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ステージ 1 〈高校編〉
8. 深夜のメール
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野外ライブの前夜。リハーサルを終えた一行は、会場近くのホテルへとやって来た。
バスがホテルに到着すると、先に俺たち候補生やスタッフが降りていく。ロビーには、TOMARIGIのファンがたくさんいた。人気アイドルのライブ前は、こうして遠征してくるファンも多いと聞いてはいたが、その熱気に圧倒される。
そして、メンバーたちがバスから降り、その姿が見えた瞬間、黄色い歓声が沸き起こる。ファンの子たちは、必死にメンバーカラーのペンライトやうちわを振っている。
「他のお客さんの迷惑になるから、静かにしてくださいね!」
スタッフが必死にたしなめても、興奮したファンは収まらない。
「きゃー!蒼真くーん!」
「こっち見てー!」
大きな声援の中、蒼真先輩は慣れた様子で手を振ると、人差し指を口元に当てて、笑顔を向けた。
「みんな、いい子だから、静かにしてね。じゃないと、明日のライブが中止になっちゃうよ」
「早くお家に帰ろうね」
メンバーの片倉さんと伊勢さんも、笑顔で注意を促す。ファンは静かになった。
ファンの扱いや接し方も、先輩方はとてもうまい。近くにいることで、歌やダンス、パフォーマンス以外のことも勉強になるな。
「やっぱすげーな」
「そうだな」
オレとカイリが感心していると、ふと視線を感じた。
遠巻きに見ていた数人のファンが、俺たち候補生の方にカメラを向けている。
その中には、先日発売されたアイドル雑誌を持っている子がいた。雑誌の『注目の新人君』という企画に、小さなながらもオレとカイリが載っていることを、ふと思い出す。
「もしかして?」
カイリが嬉しそうに呟いた。
「あの……ツバサくん、ですよね?」
遠慮がちな声が聞こえた。高校生くらいの女の子が、緊張した面持ちで立っていた。彼女の瞳は、期待と不安で揺れている。
「はい……そうですけど」
「やっぱり!よかったぁ……」
彼女は安堵したように、胸に手を当てた。
「この前のイベントで、ツバサくんのダンスを初めて生で見ました!キレッキレのダンスと、アクロバットすごいです!ファンになってもいいでしょうか?」
勢いよく話す彼女の言葉に、俺はただただ驚くしかなかった。まさか、俺のことを知っている人がいるなんて。
「あ、はい、もちろんです。ありがとうございます」
すると、とてもうれしそうに目をキラキラさせて、
「応援してます!明日のライブ、楽しみにしてます!」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。
「お、ツバサもついに固定ファンができたな!」
先に歩いていた伊勢さんが、笑顔を向ける。
「あ、ありがとうございます!」
予想外の言葉に、俺は慌てて頭を下げた。
「お前も、いずれはファンの前で踊ることになる。そのときまで、しっかり自分を磨いておけ」
そう言って、伊勢さんは先へと歩いていった。そのすぐ後ろを歩く、蒼真先輩が振り返った。オレと目が合うと、一瞬、何か言いたそうに口を開きかける。けれど、そのまま、すぐにホテルのエレベーターへと消えて行った。
「ツバサ、俺もさっき声かけられちゃった!やったな、知名度が上がって来たぜ」
カイリが興奮した様子で話す。
そんなオレも、心臓のドキドキが収まらない。ライブで、誰かの心に届くようなパフォーマンスをしたい。そう思って、これまで必死に努力してきた。それが、たった一人のファンとの出会いで、ぐっと現実味を帯びた。
「ちゃんと見てくれてる人、いるんだな」
「うん」
それがどれだけ嬉しいことか。今までの不安や焦りを、一瞬で吹き飛ばしてくれるくらい。
「もっとファンが増えるように、明日はがんばろうぜ!」
「うん、そうだね」
少しずつ、少しずつ、自分の居場所が広がっているのを感じる。それは、怖いことでもあったが、それ以上に、温かくて、胸が高鳴る出来事だった。
高校生活最後の夏、明日のライブは、自分の進路を決めるための、最後の決戦なのかもしれない。
その日の夜。
リハーサルの疲れがどっと出たくか、カイリはベッドに倒れるように寝てしまった。
なんとなく寝付けないオレが窓の外を見ていると、スマホの画面が静かに光った。
『ツバサ、まだ起きてる?……ちょっと会いたい。俺の部屋、来てくれない?』
蒼真先輩からだった。
カイリが、小さく寝返りを打った。オレは考えるよりも早く部屋を飛び出した。
バスがホテルに到着すると、先に俺たち候補生やスタッフが降りていく。ロビーには、TOMARIGIのファンがたくさんいた。人気アイドルのライブ前は、こうして遠征してくるファンも多いと聞いてはいたが、その熱気に圧倒される。
そして、メンバーたちがバスから降り、その姿が見えた瞬間、黄色い歓声が沸き起こる。ファンの子たちは、必死にメンバーカラーのペンライトやうちわを振っている。
「他のお客さんの迷惑になるから、静かにしてくださいね!」
スタッフが必死にたしなめても、興奮したファンは収まらない。
「きゃー!蒼真くーん!」
「こっち見てー!」
大きな声援の中、蒼真先輩は慣れた様子で手を振ると、人差し指を口元に当てて、笑顔を向けた。
「みんな、いい子だから、静かにしてね。じゃないと、明日のライブが中止になっちゃうよ」
「早くお家に帰ろうね」
メンバーの片倉さんと伊勢さんも、笑顔で注意を促す。ファンは静かになった。
ファンの扱いや接し方も、先輩方はとてもうまい。近くにいることで、歌やダンス、パフォーマンス以外のことも勉強になるな。
「やっぱすげーな」
「そうだな」
オレとカイリが感心していると、ふと視線を感じた。
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その中には、先日発売されたアイドル雑誌を持っている子がいた。雑誌の『注目の新人君』という企画に、小さなながらもオレとカイリが載っていることを、ふと思い出す。
「もしかして?」
カイリが嬉しそうに呟いた。
「あの……ツバサくん、ですよね?」
遠慮がちな声が聞こえた。高校生くらいの女の子が、緊張した面持ちで立っていた。彼女の瞳は、期待と不安で揺れている。
「はい……そうですけど」
「やっぱり!よかったぁ……」
彼女は安堵したように、胸に手を当てた。
「この前のイベントで、ツバサくんのダンスを初めて生で見ました!キレッキレのダンスと、アクロバットすごいです!ファンになってもいいでしょうか?」
勢いよく話す彼女の言葉に、俺はただただ驚くしかなかった。まさか、俺のことを知っている人がいるなんて。
「あ、はい、もちろんです。ありがとうございます」
すると、とてもうれしそうに目をキラキラさせて、
「応援してます!明日のライブ、楽しみにしてます!」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。
「お、ツバサもついに固定ファンができたな!」
先に歩いていた伊勢さんが、笑顔を向ける。
「あ、ありがとうございます!」
予想外の言葉に、俺は慌てて頭を下げた。
「お前も、いずれはファンの前で踊ることになる。そのときまで、しっかり自分を磨いておけ」
そう言って、伊勢さんは先へと歩いていった。そのすぐ後ろを歩く、蒼真先輩が振り返った。オレと目が合うと、一瞬、何か言いたそうに口を開きかける。けれど、そのまま、すぐにホテルのエレベーターへと消えて行った。
「ツバサ、俺もさっき声かけられちゃった!やったな、知名度が上がって来たぜ」
カイリが興奮した様子で話す。
そんなオレも、心臓のドキドキが収まらない。ライブで、誰かの心に届くようなパフォーマンスをしたい。そう思って、これまで必死に努力してきた。それが、たった一人のファンとの出会いで、ぐっと現実味を帯びた。
「ちゃんと見てくれてる人、いるんだな」
「うん」
それがどれだけ嬉しいことか。今までの不安や焦りを、一瞬で吹き飛ばしてくれるくらい。
「もっとファンが増えるように、明日はがんばろうぜ!」
「うん、そうだね」
少しずつ、少しずつ、自分の居場所が広がっているのを感じる。それは、怖いことでもあったが、それ以上に、温かくて、胸が高鳴る出来事だった。
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