「ノベリスト」

セバスーS.P

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第05話 知られてはいけない関係

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 朝、音ひとつしない暗い部屋で、扉が初めて鳴った。

 布団の中で、強い倦怠感けんたいかんに包まれていた僕は、正直出たくなかった。でも――結局、やらなければならないという義務感ぎむかんが勝った。

 時間は分からなかったので、すぐにスマホを手に取り確認すると、6時9分だった。

 少し早い……いや、むしろちょうどいい時間だ。準備して出かけるには十分だろう。

 だが、部屋のドアを開けた瞬間、すぐに異変に気づいた。いつもと違う空気がそこにあった。

 微かに鼻をくすぐる香り。どこかで嗅いだ覚えがある――そう思った矢先、視界に入ったその姿で、すべてを思い出した。

 そうだ。僕は今、女の子と一緒に住んでいるんだ。

 世界で一番すごくて、完璧な小説を書くと決めた――そんな相手と。

「おはよう。やっと起きたね。まだちょっと早いけど」

 台所に立っていたのは、エプロン姿の黒川さん。部屋着姿で、湯気の立つフライパンを前に、朝食を作っている。まるで主婦しゅふのような雰囲気だった。

 だけどその様子だけで、僕はすでに新しい小説のアイデアをひとつ思いついていた。

「おはよう。君も早起きだったんだね」

「うん、朝ごはん作らないとって思ってね。今は、それが私の役目だから」

 彼女の言葉に、ふと家族の顔が頭に浮かぶ。今の僕の状況を見たら、なんて言うだろうか。

 見ず知らずの女の子と、二人暮らし。事情を説明する時間は――いずれ、きっとあるはずだ。

 実家からの訪問は近いようで遠い。というのも、冬がもうすぐ終わるのと、気づけば時間なんて瞬く間に過ぎ去っていくものだから。

 それは……いや、少なくとも僕の人生では、いつもそうだった。

 ……さて、そろそろ学校の準備をしないと。今は余計なことを考えてる場合じゃない。

 僕は何も言わずにバスルームへ向かった。黒川さんも何も言わず、黙々と朝食の準備を続けていた。

 数分後、リビングに設置された固定電話が鳴った。

 その音が部屋に響くのは初めてのことだったが、黒川さんは迷うことなく受話器を手に取った。

(こんな朝早くに、誰がかけてきたんだろう──)

 シャワーを終えた僕が出てくると、彼女はすぐにこちらに歩み寄ってきた。

 その歩き方には、わずかながら緊張がにじんでいた。表情は平静を装っていたが、動きがぎこちない。

「黒川さん、何かあった?」

「急ぎのことなの……和泉くんの……お母さんが、来週ここに来るって」

 震える声で、彼女はそう告げた。

 ……えっ。な、なに……!?

                                                            ◇◆◇◆◇◆◇◆

 数分前、私はキッチンで朝食を準備していた。

 そのとき、突然電話が鳴った。

 ……完全に忘れていた。ここは私の家じゃないんだ。外見はそっくりだけど、中身は全然違う。

 私はゆっくりと受話器を取った。耳にあてると、優しく落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

 三十代くらいかな、と思ったその声は、静かに語りかけてきた。

「もしもし、どちら様かしら~?」

「えっと……番号は間違ってないと思うけど……これは、慧翔の家だよね?」

「あ、すみません……和泉くん、今シャワーを浴びているので、電話に出られなくて……」

 その瞬間、自分がとんでもないことを口走ってしまったと気づいた。

(ああ……しまった……!)

 案の定、電話の向こうの声は驚きに満ちていた。

「まぁまぁ、そういう関係なのね? ごめんなさい、自己紹介が遅れたわ。私は慧翔の母です。『一条一葉いちじょう かずは』と申します。お名前、なんて言うの?」

「黒川……真希です」

「真希ちゃんね。なるほど~ふふ、実は近々そちらに伺おうと思っててね。慧翔に伝えてもらえる?」

「え、えっと……ご本人に直接お話ししたほうが良いのでは……?」

「ううん、今は驚かせたくないの。だから直接伝えることにするわ。それまで、どうか彼のこと、よろしく頼むわね?」

 その口調は、どこまでも優しくて、まるで家族のようなぬくもりを感じさせた。

 私の胸の奥がふわりと温かくなった。……あのとき、彼が私を助けてくれたときのことを思い出してしまった。

「……はい、私が責任を持ってお世話します。和泉くんのこと、どうかご安心を……一葉さん」

「ふふ、ありがとう。お会いできるのを楽しみにしてるわ。それじゃあ、またね」

「……はい、私が彼のことを面倒めんどおみますよ、和葉かずはさん。」

「ふふ、楽しみにしてるわ。じゃあ、またね。」

「は、はい……」

 ***

 電話を切ったその時、ちょうど和泉いずみくんが風呂から出てきた。そして、現在へと時間は戻る。

 あの時は全てを話せなかったし、もう時間もなかったから、学校に向かう途中で少しずつ説明することにした。

 予想に反して、彼はそれほど動揺していないように見えた。ただ黙ったまま、少し眉を寄せながら、何かを考えているようだった。まるでこの状況にどう対処するか、頭の中でシミュレーションしているかのように。

 やがて、彼がふと顔を上げた。

「今は、そんなこと気にしてる場合じゃない。小説に集中しよう。」

「今の話を聞いて、それでも小説のことを考えられるって……すごいわね。」

「いや~、今じゃないだけ。時間が経てば、もっと冷静に考えられると思う。」

 ――結局、それ以上は深く追求しなかった。どうせ夜になればまた考えることになるし、小説のことも、そのとき話せばいい。正直、今すぐどうこうする必要はない。

 そういえば、彼が小説を書き始めた理由って……まだ聞いたことなかったな。ずっと昔から好きだったのか、それとも最近始めたばかりなのか。

 そんなことを考えながら顔を上げると、彼は歩きながら小説を読んでいた。

(……え、それ持ってきたの?)

 高校に紙の小説を持ってくるのは、正直リスクが高い。風紀委員会に見つかれば、何を言われるか分からない。

「ねえ、そんなの持ってきてバレたらどうするの? 結構危ないんじゃない?」

 彼は数秒黙ってから、本を閉じてこちらを向いた。

「大丈夫。ちゃんと計算済み。これが初めてじゃないし。」

 ……やっぱり、そういうタイプか。なんとなくそうだろうと思ってたけど、予想通りだった。

「……って、計算済み? どういうこと?」

 彼は少し考え込むように目を細めて、説明の言葉を探すようにしていた。

「……まあ、厳密には“計算”じゃないけど……見てれば分かるよ。」

 そんな曖昧な答えに少し不安を覚えながらも、私たちは高校の校門に近づいていった。そこから少し距離を取って、彼との関係を怪しまれないように十メートルほど後ろを歩くことにした。

 案の定、生徒たちは次々と私の周りに集まり、挨拶やら声かけやらで騒がしくなった。人気は全く衰えていないようで、こっちが何も返さなくても、ただ近くを通るだけで嬉しそうな顔をされるのだから、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 もし私が小説を書くなら、「人気者の美少女と陰キャ男子の恋物語」なんて、きっと序盤は大ヒット間違いなしよね。

 ……でも、問題はその後。経験のない私に、それを続けるだけの実力があるかどうか。それがなければ、努力の結晶が簡単に酷評こくひょうされてしまうのだから、小説って本当に怖い。

 さて、そんなことを考えているうちに、彼が校門をくぐろうとしているのが見えた。だけど、その直後――風紀委員に呼び止められた。

(ああ……やっぱりバレた?)

 でも、意外な展開が待っていた。

 止められたと思ったのも束の間、彼は何事もなかったように通されていた。風紀委員たちは特に何も言わず、ただ見送るだけ。

 その中にいた、ひときわ目立つ黒髪の少女――

 彼女の名前は坂本真昼さかもと まひる

 私と同じ背丈で、整った顔立ちをしているけれど、胸元むなもとはほとんど目立たない。まるでないに等しい。

 そして彼女は、自分よりも胸がある女の子を露骨ろこつに嫌うタイプだった。その幼稚で傲慢ごうまんな性格は、多くの生徒にとって厄介やっかいな存在でしかない。美人でなければ誰も相手にしないような子だ。

 だけど彼女の冷たい視線が、まるで私と勝負するかのようにぶつかってくると……分かる。彼女は私のことが嫌いなのだ。

 いや、私だけじゃない。彼女は他の生徒にも同じように接している。ただ一人――和泉くんを除いて。

(……まさか、あの二人の間に、何かある?)

 彼女の視線が彼に向けられた瞬間、それはまるで恋する少女のように柔らかくて……

(嘘……そんなはず、ない。あの高飛車たかびしゃな坂本さんが? あんな……普通の男の子に?)

 周りに生徒がいるにも関わらず、彼女は変わらぬ態度で彼を見送っていた。

 これが、彼の言っていた「計算済み」ってやつ……?

 なるほど、なんとなく分かってきたけど、まだ信じきれるわけじゃない。

 今は、ただの可能性として、頭の片隅に置いておこう。

 彼らの間に何かあるのだろうか……?

 ふいに、彼女の声が私を呼んだ。

「何を待ってるの? 早く中に入りなさい」

 通学鞄の検査に加え、私たちは金属探知機の前も通らなければならなかった。だけど、それはさておき、余計な問題が起こる前に早く入ってしまうべきだった。

 ***

 教室に入り、自分の席にまっすぐ向かう。彼がスマホを見ている隙をついて、私は彼にメッセージを送った。

『お昼休みに聞きたいことがあるの。少し会える?』

 だが、返ってきた返事は予想外だった。

『ごめん、それは帰ってからにして。アパートで話そう』

 ──そうか。よく考えれば、その通りかもしれない。他の生徒に二人でいるところを見られれば、大騒ぎになるだろう。私自身はそれほど気にしないけど、彼には面倒なことになるかもしれない。

 授業はいつも通りに始まった。だが、一人だけ明らかに集中していない人物がいた。

 机に肘をつき、顔をうずめて眠っている和泉くん。……そんなにつかれているのだろうか?

 週の初めにはいつもこうしている気がする。もしかすると、昨晩もずっと小説の下書したがきをしていたのかもしれない。

 私の場合、一番集中できるのは水曜日だった。その日にできるだけ多くのページを書き上げる。前日までにしっかり睡眠をとっておけば、それが一番効率がいい。

 でも彼の場合……きっと他にも何かしているのか、あるいは単に時間の管理が苦手なのか。

 ──とにかく、また今日も一人きりだ。彼が今朝言っていたことが頭から離れない。

                                                    ◇◆◇◆◇◆◇◆

 突然、背中に衝撃しょうげきが走り、私は微睡みから引き戻された。

「うあ———痛っ!」

 まだ目を開けていなかったけど、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。

 振り返ると、背中にふわっとした柔らかい感触が伝わってきた。

「和泉くん、もう起きなよ。もうお昼休みだよ」

 しばらくしてようやく目を開け、彼女が誰かに気づいた。

「……あれ、どうしたの? ああ、そうか。先週は来なかったんだよね。何かあったの?」

「風邪ひいてたんだ~。ふふ、私のこと、きっと寂しかったでしょ?」

 落ち着いた調子で、でもどこか反応を期待するような口調だった。

 彼女は私が学校で唯一話す女子生徒──少なくとも先週の金曜日までは。名前は坂本真昼《さかもと まひる》。黒川さんほどの人気にんきはないけれど、学校では十分すぎるほど知られている。なにせ風紀委員長ふうきいいんちょうなのだから。

 というか、彼女よりも有名で目立つ人間なんて、この学校にいるのだろうか。

 たぶん、彼女の「少し変わった言動げんどう」が有名だからだと思う。私にはその理由をり下げて考えるほどの興味はなかったし、たいていの場合、忘れていた。

 たぶん彼女は、私がそうやって考えていること自体を嫌うだろうけど……でもそのおかげで、私はいくつかの特典とくてんを得ている。たとえば、小説を学校に持ってくることが許されるとかね。

「ねぇ、和泉くん、お昼一緒に食べない?」

 教室を見渡すと、黒川さんはもういなかった。ちょっと考え込んでから、再び真昼さんを見た。

「ねぇ~、返事してよ。返事がないなら『はい』ってことでいいね~?」

 今度は少し真剣な口調だった。私が返事をためらっていることに気づいたのだろう。

 そして、私は決めた。

「うん、いいよ……たぶん」

 彼女はにっこりと笑い、机の前に椅子を回して座った。

 腰を下ろすと、もう一度穏やかな笑顔をこちらに向けてから、お弁当の包みを開け始めた。

 しばらくして、二人で静かに昼食を取り始めたが、その沈黙がどこか落ち着かない。
 彼女は本来、静かにしているようなタイプではない。いつもはもっと口うるさいというか、話好きな印象が強かった。

 でも、今考えてみれば、この静けさも悪くない。
 これなら、小説の構想に集中できそうだった。

 あまりにも穏やかで、心が静まり返って──思い出してしまった。あの頃のことを。

 ……………………………………………………………………………………………………………………………

 あの頃のことだ。

 目的もなく、ただ彷徨さまよい続けていた、そんな少年の時代。
 行き先もわからず、未来みらいは常に不確ふたしかで。

 どれだけ探しても見つからなかった──幸福しあわせのカタチ。

 必死ひっしに何かを追い求めていた。
「いつか自分を満みたしてくれる、たった一つの何か」を。

 だけど、それを見つけたのは──俺じゃなかった。

 物語ものがたりの世界が、俺を見つけてくれたんだ。

 誰かにこの話をしてみたい、そんな気持ちはある。
 だけど、それを聞いてくれる人がいるとは思えない。
 第一、長そうで案外単純たんじゅんで……まとめるのは意外と簡単だ。

 小説を書くこと以外、俺がこの世界でやりたいことなんて何一つない。
 《創作》そうさくは、俺にとって唯一の光ひかりだ。

 ──この話は、またいつかにしよう。
 今は考えることが多すぎて、
 過去を振ふり返かえっている暇なんて、どこにもない。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 昼食が終わると、坂本さんは俺の背後に立ち、ふいに腕を俺の首に絡からめてきた。

 まるで昔からの知り合いみたいな距離感……けど、もちろんそんなわけない。
 最近、彼女の行動はどこか不可解ふかかいで、
 しかも、今は誰もいない教室。妙に緊張感きんちょうかんが漂っていた。

「和泉くんって、ほんと鈍いよね……まだ気づいてないなんて」

 そう呟つぶやいて、彼女はそっと溜息ためいきをつく。

 ……意味がわからない。
 頭の中に、いくつもの疑問ぎもんだけが浮かんでいった。

「……なにが鈍いんだよ? それと、その手、もう外してくれない? ちょっと……居心地いごこちが悪い」

 彼女は腕を外したが、その表情ひょうじょうには明らかに不満ふまんそうな色が浮かんでいた。
 理由はまったくわからないけど、正直、少しだけホッとした。

 このまま誰かに見られたら──
 確実に《誤解》ごかいされる。
「付き合ってる」とか、そんな噂が広まったら……俺にとっては、相当厄介やっかいだ。

 ***

「じゃあね、和泉くん。もうすぐ昼休み終わっちゃうし、またあとで。一緒に帰ろ?」

 俺は何も答えなかった。

 だけど……
 もし彼女が、「俺がクラスメイトの女の子と同棲どうせいしてる」って知ったら──
 絶対に怒るか、あるいは……。

 何て言えばいいのかわからないまま、彼女は教室を後にした。
 ……知られちゃいけない。黒川さんの存在だけは、絶対に。

 放課後になって、俺は急いで校門こうもんへと向かった。
 まだ彼女がそこにいるうちに、ちゃんと断らなきゃ。
 そうしないと……面倒なことになる気がした。

 校門に着いたとき、生徒の姿はまばらだった。
 今しかない、そう思った。

 けど、そのときだった。
 視界の先に──黒川さんの姿が見えた。

(……やばい)

 その距離を意識しつつ、俺は坂本さんのもとへ向かった。

 彼女は、まるで俺が来ることを知っていたかのように、微笑みを浮かべていた。

「坂本さん、その……さっきの話なんだけど……今日、一緒に帰るのは無理だと思う……」

 彼女の顔から、すっと笑顔えがおが消えた。

 ──当然だ。
 落ち込んだような表情を見て、心が少しだけ痛んだ。
 きっと何か言われると思ってた。でも……。

「……なんで? もしかして……彼女でもできたの?」

 その一言で、周りの視線が一斉に俺たちに集まった。

 もう言い訳は思いつかなかった。
 彼女が風紀委員ってことも考えて、俺は、苦し紛れに一つの嘘うそを口にした。

「うん……実は、付き合ってるんだ。俺……────」

 その瞬間、背中を誰かに強く引かれた。

 振り返ると──そこには黒川さんがいた。

(ああ、最悪だ……これじゃ、まるで本当に黒川さんと付き合ってるみたいじゃないか……)

 重苦おもくるしい空気の中、彼女は曖昧あいまいな笑みを浮かべながら言った。

「ごめんなさい、ちょっと彼を借ります。──行くよ、和泉くん」

 ……どうすればいいんだよ、ほんとに。

 彼女に、「もう一緒には帰れない」と伝えたかった。
 ……他の生徒の前で、変な騒動そうどうを起こされる前に。

 校門の外には、あまり人がいなかった。
 今が好機こうき……そう思っていた。

 でも、俺は気づいていなかった。
 坂本さんのすぐ近く──少し離れた場所に、黒川さんの姿もあったことに。

 その距離を利用して、俺は話を切り出す決心をした。
 坂本さんは、まるで俺が来ることを予感よかんしていたかのように、満足げな笑みを浮かべていた。

「坂本さん、その……さっきの話だけど……今日は一緒に帰るの、無理だと思う」

 その瞬間、彼女の表情が一変した。
 当然だった。
 落胆らくたん……そして、言いたいことが溜まっているような目。

「どうして? 何かあったの? まさか……もう彼女ができたとか?」

 その言葉の衝撃しょうげきは強く、近くを通っていた生徒たちの視線まで集まった。

 他に言い訳も思いつかず、
 しかも、彼女が風紀委員ふうきいいんという立場にあることを考えると……

 俺は、とっさに考えていた言い逃れいいのがれの一つを口に出してしまった。

「うん、実は……付き合ってるんだ。俺……───」

 そのときだった。

 背後から、急に腕を引っ張られた。

 振り返ると、そこには黒川さんが立っていた。

(ああ……最悪だ。これじゃ、まるで本当に黒川さんと付き合ってるみたいじゃないか……)
(ていうか、この空気くうき……なんでこんなに重おもいんだ?)

「ごめんなさい、ちょっと彼を借かります。──行くよ、和泉くん」

 そう言った黒川さんの笑顔は、どこか作つくられたようで、
 不機嫌ふきげんと困惑こんわくの入り混じった、何とも言えないものだった。

 ……俺は、一体どうすればいいんだ。

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