詩「春と山と」

有原野分

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春と山と

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透明な春
窓を閉め切った部屋に
あなたは種をまいた

   山に登ろう
  少しでも神様に
 近づけるかもしれないから

白いたすきを首から下げると
風の麓に蝶々が集まってきた
靴を脱ぐと川の冷たさが伝わってくる
長い年月をかけて錆びついた自惚れが足首
 掴んでくる

空一面を覆う
青いビー玉のように
私の虚栄心は透き通っていった

頂きで涙を流すあなたは
視線のその先に
白いもやを見たと言う
その瞬間
春があの部屋に流れ込んだ気がした
せせらぎのように
風の音にかき消された
あなたの声のように

 胸の高さ
  光の速さ
   その重さ

蛇と大木と鳥居の世界で
ただそこに「在る」という世界で
問われた覚悟と
生まれた感情を
私たちはどうしても言葉にできないでいる

夕暮れ
不透明な燃え滾る赤
私はお前をいつか夢で見る気がする
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