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第二幕 ―― 超越再臨
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こうなってしまったら、逆らいようがない。セフィアの感情を落ち着かせるため、顕現のプロセスを取るしかなかった。これで一応の制御は出来る。後は、現世に顕現したセフィアの怒りが静まるのを詞御は待つしかなかった。
〔手加減はしてくれ、頼むから〕
〔死なない程度には〕
とんでもない事を言ってくれたものだ、と詞御は心の内でゼナに恨み事を言う。抜いた刀を鞘に収めてから、セフィアに顕現の許可を出した。
それを受けて、白銀の粒子が詞御の前に集まりだし、形を創っていく。白銀の粒子は密度を増し、とある形を創成。そこに顕れたのは、真っ白なワンピース型洋服に身を包み、詞御の昂輝色と同じ、白銀色の髪を腰まで伸ばしている綺麗な童女。だが、人間とは決定的に違う所がある。背中に、今は折り畳まれている、濡れ羽色に輝く一対の黒翼が生えているからだ。
「は! 下位・甲型の使い手かと思ったら、そんなお人形さんみたいのだとはな。一瞬でも身構えてしまったのは、某の修行不足。それは勉強になった。だが、そんな奴に――」
「――貴方如きに、〝そんな奴〟呼ばわりされる筋合いも覚えもありませんけど? もっとも、名前を教えるのはもっと嫌ですので、教えて差し上げません」
依夜を除く全ての人間、そして闘技場でナーパに跨って嘲笑っていたゼナの表情が一転して驚愕に変わっていった。観客席がざわめき始める。詞御のあずかり知らぬ事であったが、女王と護衛は依夜〝たち〟を見ているので耐性があるとはいえ、この養成機関に於いては〝二例目〟となる存在に、この戦いを観ていた衆人観衆は驚きを隠せないでいた。
「ば、ばかな、倶纏が喋っただと? はは……お、驚かそうとしても、む、無駄だ。どどどうせ、き、貴君の腹話術かなんかであろう? 某をお、驚かそうとしても無駄だ……!」
「貴方こそ、その大きな目は節穴ですか? 卑しいだけではないのですね。詞御とは別意識に決まってます。現実を認識できないほど、貴方の脳はすかすかですか?」
まさに怒り心頭といわんばかりにセフィアはまくし立てる。それに呼応して、セフィアから詞御と同系色の昂輝が立ち昇る。
「ふ、ふざけるな、そんな事があってたまるかーーっ!!」
「口調が変わっていますよ? それが貴方の〝素〟ですか。なんともいやらしい」
セフィアの言葉に、はっと気付いたゼナは口を押さえる。だが、一度出た言葉は取り消せない。この瞬間、ゼナが築き上げてきた質実剛健なイメージは瓦解する事となった。
「……ふふふ」
「何がおかしいのですか? 気でも触れましたか?」
セフィアの言葉がトリガーとなったのか、ゼナは一気にまくし立てながらナーパに纏わせている風を高速で循環させ始める。
「『デッドエンド・ツイスター』、これが俺様の最高の切り札! 倶纏を中心に高速回転する風の渦を発生させ、削岩機のようにあらゆる〝物質〟を粉微塵に切り刻む! 今まで誰一人として防ぐ事が出来なかった俺様の〝万物必壊であり絶対不和〟を誇る攻防一体の技! この技で仕留められない存在は居ない! 人間だろうと倶纏だろうと! 前・序列二位でさえ防げなかった技だ、その威力をその身に刻み、死に行く中で後悔するがいい! この俺様に挑んだ事をな!」
「一人称まで下品になっていますよ。更に品性が下がりましたね」
高ぶるゼナを前にしても、セフィアの声音はどこまでも冷ややかだった。
理事長を始め、この試合を観ている者の目には、詞御たち目掛けて突進していくゼナの姿が映し出されている。詞御は一歩も動かない。そして、セフィアまでも。
激突音がして、ドーム天井が割れるのかと思えるほど空気が震える。闘技場は巻き上げられた粉塵で見えない。
誰かが、「決まったのか?」と言った。
だが、それは単なる幻想に過ぎない事を、依夜を始めとして会場、いやこの闘いを映像で見ている者が目の当たりにさせられる。
粉塵が収まりかけ、激突音がした場所が顕わになる。そこには見た目八歳くらいの童女――セフィアが、巨大な巨躯を誇るナーパが身に纏う秘術を片手一本で受け止めている光景があった。
更に、片手一本で受け止めたセフィアは、ゼナもろとも、空中にナーパを放り投げる。顕現した倶纏は見た目通りの重量を持つ。それをあんな少女風の見た目で放り投げるのは、現実の人間でも不可能と言える。だが、その不可能な光景が現実に起こっていた。
「貴方の自慢していた技は破れました。そして、これで敗北を認めて下さい」
おごそかで、それでいて凛とした声で、静かにはっきりと宣告するセフィア。
今まで折り畳んでいた黒翼を広げるな否や、セフィアは地を蹴り、文字通り飛ぶ。
投げられたナーパが落下する前に、止めを刺すべくセフィアは凄まじい速度で突進し、右正拳を繰り出した。
落下中といえども、ナーパが纏っている風は未だ健在。この状態では、セフィアが弾かれてしまう事を、詞御を除いて誰もが想像した。だが、またも想像は裏切られる。
セフィアの拳は風の鎧をいともた易く突き破り、倶纏の本体に深く突き刺さったのだ!
〈うそ!?〉
誰かがそう言った。それほどまでに非常識な光景だった。
周囲の驚きを余所に、ゼナの倶纏は落下する事さえ許されず、そのまま更に吹き飛ばされ、闘技場の壁に、轟音にかき消された苦悶の声と共に叩きつけられる。
ぱらぱらと石の破片が落ちる中にまじって、ナーパの巨躯が自然落下していく。
そして、着地や受身の姿勢をとれぬまま地面へと落ち、更なる音を闘技場に轟かせた。
唖然とする場内。
誰一人として声を発することが出来なかった。信じられない、というのがこの場にいる人間の気持ちだろう。だから気付けない。彼女の周囲に舞った物体が消えている事実に。
「技を教えて頂いた返礼をしましょう。私の能力は【消滅】。ありとあらゆる〝森羅万象〟を消し去る力です。ナーパの風を消し、重量を消し、防御力も消しさる。それ故に、私は貴方の攻撃を受け止める事ができ、逆に会心の反撃をすることが出来たのです。ご理解いただけましたでしょうか?」
明かしてない依夜を除いて、はからずしも長い養成機関の歴史の中で、二例目となる意識ある中位・甲型の倶纏を持つ詞御。この展開についていけず、誰も彼もが何も言えず呆けるしかなかった。これには理由がある。
何故なら、この階位は五千万人から一億人に一人の確率とさえ言われ、まず一般人ではお目に掛かる事ができないからだ。当然その力は、対人戦で使う力を大きく逸脱しており、軍の一個大隊を一人で相手に出来るほどの力を秘めていると伝えられている。
この状態では詞御が依夜のパートナーになる事、つまり序列二位を獲得する事には誰も反対しないだろう。いやすることすらできない。実力的にも階位的にも。
十カウントで立ち上がれる軽い負傷でもないし、ましてやここまでの力の差を見せつけられれば、ゼナも諦める。誰しもがそう思った。
闘いを観戦していた依夜も、このまま詞御が勝利宣言を受けて試合が終わる物とばかり思っていた。けれど、戦況は思いがけない方向に向かっていく事になる。
〔手加減はしてくれ、頼むから〕
〔死なない程度には〕
とんでもない事を言ってくれたものだ、と詞御は心の内でゼナに恨み事を言う。抜いた刀を鞘に収めてから、セフィアに顕現の許可を出した。
それを受けて、白銀の粒子が詞御の前に集まりだし、形を創っていく。白銀の粒子は密度を増し、とある形を創成。そこに顕れたのは、真っ白なワンピース型洋服に身を包み、詞御の昂輝色と同じ、白銀色の髪を腰まで伸ばしている綺麗な童女。だが、人間とは決定的に違う所がある。背中に、今は折り畳まれている、濡れ羽色に輝く一対の黒翼が生えているからだ。
「は! 下位・甲型の使い手かと思ったら、そんなお人形さんみたいのだとはな。一瞬でも身構えてしまったのは、某の修行不足。それは勉強になった。だが、そんな奴に――」
「――貴方如きに、〝そんな奴〟呼ばわりされる筋合いも覚えもありませんけど? もっとも、名前を教えるのはもっと嫌ですので、教えて差し上げません」
依夜を除く全ての人間、そして闘技場でナーパに跨って嘲笑っていたゼナの表情が一転して驚愕に変わっていった。観客席がざわめき始める。詞御のあずかり知らぬ事であったが、女王と護衛は依夜〝たち〟を見ているので耐性があるとはいえ、この養成機関に於いては〝二例目〟となる存在に、この戦いを観ていた衆人観衆は驚きを隠せないでいた。
「ば、ばかな、倶纏が喋っただと? はは……お、驚かそうとしても、む、無駄だ。どどどうせ、き、貴君の腹話術かなんかであろう? 某をお、驚かそうとしても無駄だ……!」
「貴方こそ、その大きな目は節穴ですか? 卑しいだけではないのですね。詞御とは別意識に決まってます。現実を認識できないほど、貴方の脳はすかすかですか?」
まさに怒り心頭といわんばかりにセフィアはまくし立てる。それに呼応して、セフィアから詞御と同系色の昂輝が立ち昇る。
「ふ、ふざけるな、そんな事があってたまるかーーっ!!」
「口調が変わっていますよ? それが貴方の〝素〟ですか。なんともいやらしい」
セフィアの言葉に、はっと気付いたゼナは口を押さえる。だが、一度出た言葉は取り消せない。この瞬間、ゼナが築き上げてきた質実剛健なイメージは瓦解する事となった。
「……ふふふ」
「何がおかしいのですか? 気でも触れましたか?」
セフィアの言葉がトリガーとなったのか、ゼナは一気にまくし立てながらナーパに纏わせている風を高速で循環させ始める。
「『デッドエンド・ツイスター』、これが俺様の最高の切り札! 倶纏を中心に高速回転する風の渦を発生させ、削岩機のようにあらゆる〝物質〟を粉微塵に切り刻む! 今まで誰一人として防ぐ事が出来なかった俺様の〝万物必壊であり絶対不和〟を誇る攻防一体の技! この技で仕留められない存在は居ない! 人間だろうと倶纏だろうと! 前・序列二位でさえ防げなかった技だ、その威力をその身に刻み、死に行く中で後悔するがいい! この俺様に挑んだ事をな!」
「一人称まで下品になっていますよ。更に品性が下がりましたね」
高ぶるゼナを前にしても、セフィアの声音はどこまでも冷ややかだった。
理事長を始め、この試合を観ている者の目には、詞御たち目掛けて突進していくゼナの姿が映し出されている。詞御は一歩も動かない。そして、セフィアまでも。
激突音がして、ドーム天井が割れるのかと思えるほど空気が震える。闘技場は巻き上げられた粉塵で見えない。
誰かが、「決まったのか?」と言った。
だが、それは単なる幻想に過ぎない事を、依夜を始めとして会場、いやこの闘いを映像で見ている者が目の当たりにさせられる。
粉塵が収まりかけ、激突音がした場所が顕わになる。そこには見た目八歳くらいの童女――セフィアが、巨大な巨躯を誇るナーパが身に纏う秘術を片手一本で受け止めている光景があった。
更に、片手一本で受け止めたセフィアは、ゼナもろとも、空中にナーパを放り投げる。顕現した倶纏は見た目通りの重量を持つ。それをあんな少女風の見た目で放り投げるのは、現実の人間でも不可能と言える。だが、その不可能な光景が現実に起こっていた。
「貴方の自慢していた技は破れました。そして、これで敗北を認めて下さい」
おごそかで、それでいて凛とした声で、静かにはっきりと宣告するセフィア。
今まで折り畳んでいた黒翼を広げるな否や、セフィアは地を蹴り、文字通り飛ぶ。
投げられたナーパが落下する前に、止めを刺すべくセフィアは凄まじい速度で突進し、右正拳を繰り出した。
落下中といえども、ナーパが纏っている風は未だ健在。この状態では、セフィアが弾かれてしまう事を、詞御を除いて誰もが想像した。だが、またも想像は裏切られる。
セフィアの拳は風の鎧をいともた易く突き破り、倶纏の本体に深く突き刺さったのだ!
〈うそ!?〉
誰かがそう言った。それほどまでに非常識な光景だった。
周囲の驚きを余所に、ゼナの倶纏は落下する事さえ許されず、そのまま更に吹き飛ばされ、闘技場の壁に、轟音にかき消された苦悶の声と共に叩きつけられる。
ぱらぱらと石の破片が落ちる中にまじって、ナーパの巨躯が自然落下していく。
そして、着地や受身の姿勢をとれぬまま地面へと落ち、更なる音を闘技場に轟かせた。
唖然とする場内。
誰一人として声を発することが出来なかった。信じられない、というのがこの場にいる人間の気持ちだろう。だから気付けない。彼女の周囲に舞った物体が消えている事実に。
「技を教えて頂いた返礼をしましょう。私の能力は【消滅】。ありとあらゆる〝森羅万象〟を消し去る力です。ナーパの風を消し、重量を消し、防御力も消しさる。それ故に、私は貴方の攻撃を受け止める事ができ、逆に会心の反撃をすることが出来たのです。ご理解いただけましたでしょうか?」
明かしてない依夜を除いて、はからずしも長い養成機関の歴史の中で、二例目となる意識ある中位・甲型の倶纏を持つ詞御。この展開についていけず、誰も彼もが何も言えず呆けるしかなかった。これには理由がある。
何故なら、この階位は五千万人から一億人に一人の確率とさえ言われ、まず一般人ではお目に掛かる事ができないからだ。当然その力は、対人戦で使う力を大きく逸脱しており、軍の一個大隊を一人で相手に出来るほどの力を秘めていると伝えられている。
この状態では詞御が依夜のパートナーになる事、つまり序列二位を獲得する事には誰も反対しないだろう。いやすることすらできない。実力的にも階位的にも。
十カウントで立ち上がれる軽い負傷でもないし、ましてやここまでの力の差を見せつけられれば、ゼナも諦める。誰しもがそう思った。
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