時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第八節「心の色 人の形 力の先」

~謎生物、その正体もはや不明~

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 勉強会という名の雑談会から翌日。
 先日の曇り模様が嘘の様な快晴の中、勇達は揃って電車に揺られていた。

 もちろん目的は、上野にあるトレーニング施設へ向かうため。
 ただし、ほんの少しだけ趣向を凝らして。

 というのも、ちょっとした提案から渋谷前を通ろうという事になったのだ。

 実はつい最近、変容部の線路復旧がようやく終わったらしく。
 一本で一周が出来ると有名な山手線が遂に全面復旧したのである。

 という訳で、今や渋谷~目黒経由の区間はちょっとした観光スポットに。
 外側からでは見られない場所が見られるとあって人気は上々。
 折角だからと、勇達もほんの少し遠回りして観てみる事にしたのだ。

 ただ、全てが見えるという訳ではない。
 区間にある駅付近は侵入を防ぐ為のフェンスに覆われていて。
 網状フェンスで仕立てられた橋梁部分のみ、覗き込める様になっている。

「この先にアレ魔者がわんさか居たんだよね」

「うん。 今思えば阿蘇の時よりは多くなかったけど」

 そんな景色を、五人が揃ってしんみりと視線を向ける。
 凄惨な事実を知るからこそ、周囲の者達ほど騒ぐ事など出来はしない。

 当然、消えてしまった人々は未だに戻らない。
 殺されてしまった人も数えきれない程に居た。
 そんな事からか、周囲を見れば静かに手を合わせて祈る人も居て。
 刻まれた傷跡が如何に深いかを改めて思い知らされるかの様だ。
 
「でもよ、これだけ厳重でも入る奴が居るんだよな。 昨日また【YouPlay】に侵入動画上げてた奴居たぜ」

「危なくても関係無いんでしょうか……」

 ただ、こうして人の死を尊ぶ者も居れば、そうでない者も居る。
 たった今観光気分で騒ぐ者達はもちろん、心輝が言う様に面白半分で区域内に入る輩も。
 注目欲しさに無断で入り込む者が後を絶たず、警察も対応に難儀しているのだとか。

 確かに魔者の様な命を脅かす存在はもう居ないだろう。
 でも地形的な危険はまだ多く残されている。
 滑落などで怪我を負う事もあって出入りが禁止されているのだが。
 電車内にも侵入禁止をうたう広告が貼り出されていて、知らないなんて言い訳は通じない。

「ちっさいのはまだ一杯いるんだっけー?」

「うん。 小動物とか虫とかは沢山残ってるらしい」

 そして消えていないのは木々だけではなく。
 魔者とは関係無い、一見何の害も無さそうな生物も相変わらず残っている。
 ちゃなの実家へ訪れた時に見た動物もその一つだ。

 しかも、今日に至るまでに東京の各地で多数の未確認生物が見つかっていて。
 どうやら適応力が高いのか、転移してきた個体が変容地区の外に出ている模様。
 動物故の本能の賜物か、見た事の無い土地でもしっかり順応しているのだろう。

「あ、俺こないだ見た事ない動物見たぜ。 おっきな口持ったネズミみたいな奴」

「やだ、襲ってきたりしない? それ……」

「さぁなー。 でも保健所とかで捕まえたりとかしてるらしいぜ」

 その広がりは既に、東京の端にまで到達している。
 勇達の住む街にも現れたという事は、もう歯止めも効かない所まで至っているのかもしれない。

 もちろん全てが危険だとは限らないが。

「福留さんから聞いたけど、駆除対策専門チームが動いてるらしいよ」

「駆除しちゃうんですか? なんかかわいそう……」

 ちゃながそう思うのも無理は無い。
 以前見た動物はまるでウサギの様で可愛らしく、石を投げただけで逃げる程に憶病だった。
 そんな動物も駆除されるとわかれば、心優しい彼女としては身を裂かれる想いだろう。

 けれど油断は禁物だ。
 なにせ別の世界からやってきた、地球とは異なる進化を遂げて来た生物なのだ。
 生存環境が同じでも、までが同じとは限らない。

 そう、恐れるべきなのはそんな動物ではなく、媒介する病原体などなのである。

「変な病気とか持ってこないといいんだけどさー」

「テレビでもやってただろ、気軽に触るなって」

 当然、目撃証言は変容区域のある各地で巻き起こり続けている。
 その為、テレビでも「知らない動物には触らない様に」と注意喚起が行われる程だ。

 他にも看板やチラシが街路に設置・貼付され始め、その数も次第に増えてきている。

 それには『謎生物注意』などという警告用の絵が描かれていて。
 勇も初めてその看板を見掛けた時、命名センスに思わず首を傾げたものだ。

「でも初めて見た子、可愛かったですよね」

「えっ?」

 しかしそんな動物など歯牙にも掛けなかった勇としては、容姿まで憶えているはずもなく。
 突然のちゃなの振りに、苦笑いを返す事しか出来ない模様。

「―――勇さんもしかしてあの子の事忘れたんです?」

「えーっと、それはー……」

 そう問い詰めて来るちゃなは上目遣いで、それでいてぷくりと頬を膨らませて妙に可愛らしい。
 勇にとっては動物なんかよりもずっと。

 答えられない事よりも、そんな顔を直視する事の方がよっぽど難しい様で。
 堪らず視線を背けるしか出来ず、それとなくその視線は一番頼りになる人物へ。

 無言の助けが向けられた瀬玲としては、「やれやれ」と呆れざるを得ない。
 
「ねぇ田中さん、その子ってどんな動物だったの?」

 でもそこはやはりさすがの瀬玲か。
 ちゃなの興味を助け船のたった一言で引き戻す。

 ちゃな自身もどうやら相当話したかった様で。
 そんな問い掛けにガッツリと食い付かんばかりに、「はわぁ」と大きな笑みを返す姿が。

「うさちゃんみたいな子だったの。 すっごく可愛かったんですよー!」

「へぇ、そんなのもいるんだ」

「マジで! アタシも見たいなーそれ! それでどんな姿だったのー?」

 とはいえ、可愛いモノ好きな女子陣としてそんな話は見過ごせない。
 気付けばあずーと揃って続く言葉に期待を寄せる。

 しかし、そんなちゃなの記憶から導かれた姿はと言えば―――



「毛がボヨヨンってしてて、二足歩行でボンボーンって歩いて、横に耳の長い動物だったの」



 ただ語彙力が無いのか、それとも彼女にはそう見えていたのか。
 というよりも、遠目でちゃんと見えていたのかさえわかりはしない。

 それでも可愛いと言い切れる、ちゃなの思い出補正とはこれ如何に。

 想像も付かない予想外の感想に、瀬玲もあずーももはや失笑気味である。

「ええー……」

「それ、可愛いの……?」

 何せ聴いたままに想像すれば、珍妙な絵柄の動物が出来上がる訳で。
 本当にウサギなのかと疑ってしまう程に。

 淡い期待を打ち砕かれた二人を他所に、ちゃなの語りはまだまだ続く。
 思うがままに見て感じた事を擬音交じりでただひたすら。

 どうやら彼女の『謎生物』観は思った以上に歪んでいた様で。
 話の外で聞き耳を立てていた勇と心輝であったが―――

 揃って瀬玲達と同じ困り顔を浮かべていたのは、もはや言うまでもないだろう。


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