時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
466 / 1,197
第十六節「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」

~少年と少女の想い、師への願い~

しおりを挟む
 完全に打ち解けた訳ではないものの……アンディとナターシャは既に落ち着きを取り戻していた。
 それと同時に先日の勢いは収まり、自分達のやった事が身に染みていたのだろう……しおらしい態度を見せる程。

 普通に対話が出来る状態であると判断した福留は、建屋二階の小さな相談室へ二人を呼び出した。

「あの……オイラ達、本当にここに居ていいのかな……」
「……どうして、そう思うのでしょうか?」

 そこに備えられた机と椅子……アンディとナターシャが小さく座り、その前に福留が机を挟んで彼等の話に耳を傾けていた。

「お、オイラ達ッ……生きる為とはいえ……盗みも暴力をやったよ……悪い事だって事は分かってたんだ……だから、オイラ達は普通に生きていく事は許されないんじゃないかって……」
「フム……そうですか」

 福留は背もたれに背を当て、「フーッ」と一息上げると……天井を見上げぽつりと呟く。

「確かに、犯罪は犯罪……それは許される事ではありません」

 強張った肩をゆっくりと下げ……その顔がゆるりと和らいだ。

「しかし、君達はそれでもなお生きなければならない理由があった……そうでしょう?」
「理由……理由なのか分からないけど……」
「ならば、こうして今君達がここに居るのは……君達の理由には成りませんか?」
「それは―――」

 そう零しそうになった時……福留が再び彼等の顔を見つめ彼の言葉を遮る。

「少なくとも、君達と戦った彼……藤咲勇君は、君達を必要としています」
「えっ……」

 その言葉を聞いた途端、二人の顔が唖然とする。
 あれ程に敵意をばら撒いた人物……それが何故自分達を必要としているのか、二人には理解出来なかったからだ。

「な、なんで……」
「ん……そうですねぇ……」

 突然の問いに、福留は不意にその顎に手を添え……思考を巡らせる。
 間も無くそっとその手を離すと……僅かに細めた瞳を彼等に向けた。



「それは彼が……貴方達を知ってしまったからでしょう。 貴方達の苦しみや怒り、悲しみ……今の彼はそれが読み取れますからねぇ」

 

 勇と福留の付き合いは長い。
 勇が魔剣を持ち始めてから間も無く二人は出会い、彼を支える為に福留は奔走してきた。
 その度に彼の心に触れ、彼の生き様を知り、彼の信念を理解した。

 そして彼の苦しむ様を見てきた。

 そんな藤咲勇だからこそ、アンディとナターシャの味わってきた苦しみも理解出来る……そんな気にさせた・・・・・・・・のだ。

「過去はどうあれ……今、君達を必要としている者が居るのです。 ならば過去に向き合う前に……今に生きてみませんか? 過去を振り向くのは……その後でいい」
「……うん……ありがとう……」

 その言葉を聞くと……福留の顔からいつもの万遍の笑みが浮かび、二人の目に映る。
 それに釣られたかの様に……彼等の顔にも笑顔がいつの間にか生まれていた。

「もうそろそろ勇君達が来る頃だと思いますので、宜しければ挨拶してあげてください」
「は、はいっ!!」

 二人同時に元気よく返事を上げる。
 そんな息の合った二人を前に……福留は「ウンウン」と頷き、彼等と共に部屋を後にしたのだった。



――――――



 魔特隊本部移設の翌日、9時過ぎ。
 正門から金属の叩くような音が鳴り響き、一人の男の姿が敷地内へと入り込む。

 勇である。

「さすが流石に……ちょっと遠かったな……」

 軽く額に汗を流す様子から、走ってきた事が伺える。
 いつものロードワークのついでに出勤してきたのだろう。

 魔特隊は不定期の戦いがメインであるが故に本部への出勤は基本任意となっている。
 その為、来ない日もあれば来るのが遅くなる日もある。
 ただし……サボり癖が付かない様リズムを作る為に毎日来る事を推奨されてはいるが。

 そもそもロードワークが趣味の勇にとってそんな事など些細な訳で。

「やぁ勇君おはようございます」

 そんな彼を入り正門で迎えたのは福留だった。

「あ、福留さん早いですね……泊まりですか?」
「いやいや、年寄りの朝は早いのですよ」

 「ハハハ」と笑いあい、朝からいつもの明るい雰囲気が二人を包む。
 先日の鬼気たる面影はどこか遠くへ……勇の顔はいつにも増して笑顔だ。

「そういえば茶奈さんは……?」
「あー、えーっと……多分後1時間くらい・・・・・・で着くかな……」



 だがその言葉を聞いた途端、福留の口角がみるみる内に下がり―――



「勇君……それはいけませんねぇ……もう少し茶奈さんに優しさを感じさせてあげてはどうでしょうか?」
「え? あぁ……本人が『何とかして行きますから!!』なんて言ってたもので……」
「それでもちょっとねぇ~……」

 福留の後ろに組んだ手の指先は……彼の態度から滲み出る『むずがゆさ』の所為でわさわさと蠢いていた。

「そういえば、この子達が君と話したい事が有るそうですよ」
「えっ?」

 すると福留が「スッ」と横に避け……アンディとナターシャの姿が露わとなった。
 元気そうに立つ二人を前に、勇は思わず驚きと喜びの混ざった笑顔が浮かぶ。

「お……起きたんだな、良かっ―――」
「「師匠ッ!!」」
「―――えっ?」

 突然大声で二人の声が鳴り響き、その勢いが風とリンクする。
 「ピュウ」と音を立てて吹き抜けた突風が勇と福留の髪をさらりと舞い上げた。

「師匠!! 昨日はごめんなさい!!」
「お、おぉ!?」
「オイラ達、反省して心を入れ替えます!! だから、ここに居させてください!!」

 いきなりの「師匠」扱いに……勇はたじろぎ、しきりに福留とアンディ達の顔を行き来する様に見る・
 だが福留は「知りません」と言わんばかりに貫として首を横に振るだけだった。

「あ、えーっと……ま、まぁ最初からそのつもりだけど……なんで師匠?」
「師匠の強さに感動したからです!! オイラ達、師匠に付いて行きます!!」
「えぇ……ま、まぁいいけど……そんなかしこまらなくていいからさ」
「はいっ!!」

 たちまち『むずがゆさ』が勇にも立ち込め、頬を僅かに赤くしながらしきりに周囲を見渡し視線のやり場を探す。



―――まさか師と仰がれる日が来るなんて―――



 思ってもみなかった状況に、僅かに嬉しいような……それでいて自分に務まるかという不安の様なモヤっとした感情が勇の中にぼんやりと生まれていた。

 そう言われ、ふと思いに耽る。



 いつかの自分の恩師の存在……彼に・・無性に会いたい、と。



 何の予定も無いその日。
 彼に続き自転車に乗って現れた心輝達と、それに乗せられ付いてきた茶奈が合流し……彼等の一日がこうして始まる。

 戦いだけが彼等の日々ではないのだから。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...