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day2 発明のお仕事
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この国にはたくさんの発明家がいる。
電子世界であるこの世界の中では、誰しもが自由に魔法を使え、また、自然と便利グッズの発明が盛んになっていった。
たとえば、糸子という女性と剤栄(ざいえ)研究所の発明品で、マトイエというものがある。絵を纏う薬剤技術で、なんと動画や音楽まで薬剤で皮膚から発生させることができ、また、落としたいときは薬剤で一瞬で落とせるのだ。もとは刺青を気軽に楽しむための技術だったが、今では誰しもが広告を纏い収入を得ている。
そういったメガヒットの発明もあれば、フールが作るような売れない発明もある。
「それが、この星屑の瓶。」
「へえ。」
オオシロチョウと名乗るザイエの男が、不思議そうに瓶を傾ける。すると、ミントの香りがするドロップが瓶の中に出現した。
「飴か氷砂糖を入れて念じると、しばらくして気持ちが飴になるんです。」
「これ、恋人たちに向けて小さいの作ったら売れそうだけどな。なんで宣伝しないの?」
「しましたよ。webにアンテナショップに。それでも売れなかったんだ」
フールはうなだれて新品の瓶が詰まった段ボールをベッドの下から引きずり出す。
「手作りだからこれで全部だけどさ。ほしかったらあげるよ。」
「我々ザイエ研究所は、夢見る技術を拡張するための研究所です。あなたのような人材がいれば、もっと我々の研究は……」
「私は病気の身だから、働けないよ」
「その辺の福利厚生もちゃんとしています」
「それに、もうアイデアがないんだ」
「アクリル幻燈石もあなたが関わっていると聞きました。魔法を石に浸み込ませる技術を科学に転用するなんて!」
「あれは偶然の産物だよ。ペンに情報をしみこませた液を充填して、それでネイルチップを塗ったら幻燈石のような反応がでた。科学的にどうなってるのかはわからないけど。この程度のことはザイエなら簡単だろうし、私が作らなくてもそのうち作れたでしょ?」
「……ほかの発明品を見せてほしい」
フールは黒くて大きな箱の中をがさごそと漁り、種の入った袋を取り出した。
「データフラワー。DNAの空き部分にデータを書き込んだ花だよ。データの保持性もよくて、無限に増やせて、なによりかわいい。でも、予想外の変異が怖くて全部燃やした。これは残ってた種。ほしければあげるよ。データは遺伝子組み換え技術を使わなくても、アクリル幻燈石の液に浸せば書き込める。そのまま増やせば白ロムが増やせる。すきにして」
オオシロチョウは種を不思議そうに見つめ、袋ごとハンカチで包み胸元のポケットへしまった。
「瓶と合わせてまずは100タンカ(10万円)。あとは売れ次第振り込みますよ。契約書は……」
「いい、ぜんぶあげる。」
「規則ですから」
フールはしぶしぶ契約書にサインし、技術をザイエに提供することにした。
「我々ザイエ研究所は夢見る者の味方です。それでは。」
「待って」
立ち去ろうとするオオシロチョウの男をフールは呼び止めた。
「このミント飴、銀色の粉を纏ってる。きっとおいしいよ。一緒になめませんか。アパート1Fの喫茶ローズのお茶が合うでしょうね」
「じゃ、お言葉に甘えて。あなたのおごりならいいですよ」
「住民は無料なんですよね……」
フールはオオシロチョウの男と喫茶室に行くと、自分で熱湯を温めてあるカップに注ぎ、セイロンティーを淹れた。
「あ。フールさん。ごかげんいかが。」
アパートに住むウサギの介護士、タイヘーちゃんがオーダーを取りに来た。
「タイヘーさん、こんにちわ。今日はお客様がおいしい飴をくださったからタイヘーさんもどうぞ。」
「いいの?」
「いいよ。はい。お口に入れてあげる。」
小さなウサギの口を精一杯開けたところに、ミントの飴をきゅ、と押し込んだ。
「おいひいー!」
「この子は?」
「うさぎの学校製のタイヘーちゃん。」
「わがザイエのライバル企業ですねえ。かわいい。」
オオシロチョウの男は嬉しそうに目を細めながらタイヘーちゃんを撫でた。
電子世界であるこの世界の中では、誰しもが自由に魔法を使え、また、自然と便利グッズの発明が盛んになっていった。
たとえば、糸子という女性と剤栄(ざいえ)研究所の発明品で、マトイエというものがある。絵を纏う薬剤技術で、なんと動画や音楽まで薬剤で皮膚から発生させることができ、また、落としたいときは薬剤で一瞬で落とせるのだ。もとは刺青を気軽に楽しむための技術だったが、今では誰しもが広告を纏い収入を得ている。
そういったメガヒットの発明もあれば、フールが作るような売れない発明もある。
「それが、この星屑の瓶。」
「へえ。」
オオシロチョウと名乗るザイエの男が、不思議そうに瓶を傾ける。すると、ミントの香りがするドロップが瓶の中に出現した。
「飴か氷砂糖を入れて念じると、しばらくして気持ちが飴になるんです。」
「これ、恋人たちに向けて小さいの作ったら売れそうだけどな。なんで宣伝しないの?」
「しましたよ。webにアンテナショップに。それでも売れなかったんだ」
フールはうなだれて新品の瓶が詰まった段ボールをベッドの下から引きずり出す。
「手作りだからこれで全部だけどさ。ほしかったらあげるよ。」
「我々ザイエ研究所は、夢見る技術を拡張するための研究所です。あなたのような人材がいれば、もっと我々の研究は……」
「私は病気の身だから、働けないよ」
「その辺の福利厚生もちゃんとしています」
「それに、もうアイデアがないんだ」
「アクリル幻燈石もあなたが関わっていると聞きました。魔法を石に浸み込ませる技術を科学に転用するなんて!」
「あれは偶然の産物だよ。ペンに情報をしみこませた液を充填して、それでネイルチップを塗ったら幻燈石のような反応がでた。科学的にどうなってるのかはわからないけど。この程度のことはザイエなら簡単だろうし、私が作らなくてもそのうち作れたでしょ?」
「……ほかの発明品を見せてほしい」
フールは黒くて大きな箱の中をがさごそと漁り、種の入った袋を取り出した。
「データフラワー。DNAの空き部分にデータを書き込んだ花だよ。データの保持性もよくて、無限に増やせて、なによりかわいい。でも、予想外の変異が怖くて全部燃やした。これは残ってた種。ほしければあげるよ。データは遺伝子組み換え技術を使わなくても、アクリル幻燈石の液に浸せば書き込める。そのまま増やせば白ロムが増やせる。すきにして」
オオシロチョウは種を不思議そうに見つめ、袋ごとハンカチで包み胸元のポケットへしまった。
「瓶と合わせてまずは100タンカ(10万円)。あとは売れ次第振り込みますよ。契約書は……」
「いい、ぜんぶあげる。」
「規則ですから」
フールはしぶしぶ契約書にサインし、技術をザイエに提供することにした。
「我々ザイエ研究所は夢見る者の味方です。それでは。」
「待って」
立ち去ろうとするオオシロチョウの男をフールは呼び止めた。
「このミント飴、銀色の粉を纏ってる。きっとおいしいよ。一緒になめませんか。アパート1Fの喫茶ローズのお茶が合うでしょうね」
「じゃ、お言葉に甘えて。あなたのおごりならいいですよ」
「住民は無料なんですよね……」
フールはオオシロチョウの男と喫茶室に行くと、自分で熱湯を温めてあるカップに注ぎ、セイロンティーを淹れた。
「あ。フールさん。ごかげんいかが。」
アパートに住むウサギの介護士、タイヘーちゃんがオーダーを取りに来た。
「タイヘーさん、こんにちわ。今日はお客様がおいしい飴をくださったからタイヘーさんもどうぞ。」
「いいの?」
「いいよ。はい。お口に入れてあげる。」
小さなウサギの口を精一杯開けたところに、ミントの飴をきゅ、と押し込んだ。
「おいひいー!」
「この子は?」
「うさぎの学校製のタイヘーちゃん。」
「わがザイエのライバル企業ですねえ。かわいい。」
オオシロチョウの男は嬉しそうに目を細めながらタイヘーちゃんを撫でた。
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