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第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」
~無 色 透 明~
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ふと、瀬玲ここにやってきた自分の目的を思い出し、そっとその視線がレンネィへと向けられた。
「レンネィさんがここに居るって聞いたから来ちゃった。 もう目は覚ました?」
「いや……まだだ」
心輝の視線が再びレンネィへと向けられ、途端彼の眼差しが寂しさを帯びる。
沈んだ重い空気が流れ、気付けば三人の笑顔は既に消えていた。
「ちょっと……診てみようか?」
「出来るか?」
「うん」
瀬玲がそう答えると……柔らかい髪を捲し上げ、そっとレンネィの傍へと歩み寄る。
そしてその両手を彼女の両肩周りへと触れぬ様に近づけさせると……瀬玲は静かにその目を閉じた。
途端、瀬玲の手から感じる力の流れ。
その一つ一つの形を手から体へ、体から頭へ、意識へと引っ張り読み込んでいく。
―――……これは……そう……わかった……―――
ものの10秒程度……その間に瀬玲は何かを感じ取り、ゆっくりとその手をレンネィから離した。
「わかったか?」
「うん、大体はね」
もったいぶる様にそう答え、腕を組む。
しかしその顔は何かを考えこむ様に俯き、「うーん」と唸る声を漏らしていた。
「どうだったんだ?」
「んー……単純に言えば、これは芸術に等しい施工かな……」
そう語る彼女の顔はどこか、陰りを帯びる。
「全ての細胞のレベルで命力が形作って彼女の体を寸分の狂いも無く形成してる……これを短時間でやったんでしょ、芸術も芸術、神クラスといっても過言じゃない位のレベルよ」
「そんなにかよ……」
「うん。 それに、この傷……普通なら即死してもおかしくないレベル。 多分私の連鎖命力陣でも治しきれない程のね」
瀬玲が死に掛けた時はボロボロであったが、まだある程度は形を維持していた。
また連鎖命力陣を行ったウィグルイ達もまた六人掛かりでの事……死の淵からの生還を果たすには、彼女だけの力では到底及ばない。
だからこそ、同時にレンネィの身に何が起きたか理解した瀬玲は……正直にそう答えたのだった。
井出という男が誰の助けも必要とせず、たった一人でレンネィを救った事に正直な称賛を贈っていた。
「でもね、少しだけ腑に落ちない点もあるの」
だが、賛辞を贈るや否や……彼女の口から続き語られたのは、その異質。
「命力っていうのは本来人の感情や心の在り方を示す色があるのだけれど……この施術を行われた部分の命力は、色んな色が折々と篭められている気がする。 その中には茶奈の命力の色もあるのだけど―――」
途端彼女が振り向き、真剣な面持ちを向けたままその口を開く。
その口から語られたのは―――
「―――本質の命力は無色透明……透き通るくらいにクリアなの」
その一言に、イマイチ理解に及ばない二人が眉間にシワを寄せる。
彼女の答えの意味を知ろうと、勇が彼女の語りを遮った。
「無色透明って……それだけ心が透き通る程に純真とかって意味じゃないのか?」
そんな意見を突っぱねる様に、そう言われた側で瀬玲の顔が左右へ振られる。
「違うわ。 心の色っていうのは何かしらの色があって、純真なら白とか青とか……必ず色が有るはずなの。 けどこの跡は違う……まるで心が感じられない……言うなれば、心を失った死体が作った様なモノよ」
彼女の衝撃の一言に、勇と心輝は思わず不安の顔を浮かべて固まっていた。
「じゃ、じゃあレン姐さんは……」
不安が声となり、心輝の口から洩れる。
だが、そんな声に対しては……瀬玲が首を横に振り、小さな微笑みで返した。
「それは大丈夫だと思う。 無色透明だけど全てが理に叶った構造をしてるから。 あとはレンネィさん自身の問題よ」
「そうかぁ……セリにそう言われたらなんか不安だけど安心したわ」
「どういう事よそれ」
そんな二人が起こす相変わらずのやりとり。
幼馴染であるからか、どこか嫌味の無い自然なやりとりをする二人がそこに居た。
きっとレンネィは目を覚ます……瀬玲の後押しもあり、心輝の期待が高まっていく。
彼にとっての希望……それはただ、彼女が助かる事……それしかないのだ。
その時……不意にレンネィの顔がピクリと動きを見せた。
その瞬間を目の当たりにした心輝達が騒然とし、思わず彼女へと顔を寄せる。
三人が間近で見守る中……遂にレンネィの目がゆっくりと見開かれていった。
「レ、レン姐さん……」
「シ……ン……?」
まだハッキリと意識が伴っていないのだろう。
虚ろで形の無い視界を映す彼女の瞳は焦点が合っておらず、プルプルと小刻みに震える
だが耳はしっかりと聞こえており、心輝の声に受け答える様子を見せていた。
「お、俺……レン姐さん……うぅ……良かった……本当に……!!」
途端心輝の目から熱い感情が湧き出し、露となって零れ落ちる。
待望していたからこそ、その喜びと感動は計り知れない。
「シン……聞こえていたわ……ずっと……ありがとう……ありがとうね……」
「あぁ……!! あぁ!!」
掠れた小さな声を刻む口だけがゆっくり動き、その意思を伝える。
意識を失っていた間、心で感じていた彼の存在への感謝の意を。
ずっと彼女に付きっ切りだった心輝……今、その想いが報われた瞬間であった。
その後ろで勇が静かに笑みを浮かべ、二人を見守る。
すると不意に瀬玲が彼の腕を掴み、病室から出る様に引き始める。
それに気付いた勇は彼女に誘われるがままに、無言でその部屋を後にした。
そして残された二人は……誰の目にも憚れる事無く……互いに望むまま、その唇を重ねたのだった……。
「レンネィさんがここに居るって聞いたから来ちゃった。 もう目は覚ました?」
「いや……まだだ」
心輝の視線が再びレンネィへと向けられ、途端彼の眼差しが寂しさを帯びる。
沈んだ重い空気が流れ、気付けば三人の笑顔は既に消えていた。
「ちょっと……診てみようか?」
「出来るか?」
「うん」
瀬玲がそう答えると……柔らかい髪を捲し上げ、そっとレンネィの傍へと歩み寄る。
そしてその両手を彼女の両肩周りへと触れぬ様に近づけさせると……瀬玲は静かにその目を閉じた。
途端、瀬玲の手から感じる力の流れ。
その一つ一つの形を手から体へ、体から頭へ、意識へと引っ張り読み込んでいく。
―――……これは……そう……わかった……―――
ものの10秒程度……その間に瀬玲は何かを感じ取り、ゆっくりとその手をレンネィから離した。
「わかったか?」
「うん、大体はね」
もったいぶる様にそう答え、腕を組む。
しかしその顔は何かを考えこむ様に俯き、「うーん」と唸る声を漏らしていた。
「どうだったんだ?」
「んー……単純に言えば、これは芸術に等しい施工かな……」
そう語る彼女の顔はどこか、陰りを帯びる。
「全ての細胞のレベルで命力が形作って彼女の体を寸分の狂いも無く形成してる……これを短時間でやったんでしょ、芸術も芸術、神クラスといっても過言じゃない位のレベルよ」
「そんなにかよ……」
「うん。 それに、この傷……普通なら即死してもおかしくないレベル。 多分私の連鎖命力陣でも治しきれない程のね」
瀬玲が死に掛けた時はボロボロであったが、まだある程度は形を維持していた。
また連鎖命力陣を行ったウィグルイ達もまた六人掛かりでの事……死の淵からの生還を果たすには、彼女だけの力では到底及ばない。
だからこそ、同時にレンネィの身に何が起きたか理解した瀬玲は……正直にそう答えたのだった。
井出という男が誰の助けも必要とせず、たった一人でレンネィを救った事に正直な称賛を贈っていた。
「でもね、少しだけ腑に落ちない点もあるの」
だが、賛辞を贈るや否や……彼女の口から続き語られたのは、その異質。
「命力っていうのは本来人の感情や心の在り方を示す色があるのだけれど……この施術を行われた部分の命力は、色んな色が折々と篭められている気がする。 その中には茶奈の命力の色もあるのだけど―――」
途端彼女が振り向き、真剣な面持ちを向けたままその口を開く。
その口から語られたのは―――
「―――本質の命力は無色透明……透き通るくらいにクリアなの」
その一言に、イマイチ理解に及ばない二人が眉間にシワを寄せる。
彼女の答えの意味を知ろうと、勇が彼女の語りを遮った。
「無色透明って……それだけ心が透き通る程に純真とかって意味じゃないのか?」
そんな意見を突っぱねる様に、そう言われた側で瀬玲の顔が左右へ振られる。
「違うわ。 心の色っていうのは何かしらの色があって、純真なら白とか青とか……必ず色が有るはずなの。 けどこの跡は違う……まるで心が感じられない……言うなれば、心を失った死体が作った様なモノよ」
彼女の衝撃の一言に、勇と心輝は思わず不安の顔を浮かべて固まっていた。
「じゃ、じゃあレン姐さんは……」
不安が声となり、心輝の口から洩れる。
だが、そんな声に対しては……瀬玲が首を横に振り、小さな微笑みで返した。
「それは大丈夫だと思う。 無色透明だけど全てが理に叶った構造をしてるから。 あとはレンネィさん自身の問題よ」
「そうかぁ……セリにそう言われたらなんか不安だけど安心したわ」
「どういう事よそれ」
そんな二人が起こす相変わらずのやりとり。
幼馴染であるからか、どこか嫌味の無い自然なやりとりをする二人がそこに居た。
きっとレンネィは目を覚ます……瀬玲の後押しもあり、心輝の期待が高まっていく。
彼にとっての希望……それはただ、彼女が助かる事……それしかないのだ。
その時……不意にレンネィの顔がピクリと動きを見せた。
その瞬間を目の当たりにした心輝達が騒然とし、思わず彼女へと顔を寄せる。
三人が間近で見守る中……遂にレンネィの目がゆっくりと見開かれていった。
「レ、レン姐さん……」
「シ……ン……?」
まだハッキリと意識が伴っていないのだろう。
虚ろで形の無い視界を映す彼女の瞳は焦点が合っておらず、プルプルと小刻みに震える
だが耳はしっかりと聞こえており、心輝の声に受け答える様子を見せていた。
「お、俺……レン姐さん……うぅ……良かった……本当に……!!」
途端心輝の目から熱い感情が湧き出し、露となって零れ落ちる。
待望していたからこそ、その喜びと感動は計り知れない。
「シン……聞こえていたわ……ずっと……ありがとう……ありがとうね……」
「あぁ……!! あぁ!!」
掠れた小さな声を刻む口だけがゆっくり動き、その意思を伝える。
意識を失っていた間、心で感じていた彼の存在への感謝の意を。
ずっと彼女に付きっ切りだった心輝……今、その想いが報われた瞬間であった。
その後ろで勇が静かに笑みを浮かべ、二人を見守る。
すると不意に瀬玲が彼の腕を掴み、病室から出る様に引き始める。
それに気付いた勇は彼女に誘われるがままに、無言でその部屋を後にした。
そして残された二人は……誰の目にも憚れる事無く……互いに望むまま、その唇を重ねたのだった……。
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