時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」

~恥男逃げし 黒い光を纏いし乙女と戸惑う外野~

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タッタッタタッタ……!!



 硬い廊下を叩く靴底が足音を奏でる。
 しかし焦る気持ちが心を映すかの如く足音のリズムを狂わせていた。

「ハァッ……ハァッ……」

 疲れた訳ではない。
 不安に包まれた心が心臓の鼓動を速め、呼吸を促進させているのだ。

 次第にその足音の間隔が長くなっていき……次第に音が止む。

 そこに佇む勇の目の前にある扉……そこは医務室。
 茶奈が「寝かされている」と言われたその部屋の扉の取っ手に手を掛けそっと開く。
 サイドスライド式の扉が「スゥー」と開き、静かな音を立てて部屋の空間が晒されていくと……目の前にある窓から吹き込む風がカーテンをユラユラと揺らしている様子を映し出した。

 ゆっくり様子を伺いながら部屋に入ると……すぐ右手の広々とした空間の中央に置かれたベッドの上に茶奈の寝かされた姿が視界に映り込んだ。

 上半身を掛け布団から出し、両腕を布団の横に出したまま静かに眠る様子を見せる茶奈。
 その素肌のいたる部分には包帯が巻かれ、痛々しい姿を醸し出していた。

「ちゃ、茶奈……」

 初めての分隊作戦……今までずっと付いて離れなかった茶奈が初めて勇の側から離れて戦った。
 例えそれが彼になんの非が無くとも、守るべき者を守れなかった無念……そんな想いが勇の心をまたしても黒く塗り潰していく。

「そんな……ウゥ……お、俺はまた……ッ!!」

 言葉に成らない悲痛な叫び。
 茶奈の隣に立ち、己の無力を感じ……両肩から垂れ下がった両手を力強く握り締める。
 フルフルと震えた腕がその己に対する怒りで打ち震えるのを体現しているかのように。



「う……」



 その時、茶奈の口から一瞬声が漏れ……それに気付いた勇がそっと彼女の寝顔に己の顔を近づけ様子を伺う。



「茶奈……?」





ガッ!!



「えっ?」



 その一瞬、何が起きたのか勇にはわからなかった。
 ただ、自身の側頭部に強い衝撃が加わった、それだけしか認識出来なかった。



 だが、次の瞬間……勇の目が見開き戦慄する。



 茶奈の目が大きく見開き、その両手が彼の頭を掴み取っていたのだ。



「勇さん……何……してるんですか……」
「あ……ああ……!?」



ミシミシ……



 頭を掴む茶奈の両手に力が籠っていく……。



「アァ……アァァァーーーー!!!」



 茶奈の内なる怒りが打ち上がり、それと同時に勇の体も部屋一杯に持ち上がった。



ドッゴォーーーン!!



「ガハァ!?」



バタァーン!!



 勇の体が勢いよく部屋の天井に打ち付けられ、そして床に叩きつけられる。
 一体何が起きたのか認識する事も出来ないまま……衝撃によって生まれた体の痛みを抑える様に手を充てながらその顔を持ち上げた。



 そこに映るのは……彼が今までに見た中で最も……畏怖を体現させるものであった。



「ジェアァァァ……ユウサン、ナニシテルンデスカァ……!!」



 余りの負の感情により、その体から淀めき流れ出る命力はこれでもかと言う程に黒く濃く……それをフルクラスタとして身に纏い、ベッドの上で四つん這いになる茶奈の姿がそこにあったのだ。
 呼吸が、声が、超濃度の命力の膜に遮られ、この世のものとは思えない低音質を奏でていた。

 そしてその顔も、まさに鬼の形相。

「あ、ああ……!?」

 勇が脅え狼狽え、倒れたまま床を手で押して滑りながら後ずさる。



「ナニシテルンデスカァーーーーーー!!!」



 まるで恐竜か猛獣か……。
 けたたましい叫び声を上げ、事務棟一杯にそのおぞましい声があっという間に響き渡っていった。



―――



アアアァーーーーー!!



「うおお!?」
「ひぃ!?」

 突然響く叫び声に心輝達が驚き声を上げる。



パァーーーーンッ!!



 そして聞こえてくるガラスの破砕音。
 心輝達がいる事務室外の窓から見える場所に「チャリチャリ」とその破片が落ち、弾ける音が鳴り響く。
 想像を超えた状況に堪らず全員が事務所の外へと駆け出した。

「一体何が起きてるの!?」

 状況を把握出来ていない瀬玲がそう叫ぶと……前方の先にあるグラウンドへと一人の人影が飛び降りた。

「またこのパターンッ!?」
「ち、ちげぇ、あれは勇だ!!」

 ラクアンツェの時と重なる様な光景デジャヴに目を疑うも、その目をしっかりとやる……そこに映るのは紛れも無く勇自身。
 しかしその状況は全くあの時とは異なる。

 勇はグラウンドに着地するや否や、事務棟から離れる様に駆けだしていた。



ドォーーーーーーンッ!!



 途端、事務棟を揺るがす程の大きな衝撃と共に大音が鳴り響いた。

「な、なんだぁー!?」

 すると、黒い一筋の影が黒い残光を引きながら勇の走る方向へと凄まじい速さで飛んで行き……頭上を通り越えていく。
 それを確認した勇が、グラウンドを力一杯踏み込み己の体を一気に止めると……踵を返し、再び全速力で駆け出し始めた。



ズザザァッ!!



 遥か向こうで黒い影が着地し土煙が舞い上がる。
 そこに立っていたのは、震える程にドス黒い命力を轟々と滾らせ纏う茶奈であった。



「何あれェ……」

 瀬玲の乾いた声が小さく漏れる。

「あれは茶奈の……怒りの姿よ」
「ハァ!? どゆ事!?」



 そんな勇と茶奈、瀬玲達がやりとりしている地上の真下……魔剣使い達用に作られた訓練空間……そこに有る、いや、有った・・・訓練用の攻撃オブジェクトは全てがズタズタに引き裂かれるように砕かれ捨て置かれていた。

 それらを生み出した光景を間近で見た心輝やレンネィは後に語る。
 「あれは人間の所業じゃなかった」と。



「きっとあれは……茶奈の嫉妬心……」
「嫉妬心!? 嫉妬であんななっちゃうの!?」
「茶奈はあの映像を見て、自身が愛している勇が他の女に取られる事を危惧して―――」
「えぇ……それもうヤンデレとかそういう域超えてるじゃん……」

 心輝は「なんでお前が『ヤンデレ』なんて言葉知ってるんだよ」とツッコミたくなるも、目の前に置ける状況に冗談も言えぬ空気を感じてじっと耐える。

 そもそも茶奈が勇の事が愛しているという事自体が誤解ではあるものの、そう勘違いしやすい関係の二人だからこそ誰しもがレンネィの言葉を疑う事は無かった。


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