16 / 26
ステージ 1 〈高校編〉
15. 好きです、先輩
しおりを挟む
「ツバサの制服姿、久しぶりに見たな」
言いたいこと、聞きたいこと、山ほどあったが、胸が熱くなり、言葉が続かなかった。
「なにか、言いたそうだな」
信号で止まると、見透かしたように、静かに尋ねてきた。心を決めて、口を開く。
「どうして、ライブの後、ずっと連絡をくれなかったんですか」
震える声で尋ねると、彼は少しだけ俯いた。
「寂しかった?」
「はい」
蒼真先輩は少しだけ、口許を綻ばせた。
「連絡できなかった、いや、しなかったんだ」
その意外な答えに、オレは顔を上げる。
「新メンバーの選考が始まるって、急に発表しただろ。だから、他の候補生に誤解されると、ツバサが困ると思って」
「あ、それは……」
候補生の敵意に満ちた視線を思い出す。
「俺が近くにいると、ツバサの努力と実力が、全部無駄になってしまう。そう、伊勢にも怒られたよ」
「伊勢さんが?」
「だけど、ツバサが他のヤツと絡んでいるのを見ると、どうしても、冷静でいられないんだ。近くにいると、ツバサが俺が俺にとって、特別な存在だと、バレてしまいそうだ
だった」
「と、特別?」
トクンと、胸が高鳴る。
「そう。ツバサは俺にとって、大切な人だよ。ずっと前からね」
赤信号で車が停まり、ウインカーのカチカチという音だけが車内に響く。
「5年前の、全日本ジュニアダンス大会」
ハンドルを握ったまま、蒼真先輩がポツリと呟いた。
「俺も出ていたんだ。当時、中学3年だった俺は、ケガで参加できず、チームメイトの応援のため、観客席から見いたんだ」
蒼真先輩は、遠い目をして当時を思い返すように続けた。
「ステージに立つ小さな男の子がいた。ステージを自由に、飛ぶように駆け回っていた」
ハンドルから片手を離し、チラリと俺に視線を向ける。
「目を奪われた」
蒼真先輩は、ゆっくりと俺の顔を覗き込むと、オレの頬にスッと触れた。
「いや、心かな」
「え?」
真剣な瞳に射抜かれ、心臓が強く揺さぶられる。
「あのときの感情が、恋だと気づいたのは、もっと後のことだった」
頭が真っ白になり、言葉が出ない。
「そう、この道だ」
高校と駅までの道のり、毎日見ている何気ない景色も、車からだと少し新鮮に見えた。
「桜並木を歩いていたら、前に小柄な後ろ姿が見えた。あぁ、あのときのステージにいた子だ、って。すぐに気がついた。ツバサが同じ高校に入学したと知り、本当に嬉しかった」
「そ、そんな素振りはなかったのに」
その言葉に、胸が熱くなる。
「俺は、まだ自分の気持ちに自信が持てなかった。同性を好きになるなんて、普通じゃないって思っていたから」
彼は苦しそうに顔を歪める。
「この気持ちは、伝えるべきじゃない。デビューが決まり、転校したことも、いいタイミングだった。そう思ったのに」
胸を締めつけられる。
「また同じ事務所で再会した。もしかして、俺を追ってきたんじゃないかって、そんな風に思ったよ。おかしいだろ?そんな都合のいい、勘違いするなんて」
「か、勘違いじゃないです」
「俺の気持ちに火を付けたのは、ツバサだよ」
赤信号で車が止まり、微かにエンジン音と外の風の匂いが車内に流れる。
涙が込み上げ、視界が滲む。
「ツバサ」
「オレは、オレだって、蒼真先輩にずっと憧れていたんだ」
指先がそっと頬を伝わる感触。
フロントガラス越し、オレと蒼真先輩のシルエットが重なった。
「好きです。蒼真先輩」
オレンジ色の夕焼けが、二人だけの世界を優しく包みこんだ。
言いたいこと、聞きたいこと、山ほどあったが、胸が熱くなり、言葉が続かなかった。
「なにか、言いたそうだな」
信号で止まると、見透かしたように、静かに尋ねてきた。心を決めて、口を開く。
「どうして、ライブの後、ずっと連絡をくれなかったんですか」
震える声で尋ねると、彼は少しだけ俯いた。
「寂しかった?」
「はい」
蒼真先輩は少しだけ、口許を綻ばせた。
「連絡できなかった、いや、しなかったんだ」
その意外な答えに、オレは顔を上げる。
「新メンバーの選考が始まるって、急に発表しただろ。だから、他の候補生に誤解されると、ツバサが困ると思って」
「あ、それは……」
候補生の敵意に満ちた視線を思い出す。
「俺が近くにいると、ツバサの努力と実力が、全部無駄になってしまう。そう、伊勢にも怒られたよ」
「伊勢さんが?」
「だけど、ツバサが他のヤツと絡んでいるのを見ると、どうしても、冷静でいられないんだ。近くにいると、ツバサが俺が俺にとって、特別な存在だと、バレてしまいそうだ
だった」
「と、特別?」
トクンと、胸が高鳴る。
「そう。ツバサは俺にとって、大切な人だよ。ずっと前からね」
赤信号で車が停まり、ウインカーのカチカチという音だけが車内に響く。
「5年前の、全日本ジュニアダンス大会」
ハンドルを握ったまま、蒼真先輩がポツリと呟いた。
「俺も出ていたんだ。当時、中学3年だった俺は、ケガで参加できず、チームメイトの応援のため、観客席から見いたんだ」
蒼真先輩は、遠い目をして当時を思い返すように続けた。
「ステージに立つ小さな男の子がいた。ステージを自由に、飛ぶように駆け回っていた」
ハンドルから片手を離し、チラリと俺に視線を向ける。
「目を奪われた」
蒼真先輩は、ゆっくりと俺の顔を覗き込むと、オレの頬にスッと触れた。
「いや、心かな」
「え?」
真剣な瞳に射抜かれ、心臓が強く揺さぶられる。
「あのときの感情が、恋だと気づいたのは、もっと後のことだった」
頭が真っ白になり、言葉が出ない。
「そう、この道だ」
高校と駅までの道のり、毎日見ている何気ない景色も、車からだと少し新鮮に見えた。
「桜並木を歩いていたら、前に小柄な後ろ姿が見えた。あぁ、あのときのステージにいた子だ、って。すぐに気がついた。ツバサが同じ高校に入学したと知り、本当に嬉しかった」
「そ、そんな素振りはなかったのに」
その言葉に、胸が熱くなる。
「俺は、まだ自分の気持ちに自信が持てなかった。同性を好きになるなんて、普通じゃないって思っていたから」
彼は苦しそうに顔を歪める。
「この気持ちは、伝えるべきじゃない。デビューが決まり、転校したことも、いいタイミングだった。そう思ったのに」
胸を締めつけられる。
「また同じ事務所で再会した。もしかして、俺を追ってきたんじゃないかって、そんな風に思ったよ。おかしいだろ?そんな都合のいい、勘違いするなんて」
「か、勘違いじゃないです」
「俺の気持ちに火を付けたのは、ツバサだよ」
赤信号で車が止まり、微かにエンジン音と外の風の匂いが車内に流れる。
涙が込み上げ、視界が滲む。
「ツバサ」
「オレは、オレだって、蒼真先輩にずっと憧れていたんだ」
指先がそっと頬を伝わる感触。
フロントガラス越し、オレと蒼真先輩のシルエットが重なった。
「好きです。蒼真先輩」
オレンジ色の夕焼けが、二人だけの世界を優しく包みこんだ。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
先輩アイドルは僕の制服を脱がせ、次のステージへと誘う〈TOMARIGIシリーズ ツバサ×蒼真 #2〉
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ★ツバサ×蒼真
ツバサは大学進学とデビュー準備のため、実家を出て東京で一人暮らしを始めることに。
高校の卒業式が終わると、トップアイドルの蒼真が、満開の桜の下に颯爽と現れた。
蒼真はツバサの母に「俺が必ずアイドルとして輝かせます」と力強く宣言すると、ツバサを連れて都内へと車を走らせた。
新居は蒼真と同じマンションだった。ワンルームの部屋に到着すると、蒼真はツバサを強く抱きしめた。「最後の制服は、俺の手で脱がせたい」と熱く語る。
高校卒業と大学進学。「次のステージ」に立つための新生活。これは、二人の恋の続きであり、ツバサの夢の始まり……
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場 <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ 湊×伊勢①
芸能事務所に入社2年目の湊直矢は、デビュー間もないアイドル『TOMARIGI』のマネージャー配属されるも、不器用で失敗ばかり。
クールな伊勢は、飄々とし態度を取るが、ひたむきで純粋な湊に心を動かされ、気になる存在に。二人の距離は少しずつ縮まっていく。
ドジだけど真面目で、誰よりも一生懸命な湊に、伊勢の心は気づけば恋に落ちていた――
爽やか系BL♡アイドル×マネージャー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる