時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
629 / 1,197
第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」

~焼 肉 談 義~

しおりを挟む
 瀬玲達が衝撃の帰還を果たした翌日……東京某所。

 レンネィが入院している病院……相も変わらず眠ったままの彼女の前で静かに佇む心輝の姿がそこにあった。

 飽きる事も無く彼女の健やかな寝顔を眺め、時折微笑みを零す。
 彼女との思い出に更けて楽しい一時に浸り、彼女の討たれた姿を思い出しては自身の不甲斐なさを噛み締める。
 そんな想いを何度も巡らせ、そしてこれからの姿を想像していく。
 その先が望む形の未来なのか、それとも暗転した未来なのか。
 今にも不安で押し潰されそうな心を必死に払拭しようと足掻いていたのだ。

「レン姐さん……俺よぉ、後何が出来るか……もうわからねぇ……傍に居続けていいのかな……」

 思わず漏れる本音。
 そして返る事の無い答え、支配する静寂。
 目元に浮かべたクマは、確かに彼の心の衰弱を示していた。

 すると……背を丸くして座る心輝の背後に一人の人影。

「居続けて良いに決まってるだろ」

 レンネィの代わりにそう答えた影……勇であった。

「よぉ……勇来たのか」
「あぁ、様子を見に来た。 ついでにお前の代わりにでもなろうかなってな」

 勇達は心輝の事を案じ、定期的にこの場に訪れる事にしている。
 レンネィの見舞いもだが、何より不眠不休で付きっ切りの彼の事が心配だから。

 そして心輝もまた、それを一つの心の拠り所として頼りにしている所もあったからこそ……自然とその顔に安堵感から生まれた笑顔が浮かんでいた。

「瀬玲から電話で聞いた……まぁたお前隠し事してやがったな」
「早いな情報回るの……その節は済まなかった」
「ったく、お前は相っ変わらず自分で考え込む性格変わらねぇな」

 そう憎まれ口を叩く心輝であったが……なおその顔は笑顔のまま。
 その心がわかっているからこそ、力の入らない拳で勇の胸板をポンと叩いた。

「もうそういうの辞めろよな。 つっても辞めない気がするけどよ」
「そうだな……でもまぁ俺が死ぬ時くらいは言うさ、正直クドクドとな」

 勇も負けじと減らず口を叩き、心輝の嘲笑を誘う。

 ふと心輝の目線が再びレンネィへと向けられると……勇に振り向く事なく彼に話し掛けた。

「……今日は茶奈ちゃんが来ると思ったんだけどなぁ」
「茶奈は愛希ちゃんが熱出したから看病行くってさ」
「そうかぁ……」



 時期は12月初旬……空気が乾燥して寒くなり、体調を崩しやすくなる季節。
 既に北陸では雪が降る地域も出始め、再び寒い気候の訪れを予感させていた。



「茶奈ちゃんの事だから『食べれば治りますよ』とかいってとんでもない量のメシ食わされてたりしてな」
「ハハ……ありえる。 でもさ、最近あの子脂取るの避けてるんだよな」
「はぁ? あの茶奈ちゃんが?」

 既に仲間内では茶奈の胃袋が底無しである事は周知の事実。
 だからこそ何でも食べるイメージであったが……意外な情報に思わず心輝も疑いの声を漏らした。

「そうなんだよ。 こないだ洗面所で体重計に乗ったままメーター凝視してる茶奈見掛けてさ」
「マジかよ……増えちゃった?」
「知らん……でも多分増えた……あ、これ彼女には内緒な?」

 茶奈の秘密が暴露され、思わず心輝の顔が勇に向けられる。
 例え気持ちが落ちていても、憔悴しきっていても……楽しい話題に食い付く彼のスタンスは揺るがない。

「こないだ焼肉食べに行ったけど、あの子肉だけは絶対に手を付けなかったんだよな……揚げ物にはガンガン手を出してたけど」
「それただ単に安物の肉だったからじゃねぇのか……金あるんだから『ジュジュ苑』くらい連れてってやれよ」

 勇達は基本、食べる物にもあまりお金は使わない。
 お金が無い訳ではないのだが……高級志向が身にそぐわないのだろうか、寄る店は大抵が安いチェーン店ばかり。
 そもそもが外食自体そこまでしないという事もあるが、食に対してはそこまで煩くないのが庶民的とも言える彼等の在り方なのだろう。

 ジュジュ苑……高級焼肉店ともなれば物珍しさで寄る事はあっても、日常的に通う事は無さそうだ。

 もっとも、色々とこだわりを持つ心輝に限っては……そういったお高いお店に通う事が増えていた訳ではあるが。

「ジュジュ苑は行かないな……せめて『焼肉帝王』だろ」

 焼肉帝王とは、焼肉食べ放題のお店の中では比較的品質の高いチェーン店である。
 価格が比較的高いにも関わらず、人気が高く……週末、休日ともなれば人でごった返す程だ。

「かぁーっ、お前何もわかってねぇな……高級肉専門店と食べ放題チェーン店の間にゃ超えられない壁っつうもんがあるって事をよぉ……」
「食べれれば一緒じゃんか……」
「いいや違うね、脂の質が違う。 良質な脂と安い脂じゃあ天と地程に違う」



 気付けば茶奈の話はどこへ行ったのか焼肉談義。
 だがそんな心輝の顔はいつも様な笑顔を浮かべ、熱く自分の価値観を語る姿へと戻っていた。
 そんな彼の様子を静かに相槌しながら見ていた勇の顔にも自然と笑みが生まれていた。



「―――つまり、毎日バランスよくジュジュ苑に通う事により、体脂肪だけでなく美容や健康にいい体作りに貢献するという……」
「でもそれ、溜まっていくばかりじゃんか……肥えた茶奈とか見たくねーよ……」

 その言葉を皮切りに、二人の脳裏に太くなっていく茶奈が妄想される。

 今の細い体が太くなっていく様があまりにも異様で……その顔を振り、間違ったイメージを払拭し始めた。

「やべぇモン見ちまった」
「俺も……」

 とんでもない光景を思い浮かべてしまったのか……二人して途端俯き口を閉じる。

 そんな閉口する二人に向けて……突然、聞き慣れた声が響き渡った。





「勇さぁん……何を話してるんですかぁ……!!」



 

 突然の声に驚き、「うわぁ!?」と声を上げて慌てた二人が思わず飛び上がる。

 その視線が背後である通路、声のした方向へと向けられると……そこに居たのは茶奈……ではなく、「ニシシシ」と笑う瀬玲であった。

「ちょ、おま……ビビらせんなよ!?」
「ハァ……ハァ……本物の茶奈かと思った……」
「ンフフ~、面白そうだから声真似させてもらったわ!」

 瀬玲の姿が変われど、今までとなんら変わりの無い態度を見せる心輝……恐らく長い付き合いを続けている彼には彼女の在り様をどこか理解し、『相沢瀬玲』として認識する事が出来ているのだろう。

 瀬玲が満足そうな笑顔を浮かべ、軽快に病室へと足を踏み入れる。
 「ニタァ」と笑うその顔はどこかいじらしい。

「フフン、ちょっと命力の使い方のコツを知れば、こんな事だって出来るのよ」

 そう声を上げた瀬玲の声色は……まさしく茶奈そのもの。

「命力の色をチューニングして声に乗せれば、自然とその人のイメージを持った脳が錯覚してそう感じさせるのよ」
「凄いな……そんな事まで出来る様になったのか」
「んー……まぁね~。 もっと褒めていいのよ~?」

 自身の力に覚醒して命力の在り方を理解した今の彼女は、命力で出来る事なら大抵の事が出来る様になっていた。
 声色を真似る事も、イ・ドゥールの里で学んだ一つの知識。
 今までに見知ってきた事であれば、何であろうと『模倣』して見せる事が可能なのである。

 今の彼女は……心の色さえ認識出来る程に、卓越・・しているのだ。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...