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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
~闇に消ゆるも誰そ彼て~
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北の大地での激闘を経て、勇達に心強い仲間が加わった。
その名は【白の兄弟】ことアージとマヴォ。
魔者でありながら種族に囚われない人物観を抱く者達である。
彼等との邂逅は勇のみならず、その周りにも大きな影響を与える事となる。
二人の存在感はそれだけ誇り高く、それでいて優しかったから。
故にきっと、二人の力は勇達にとって何よりも心強いものとなるだろう。
しかしその一方で、仲間となりながら即座に離反した者も居る。
その者の名はドゥーラ、謎多き『あちら側』の魔剣使いである。
人の命を弄ぶ禁術を扱う事さえ厭わない恐れるべき者だ。
過去数々の人間・魔者を切り裂き、死に至らしめたという経歴さえ持つという。
ただ、そんな彼女も既に勇達の下を離れて姿をくらまして。
今となってはもう福留さえ追う事が出来ないでいた。
でも今はそれで良かったのかもしれない。
下手に関われば、余計な被害が出かねなかったからこそ。
なお、そのドゥーラはと言えば―――
今なんと、北海道最北部の空路・稚内空港に居るという。
ただその服装は当初のものとはだいぶ違う。
リボンを巻いただけの様だった服装も、今はなんと現代のフォーマルスーツで。
とはいえその体格もあって袖はほぼ肘に、スカートも太もも半ば程で途切れている。
着こなしこそ間違ってはいないが、よく見ればどこか不自然だ。
ついでに言えば髪型や化粧などはそのままで、妖しさは残ったまま。
それでも堂々と構内を歩く様は、まるで現代を歩き慣れたかのよう。
「いらっしゃいませぇ」
土産店などに入る姿に至っては、もはや観光客のそれと大差ない。
違いを強いて言うなら、その仕草がどこか気怠そうというくらいか。
そんな彼女は何を思ったのか、お土産を物色し始めていて。
ふと真白の雪ウサギキーホルダー人形を見つけては、そっと摘まみ上げ。
更には首を捻っては見上げる様にまじまじと覗き込むという。
まるでそのままぺろりと食べてしまいそうな雰囲気である。
でもさすがにそこまではしないらしい。
満足して頭身体を起こすと、キーホルダーを摘まんだままレジへ。
途中で箱菓子を一つ手に取り、きちんと会計を済ますという。
取り出した財布も現代モノで、そうして見せる仕草はまさに現代人そのものだ。
明らかに馴染んでいる。
しかも一日と足らずの間で。
一体そんな知識をどこで、いつどうやって手に入れたのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「お客さん観光者さん? この商品も人気なんだけどね、どうかしら~」
「じゃあ、いただく、わ」
遂にはこうしてコミュニケーションまで取る。
なればもはや現代人となんら変わりはない。
精々化粧が風変わりな女性程度にしか見えないだろう。
ただその行動原理はと言えば、若干不自然ではあるが。
「お客さんお釣り!」
「いらない。 貴女に、あげる……」
そうしてお釣りも受け取らずに店を去り。
ゆらりゆらりと幽霊の様に構内へ消えていく。
唖然とする店員になど一目さえ向ける事も無いままに。
その後ドゥーラはあろう事か、なんと航空チケットまでをも購入していた。
行き先は当然の如く東京である。(そもそも本土便はそこしか無いが)
そのまま普通にフライト受付さえも済ませ、悠々と機内へ。
他の乗客もが流れていく中、何事も無く指定席へと座り込む。
ここまで来ると、最初から現代の事を知っていたとしか言いようがないだろう。
もちろんそんな訳も無く、内装に指を走らせては好奇心を向けていたが。
どうやら一人の方がずっと動き易いらしい。
勇達の傍では見せなかった仕草が今ここに。
するとそんな時、隣の席前に一人の男が立ち留まる。
これまたフォーマルなスーツを着込んだ青年だ。
―――うォ、身体でっけ。 外人か? にしてもなんかエロいな、へへ―――
こちらは何の変哲も無い普通の市民で、ついでに言うと少し好色気味か。
自席の隣に座るドゥーラを前に、どこか期待の笑みを浮かばせていて。
それと同時に、その身長を前にした動揺も隠せない。
やはり常人には二メートル近いドゥーラが異様に見えるらしい。
とはいえ、その細身のお陰で窮屈という事は無さそう。
座り込んだ青年もほっと一安心だ。
「……ご旅行っすか?」
そんな間際、ふと青年がドゥーラへ声を掛ける。
なんだか、そうしないといけない気がして。
確かに少し軽めの男だから、という事もあったのだろう。
しかしそれ以上にどうにも気になって仕方が無かったから。
なにせ隣に座って初めてその妖艶さがわかる。
それだけ心地良い甘香りが漂ってきたのだ。
市販のフレグランスとは少し違う。
香りを感じさせながらも息苦しさが全く無くて。
それも透き通る様な薔薇香と僅かな酸味を交えた、鼻腔を通り抜ける良質な香りだ。
思わず吸い込み楽しんでしまいたくなる程の。
「えぇ、とても素敵な、場所でした」
しかしドゥーラはそんなあからさまな男を前にしても嫌な顔一つせず。
それどころか、とろんと瞼を下げた横目を向け、妖しい微笑みでそっと返すという。
勇達を前にした時には見せなかった顔がここにも。
「いやぁ羨ましいです。 僕は出張でここまで来させられてね、おまけにあの大雪ですよ。 一時はどーなる事かと。 これならスノボとか持って来ればよかったなぁって」
「アラ、それは大変、ねぇ。 でも雪も、いい。 真っ白で、フワ、フワ」
青年もこうして返してくれるドゥーラに気を良くしたらしい。
その話し方に少し違和感こそ感じれど。
でもちゃんと会話が成り立つから自然と口が弾むもので。
「あぁ、わかりますよその気持ち。 ここの雪ってすごく綺麗でなんすよ。 ほら、結晶とかって見た事が有ります?」
「結、晶?」
「雪質が良いと、雪の結晶って目で見えるくらいにしっかり出来るんすよぉ。 幾何学模様みたいで凄い綺麗なんすわ」
「へぇ……それは、知らなかった」
そうして遂にはスマートフォンまで取り出し、雪の結晶まで見せて。
ドゥーラは妖しさこそ変わらないものの、そんな青年の好意に身を寄せ笑う。
こうして見ると、何の変哲も無い普通の人間としか思えない。
先日の勇達と対峙した時とはまるで別人である。
そんな会話が弾む中、遂に旅客機が動き出す。
どうやら離陸準備が済んだらしい。
とはいえ二人は未だ顔を画面を合わせて談笑中だが。
しかしそんな楽しい時間も、乗務員の指示を受けて終わりを迎え。
旅客機がとうとう空へと向けて走り始めていく。
乗組員全員に凄まじい圧を与えながら。
するとその時突然、青年の身体に不自然な衝撃が。
ドゥーラの上半身が覆い被さっていたのだ。
まるで衝撃に耐えられず転がる様にして。
あろう事か彼女の腰にはベルトが備わっていない。
取付指示を聞きそびれたのだろうか。
にしては余りにも不自然な倒れ込み方だったが。
でも青年にはそんな不自然さなどどうでも良かった。
こうして倒れ込んで身体が振れた、ただそれだけで。
その姿はまるで抱き合う男女だ。
胸元に吐息が当たる様な形で頭を添え、胸は股間へと押し当てて。
肘を曲げて当てた手は膝に乗せられ、まるで股を開かせるようにしていて。
明らかに誘っている。
そうとしか思えなかったのだ。
たちまち青年の鼓動が高まる。
心拍数が上がっていく。
期待と高揚に心を握られたまま。
そしてドゥーラが振り向き見上げた時、青年は目の当たりにするだろう。
まるで何かを求めるかの如く口を窄め開かせた、その妖艶なる素顔を。
もう我慢の限界だった。
ドゥーラが放つ香りがそれだけ理性を奪っていたから。
更にその仕草一つ一つが心を擽っていたから。
だから気付いた時にはもう―――自ら唇を求めていた。
航空機が大空へと舞い上がる中、二人の男女が欲を唇で貪りあう。
誰もが空へと想いを馳せるその中で。
ただ静かに、ただ濃厚に。
でも二人の関係はそこまでだった。
事後、青年はドゥーラをそっと座席へ返してはベルトを締めて。
まるで寝かしつけるかの様に、彼女の瞼をそっと指で降ろす。
たった数分の行為でも疲れ切ってしまったのだろうか。
だからか、青年ももう何も語らない。
余韻とも言える虚ろ目を虚空へ向けたまま、ただじっと座り続ける。
航空機が目的地へと到達したその時まで。
『本日はJNAをご利用頂き、誠にありがとうございました。 またのご利用をお待ちしております』
そんなアナウンスが流れ、人が動く。
ようやく降機指示が降りたのだ。
ならばと、乗り合わせた乗客がこぞって連絡通路へと歩き始めていて。
皆きっと早く家路に、あるいは宿泊先へと向かいたいのだろう。
その中には当然、青年も。
ドゥーラに一言も掛ける事無く、そそくさと退出していく姿がそこに。
一方のドゥーラは降りるどころか俯いたまま微動だにしていなかったが。
そうして次第に人の流れが収まりを見せ。
代わりに乗務員の動きが活発となっていく。
この様に忘れ物や異常を探して回るのも彼等の役目の一つだ。
するとそんな中、一人の女性乗務員が何かに気付く。
ドゥーラに、である。
まだ彼女は椅子に座り続けたままで。
ぐったりと壁にもたれる姿は、まるで眠り続けているかのよう。
乗務員もきっとそう思ったのだろう。
もう他の客の姿も無いから、素の呆れが顔に思わず浮かぶ。
「お客様、もう到着なされましたよ?」
しかし客である限り、誠意ある対応をしなければならない。
すぐに明るい表情へと戻し、微笑みのままにドゥーラの肩をトントンと叩く。
ただ、それでも動く事は無かったが。
きっと「随分と眠りの深い人ね」とでも思った事だろう。
「お客様、お客様?」
だからか、今度は肩を掴んでゆさゆさと。
ドゥーラの身体を揺らし、懸命に落ちた意識を取り戻させようする。
だがその行為は、ドゥーラに更なるモノを落とさせるだけにしか過ぎなかった。
ゴトリ……
そう、何かが落ちた。
大きな何かが床へと。
でも乗務員はただただ身を固まらせる他無い。
落ちた物を前にして。
常軌を逸した光景を前にして、何もかも理解出来なくて。
何故なら、落ちたのは―――ドゥーラの頭、だったのだから。
その頭は、まるでミイラの様だった。
いや頭だけではない、身体もだ。
全身が干からび、枯れ果て、崩れていく。
皮が割れ、肉がしおれ、骨が変形して。
遂には乗務員へ向けて倒れ行き、体片を「バシャリ」と隣の座席へとぶち撒ける事に。
粉々だった。
衣服だけを残し、跡形も残らないくらいに。
精々、頭だけが頭蓋を遺したくらいか。
それも間も無くパサパサと表皮を崩していて。
もうそこには眼球すら残されてはいない。
「きゃあああああ!!!!」
その惨状を前にしてとうとう乗務員が叫びを上げる。
それだけの異様さが彼女の前で起きていたが故に。
多くの警備員が空港構内を走る。
機内で起きた惨状を聞きつけて。
あの青年さえも素通りしたままに。
先程ドゥーラと絡んだ青年は平然と歩いていた。
物々しい雰囲気に全く気をやる事も無く、ただただ堂々と。
そして電車やバスなども利用せず、徒歩で空港外へと歩き去る姿がそこに。
そんな青年の手に摘まんでいた航空半券が宙を舞う。
過ぎ去るバスの横風に煽られヒラヒラと。
そうして道路へと落ちれば、間も無く焼けたタイヤとアスファルトに挟まれ屑と化そう。
でもその様な小物に気を向ける者などこの場に居はしない。
轢いた車の主も、傍を通る民衆さえも。
誰しもがみな自分だけの事を考え、視界にさえ映さないだろうから。
「……男の体は、久方振り。 暫く、慣れそうに、ない、な」
こう呟く青年の姿さえも同様に。
好奇の目を向けない事に慣れ過ぎた今の世の中だからこそか。
歩く青年は、端的に見れば自然だったけれども。
頑なと動くその姿は―――
連続的に観ればまるでロボットの様に、歪と不自然だった。
なおこの一件は福留の耳に入るだけに留まった。
ミイラ化した存在がドゥーラであった事の証明が取れなかったからである。
遺体が持ち合わせていた身分証明書は偽造品。
彼女の顔写真だけが貼り替えられた別人の物で。
その素となった人物も、現在は行方不明だという。
故にその足跡からはもうドゥーラの痕跡を辿る事は出来なかった。
その名は【白の兄弟】ことアージとマヴォ。
魔者でありながら種族に囚われない人物観を抱く者達である。
彼等との邂逅は勇のみならず、その周りにも大きな影響を与える事となる。
二人の存在感はそれだけ誇り高く、それでいて優しかったから。
故にきっと、二人の力は勇達にとって何よりも心強いものとなるだろう。
しかしその一方で、仲間となりながら即座に離反した者も居る。
その者の名はドゥーラ、謎多き『あちら側』の魔剣使いである。
人の命を弄ぶ禁術を扱う事さえ厭わない恐れるべき者だ。
過去数々の人間・魔者を切り裂き、死に至らしめたという経歴さえ持つという。
ただ、そんな彼女も既に勇達の下を離れて姿をくらまして。
今となってはもう福留さえ追う事が出来ないでいた。
でも今はそれで良かったのかもしれない。
下手に関われば、余計な被害が出かねなかったからこそ。
なお、そのドゥーラはと言えば―――
今なんと、北海道最北部の空路・稚内空港に居るという。
ただその服装は当初のものとはだいぶ違う。
リボンを巻いただけの様だった服装も、今はなんと現代のフォーマルスーツで。
とはいえその体格もあって袖はほぼ肘に、スカートも太もも半ば程で途切れている。
着こなしこそ間違ってはいないが、よく見ればどこか不自然だ。
ついでに言えば髪型や化粧などはそのままで、妖しさは残ったまま。
それでも堂々と構内を歩く様は、まるで現代を歩き慣れたかのよう。
「いらっしゃいませぇ」
土産店などに入る姿に至っては、もはや観光客のそれと大差ない。
違いを強いて言うなら、その仕草がどこか気怠そうというくらいか。
そんな彼女は何を思ったのか、お土産を物色し始めていて。
ふと真白の雪ウサギキーホルダー人形を見つけては、そっと摘まみ上げ。
更には首を捻っては見上げる様にまじまじと覗き込むという。
まるでそのままぺろりと食べてしまいそうな雰囲気である。
でもさすがにそこまではしないらしい。
満足して頭身体を起こすと、キーホルダーを摘まんだままレジへ。
途中で箱菓子を一つ手に取り、きちんと会計を済ますという。
取り出した財布も現代モノで、そうして見せる仕草はまさに現代人そのものだ。
明らかに馴染んでいる。
しかも一日と足らずの間で。
一体そんな知識をどこで、いつどうやって手に入れたのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「お客さん観光者さん? この商品も人気なんだけどね、どうかしら~」
「じゃあ、いただく、わ」
遂にはこうしてコミュニケーションまで取る。
なればもはや現代人となんら変わりはない。
精々化粧が風変わりな女性程度にしか見えないだろう。
ただその行動原理はと言えば、若干不自然ではあるが。
「お客さんお釣り!」
「いらない。 貴女に、あげる……」
そうしてお釣りも受け取らずに店を去り。
ゆらりゆらりと幽霊の様に構内へ消えていく。
唖然とする店員になど一目さえ向ける事も無いままに。
その後ドゥーラはあろう事か、なんと航空チケットまでをも購入していた。
行き先は当然の如く東京である。(そもそも本土便はそこしか無いが)
そのまま普通にフライト受付さえも済ませ、悠々と機内へ。
他の乗客もが流れていく中、何事も無く指定席へと座り込む。
ここまで来ると、最初から現代の事を知っていたとしか言いようがないだろう。
もちろんそんな訳も無く、内装に指を走らせては好奇心を向けていたが。
どうやら一人の方がずっと動き易いらしい。
勇達の傍では見せなかった仕草が今ここに。
するとそんな時、隣の席前に一人の男が立ち留まる。
これまたフォーマルなスーツを着込んだ青年だ。
―――うォ、身体でっけ。 外人か? にしてもなんかエロいな、へへ―――
こちらは何の変哲も無い普通の市民で、ついでに言うと少し好色気味か。
自席の隣に座るドゥーラを前に、どこか期待の笑みを浮かばせていて。
それと同時に、その身長を前にした動揺も隠せない。
やはり常人には二メートル近いドゥーラが異様に見えるらしい。
とはいえ、その細身のお陰で窮屈という事は無さそう。
座り込んだ青年もほっと一安心だ。
「……ご旅行っすか?」
そんな間際、ふと青年がドゥーラへ声を掛ける。
なんだか、そうしないといけない気がして。
確かに少し軽めの男だから、という事もあったのだろう。
しかしそれ以上にどうにも気になって仕方が無かったから。
なにせ隣に座って初めてその妖艶さがわかる。
それだけ心地良い甘香りが漂ってきたのだ。
市販のフレグランスとは少し違う。
香りを感じさせながらも息苦しさが全く無くて。
それも透き通る様な薔薇香と僅かな酸味を交えた、鼻腔を通り抜ける良質な香りだ。
思わず吸い込み楽しんでしまいたくなる程の。
「えぇ、とても素敵な、場所でした」
しかしドゥーラはそんなあからさまな男を前にしても嫌な顔一つせず。
それどころか、とろんと瞼を下げた横目を向け、妖しい微笑みでそっと返すという。
勇達を前にした時には見せなかった顔がここにも。
「いやぁ羨ましいです。 僕は出張でここまで来させられてね、おまけにあの大雪ですよ。 一時はどーなる事かと。 これならスノボとか持って来ればよかったなぁって」
「アラ、それは大変、ねぇ。 でも雪も、いい。 真っ白で、フワ、フワ」
青年もこうして返してくれるドゥーラに気を良くしたらしい。
その話し方に少し違和感こそ感じれど。
でもちゃんと会話が成り立つから自然と口が弾むもので。
「あぁ、わかりますよその気持ち。 ここの雪ってすごく綺麗でなんすよ。 ほら、結晶とかって見た事が有ります?」
「結、晶?」
「雪質が良いと、雪の結晶って目で見えるくらいにしっかり出来るんすよぉ。 幾何学模様みたいで凄い綺麗なんすわ」
「へぇ……それは、知らなかった」
そうして遂にはスマートフォンまで取り出し、雪の結晶まで見せて。
ドゥーラは妖しさこそ変わらないものの、そんな青年の好意に身を寄せ笑う。
こうして見ると、何の変哲も無い普通の人間としか思えない。
先日の勇達と対峙した時とはまるで別人である。
そんな会話が弾む中、遂に旅客機が動き出す。
どうやら離陸準備が済んだらしい。
とはいえ二人は未だ顔を画面を合わせて談笑中だが。
しかしそんな楽しい時間も、乗務員の指示を受けて終わりを迎え。
旅客機がとうとう空へと向けて走り始めていく。
乗組員全員に凄まじい圧を与えながら。
するとその時突然、青年の身体に不自然な衝撃が。
ドゥーラの上半身が覆い被さっていたのだ。
まるで衝撃に耐えられず転がる様にして。
あろう事か彼女の腰にはベルトが備わっていない。
取付指示を聞きそびれたのだろうか。
にしては余りにも不自然な倒れ込み方だったが。
でも青年にはそんな不自然さなどどうでも良かった。
こうして倒れ込んで身体が振れた、ただそれだけで。
その姿はまるで抱き合う男女だ。
胸元に吐息が当たる様な形で頭を添え、胸は股間へと押し当てて。
肘を曲げて当てた手は膝に乗せられ、まるで股を開かせるようにしていて。
明らかに誘っている。
そうとしか思えなかったのだ。
たちまち青年の鼓動が高まる。
心拍数が上がっていく。
期待と高揚に心を握られたまま。
そしてドゥーラが振り向き見上げた時、青年は目の当たりにするだろう。
まるで何かを求めるかの如く口を窄め開かせた、その妖艶なる素顔を。
もう我慢の限界だった。
ドゥーラが放つ香りがそれだけ理性を奪っていたから。
更にその仕草一つ一つが心を擽っていたから。
だから気付いた時にはもう―――自ら唇を求めていた。
航空機が大空へと舞い上がる中、二人の男女が欲を唇で貪りあう。
誰もが空へと想いを馳せるその中で。
ただ静かに、ただ濃厚に。
でも二人の関係はそこまでだった。
事後、青年はドゥーラをそっと座席へ返してはベルトを締めて。
まるで寝かしつけるかの様に、彼女の瞼をそっと指で降ろす。
たった数分の行為でも疲れ切ってしまったのだろうか。
だからか、青年ももう何も語らない。
余韻とも言える虚ろ目を虚空へ向けたまま、ただじっと座り続ける。
航空機が目的地へと到達したその時まで。
『本日はJNAをご利用頂き、誠にありがとうございました。 またのご利用をお待ちしております』
そんなアナウンスが流れ、人が動く。
ようやく降機指示が降りたのだ。
ならばと、乗り合わせた乗客がこぞって連絡通路へと歩き始めていて。
皆きっと早く家路に、あるいは宿泊先へと向かいたいのだろう。
その中には当然、青年も。
ドゥーラに一言も掛ける事無く、そそくさと退出していく姿がそこに。
一方のドゥーラは降りるどころか俯いたまま微動だにしていなかったが。
そうして次第に人の流れが収まりを見せ。
代わりに乗務員の動きが活発となっていく。
この様に忘れ物や異常を探して回るのも彼等の役目の一つだ。
するとそんな中、一人の女性乗務員が何かに気付く。
ドゥーラに、である。
まだ彼女は椅子に座り続けたままで。
ぐったりと壁にもたれる姿は、まるで眠り続けているかのよう。
乗務員もきっとそう思ったのだろう。
もう他の客の姿も無いから、素の呆れが顔に思わず浮かぶ。
「お客様、もう到着なされましたよ?」
しかし客である限り、誠意ある対応をしなければならない。
すぐに明るい表情へと戻し、微笑みのままにドゥーラの肩をトントンと叩く。
ただ、それでも動く事は無かったが。
きっと「随分と眠りの深い人ね」とでも思った事だろう。
「お客様、お客様?」
だからか、今度は肩を掴んでゆさゆさと。
ドゥーラの身体を揺らし、懸命に落ちた意識を取り戻させようする。
だがその行為は、ドゥーラに更なるモノを落とさせるだけにしか過ぎなかった。
ゴトリ……
そう、何かが落ちた。
大きな何かが床へと。
でも乗務員はただただ身を固まらせる他無い。
落ちた物を前にして。
常軌を逸した光景を前にして、何もかも理解出来なくて。
何故なら、落ちたのは―――ドゥーラの頭、だったのだから。
その頭は、まるでミイラの様だった。
いや頭だけではない、身体もだ。
全身が干からび、枯れ果て、崩れていく。
皮が割れ、肉がしおれ、骨が変形して。
遂には乗務員へ向けて倒れ行き、体片を「バシャリ」と隣の座席へとぶち撒ける事に。
粉々だった。
衣服だけを残し、跡形も残らないくらいに。
精々、頭だけが頭蓋を遺したくらいか。
それも間も無くパサパサと表皮を崩していて。
もうそこには眼球すら残されてはいない。
「きゃあああああ!!!!」
その惨状を前にしてとうとう乗務員が叫びを上げる。
それだけの異様さが彼女の前で起きていたが故に。
多くの警備員が空港構内を走る。
機内で起きた惨状を聞きつけて。
あの青年さえも素通りしたままに。
先程ドゥーラと絡んだ青年は平然と歩いていた。
物々しい雰囲気に全く気をやる事も無く、ただただ堂々と。
そして電車やバスなども利用せず、徒歩で空港外へと歩き去る姿がそこに。
そんな青年の手に摘まんでいた航空半券が宙を舞う。
過ぎ去るバスの横風に煽られヒラヒラと。
そうして道路へと落ちれば、間も無く焼けたタイヤとアスファルトに挟まれ屑と化そう。
でもその様な小物に気を向ける者などこの場に居はしない。
轢いた車の主も、傍を通る民衆さえも。
誰しもがみな自分だけの事を考え、視界にさえ映さないだろうから。
「……男の体は、久方振り。 暫く、慣れそうに、ない、な」
こう呟く青年の姿さえも同様に。
好奇の目を向けない事に慣れ過ぎた今の世の中だからこそか。
歩く青年は、端的に見れば自然だったけれども。
頑なと動くその姿は―――
連続的に観ればまるでロボットの様に、歪と不自然だった。
なおこの一件は福留の耳に入るだけに留まった。
ミイラ化した存在がドゥーラであった事の証明が取れなかったからである。
遺体が持ち合わせていた身分証明書は偽造品。
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その素となった人物も、現在は行方不明だという。
故にその足跡からはもうドゥーラの痕跡を辿る事は出来なかった。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
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「いやだ」
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