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第二十六節「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」
~涙に応えてくれた~
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都庁内部は壮大な外観に比例しとても大きい。
正門から入れば間も無く、景色が彼方へ続く程に広いロビーが姿を現して。
見上げれば、恐ろしく高い天井やエスカレーターに続く二階までもが丸見えだ。
一方で左右を眺めれば観光者を迎える様々な店舗やオブジェクトも。
これが普段通りなら、賑やかなものなのだろうが。
今はもうその面影は残っていない。
誰一人として屋内には居らず、足音が響く程の静寂が包み込んでいて。
そんな中に一人、巨大な体躯を誇る者が立つ。
その身長はおおよそ三メートルと言った所か。
鋭い眼を来訪者達へと見下ろす様に向け、両腕を組んで静かに佇む。
その身体を構築するのは赤黒い皮膚、そして筋骨隆々の体格で。
更には顎に数本の棘の如き突起と、頭頂部には二本の短い角が。
その姿は言い例えるならば―――赤鬼。
しかしその全体的な様相は今までに無く人間の体格に近い。
膨らみ過ぎでもなく、かといって細くも見えないスマートさで。
もし色が肌色ならば、遠目で見ても人間にしか見えないだろう。
ただし、装いばかりはそうもいかない。
手足胸腰に備える防具はいずれも金剛堅固な装いで飾られていて。
その中でも特筆すべきは胸甲だ。
見るだけでわかる程に、他の部位と明らかに様相が異なるのだから。
白銀の筐体に、外から内へと煽り上げる風の様な金色の意匠が所々にあしらわれ。
そこから連想されるのは命力、まるでその流れを象るが如く。
首元に輝く虹色の珠が全てを物語るかのよう。
それらを身纏う姿はまさに強者の風体だ。
いや、もはや防具など関係無いのかもしれない。
そう思える程に、この魔者の放つ威圧感が重く深かったのだから。
ただでは通してくれない―――そう察せるくらいに。
「来たか……待ちかねたぞ、噂の魔特隊よ」
「デュゼローはどこだ……ッ!」
でも勇達はそんな相手だろうともう遠慮するつもりは無い。
今までに募った感情を乗せて押し通すだけだ。
立ちはだかる者が如何な実力者であろうと関係無く。
だが―――
「フフ、まるで俺を退けんばかりの様相だな。 ここまで如何な感情を募らせたか、手に取ってわかるかの様だ」
赤鬼は笑っていた。
まるで憤りをぶつけられて喜んでいるかの様に。
それも、身体に纏う命力をゆらりと揺らめかせて。
「俺とやり合うつもりか? それは構わんが、そんな事をしていて指定時刻までに間に合うのか?」
「随分自信があるじゃん、四人を相手にさ」
「まぁな。 実力には多少なりに―――自信があるのでなッ!!」
ズズンッ!!
その時、勇達の体に突如として凄まじい重圧が圧し掛かる。
心輝や瀬玲が堪らず床へ膝を突く程に強く激しく。
「なっ!?」
「ぐうッ!?」
でも勇と茶奈は辛うじて耐えきれている。
この重圧を受けるのが初めてでは無かったからこそ。
そう、勇と茶奈は一度、これ程の重圧を体験している。
二年前、剣聖がカラクラの里で放ったものを。
この重圧はまさしくあの時の再来だ。
全く同程度の威圧感が勇達を襲っていたのだから。
これだけの重圧を放てる者が只者である訳が無い。
たちまち勇達から不穏の汗が滲む。
相手が計り知れない存在だと気付いてしまったが故に。
しかしそんな威圧感が間も無く消える。
何の前触れも無く突然に。
重圧から解き放たれるも、勇達が困惑を隠せない。
跪いた二人に至っては、姿勢を整える事さえままならない程に。
「これで自信の素がわかっただろう? 俺とまともにやり合えば、たった十数分で済む訳も無いのだと」
今のは決して宣戦布告ではない。
ただ示して見せただけだ。
この赤鬼は手の内を晒してもなお勝てる自信があるのだろう。
しかも勇達四人を同時に相手しようともなお。
故に、その大きな口元へ片笑窪が浮かぶ。
強者たる証を立てた今、恐れる事は何も無いのだから。
これ程のかつて無い相手を前に、勇達の不安は膨らむばかりだ。
少なくとも今の威圧感の程度を知る勇と茶奈にとっては。
二人には、この巨大な赤鬼が剣聖の姿と被ってならなかったからこそ。
「さてどうする? デュゼローからはこう言われているぞ。 〝フジサキユウだけは通す事を許せ〟とな」
「なっ……」
「俺とやり合って無駄に時間を費やすか、それともお前一人が行くか。 好きに決めるがいい」
そんな赤鬼があろう事かこう宣う。
こんな話に勇達が動揺しない訳が無い。
これは明らかにデュゼローの仕組んだ罠だ。
勇と茶奈達を分断させる為の。
確かに、勇達四人が揃えばデュゼローを倒す事も不可能ではないのかもしれない。
でもそれはデュゼロー自身もが気付いていたからこそ。
それに、一対一の状況を欲しているという事もあるのだろう。
故にその対策も万全である。
恐らく、この赤鬼と全力でぶつかれば勇達は無事では済まされない。
加えて時間も掛かり、指定時間には間に合わないだろう。
それどころか、まとも勝てるかどうかさえ不明瞭で。
その様な相手と戦った後にデュゼローと戦おうとも、勝ち目は薄い。
ならいっそ、勇一人万全の状態で戦った方がまだマシだ。
そんな思考が脳裏を過り、勇を悩ませる。
仲間に頼るか、それとも少ない利を得るか。
加えて赤鬼が体を逸らし、エレベーターへと視線を向かわせていて。
ただ、その答えはもう最初から決まっていたのかもしれない。
自分達の目的を本筋として考えたならば。
何を成すべきかを考えたならば。
「―――わかった、俺一人で行く」
その答えが遂に勇の口から導かれる。
仲間達が憤慨し、対する赤鬼が閉口する中で。
「お前一人でって!? 一人でどうするつもりなんだよッ!?」
「どうするも何も、行くしかないんだ。 それしか世界を守れる可能性はもう無い」
「でも勇さん一人じゃ……」
「大丈夫、なんとかしてみせるからさ?」
勇が言い放ったのはその場凌ぎに過ぎない。
勝てる確証どころか、算段一つ浮かばないのだから。
それでも行かなければならない。
デュゼローにこれ以上好き勝手させない為にも。
もう力の差も、策略も何も関係無い。
何が何でも止めなければ、混乱のままに世界が進んでしまうから。
だから今、勇は覚悟の一歩を踏み出す。
仲間達に制止の掌を見せつけながら。
「聞いた通りだ。 俺一人がデュゼローの下へ行く……!」
「いいだろう、ならばあのエレベーターとやらに乗ればいい。 展望台で奴が待っている」
ならば赤鬼も宣言通りに道を明け渡すだけだ。
ゆっくりとエレベーターへと腕を掲げて誘ってみせる。
「それじゃあ行ってくる。 ここは任せた」
仲間を制した掌も、歩を進めた今はもう翳す様に上げられていて。
たったそれだけを言い残し、皆を置いて歩き行く。
自分の決めた事が如何に独りよがりかなど、もうわかっているのだろう。
去った後、きっとこの三人は赤鬼と戦う事になるだろうから。
勇が残るよりもずっと苦戦を強いられるかもしれないのだと。
それでも信じて欲しかったのだ。
自分がデュゼローを倒す事を。
信じたかったのだ。
仲間達だけで赤鬼を倒す事を。
例えそれを成せる未来が見えなくとも。
展望台に至るエレベーターは各塔につき二つ。
その一つは既に一階にて待機中だ。
勇が昇る事を見越し、そう準備しておいたのだろう。
ボタンを押して重厚な扉が開かれれば、間も無く銀箱が内部を晒して。
仲間達や赤鬼が見守る中、勇が中へと足を踏み入れる。
このエレベーターは展望台専用であり、他の階に止まる事は無い。
たった一つのボタンを押せば即座に目的地へと向かうだろう。
その誘いのままに操作し、遂にエレベーターが動き出す。
勇を乗せて、ただただ無機質な振動音を掻き鳴らしながら。
不安が無い訳じゃない。
むしろ、不安ばかりだった。
勝てる可能性が微塵も見つからない相手に、どう勝てばいいのかと。
でも、そう思える相手と戦ったのも初めてじゃない。
敵わないと思える相手と戦い、勝ち続けて来たから今の自分が居る。
全てを乗り越えられたから、今の自分が在る。
ならもう培ってきた全てをぶつけるだけだ。
例え相手が剣聖に匹敵する存在だとしても。
今までと同じ様に強くなり、乗り越えればいいのだと。
その想いに応え、【翠星剣】が光を灯す。
箱の中をくまなく照らすまでに輝々と。
「やろう。 俺が、俺達がデュゼローを止めるんだ……ッ!!」
この魔剣が完成を果たし、使い始めてからはや二年。
修復を繰り返しても、その表皮から傷痕が絶える事は無かった。
勇の命力が低過ぎて、魔剣の強度強化が伴わなかったから。
けれど折れる事は無く、死ぬ事も無く一緒に戦い続けて来てくれて。
だからこそ愛着も湧こう。
相棒だと思える程に。
共に力を合わせて強敵を討ち倒そうと。
ゴゴン……
その想いが極まった時、エレベーターが動きを止めて。
そしてその扉がゆっくりと開かれていく。
双塔の一つ、デュゼローが待つ頂上展望台へと到着したのだ。
もう覚悟も決まった以上、踏み出さない理由は無い。
力強い一歩を刻み、勇が遂に展望台へと踏み入れる。
そのまま視界を遮る仕切りを歩き越えれば―――
「ようやく来たか。 待ちかねたぞ」
広場で待ち構えていたあの男が視界に映る事となる。
公園でも、テレビ先でも見せた、あの黒づくめの様相を。
「デュゼロー……!!」
間違いなく、デュゼロー当人である。
遂に二人が再び相まみえたのだ。
それも、互いに臨戦態勢の状態で。
互いに魔剣を手に取りながら。
漆黒の夜空が天突く塔を覆い、暗い闇に姿を落とす。
唯一、灯光だけが闇を祓うその場所で、相対する二人が睨みて力を篭める。
互いに譲れない道を突き抜ける為にも。
そして戦意を見せたのは二人だけではない。
一階でもまた、立ち塞がる赤鬼へ闘志を向ける茶奈達の姿が。
一分一秒でも早く勇の下へと駆け付ける為に。
彼女達もまた、勇の事を信じていたからこそ。
信頼、友情、闘志。
殺意、敵意、叛意。
猜疑、憤怒、憎悪。
多くの意思や感情が都庁を包み込まんばかりに駆け巡る。
入り乱れて、何が正しいのかもわからないままに。
これから巻き起こる戦いを前にして、それらの意思はどう揺れ動くのだろうか。
どの様な結果をもたらすのだろうか……
正門から入れば間も無く、景色が彼方へ続く程に広いロビーが姿を現して。
見上げれば、恐ろしく高い天井やエスカレーターに続く二階までもが丸見えだ。
一方で左右を眺めれば観光者を迎える様々な店舗やオブジェクトも。
これが普段通りなら、賑やかなものなのだろうが。
今はもうその面影は残っていない。
誰一人として屋内には居らず、足音が響く程の静寂が包み込んでいて。
そんな中に一人、巨大な体躯を誇る者が立つ。
その身長はおおよそ三メートルと言った所か。
鋭い眼を来訪者達へと見下ろす様に向け、両腕を組んで静かに佇む。
その身体を構築するのは赤黒い皮膚、そして筋骨隆々の体格で。
更には顎に数本の棘の如き突起と、頭頂部には二本の短い角が。
その姿は言い例えるならば―――赤鬼。
しかしその全体的な様相は今までに無く人間の体格に近い。
膨らみ過ぎでもなく、かといって細くも見えないスマートさで。
もし色が肌色ならば、遠目で見ても人間にしか見えないだろう。
ただし、装いばかりはそうもいかない。
手足胸腰に備える防具はいずれも金剛堅固な装いで飾られていて。
その中でも特筆すべきは胸甲だ。
見るだけでわかる程に、他の部位と明らかに様相が異なるのだから。
白銀の筐体に、外から内へと煽り上げる風の様な金色の意匠が所々にあしらわれ。
そこから連想されるのは命力、まるでその流れを象るが如く。
首元に輝く虹色の珠が全てを物語るかのよう。
それらを身纏う姿はまさに強者の風体だ。
いや、もはや防具など関係無いのかもしれない。
そう思える程に、この魔者の放つ威圧感が重く深かったのだから。
ただでは通してくれない―――そう察せるくらいに。
「来たか……待ちかねたぞ、噂の魔特隊よ」
「デュゼローはどこだ……ッ!」
でも勇達はそんな相手だろうともう遠慮するつもりは無い。
今までに募った感情を乗せて押し通すだけだ。
立ちはだかる者が如何な実力者であろうと関係無く。
だが―――
「フフ、まるで俺を退けんばかりの様相だな。 ここまで如何な感情を募らせたか、手に取ってわかるかの様だ」
赤鬼は笑っていた。
まるで憤りをぶつけられて喜んでいるかの様に。
それも、身体に纏う命力をゆらりと揺らめかせて。
「俺とやり合うつもりか? それは構わんが、そんな事をしていて指定時刻までに間に合うのか?」
「随分自信があるじゃん、四人を相手にさ」
「まぁな。 実力には多少なりに―――自信があるのでなッ!!」
ズズンッ!!
その時、勇達の体に突如として凄まじい重圧が圧し掛かる。
心輝や瀬玲が堪らず床へ膝を突く程に強く激しく。
「なっ!?」
「ぐうッ!?」
でも勇と茶奈は辛うじて耐えきれている。
この重圧を受けるのが初めてでは無かったからこそ。
そう、勇と茶奈は一度、これ程の重圧を体験している。
二年前、剣聖がカラクラの里で放ったものを。
この重圧はまさしくあの時の再来だ。
全く同程度の威圧感が勇達を襲っていたのだから。
これだけの重圧を放てる者が只者である訳が無い。
たちまち勇達から不穏の汗が滲む。
相手が計り知れない存在だと気付いてしまったが故に。
しかしそんな威圧感が間も無く消える。
何の前触れも無く突然に。
重圧から解き放たれるも、勇達が困惑を隠せない。
跪いた二人に至っては、姿勢を整える事さえままならない程に。
「これで自信の素がわかっただろう? 俺とまともにやり合えば、たった十数分で済む訳も無いのだと」
今のは決して宣戦布告ではない。
ただ示して見せただけだ。
この赤鬼は手の内を晒してもなお勝てる自信があるのだろう。
しかも勇達四人を同時に相手しようともなお。
故に、その大きな口元へ片笑窪が浮かぶ。
強者たる証を立てた今、恐れる事は何も無いのだから。
これ程のかつて無い相手を前に、勇達の不安は膨らむばかりだ。
少なくとも今の威圧感の程度を知る勇と茶奈にとっては。
二人には、この巨大な赤鬼が剣聖の姿と被ってならなかったからこそ。
「さてどうする? デュゼローからはこう言われているぞ。 〝フジサキユウだけは通す事を許せ〟とな」
「なっ……」
「俺とやり合って無駄に時間を費やすか、それともお前一人が行くか。 好きに決めるがいい」
そんな赤鬼があろう事かこう宣う。
こんな話に勇達が動揺しない訳が無い。
これは明らかにデュゼローの仕組んだ罠だ。
勇と茶奈達を分断させる為の。
確かに、勇達四人が揃えばデュゼローを倒す事も不可能ではないのかもしれない。
でもそれはデュゼロー自身もが気付いていたからこそ。
それに、一対一の状況を欲しているという事もあるのだろう。
故にその対策も万全である。
恐らく、この赤鬼と全力でぶつかれば勇達は無事では済まされない。
加えて時間も掛かり、指定時間には間に合わないだろう。
それどころか、まとも勝てるかどうかさえ不明瞭で。
その様な相手と戦った後にデュゼローと戦おうとも、勝ち目は薄い。
ならいっそ、勇一人万全の状態で戦った方がまだマシだ。
そんな思考が脳裏を過り、勇を悩ませる。
仲間に頼るか、それとも少ない利を得るか。
加えて赤鬼が体を逸らし、エレベーターへと視線を向かわせていて。
ただ、その答えはもう最初から決まっていたのかもしれない。
自分達の目的を本筋として考えたならば。
何を成すべきかを考えたならば。
「―――わかった、俺一人で行く」
その答えが遂に勇の口から導かれる。
仲間達が憤慨し、対する赤鬼が閉口する中で。
「お前一人でって!? 一人でどうするつもりなんだよッ!?」
「どうするも何も、行くしかないんだ。 それしか世界を守れる可能性はもう無い」
「でも勇さん一人じゃ……」
「大丈夫、なんとかしてみせるからさ?」
勇が言い放ったのはその場凌ぎに過ぎない。
勝てる確証どころか、算段一つ浮かばないのだから。
それでも行かなければならない。
デュゼローにこれ以上好き勝手させない為にも。
もう力の差も、策略も何も関係無い。
何が何でも止めなければ、混乱のままに世界が進んでしまうから。
だから今、勇は覚悟の一歩を踏み出す。
仲間達に制止の掌を見せつけながら。
「聞いた通りだ。 俺一人がデュゼローの下へ行く……!」
「いいだろう、ならばあのエレベーターとやらに乗ればいい。 展望台で奴が待っている」
ならば赤鬼も宣言通りに道を明け渡すだけだ。
ゆっくりとエレベーターへと腕を掲げて誘ってみせる。
「それじゃあ行ってくる。 ここは任せた」
仲間を制した掌も、歩を進めた今はもう翳す様に上げられていて。
たったそれだけを言い残し、皆を置いて歩き行く。
自分の決めた事が如何に独りよがりかなど、もうわかっているのだろう。
去った後、きっとこの三人は赤鬼と戦う事になるだろうから。
勇が残るよりもずっと苦戦を強いられるかもしれないのだと。
それでも信じて欲しかったのだ。
自分がデュゼローを倒す事を。
信じたかったのだ。
仲間達だけで赤鬼を倒す事を。
例えそれを成せる未来が見えなくとも。
展望台に至るエレベーターは各塔につき二つ。
その一つは既に一階にて待機中だ。
勇が昇る事を見越し、そう準備しておいたのだろう。
ボタンを押して重厚な扉が開かれれば、間も無く銀箱が内部を晒して。
仲間達や赤鬼が見守る中、勇が中へと足を踏み入れる。
このエレベーターは展望台専用であり、他の階に止まる事は無い。
たった一つのボタンを押せば即座に目的地へと向かうだろう。
その誘いのままに操作し、遂にエレベーターが動き出す。
勇を乗せて、ただただ無機質な振動音を掻き鳴らしながら。
不安が無い訳じゃない。
むしろ、不安ばかりだった。
勝てる可能性が微塵も見つからない相手に、どう勝てばいいのかと。
でも、そう思える相手と戦ったのも初めてじゃない。
敵わないと思える相手と戦い、勝ち続けて来たから今の自分が居る。
全てを乗り越えられたから、今の自分が在る。
ならもう培ってきた全てをぶつけるだけだ。
例え相手が剣聖に匹敵する存在だとしても。
今までと同じ様に強くなり、乗り越えればいいのだと。
その想いに応え、【翠星剣】が光を灯す。
箱の中をくまなく照らすまでに輝々と。
「やろう。 俺が、俺達がデュゼローを止めるんだ……ッ!!」
この魔剣が完成を果たし、使い始めてからはや二年。
修復を繰り返しても、その表皮から傷痕が絶える事は無かった。
勇の命力が低過ぎて、魔剣の強度強化が伴わなかったから。
けれど折れる事は無く、死ぬ事も無く一緒に戦い続けて来てくれて。
だからこそ愛着も湧こう。
相棒だと思える程に。
共に力を合わせて強敵を討ち倒そうと。
ゴゴン……
その想いが極まった時、エレベーターが動きを止めて。
そしてその扉がゆっくりと開かれていく。
双塔の一つ、デュゼローが待つ頂上展望台へと到着したのだ。
もう覚悟も決まった以上、踏み出さない理由は無い。
力強い一歩を刻み、勇が遂に展望台へと踏み入れる。
そのまま視界を遮る仕切りを歩き越えれば―――
「ようやく来たか。 待ちかねたぞ」
広場で待ち構えていたあの男が視界に映る事となる。
公園でも、テレビ先でも見せた、あの黒づくめの様相を。
「デュゼロー……!!」
間違いなく、デュゼロー当人である。
遂に二人が再び相まみえたのだ。
それも、互いに臨戦態勢の状態で。
互いに魔剣を手に取りながら。
漆黒の夜空が天突く塔を覆い、暗い闇に姿を落とす。
唯一、灯光だけが闇を祓うその場所で、相対する二人が睨みて力を篭める。
互いに譲れない道を突き抜ける為にも。
そして戦意を見せたのは二人だけではない。
一階でもまた、立ち塞がる赤鬼へ闘志を向ける茶奈達の姿が。
一分一秒でも早く勇の下へと駆け付ける為に。
彼女達もまた、勇の事を信じていたからこそ。
信頼、友情、闘志。
殺意、敵意、叛意。
猜疑、憤怒、憎悪。
多くの意思や感情が都庁を包み込まんばかりに駆け巡る。
入り乱れて、何が正しいのかもわからないままに。
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どの様な結果をもたらすのだろうか……
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