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ステージ 1 〈高校編〉
16.特別な存在
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蒼真先輩の車から降りたオレは、心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、事務所のレッスン場へ向かった。すでに多くの候補生が集まっており、皆が不安と期待の入り混じった表情で結果を待っていた。
オレとカイリが声をかけ合っていると、一部の候補生の視線を感じた。
「気にするなよ、ツバサ」
「うん、ありがとう」
やがて、スタッフと共にTOMARIGIの3人ががやってきた。
そこに立つ蒼真先輩は、さっきまでオレに見せた甘い表情ではなく、自分たちのグループの将来を真剣に考えるプロの顔だった。
今回のメンバー選考の一部は、TOMARIGIのYouTubeチャンネルで配信されるので、撮影のカメラも入っていた。
そのせいもあり、候補生の緊張感は余計に高まった。
「それでは、ファン投票の上位5名を呼びます」
最初に選ばれたのはカイリだった。続いて、オレの名前が呼ばれた。喜びのあまり、思わず隣にいたカイリとハイタッチをする。カイリの涙を見たのは、はじめてだった。
オレの名前が呼ばれたとき、少しだけ、ほんの少し。蒼真先輩の口角が上がったのは、きっと気のせいじゃない。
オレたち2人を含めた、5名が次のステップに進むことが決まった。発表が終わり解散となると、落選した候補生たちが数人、オレの周りに集まってきた。
「出来レースじゃないのか」
「お前だけ特別扱いされて、俺たちはバカみたいじゃん」
心無い言葉がオレに突き刺さる。オレは俯くことなく、真っすぐに彼らを見据えた。
「お前さ、蒼真先輩のなんなの?」
「抱かれてんじゃない?」
その言葉に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろよ!くだらないこと言う暇があるなら練習しろよ!」
オレの反論に、彼らは言い淀んだ。しかし、一人の候補生がオレの胸倉を掴んだ。
「お前みたいなコネ野郎が、俺たちの夢を奪ったんだ!」
一触即発の緊迫した空気が流れる中、突然、部屋のドアが開き、蒼真先輩が現れた。
「おい、やめろ」
低く、冷たい声だった。
蒼真先輩は、オレに詰め寄っていた候補生を睨みつける。その鋭い眼差しに、候補生は思わず手を離し、後ずさりした。蒼真先輩の後方にはカイリの姿。不穏な空気を察して助けを求めたのだろうか。
「ツバサに手を出すな」
蒼真先輩はオレの前に立ち、オレを守るように立ちはだかった。そして、フッと笑顔を見せた。
「お前らの言う通り、ツバサは俺にとって、大切な存在だよ」
その場の空気が凍る。
「野外ライブでも言ったはずだ。俺たちはファンがすべて。そのファンが選んだひとりがツバサだ。ツバサを侮辱することは、俺たちのファンを侮辱すると同じこと。それは、許さない」
いつの間にか、伊勢さんと片倉さんもいた。蒼真先輩の言葉に静かにうなずいている。
「ファン投票の結果がすべてだ。ファンは、候補生のパフォーマンスと努力と、その後ろにある人間性を見ている。自分が純粋に応援したいと思う人を選んだ」
蒼真先輩の言葉に、部屋は静まり返った。やっかんでいた候補生たちは、気まずそうに目を伏せる。
「それに。ツバサは、この新メンバー選考と大学受験、どっちも挑戦する凄いヤツだからな」
予想もしなかった言葉に、オレは目を見開いて蒼真先輩を見つめた。自分の胸にしまっていたことを、蒼真先輩が皆の前で語っている。
「やれるよ、ツバサなら。悩んで立ち止まるくらいなら、チャレンジするのがお前だろう?」
蒼真先輩の優しい笑顔に、オレの心臓は激しく跳ねた。それは、オレだけを見てくれる、信頼と愛情に満ちた笑顔だった。
「行こう、ツバサ」
「え?」
「もう、全員が知ってる。俺がツバサを特別視してるってな。不思議なことじゃないだろう」
そう言って、蒼真先輩はオレの手を握り、部屋から連れ出した。その手は、先ほど車内で握られた時よりもずっと力強く、オレの心に温かい電流が走った。
視界の端に、口をぱっかり開けているカイリと、やれやれとあきれ顔の伊勢さんがいた。
「蒼真先輩……!」
誰もいない小さな会議室。ガチャリと、うちカギがかけられた音がした。
「よかった」
蒼真先輩の声が、オレの耳元で囁くように響く。少しだけ、震えた声だった。
「ファン投票、1位通過。おめでとう」
その声の優しさに、オレは涙腺が緩むのを感じた。
オレが言葉に詰まっていると、蒼真先輩はオレの顔を両手で包み込み、そのまま唇にそっとキスをした。
蒼真先輩の瞳は、オレのすべてを映し出すかのように、深く、そして熱く輝いていた。
「あの…どうして、オレが大学受験を諦めたって、わかったんですか?」
蒼真先輩はオレから少し顔を離すと、いたずらっぽく微笑んだ。
「ツバサのことだから、そうすると思っただけだ」
「ずっと悩んでいて、言えなかったのに」
「俺は、ツバサの才能も、努力も、そして可能性も、全部知っている。だから、全部手に入れろ。俺は、そういう欲張りなツバサが好きなんだ」
その言葉は、まるで魔法のように心に染み渡った。
蒼真先輩は、オレをそっと抱きしめた。強く、まるでオレのすべてを包み込むように。
外で何が起きていても、誰に何を言われても、この人が隣にいてくれるなら、怖いものなんて何もない。そう、オレは確信した。
オレとカイリが声をかけ合っていると、一部の候補生の視線を感じた。
「気にするなよ、ツバサ」
「うん、ありがとう」
やがて、スタッフと共にTOMARIGIの3人ががやってきた。
そこに立つ蒼真先輩は、さっきまでオレに見せた甘い表情ではなく、自分たちのグループの将来を真剣に考えるプロの顔だった。
今回のメンバー選考の一部は、TOMARIGIのYouTubeチャンネルで配信されるので、撮影のカメラも入っていた。
そのせいもあり、候補生の緊張感は余計に高まった。
「それでは、ファン投票の上位5名を呼びます」
最初に選ばれたのはカイリだった。続いて、オレの名前が呼ばれた。喜びのあまり、思わず隣にいたカイリとハイタッチをする。カイリの涙を見たのは、はじめてだった。
オレの名前が呼ばれたとき、少しだけ、ほんの少し。蒼真先輩の口角が上がったのは、きっと気のせいじゃない。
オレたち2人を含めた、5名が次のステップに進むことが決まった。発表が終わり解散となると、落選した候補生たちが数人、オレの周りに集まってきた。
「出来レースじゃないのか」
「お前だけ特別扱いされて、俺たちはバカみたいじゃん」
心無い言葉がオレに突き刺さる。オレは俯くことなく、真っすぐに彼らを見据えた。
「お前さ、蒼真先輩のなんなの?」
「抱かれてんじゃない?」
その言葉に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろよ!くだらないこと言う暇があるなら練習しろよ!」
オレの反論に、彼らは言い淀んだ。しかし、一人の候補生がオレの胸倉を掴んだ。
「お前みたいなコネ野郎が、俺たちの夢を奪ったんだ!」
一触即発の緊迫した空気が流れる中、突然、部屋のドアが開き、蒼真先輩が現れた。
「おい、やめろ」
低く、冷たい声だった。
蒼真先輩は、オレに詰め寄っていた候補生を睨みつける。その鋭い眼差しに、候補生は思わず手を離し、後ずさりした。蒼真先輩の後方にはカイリの姿。不穏な空気を察して助けを求めたのだろうか。
「ツバサに手を出すな」
蒼真先輩はオレの前に立ち、オレを守るように立ちはだかった。そして、フッと笑顔を見せた。
「お前らの言う通り、ツバサは俺にとって、大切な存在だよ」
その場の空気が凍る。
「野外ライブでも言ったはずだ。俺たちはファンがすべて。そのファンが選んだひとりがツバサだ。ツバサを侮辱することは、俺たちのファンを侮辱すると同じこと。それは、許さない」
いつの間にか、伊勢さんと片倉さんもいた。蒼真先輩の言葉に静かにうなずいている。
「ファン投票の結果がすべてだ。ファンは、候補生のパフォーマンスと努力と、その後ろにある人間性を見ている。自分が純粋に応援したいと思う人を選んだ」
蒼真先輩の言葉に、部屋は静まり返った。やっかんでいた候補生たちは、気まずそうに目を伏せる。
「それに。ツバサは、この新メンバー選考と大学受験、どっちも挑戦する凄いヤツだからな」
予想もしなかった言葉に、オレは目を見開いて蒼真先輩を見つめた。自分の胸にしまっていたことを、蒼真先輩が皆の前で語っている。
「やれるよ、ツバサなら。悩んで立ち止まるくらいなら、チャレンジするのがお前だろう?」
蒼真先輩の優しい笑顔に、オレの心臓は激しく跳ねた。それは、オレだけを見てくれる、信頼と愛情に満ちた笑顔だった。
「行こう、ツバサ」
「え?」
「もう、全員が知ってる。俺がツバサを特別視してるってな。不思議なことじゃないだろう」
そう言って、蒼真先輩はオレの手を握り、部屋から連れ出した。その手は、先ほど車内で握られた時よりもずっと力強く、オレの心に温かい電流が走った。
視界の端に、口をぱっかり開けているカイリと、やれやれとあきれ顔の伊勢さんがいた。
「蒼真先輩……!」
誰もいない小さな会議室。ガチャリと、うちカギがかけられた音がした。
「よかった」
蒼真先輩の声が、オレの耳元で囁くように響く。少しだけ、震えた声だった。
「ファン投票、1位通過。おめでとう」
その声の優しさに、オレは涙腺が緩むのを感じた。
オレが言葉に詰まっていると、蒼真先輩はオレの顔を両手で包み込み、そのまま唇にそっとキスをした。
蒼真先輩の瞳は、オレのすべてを映し出すかのように、深く、そして熱く輝いていた。
「あの…どうして、オレが大学受験を諦めたって、わかったんですか?」
蒼真先輩はオレから少し顔を離すと、いたずらっぽく微笑んだ。
「ツバサのことだから、そうすると思っただけだ」
「ずっと悩んでいて、言えなかったのに」
「俺は、ツバサの才能も、努力も、そして可能性も、全部知っている。だから、全部手に入れろ。俺は、そういう欲張りなツバサが好きなんだ」
その言葉は、まるで魔法のように心に染み渡った。
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