星の王〜能力覚醒で無双開始。もう遅いなんて事ないから首を洗って待ってろよ殺してやるからな。

草間保浩

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第八十一話

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 アクアの自爆によって白飛びしたセナの視界。
意識が飛んでいたのは数十秒という短くも長い時間。

 仰向けになっているセナの視界には、青空が広がっていた。

「アクア、仇。」
「がぼっ」

 空が赤く染まる。
否、それは、セナが吐き出した血が目に入ったため。
 
 腹を踏みつけにしているグランの足がより深くめり込んだから、内臓が損傷している。

「ぐがっ、【一閃】……!っ?」

 どうにか抵抗しようとしたセナ。違和感はすぐにある。
振りかぶったハズの手が見えない。
 スキルを行使したハズの右腕が、よくよく気づけば感覚から無い。

「無駄、右腕、右足、アクアと、消えた。」

首をどうにか動かして、その言葉の意味を確認する。
 そこには、二の腕から先と、付け根から先が無い自分の右側。

 切断ではない、完全な消滅。今までにない喪失感に、セナは自分の体温が下がるのを感じる。
 
「剣、飛ばした、お前、無力。」

「ががっ!?」

 死に体のセナを踏みつけ、グランは無感情な目を向けてくる。
怒っているとも見えない、無感情な表情。

「魔王様、会う、お前、連行。」

 断片的で片言すぎるグランの言葉を、痛みで回らない頭でかみ砕く。
 つまりは、魔王にセナを会わせようということなのだろう。
今は魔力で止血と、水や光系での治癒で、少しでも傷を塞ぐことだけに注力する。

「ぐぼへっ!!」
「抵抗、無駄」

 大きな手でがっしりと腹を掴まれ、その衝撃で血を吐く。
最早自分の体積ほどの血を吐いたセナは、ぐったりとして抵抗も無い。

 現状を打破できないと感じたセナは、無抵抗のまま魔王に会うことにした。

◇◆◇

 魔王の城?塔?の中はまさに異世界のよう。
広く深く高く厳かで、金だけでは作り上げられないような装飾と調度品の嵐。
 配置という概念から解き放たれた無重力の混沌。

 先ほどまで床だった場所が壁となり、扉に先は無く、認知をゆがめて固定観念をぶち壊す。

 照明らしいものは見当たらないのにモノははっきりと見えるし、外の様子は見えないのに昼も夜も在るらしい、

 そんな、一つの世界でも見ているような異常景色に、セナは見入っていた。

「魔王様、例の」

 ひときわ大きな扉の前に来たグランは、そう言って門扉を叩く。

 拳と金属の打ちあう音とはとても思えない重低音が響き、扉がゆっくりと開く。



「やぁ、よく来てくれたね。歓迎する。」



 グランの手の中で、セナは若く柔らかい声を聴く。
前評判から想像していたような、怒り狂う亡者や、怨嗟の権化とはとても思えない、朗らかさに満ちた声。

 グランの手から降ろされ、片膝と片手だけでバランスの悪い体は、床に倒れ込むように横たわる。

 
「ま、魔王……」

「ああ、僕が魔王だ。」

 魔王の容姿は、セナと大差が無い少年と青年の間のよう。
今まで見てきた魔族や獣人たちとはまるで違い、その姿は人間そのもの。
 
「ちぃっ!!我の自爆で手足一本ずつかよ!畜生!」
「ワシなんてなんかいきなり死んだからのぅ。」
「死なず、任務、完了。」
「……」

「ぐ、くっ」

 ついさっき自分の手足と共に自爆したはずのアクアの姿、見知らぬ二人、そしてグラン。
 この四人が魔王四天王ということで間違いはない。

そして、その四人を束ねているのが魔王。

「ふふっ、やっぱり彼は僕と同じ、星らしい。お前ら、一旦停止。」

 魔王がそう唱えただけで、四天王らは一切動かなくなる。

それを一瞥することもなく、魔王はセナの近くに歩み寄る。

「君、僕と同じで星の子だろう?」
「……星の子?」
「スキルに干渉できる不思議なスキルを持っている人の事だよ。」

 そう言うと魔王は、セナに軽く触れる。

「僕の持つ力は【@;:・・@】、君には聞き取れないだろうけど、スキルを創り出す力なんだ。」

 スキル名、と思われる名前を言ったであろうところだけ、ノイズが走ったような変な言葉を話す。
 
「僕はこの力を持っていて人々に迫害された。神の摂理に反するだとか、世界の敵だとか、そう言われてきた。」
「……」
「その昔に結婚を約束していた人から裏切られ、仲間は僕を売り、国から逃げ、ここに至った。僕が信頼できるのは、僕が作り出した魔族たちだけ。」
「……」
「なんであんな迅速に対応できたか分かるかい?魔族たちは全員僕と同一の存在なんだ。だから、連絡手段すら必要が無く、僕の一部として活動してくれるんだ。」
「……」
「この力を全て使って、僕は僕が信頼できる魔族だけの世界をつくる。人類には全て滅んでもらう。あいつら全員をぶっ殺してやる。その気持ちだけでここまできた。」
「……」

「ねえ、何か答えなよ。」

「……」



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