先輩アイドルに溺愛されて、恋もステージもプロデュースされる件 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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ステージ 1 〈高校編〉

15. 好きです、先輩

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「ツバサの制服姿、久しぶりに見たな」


言いたいこと、聞きたいこと、山ほどあったが、胸が熱くなり、言葉が続かなかった。


「なにか、言いたそうだな」


信号で止まると、見透かしたように、静かに尋ねてきた。心を決めて、口を開く。


「どうして、ライブの後、ずっと連絡をくれなかったんですか」


震える声で尋ねると、彼は少しだけ俯いた。


「寂しかった?」

「はい」


蒼真先輩は少しだけ、口許を綻ばせた。


「連絡できなかった、いや、しなかったんだ」


その意外な答えに、オレは顔を上げる。


「新メンバーの選考が始まるって、急に発表しただろ。だから、他の候補生に誤解されると、ツバサが困ると思って」

「あ、それは……」


候補生の敵意に満ちた視線を思い出す。


「俺が近くにいると、ツバサの努力と実力が、全部無駄になってしまう。そう、伊勢にも怒られたよ」

「伊勢さんが?」

「だけど、ツバサが他のヤツと絡んでいるのを見ると、どうしても、冷静でいられないんだ。近くにいると、ツバサが俺が俺にとって、特別な存在だと、バレてしまいそうだ
だった」

「と、特別?」


トクンと、胸が高鳴る。


「そう。ツバサは俺にとって、大切な人だよ。ずっと前からね」


赤信号で車が停まり、ウインカーのカチカチという音だけが車内に響く。


「5年前の、全日本ジュニアダンス大会」


ハンドルを握ったまま、蒼真先輩がポツリと呟いた。


「俺も出ていたんだ。当時、中学3年だった俺は、ケガで参加できず、チームメイトの応援のため、観客席から見いたんだ」


蒼真先輩は、遠い目をして当時を思い返すように続けた。


「ステージに立つ小さな男の子がいた。ステージを自由に、飛ぶように駆け回っていた」


ハンドルから片手を離し、チラリと俺に視線を向ける。


「目を奪われた」


蒼真先輩は、ゆっくりと俺の顔を覗き込むと、オレの頬にスッと触れた。


「いや、心かな」

「え?」


真剣な瞳に射抜かれ、心臓が強く揺さぶられる。


「あのときの感情が、恋だと気づいたのは、もっと後のことだった」


頭が真っ白になり、言葉が出ない。


「そう、この道だ」


高校と駅までの道のり、毎日見ている何気ない景色も、車からだと少し新鮮に見えた。


「桜並木を歩いていたら、前に小柄な後ろ姿が見えた。あぁ、あのときのステージにいた子だ、って。すぐに気がついた。ツバサが同じ高校に入学したと知り、本当に嬉しかった」

「そ、そんな素振りはなかったのに」


その言葉に、胸が熱くなる。


「俺は、まだ自分の気持ちに自信が持てなかった。同性を好きになるなんて、普通じゃないって思っていたから」


彼は苦しそうに顔を歪める。


「この気持ちは、伝えるべきじゃない。デビューが決まり、転校したことも、いいタイミングだった。そう思ったのに」


胸を締めつけられる。


「また同じ事務所で再会した。もしかして、俺を追ってきたんじゃないかって、そんな風に思ったよ。おかしいだろ?そんな都合のいい、勘違いするなんて」

「か、勘違いじゃないです」

「俺の気持ちに火を付けたのは、ツバサだよ」


赤信号で車が止まり、微かにエンジン音と外の風の匂いが車内に流れる。

涙が込み上げ、視界が滲む。


「ツバサ」

「オレは、オレだって、蒼真先輩にずっと憧れていたんだ」


指先がそっと頬を伝わる感触。


フロントガラス越し、オレと蒼真先輩のシルエットが重なった。


「好きです。蒼真先輩」


オレンジ色の夕焼けが、二人だけの世界を優しく包みこんだ。
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