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第1章 恋するホストは苦悩する
◆5 誘惑に煌めく瞳
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袖を通した瞬間から、その感触の違いに驚いた。
滑らかに包み込むような肌感覚。柔らかいのに形が崩れず、しっかりとしていて、それに軽い。
着心地の良さは抜群で、いくら腕を動かしても袖が突っ張る感じは全然なかった。自分より、一回りサイズが大きいということもあったけれど。
そしてこの人の香りに包まれて――ドキリとした記憶。
(いつもの、煙草の匂いがする……)
高城さんの匂い。
出逢ったばかりのあの頃は、今よりも警戒心が強かったのに……それに包まれることを嫌だと思わなかった。
煙草の残り香は鼻につく不快感が残るものだけど、全然そんなことはなくて。
愛用の香水『ソバージュ』と重なって。この人自身がいつも纏っている香りになるんだと、気が付いた。
(残り香にうっとりするなんて、まるで唯のファンみたいじゃないか?)
俺は急に恥ずかしくなって、何でもないフリを装った。
「……全然違いますね!これに比べたら俺が着てるのって……何だろ、全く伸びない麻で作ってるみたいな」
「それはだいぶ大袈裟だな」
俺の反応に高城さんは笑って、ホストにとってスーツは戦闘服だから、自分の身を守る意味でも良いものを着ろよと、言ってくれた……
――服装のことを真剣に考えるようになったのはあの時から。
煙草も気になって調べたら、高城さんが吸っていたのはイギリスの「トレジャラー・ブラック」。
1箱4000円(!)もする最高級品で、とても真似して気軽に買えるものじゃないなと、蒼褪めた記憶も懐かしい。
後輩を傍に置かない。
決まった人間以外ヘルプを付けない、気難しい人。
高城さんはそんな風に言われていたけど、俺には優しかった。
問題児の俺の教育を、オーナーから直々に任されたから仕方なくだ、とよくぼやいていたが。
俺が知らない世界のことを教えてくれる。
冷たいようだけど、寄り添ってくれる所もあって、悩みや迷いを黙って聞いてくれたり。そんな優しさも、時には見せてくれた。
高城さんは、俺にとって手の届かない憧れの存在……それはあの頃も今も、変わらない。
底の知れない微笑みで、いつも翻弄してくる人――
そんなことを思いながら見詰めていると、高城さんはフッと口許を緩めた。
俺の肩に手を乗せて、何か言いたげに髪に指を絡めてくる。
「……お前は、そうやって俺に従順な素振りを見せるが」
頸に手を回してきたかと思うと、抱き込むようにしてそのままソファーに押し付けられてしまい、びっくりした。
「……皇さん……!?」
「いつも、決して他人の思い通りにはならない――そんな眼をしてることに、自覚はあるか?」
「っ……急に、どうしたんですか?」
思いの外、強い力で引き寄せられ、顔と顔が近付く。揶揄うような笑みが消え、いつもと違う真剣な気配を纏ったことに、俺の心臓がドクンと跳ねた。
黒い宝石。オブシディアンみたいな瞳が煌めいている。
――これはもしかして、本気の本音が聞ける雰囲気……?
そう感じて、俺は息を呑んだ。
滑らかに包み込むような肌感覚。柔らかいのに形が崩れず、しっかりとしていて、それに軽い。
着心地の良さは抜群で、いくら腕を動かしても袖が突っ張る感じは全然なかった。自分より、一回りサイズが大きいということもあったけれど。
そしてこの人の香りに包まれて――ドキリとした記憶。
(いつもの、煙草の匂いがする……)
高城さんの匂い。
出逢ったばかりのあの頃は、今よりも警戒心が強かったのに……それに包まれることを嫌だと思わなかった。
煙草の残り香は鼻につく不快感が残るものだけど、全然そんなことはなくて。
愛用の香水『ソバージュ』と重なって。この人自身がいつも纏っている香りになるんだと、気が付いた。
(残り香にうっとりするなんて、まるで唯のファンみたいじゃないか?)
俺は急に恥ずかしくなって、何でもないフリを装った。
「……全然違いますね!これに比べたら俺が着てるのって……何だろ、全く伸びない麻で作ってるみたいな」
「それはだいぶ大袈裟だな」
俺の反応に高城さんは笑って、ホストにとってスーツは戦闘服だから、自分の身を守る意味でも良いものを着ろよと、言ってくれた……
――服装のことを真剣に考えるようになったのはあの時から。
煙草も気になって調べたら、高城さんが吸っていたのはイギリスの「トレジャラー・ブラック」。
1箱4000円(!)もする最高級品で、とても真似して気軽に買えるものじゃないなと、蒼褪めた記憶も懐かしい。
後輩を傍に置かない。
決まった人間以外ヘルプを付けない、気難しい人。
高城さんはそんな風に言われていたけど、俺には優しかった。
問題児の俺の教育を、オーナーから直々に任されたから仕方なくだ、とよくぼやいていたが。
俺が知らない世界のことを教えてくれる。
冷たいようだけど、寄り添ってくれる所もあって、悩みや迷いを黙って聞いてくれたり。そんな優しさも、時には見せてくれた。
高城さんは、俺にとって手の届かない憧れの存在……それはあの頃も今も、変わらない。
底の知れない微笑みで、いつも翻弄してくる人――
そんなことを思いながら見詰めていると、高城さんはフッと口許を緩めた。
俺の肩に手を乗せて、何か言いたげに髪に指を絡めてくる。
「……お前は、そうやって俺に従順な素振りを見せるが」
頸に手を回してきたかと思うと、抱き込むようにしてそのままソファーに押し付けられてしまい、びっくりした。
「……皇さん……!?」
「いつも、決して他人の思い通りにはならない――そんな眼をしてることに、自覚はあるか?」
「っ……急に、どうしたんですか?」
思いの外、強い力で引き寄せられ、顔と顔が近付く。揶揄うような笑みが消え、いつもと違う真剣な気配を纏ったことに、俺の心臓がドクンと跳ねた。
黒い宝石。オブシディアンみたいな瞳が煌めいている。
――これはもしかして、本気の本音が聞ける雰囲気……?
そう感じて、俺は息を呑んだ。
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