【完結】独占欲の花束

空条かの

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7章『恋敵編』

123「あんたは何者だ?」

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春になり、俺は無事2年生になることができていた。
天王寺との関係は相変わらずだったけど、天王寺ともあと1年かと考えたら少しだけ寂しいと思ってしまった。
今年も新入生を迎え、また新しい学校生活が始まる。
そう、新入生が入学してきた。
新入生、高城たかしろ まなぶ
こいつのせいで、俺の身にまたまた災難がやってくるとは、この時は知るよしもなかったんだ。





大学2年、俺はカフェでバイトを始めていた。
もちろん、天王寺には絶対来るなと釘を刺し、来たら別れると言ってある。
俺はバイト先まで近道しようと、校舎裏へ足を進め、近道なんか止めとけばよかったと後悔した。

「何様のつもりだ、てめえ!」
「俺は、興味がないって言っただけですよ」
「興味だと……」
「可愛くないから、可愛くないと言ったまで」
「ンだとっ」

校舎裏で怒声をあげていたが男が、冷めた感じの男の胸倉を掴み上げたところで、俺はその現場に姿を見せてしまっていた。

「──あっ」

完全に目撃者になった俺に視線が集まる。

「なんだてめえは」

喧嘩? の真っ最中に突然現れた俺にその質問がされる。
当然「ただの通りすがりです」とは、済まされない雰囲気。
どうしよう、と、黙って立っていたら、凄みを効かせた男の元に一人の男が近寄る。
それから耳元に何かを囁くと、胸倉を掴まれていた男が不意に地に落とされる。

「――ッて」

掴み上げられていた手をいきなり放され、地面に落ちた男が打った腰を抑えながら、顔を顰めるが、凄みのある男はなぜかそいつではなく、俺をじっと睨んできた。

「お前は、2年の姫木か」
「は、はい」
「チッ、……余計な邪魔が入った。行くぞ」

男たちは俺の名前を確認すると、舌打ちをしつつそのまま立ち去った。

「はぁ~」

俺は軽いため息をついて、全身の力を抜く。なんで名前を確認されたのか、おおよその見当がついたからだ。
決して自惚れとか自慢とか、そういうのじゃないけど、俺の背後に天王寺が見えたから大人しく帰ったことはわかる。俺に何かあれば天王寺が黙っていない、天下の天王寺家を敵に回すようなことはしない、ただそれだけだ。
喧嘩に巻き込まれることが無くてよかったけど、なんか腑に落ちないのはなんでだろう。
そんな落胆する気持ちを抱えつつも、俺は地面に座ったままの男に手を差し伸べる。

「大丈夫?」
「あんたは何者だ?」

そりゃあそうだよな、名前名乗っただけで、男たちが黙って去っていったんだから、気にならない方がおかしい。けど、どうやらこの男は、名前を聞いても俺を知らないみたいだった。
つまりだ、入学してきたばかりだと容易に判断ができた。

「俺は、2年の姫木陸」
「姫木先輩……?」
「先輩はつけなくていいって。……えっと、一年生?」
「ああ、高城学だ」
「高城くん?」
「高城でいい」

呼び捨てにして構わないと言いながら、高城は俺の手をとって立ち上がりながら、「助かった」とお礼を述べた。
背が高い。
たぶん天王寺と同じくらいあるんじゃないだろうか。俺は高城を一瞬見上げてから、地面に落ちていた細長い袋を拾うと、手渡す。

「弓道?」

思わずそう声をかけちゃったけど、高城はなぜか笑って、

「残念、剣道」

と、訂正した。

「剣道かぁ、かっこいいよなぁ~」
「そっか?」
「絶対カッコいいって。高城、背も高いしモテそう……」

俺は高身長で竹刀を振る姿を想像して、羨ましいと口に出していた。だって、俺が竹刀振っても大して様にならないように思えたから。
だが、モテそうといった言葉に高城は苦い顔を返してきた。

「……迷惑だな」

独り言を低く吐き出した高城は、袋をじっと見つめる。
それから、高城は絡まれた原因を手短に話し始めた。
なんでも剣道は幼少期からしているとのことで、その姿に惚れたのか、高城本人に惚れたのか、女の子が告白してきたが、可愛くないと好みじゃないときっぱりお断りしたとのこと。
それで、その兄がいちゃもんをつけてきたらしい。
妹が可愛くないとはどいう意味だと。
まあ、そこまではっきり言ってしまった高城にも問題はありそうで、俺は苦笑いを返しながら、

「女の子にそういうこと言っちゃダメだぞ」

と、一応忠告しておく。

「その気がないなら、はっきり言うべきだと思うけど」
「その一言で傷つくだろう。思いやりと気遣い」

人差し指を突き出して、俺は高城に人には優しくと強く言う。そしたら、高城はクスクスと笑い出して、「先生みたいだな」と、腹を抱えた。

「笑うな」
「ちっこい先生」
「小さい言うなっ。これでも気にしてるんだぞ」

人が気にしてることを言われて、俺はちょっとだけムキになって言い返せば、高城はますます笑う。
なんか悔しくて、もっと言い返そうかと思ったけど、俺は大事なことを思い出して、慌てて時計を見た。

「やばっ……、ごめん高城。俺用事があるから」
「姫木先輩ッ!」

バイトに遅刻しそうで、俺は慌てて走り出して目の前にあった木に正面衝突した。

「――ッて」

鼻の頭を思いっきりぶつけて、その反動で俺の身体は後ろに倒れ、それを高城が抱えてくれた。

「危なっ、……っと」
「ごめん」
「ぷっ……、ははは……。姫木先輩って可愛いな」

俺を受け止めた高城は、大笑いしながら真っ赤になった鼻の頭を覗き込んできた。もう恥ずかしいの一言。なんでこんなところに木が生えてるんだと、俺はぶつかった木を睨む。

「ちょっと待ってて」

そっと身体を起こしてくれた高城はそう言うと、自分の鞄を漁って、何かを取り出すと俺の正面に立ち、鼻を抑えていた手を外す。

ピタっ

擦りむいた鼻の頭に絆創膏が貼られた。
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