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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」
~新たに吹き込まれる命~
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アルライの里は東西南北の四エリアで区分けられている。
正門および居住区が存在する南エリア。
憩いの広場と村長の家がある北エリア。
畑作や畜産などの農業が行われている東エリア。
そして物産の加工や製造を行う西エリアである。
勇達が向かったのはその西エリア。
そこにバノの持つ工房があった。
「ここが師匠の工房ッスよ! さぁ中へどうぞどうぞ」
「なしておめぇが招待しとんねん。それに勇殿だってもう知っとるがな」
ただ、バノの言う通りこの工房自体は勇達も知っている。
例の文化交流の折に紹介をしてもらったから。
とはいえ、その時は只の金工工房だとしか教えて貰えなかったけれども。
とはいえ後進文化の物と侮るなかれ。
その様相は現代にも通ずる程の現実的な構造を有している。
例えば鉄を熱するカマドであれば、壁奥に開いた穴型だったり。
素材を乗せる金床もあるし、鉄を打つ為の金槌だって幾つもあって。
更には焼きなましを行う為の水瓶までもがしっかりあるという。
つまり鋼製品を造れるくらいの設備がここに存在する。
それだけの技術進歩を果たしているという証拠だ。
だけどこうして改めて来てみると、何もかもが特別に感じさせてならない。
魔剣修復工房という肩書が付いたからだろう。
魔剣を修復する為の道具と認識すれば、例えありきたりでも普通には見えないから。
「そこで座ってて欲しいッス」
おまけに工房自体もそれなりに広い。
カマドからいざ左に視線を向ければ、人三人分ほどの大きな木机が。
加えてそれを囲う様に幾つもの丸太椅子が並んでいて。
その更に周りには低棚が囲んでおり、窓を通して外光を浴びている。
二人で使うにはもったいないくらいの広さと言えよう。
そんな椅子に勇が腰を掛け、バノとカプロへと視線を向ける。
でも二人はどうやら既に仕事モードへと切り替わっている様で。
その圧巻の姿に、勇が思わず押し黙る事に。
二人ともいつに無く真剣なのだ。
金床前へとバノが腰を掛け、カプロが傍で立って見守って。
揃って魔剣を眺め、静かに状態を確認する様子がここに。
「こりゃ時間が無ぇな。カプロォ、眺めてねぇでとっとと転水用【命力珠】持ってこぃ!!」
「へ、へいっ!!」
その姿はまさしく師弟そのものだ。
これならカプロがバノに逆らえない理由も頷けるだろう。
こんなやりとりが普段から常日頃行われているに違いない。
カプロが慌てて近くの小棚へ駆け寄り、何かをゴソゴソと探り始めて。
空かさず豆の様な珠一つを取り出しては、軽快にバノへと放り投げる。
それをバノが手軽く受け止め、水瓶の中へポトリと落とした。
するとどうだろう。
突如として水瓶が輝き始めたではないか。
いや違う。
水面が輝いているのだ。
それも辺りへ淡い虹色が映り込む程に強く。
どうやらこれも魔剣修復の一環らしい。
水を輝かせる事で何かしらの意味が生まれるのだろう。
「よし、命の水が出来た。こいつに魔剣を沈める。よく見てろォカプロ」
そんな中に、テープで固定したままの魔剣を沈める。
己の腕をも水の中へと浸しながら丁寧に。
カプロが一挙一動見逃さないよう見守る中で。
これも一つの大きな経験になるから。
だからカプロを呼び付け、その目に焼き付けさせようとしていて。
つまり実践を以って技術継承をも行っているという訳だ。
やる事はさすが生粋の職人だと言えよう。
「カプロォ、一二モンズの球形【命力珠】を持ってこい」
「了解ッス! 一二玉~一二玉~あ、あった!」
おまけにカプロもこんな時だけは手際がいい。
指示に空かさず反応し、テキパキと動いている。
しかも言われた通りにまた珠を取り出し、今度は大切そうに手元で運んでいて。
でも、そんな時のバノはと言えば――
「えっ!?」
なんと金ノミの先端を魔剣の珠に充てていて。
更には左手で金槌まで握っているという。
これには勇も焦らずにはいられなかった。
修復と言うから、刀身を繋ぎ直す様な作業をイメージしていたから。
ただそんな焦りなど構う事無く、金ノミが魔剣を何度も打つ事に。
カンカンと甲高い金鳴音を響かせながら容赦無く。
そうするととうとう魔剣の珠がポロリと剥がれ落ちて。
たちまち水に沈んで光の中へと消えていく。
でもそれをすぐさまバノが引き揚げ、空かさず勇へと放り投げていて。
「わわっ!? こ、これは……?」
「それが魔剣の命じゃけぇ。今までおめぇさんを守ってきた奴ってぇこった」
「じゃあこれが【大地の楔】の本体……」
受け取ったそれは、まさしく【大地の楔】だった。
今まで勇を支え、力を貸してくれて、悩みの相談にも乗ってくれた相棒だった。
けれど、その意思の輝きはもうここまでだったらしい。
今もチラチラと淡い輝きを放っていたが、そんな光が点滅し始めて。
とうとう輝きが黒い燻りの中へと消えていく。
そして間も無く、珠そのものが崩れ、砂と化していった。
勇の開かれた掌の上で、静かに。
「間一髪だったな。今その珠は死んだ」
「そうか……今までありがとな、【大地の楔】」
きっと、この時までずっと持ち堪えてくれていたのだろう。
主が希望を持ち続けている限りに。
それでやっとこの時が訪れたから、バノに託す事が出来たのだ。
新たな形へと生まれ変わる事を望んで。
「安心せぇ、魔剣自体はまだ死んどらん。こいつを司る力は今、この瓶の中にあっからの」
「え、さっき入れたのはこの珠の代わりなんですね」
「おう。これをワシらは【転命工程】と呼んどる。代わりの命力珠に換える工程じゃ」
魔剣には命を司る場所がある。
それが今の珠――【命力珠】だ。
その命の根源をまず救わねば魔剣は結局死んでしまうのだという。
だから傷付いて死に掛けた場合、先に刀身を直しても意味は無いそうな。
そんな命を救うのがこの【転命工程】。
水に命力珠と同じ役割を与え、浸す事で魔剣本体の命を維持する方法である。
この時なら命力珠を外しても問題は無いそうだ。
で、この後の工程はと言えば。
「後はこうして、新しい命力珠をトンテンカンとなぁ」
単純に、元あった場所へ新しい命力珠を嵌め込んで固着すればいい。
たったそれだけで魔剣は元の命を維持したままになるという。
つまり、今死んだのと同じ命がもう【大地の楔】に備わったという訳だ。
「出来たぞ。これで魔剣の命は一先ず助かったぁ」
「ヒェ~、ほんとギリギリだったッスねぇ~……」
「後は刀身を打ち直しゃ完了じゃあ」
そう、【大地の楔】は息を吹き返したのだ。
だからか、また再び虹色の輝きを放ち始めて生き生きとしていて。
それも離れていた勇でもわかるくらいに。
おかげで勇も笑顔を浮かべずにはいられない。
再び腕肘を腰に引かせるくらいの喜びまで見せながら。
「後工程はまぁ時間を掛けてゆっくり修復してきゃあええ。早けりゃ一日で終わるじゃろ」
「良かった……これでなんとかなるんだ」
【大地の楔】が死なずに済んだ事。
魔剣使いをなし崩し的に辞めなくて済んだ事。
色んな嬉しさが合わさって堪らなくて。
今度は感激の余り、本当に泣いてしまいそうなくらいだ。
でも、バノはそんな感極まった姿を観たくないらしい。
半ば嫌そうに手で払い、勇を外へと出るように促していて。
「そんな顔見せてねぇで、終わるまで寝床で寝て待ってろや。 ワシ等は作業しとるけぇ」
「で、でも……」
「いいから寝てろ、邪魔じゃけぇ。それに魔剣が直ったってぇ、おめぇさんが倒れたら意味ねぇやろがい」
「あとはボク達に任せるッスよ。 あ、寝床はすぐ隣ッス。案内するッスね」
「カプロォ、どうせだから飯の手配もしといてくれや」
この様に勇をさっさと追い出して作業に集中しようとする。
少し冷たい様にも思えるが、今回に限ってはバノが正しい。
職人とは集中力が命なのだから。
作業中は余計な鼻息一つでさえその集中力を乱しかねない。
となると、勇は居るだけでも邪魔にしかならないのだ。
それでも身を案じてくれたのはその優しさ故か。
相変わらず、ガタイは恐々としていても気の回し具合は天下一品である。
そんな気持ちがわかったから、勇も大人しく退き下がる。
この二人に任せておけば大丈夫だと思っているから。
ならば今は静かに願おう。
一日も早く新しい相棒がその手に戻ってくる事を。
その手にかつての相棒を握り締め、空に想いを馳せらせながら。
正門および居住区が存在する南エリア。
憩いの広場と村長の家がある北エリア。
畑作や畜産などの農業が行われている東エリア。
そして物産の加工や製造を行う西エリアである。
勇達が向かったのはその西エリア。
そこにバノの持つ工房があった。
「ここが師匠の工房ッスよ! さぁ中へどうぞどうぞ」
「なしておめぇが招待しとんねん。それに勇殿だってもう知っとるがな」
ただ、バノの言う通りこの工房自体は勇達も知っている。
例の文化交流の折に紹介をしてもらったから。
とはいえ、その時は只の金工工房だとしか教えて貰えなかったけれども。
とはいえ後進文化の物と侮るなかれ。
その様相は現代にも通ずる程の現実的な構造を有している。
例えば鉄を熱するカマドであれば、壁奥に開いた穴型だったり。
素材を乗せる金床もあるし、鉄を打つ為の金槌だって幾つもあって。
更には焼きなましを行う為の水瓶までもがしっかりあるという。
つまり鋼製品を造れるくらいの設備がここに存在する。
それだけの技術進歩を果たしているという証拠だ。
だけどこうして改めて来てみると、何もかもが特別に感じさせてならない。
魔剣修復工房という肩書が付いたからだろう。
魔剣を修復する為の道具と認識すれば、例えありきたりでも普通には見えないから。
「そこで座ってて欲しいッス」
おまけに工房自体もそれなりに広い。
カマドからいざ左に視線を向ければ、人三人分ほどの大きな木机が。
加えてそれを囲う様に幾つもの丸太椅子が並んでいて。
その更に周りには低棚が囲んでおり、窓を通して外光を浴びている。
二人で使うにはもったいないくらいの広さと言えよう。
そんな椅子に勇が腰を掛け、バノとカプロへと視線を向ける。
でも二人はどうやら既に仕事モードへと切り替わっている様で。
その圧巻の姿に、勇が思わず押し黙る事に。
二人ともいつに無く真剣なのだ。
金床前へとバノが腰を掛け、カプロが傍で立って見守って。
揃って魔剣を眺め、静かに状態を確認する様子がここに。
「こりゃ時間が無ぇな。カプロォ、眺めてねぇでとっとと転水用【命力珠】持ってこぃ!!」
「へ、へいっ!!」
その姿はまさしく師弟そのものだ。
これならカプロがバノに逆らえない理由も頷けるだろう。
こんなやりとりが普段から常日頃行われているに違いない。
カプロが慌てて近くの小棚へ駆け寄り、何かをゴソゴソと探り始めて。
空かさず豆の様な珠一つを取り出しては、軽快にバノへと放り投げる。
それをバノが手軽く受け止め、水瓶の中へポトリと落とした。
するとどうだろう。
突如として水瓶が輝き始めたではないか。
いや違う。
水面が輝いているのだ。
それも辺りへ淡い虹色が映り込む程に強く。
どうやらこれも魔剣修復の一環らしい。
水を輝かせる事で何かしらの意味が生まれるのだろう。
「よし、命の水が出来た。こいつに魔剣を沈める。よく見てろォカプロ」
そんな中に、テープで固定したままの魔剣を沈める。
己の腕をも水の中へと浸しながら丁寧に。
カプロが一挙一動見逃さないよう見守る中で。
これも一つの大きな経験になるから。
だからカプロを呼び付け、その目に焼き付けさせようとしていて。
つまり実践を以って技術継承をも行っているという訳だ。
やる事はさすが生粋の職人だと言えよう。
「カプロォ、一二モンズの球形【命力珠】を持ってこい」
「了解ッス! 一二玉~一二玉~あ、あった!」
おまけにカプロもこんな時だけは手際がいい。
指示に空かさず反応し、テキパキと動いている。
しかも言われた通りにまた珠を取り出し、今度は大切そうに手元で運んでいて。
でも、そんな時のバノはと言えば――
「えっ!?」
なんと金ノミの先端を魔剣の珠に充てていて。
更には左手で金槌まで握っているという。
これには勇も焦らずにはいられなかった。
修復と言うから、刀身を繋ぎ直す様な作業をイメージしていたから。
ただそんな焦りなど構う事無く、金ノミが魔剣を何度も打つ事に。
カンカンと甲高い金鳴音を響かせながら容赦無く。
そうするととうとう魔剣の珠がポロリと剥がれ落ちて。
たちまち水に沈んで光の中へと消えていく。
でもそれをすぐさまバノが引き揚げ、空かさず勇へと放り投げていて。
「わわっ!? こ、これは……?」
「それが魔剣の命じゃけぇ。今までおめぇさんを守ってきた奴ってぇこった」
「じゃあこれが【大地の楔】の本体……」
受け取ったそれは、まさしく【大地の楔】だった。
今まで勇を支え、力を貸してくれて、悩みの相談にも乗ってくれた相棒だった。
けれど、その意思の輝きはもうここまでだったらしい。
今もチラチラと淡い輝きを放っていたが、そんな光が点滅し始めて。
とうとう輝きが黒い燻りの中へと消えていく。
そして間も無く、珠そのものが崩れ、砂と化していった。
勇の開かれた掌の上で、静かに。
「間一髪だったな。今その珠は死んだ」
「そうか……今までありがとな、【大地の楔】」
きっと、この時までずっと持ち堪えてくれていたのだろう。
主が希望を持ち続けている限りに。
それでやっとこの時が訪れたから、バノに託す事が出来たのだ。
新たな形へと生まれ変わる事を望んで。
「安心せぇ、魔剣自体はまだ死んどらん。こいつを司る力は今、この瓶の中にあっからの」
「え、さっき入れたのはこの珠の代わりなんですね」
「おう。これをワシらは【転命工程】と呼んどる。代わりの命力珠に換える工程じゃ」
魔剣には命を司る場所がある。
それが今の珠――【命力珠】だ。
その命の根源をまず救わねば魔剣は結局死んでしまうのだという。
だから傷付いて死に掛けた場合、先に刀身を直しても意味は無いそうな。
そんな命を救うのがこの【転命工程】。
水に命力珠と同じ役割を与え、浸す事で魔剣本体の命を維持する方法である。
この時なら命力珠を外しても問題は無いそうだ。
で、この後の工程はと言えば。
「後はこうして、新しい命力珠をトンテンカンとなぁ」
単純に、元あった場所へ新しい命力珠を嵌め込んで固着すればいい。
たったそれだけで魔剣は元の命を維持したままになるという。
つまり、今死んだのと同じ命がもう【大地の楔】に備わったという訳だ。
「出来たぞ。これで魔剣の命は一先ず助かったぁ」
「ヒェ~、ほんとギリギリだったッスねぇ~……」
「後は刀身を打ち直しゃ完了じゃあ」
そう、【大地の楔】は息を吹き返したのだ。
だからか、また再び虹色の輝きを放ち始めて生き生きとしていて。
それも離れていた勇でもわかるくらいに。
おかげで勇も笑顔を浮かべずにはいられない。
再び腕肘を腰に引かせるくらいの喜びまで見せながら。
「後工程はまぁ時間を掛けてゆっくり修復してきゃあええ。早けりゃ一日で終わるじゃろ」
「良かった……これでなんとかなるんだ」
【大地の楔】が死なずに済んだ事。
魔剣使いをなし崩し的に辞めなくて済んだ事。
色んな嬉しさが合わさって堪らなくて。
今度は感激の余り、本当に泣いてしまいそうなくらいだ。
でも、バノはそんな感極まった姿を観たくないらしい。
半ば嫌そうに手で払い、勇を外へと出るように促していて。
「そんな顔見せてねぇで、終わるまで寝床で寝て待ってろや。 ワシ等は作業しとるけぇ」
「で、でも……」
「いいから寝てろ、邪魔じゃけぇ。それに魔剣が直ったってぇ、おめぇさんが倒れたら意味ねぇやろがい」
「あとはボク達に任せるッスよ。 あ、寝床はすぐ隣ッス。案内するッスね」
「カプロォ、どうせだから飯の手配もしといてくれや」
この様に勇をさっさと追い出して作業に集中しようとする。
少し冷たい様にも思えるが、今回に限ってはバノが正しい。
職人とは集中力が命なのだから。
作業中は余計な鼻息一つでさえその集中力を乱しかねない。
となると、勇は居るだけでも邪魔にしかならないのだ。
それでも身を案じてくれたのはその優しさ故か。
相変わらず、ガタイは恐々としていても気の回し具合は天下一品である。
そんな気持ちがわかったから、勇も大人しく退き下がる。
この二人に任せておけば大丈夫だと思っているから。
ならば今は静かに願おう。
一日も早く新しい相棒がその手に戻ってくる事を。
その手にかつての相棒を握り締め、空に想いを馳せらせながら。
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