんは肩をすくめた。そして、オレの方を見るとにこりと笑う。
「蒼真ったら、ツバサとカイリに妬いてポジション変更なんて、公私混同だよね」
そう茶化しながら、伊勢さんの瞳は鋭く蒼真先輩を捉える。
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「……わかってる。反省したよ」
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「やけに素直だね。これからは、蒼真の機嫌が悪くなったら、ツバサに頼もうかな」
「え?えっと」
オレだけ会話についていけない。
「さ、リハーサルに戻ろうか。みんな待ってる」
伊勢さんが笑顔で呼びかけると、張りつめていた緊張の糸が、少しずつ緩んでいく。
そして、全員がフロアに戻ったところで、蒼真先輩は口を開いた。
「さっきの曲をもう一度やる。ツバサとカイリは、元のポジションに戻す」
候補生たちの間で、ざわめきが起こる。その中で、カイリはまっすぐ蒼真先輩を見ていた。
「ありがとうございます!」
カイリはそう言うと、深く頭を下げた。
「いや、いいんだ」
「でも、今回のこと、俺にとっては、すごくいい経験になりました」
まっすぐな瞳で、カイリは続けた。
「悔しい思いをして、だからこそ、やる気が出たんです。ツバサに負けたくない。でも、ツバサが輝いているところを、一番近くで見たい。そういう気持ちに気づきました」
そして、カイリはオレの方に振り返った。
「ツバサ、さっきはごめん。俺も嫉妬してた。嫌な態度を取ったこと、謝る」
「カイリ……」
オレは言葉を失い、ただ頷くことしかできなかった。カイリは、オレの肩を軽く叩くと、笑顔で言った。
「よし、全員集中!」
先輩の声に、胸が高鳴る。汗の熱さも忘れるほど、集中が高まる。
カイリと息を合わせると、自然に動きがそろい、互いのステップに信頼感が宿る。オレたちのシンメは、先ほどの小さな不協和音を経て、より力強く、滑らかになっていた。
踊り終えた瞬間、カイリとオレは笑顔で手をたたく。
観ていた蒼真先輩の視線は、少しだけ嫉妬を帯びていたが、今度は素直に称賛してくれる。
夜空の下、野外ステージのライトが揺らめくことを想像し、胸の奥が高鳴る。8月末のライブが、いよいよ始まろうとしている――
友情、憧れ、そして淡い胸のときめき。すべてがひとつに重なり、オレの心は、この夏にしか感じられない熱さで満ちていた。
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