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十一

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 ルーヴェンスの縋るようなまなざしが途切れ、ひとすじの風が師弟の間を通り抜ける。次にルーヴェンスが目を開いたとき、フィクトは思わずその場に膝をついた。
 なんの予兆もなかった。だが、明らかに、この場の何かが変わった。少なくとも、フィクトにはそう感じられた。見慣れたはずのルーヴェンスの横顔は、石像のように冷たい。品定めするような彼の視線が、フィクトを舐め上げる。

 師匠と呼びかけようにも、喉が詰まって声が出ない。目を背ければ、その瞬間にも喉笛を食いちぎられそうだ。殺される――フィクトは、本能的にそう思った。固まったままルーヴェンスを見上げるフィクトの頬に、雨粒が絶え間なく打ちつける。それなのに、雨が頬を叩く感覚も、石畳に弾ける音も、あまりに遠い。

「投降する気はないようだ。生きたままの確保が望ましいが、場合によっては殺しても構わん。……盾の者は下がれ、出方を見る」

 年かさの警備兵が、他の者に指示を与える。その声につられてか、フィクトから警備兵たちの方へと、ルーヴェンスの視線が移った。
 ルーヴェンスがぐるりと白い壁を見渡すと、彼の目に捉えられたそばから警備兵たちの表情がこわばっていく。彼らにも、ルーヴェンスの〈変化〉が伝わったらしい。

 そんな中、剣を構えていた三人の警備兵が、負けじと一歩前に踏み出す。じりじりとこちらとの距離を詰めてくる彼らと、焦るフィクト――両者の間に立つルーヴェンスが、ふと、右足を引いた。
 ルーヴェンスのつま先が地面をなぞると、水の妖精が彼から逃れゆくように、その靴先が触れたあたりの地面が乾き、軌跡を線と残す。ルーヴェンスはそうして、足元に魔法陣をひとつ描いた。

 円と八芒星を一画で描き、その中央にルーン文字をひとつ描いたきりの、ひどく簡略化された魔法陣。ルーヴェンスの足元のそれは、フィクトの目の奥で、エドマンドの服に描いてあった魔法陣の断片ときれいに重なった。

「……いったいどんな手を使ったのか知らないが、はったりには応じん!」

 剣を握る警備兵のひとりが、ルーヴェンスの殺気にも屈することなく、正面から彼に切りかかった。ルーヴェンスは杖を構えることも、またその場から動くこともせず、ただ、迫る男を気だるげに見やる。男の剣は、何の妨害も受けないままルーヴェンスの首筋に迫った。

 フィクトが思わず声を上げそうになった、そのとき。勝ち誇り、無駄口を叩きかけた警備兵の体が、剣を振りかぶった姿勢のまま硬直する。彼がおそるおそる胸元を見下ろすと、そこには、ルーヴェンスの手のひらが当てられていた。指の隙間から、ぼたぼたと血が流れおちていく。

 何かが男の胸を貫いた。それが何なのかさえ、男自身にはわからなかったかもしれない。けれども、崩れ落ちた彼の後ろで待機していた警備兵たちと、へたり込んでいたフィクトには、絶命した男が氷の刃に貫かれるのがはっきりと見えていた。ルーヴェンスの足元に広がった魔法陣が光を放ち、やがて消滅したのも。

「下がれ、奇術師だ! 盾の者で対処する!」

 年かさの警備兵の命に、剣を持った警備兵たちはおののき、その場から数歩退く。代わってタリスマンを掲げた者たちが前線に並んだ。

 タリスマンを掲げた警備兵たちが祈りの言葉を唱えると、タリスマンにはめ込まれた青い石が光を帯びる。そのかがやきに周囲の妖精が共鳴し、宙に水の矢を形づくっていく。タリスマンの力をはじめて目にしたフィクトは、驚きに目を見開いた。

「極悪人めが、まだ罪を重ねるか! 殺人及び中央広場内での妖精女王への冒涜行為とは……! 殺してしまって構わん、この場で制裁を! 妖精女王の名のもとに、友の仇を討つのだ!」

 妖精女王を心から信奉する者にとって、ルーヴェンスの奇術――もとい『魔術』は、妖精を侮辱する行為に他ならないのだろう。しかも、その『魔術』が、目の前でいともたやすく仲間の命を奪ったのだ。タリスマンは術者の怒りに応じ、弾けるような青い炎を纏っていた。

 対するルーヴェンスは、自分に向けられる殺意にも、まったく反応を示さなかった。足元に、先ほどとまったく同じ魔法陣を描いただけだ。

「――制裁を!」

 短い唱和と同時に、水の矢が一斉にルーヴェンスに襲いかかる。そのうちの一部がルーヴェンスの頬や肩をかすめ、鮮血を散らした。だが、胸や腹を射抜くはずだった矢は、彼の目の前で、見えない壁に当たったかのようにかき消える。
 第二、第三の矢についても、結果は同じだった。致命傷になるだろう攻撃はすべて、ルーヴェンスに〈防がれて〉しまうのだ。

 攻撃が止み、すっかり静まりかえった場で、ひとり、ルーヴェンスが視線を落とす。
 ルーヴェンスの体だけでなく、その血にさえも、妖精は近づこうとしないらしい。奇妙に乾いた地面には、彼自身の血がしたたり、血だまりを作っている。ルーヴェンスは靴先を血だまりに浸すと、そのまま血だまりの外の敷石へと引きずっていく。描き出されたのは、またも、あの簡略化された魔法陣だった。

 ルーヴェンスは、致命傷以外防げなかったのではない。〈防がなかった〉のだ。警備兵たちがそれを悟った時には、もう遅かった。

「ま、守れっ!」

 警備兵たちはすばやく水の盾を形成し、防御態勢に入る。この状況の意味を察したフィクトは、割り切れない思いで警備兵たちから目を背けた。

 ルーヴェンスは警備兵たちの〈盾〉に向け、手のひらをかざす。
 武器が同じ〈妖精〉である以上、ここで試されるのは術の威力などではない。どちらの命令権がより強いか、それだけなのだ。

 タリスマンは、妖精に宿っている妖精女王の意志に働きかけ、彼らの守護を得る――要するに、妖精の恩恵を形にし、それを効率よく行使するための道具だ。それに対し『魔術』は、そもそも妖精の内にある妖精女王の意志を認めない。妖精の意志に介入し、それらを術者の意志で上書きしてしまうことで生まれる〈絶対命令権〉で、妖精を傀儡と化す。

 この場の妖精に対して与えられた、二つの命令。勝敗は、始めから決していた。ルーヴェンスが短いルーンを唱え終えて、コンマ一秒――警備兵たちは、驚愕の表情を貼りつけたまま、次々とその場に崩れ落ちる。盾を形成していた水の妖精がルーヴェンスの命令に屈服し、表面に薄氷をまとった巨大な棘となって、かつての術者たちの体を射抜いたのだった。かがやきを失ったタリスマンが、ひとつ、ふたつと地面に転がる。

 タリスマン隊の後ろに下がっていた警備兵たちが、小さく悲鳴を上げ、ルーヴェンスからさらに距離をとった。だが、その程度では彼の視界から逃れることはできなかった。ルーヴェンスは〈死にぞこない〉たちを見渡すと、ルーンを唱えようと口を開く。
 ふいに、ルーヴェンスの背後で呆けていたフィクトと、怯える警備兵の視線が空中でかち合った。とっくに自らの敗北を認めているにもかかわらず、あまりの恐怖に、逃げることすらできずにいる――そんな、絶望的なまなざしだった。

 このままだと、ルーヴェンスはこの怯えきった警備兵まで殺すだろう。人殺しが卑劣な行為であると嘆いていた彼が、その手で無抵抗の彼らを殺すのだ。正気に戻った彼は、自らの凶行にどうやって〈けじめ〉をつけようとするだろうか。
 フィクトの脳裏に、ルーヴェンスの血まみれの指先がよぎる。ルーヴェンスはあの時、エドマンドを転移させる魔法陣を描くために、自らの指先を食いちぎったのだ。これは自らのけじめだからと言って。

 ルーヴェンスの背中は、なおも近寄りがたい威圧感を放っている。触れた瞬間、首を飛ばされるかもしれない。胴を貫かれるかもしれない。息も止まりそうな恐怖と重圧を振り切って、フィクトはルーヴェンスの足元にしがみついた。

「やめてください、ルーヴェンス師匠! もう向こうに戦意はありません。目を覚ましてください……!」

 ルーヴェンスの詠唱が止まる。彼の視線が、フィクトへと移される。
 フィクトはルーヴェンスの目に宿る狂気に射抜かれ、息ができなくなるのを感じた。彼を止めなければならないとわかってはいても、言葉が喉に突っかかり、掠れるような悲鳴がもれるだけだ。

 ルーヴェンスが、片手でフィクトの顔をわしづかみにする。決して大きくはない手に視界を遮られ、ルーン列を唱えるルーヴェンスの声を聞いたとき、フィクトは死がせまり来るのを感じた。
 『大罪の器』として覚醒している今のルーヴェンスには、フィクトのこともわからないのだ。邪魔をする者は殺すべき対象でしかない。それは、ルーヴェンスが大切にしてきた弟子についても、同じことだった。

 弟子を守るのが師の役割だと言って、フィクトを突き放そうとしたルーヴェンスが、その手でフィクトを殺めようとしている。今ここで自分が死ぬことがどういうことであるか――どれほど師を傷つけるかと考えたフィクトの恐怖心は、すぐに決心へとすり替わった。喉につかえていた言葉たちが、洪水のようにあふれ出す。

「ふざけないでください。あなたは確かに天才です。誇り高き学者です。こんなことで人を殺せるなら、どうしてエドマンドを殺した時に自分を罰したりしたんですか。どうして、〈けじめ〉なんて口にしたんですか!」

 フィクトの言葉はフィクト自身にも理解できないほど支離滅裂だったが、図らずもルーヴェンスは口をつぐんだ。完成しかけていたルーン列が、ぷつりと途切れる。その時彼の目に宿った正気の色を、フィクトは見逃さなかった。

「眠っているふりをして、全部聞こえているんじゃないですか。あなたのすべきことは何なんですか! なんのためにここまで来たんですか! 人を殺すためでも、『大罪』に身を委ねて絶望するためでもないでしょう! 僕の……あなたのただひとりの弟子の言葉が届いているなら、応えてください。師匠――!」

 フィクトの叫びが、深層に息をひそめていたルーヴェンスの意識を突いた。フィクトの顔を掴んでいたルーヴェンスの手から力が抜ける。解放されたフィクトは、自らの心拍の速さを感じながらも、師を見上げた。

 ルーヴェンスは、フィクトをぼんやりと見下ろしたまま、立ちすくんでいた。先ほどまでの覇気はかき消え、ただ戸惑うような表情を浮かべている。

「フィグ君……?」

 その声は、間違いなくいつものルーヴェンスのものだった。全身を覆う切り傷の痛みに顔をしかめた彼は、続けて自ら描いたはずの赤黒い魔法陣を見下ろし、うろたえる。

「なんだ。ひどいな、これは。……ああ。まだ頭がぼんやりしているんだが、この様子だと、私はまた……。いや、そもそもなんだ、これは。魔法陣か?」

 自身が手を下した警備兵たちの遺体を見るまえに、ルーヴェンスの興味は、足元の魔法陣へと移ったようだった。フィクトは、すっかり普段通りの師を前に、安堵にも罪悪感にも似た、なんとも形容しがたい喜びがわいてくるのを感じた。

「よかった、やっと戻って――」

 フィクトの言葉を、近づいてくる靴音が遮る。見れば、すっかり戦意を失っていたはずの警備兵のひとりが、ルーヴェンスの背後に迫っていた。

 『大罪』の行動によって作られた今の状況を理解できていないらしいルーヴェンスは、困惑した様子で振り返る。だが、彼の目が自らに迫る刃を捉えるも遅く、剣が一閃――ルーヴェンスの無防備な背を、ばっさりと斬り下ろした。緩く開いた唇から、喘ぐような、細い息をこぼし……ルーヴェンスの体が、ぐらりと傾く。

「師匠!」

 フィクトは短い悲鳴を上げ、倒れ込んだルーヴェンスを抱きとめる。ルーヴェンスは返事の代わりに苦しげにうめいた。その背中に、真っ赤な染みが広がっていく。フィクトが両手で押さえても、血は止まってくれそうになかった。傷口が大きすぎるのだ。

 相手にそんな気力は残っていないものと油断していた――フィクトはおぼつかない手でルーヴェンスの傷を押さえる。血は滝のようにあふれ出し、ルーヴェンスの肌から赤みを奪っていく。

 警備兵は血糊を払うと、再び剣を振りかぶった。皮肉にも彼は、フィクトを怯えたように見つめていた、あの警備兵だった。仲間を殺したルーヴェンスを生け捕りにするという意思はもはやないらしい。意識を失くしたルーヴェンスの苦しげな吐息が、フィクトの耳の奥にこだまする。

 フィクトは絶望的な思いでルーヴェンスに覆いかぶさり、血まみれの手のひらと、ぎらつく刃を見やった。
 ルーヴェンスを止めたことは、きっと間違っていなかった。これ以上ルーヴェンスの手を汚させたくない気持ちにいつわりはない。だからこそ、その選択が招いたこの状況についての責任は、フィクトにあるのだ。

 なんとかこの場を切り抜ける方法はないだろうか――考えたフィクトだったが、フィクトにできることは、あまりにも少なすぎた。フィクトは丸腰で、手負いのルーヴェンスを抱えている。〈同化〉の魔術だって、今さら使ったところで、ほとんど効果はないだろう。
 剣を振りかぶった警備兵が、慈悲に満ちた声色でフィクトに語りかける。

「その男を差し出せ。もちろん君には我々に同行してもらうことになるが、手配書にあったのはルーヴェンス・ロードの名だけだ。共犯として斬り捨てられたくなくば、そこをどくんだ」

 フィクトは警備兵をにらみ、血でぬめる師の背をいっそう強く抱きしめた。警備兵は首を振り、斬り下ろす先を見定めるように、剣先をフィクトに向けた。そして――目を細め、剣を振り上げる。

 たとえば、手をつけていたルーン文字の解読が済んでいたとしたら。実用には至らなくとも、実験段階にまで運べていたら……。フィクトは、頭上に光る剣先を見つめながら、なぜだろうか――縦線と山形でできた、あのルーン文字のことを考えていた。

 結局、正解を見つけることはできなかったあのルーン文字が、もし迫りくる剣を破壊できるものだったなら。傷ついた師を、遠くに転移させられるものだったなら。あるいは、そう、時を止められるものであったなら、どれほどよかっただろうか。そんな答えを見つけ出すことができていたなら、今この場で、師を守り通すこともできただろうか。

 雨の冷たさの中に、ルーヴェンスの血に宿る熱を感じながら、フィクトは目を閉じる。雨音と、二人分の心音だけの暗闇。恐れよりも、情けなさと無力感が支配するその闇の中で、フィクトは、祈るようにつぶやいた。

「――〈止まれ〉」

 直後にあるはずの痛みは、しかし訪れなかった。まぶたで作った暗闇が途絶えることもない。痛みもないままに死んでしまったのかも知れない――そう思ったフィクトだったが、相変わらず手のひらに血の感触があることに気づき、目を開いた。
 フィクトに触れる寸前で、刃が止まっていた。それを握っている警備兵の手から急速に力が抜け、重々しい音を立てて剣が地面に転がる。遅れて、警備兵の体も、その場に崩れ落ちた。

 警備兵はしばらく体を痙攣させていたが、やがて、短く息を吐き、くたりと脱力する。倒れたままの彼は、苦しげに胸を押さえ、恐ろしいものを見るような目でフィクトを睨みつけた。

「き、貴様、私に何を……! ぐ、胸が……!」

 フィクトは、驚きをなんとか飲み込んで、ルーヴェンスを見下ろした。今のルーヴェンスは、魔術を使える状態ではない。状況からして、フィクトの魔術が、彼の体内のどこかしらに影響を及ぼしたと考えるのが妥当だが、フィクトは魔法陣も描いていなければ、ルーンも唱えていない。

 かといって、魔術が発動しえなかったかというと、そうとも言い切れなかった。なにしろ、ルーヴェンスが立っていた場所には、ルーヴェンスが血で描いた魔法陣が残っているのだ。

 フィクトが思い浮かべていたルーン文字が、〈止まれ〉という言葉に反応し、ルーヴェンスの描いた魔法陣がそれに適合したことで、何かしらの魔術が発動した――まったくありえないことではないが、そうだとすれば、あまりにも幸運だったと言うほかない。
 フィクトは残った警備兵たちを見渡し、一言、こう告げる。

「邪魔をするようなら、今度こそ命はありませんよ」

 もちろん虚勢だったのだが、効果はあったらしい。残った警備兵たちは、何やら小声で相談しながら、師弟に道を譲った。

 フィクトは、混乱している警備兵たちと、そこらに散らばった警備兵の死体を見渡してから、ルーヴェンスを抱き上げた。傷だらけのルーヴェンスの体は、すっかり脱力してしまっていた。もともと白い肌からは血の気が抜け、青黒く見えるほどだ。
 傷に気をつかってやれればいいのだが、あいにく、そうしていられる状況ではない。とにかく今は、敵をやりすごし、中央教会までたどり着かなくてはならないのだ。目くらまし代わりにでもなればと〈同化〉の魔術を発動させたフィクトは、ルーヴェンスを抱き、重い魔術杖をその場に捨て置いて、中央教会へと歩き出した。

 警備兵たちの壁は、すでに崩れてしまっている。前をにらむばかりのフィクトには、自分が踏んだ血だまりが警備兵のものなのか、それとも腕の中の師のものなのかわからなかった。師の重みを腕に感じながら、フィクトはただ、ぼんやりと考えた。ルーヴェンスが人を殺し、彼自身も傷を負ったこと。運良く魔術が発動したこと。それに、〈止まれ〉と祈りを口にしたあのとき、一歩間違えば、あの警備兵を殺していたかもしれなかったこと。それも、大切な研究課題である魔術を使って。

 雨と、師の血がフィクトを濡らす。フィクトは、小さな気づき――もしあの警備兵を殺してしまってもかまわなかったと思った自分の心――にはたと足を止め、少しの間を置いて、再び歩き出した。

 師との日常を守るためには、もはや手段を選んでいられない。自身がそんな世界にきてしまったことを、フィクトは自覚していた。とはいえ、フィクト自身が思っていた以上に、フィクトはこの状況を受け入れ、適応しはじめていたのだった。

「こんなことを言ったら、あなたは僕を〈俗物〉と蔑むでしょうね。それとも――」

 ――悲しむでしょうか。

 師の真っ青な顔に向けて問いかける。返ってきた沈黙に、フィクトはむなしく笑った。
 『調整雨』の中に、ぽっかりと空いた穴。姿の見えない罪人〈たち〉は、中央教会を目指し、ひっそりと歩みを進めた。その足元に、血の道を連ねながら。
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