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第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
~それはあの過去~
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【フララジカ】……それは二つの世界が混じり合う事象の名。
それが完全に事を成した時……宇宙の理が歪み、崩壊し、全てが原初に還る。
原理こそ不明だが、それを導き出した者達には何かしらの確証がある様であった。
そしてそれは別の形で勇達も知り及んでいた事でもある。
それを止める方法はただ一つ。
互いの世界の者同士で憎しみ、いがみ合う事。
これは勇達すらも知らない事だった。
『あちら側』の人・魔者が集まり、世界を救うと宣言した団体【救世】。
彼等は東京都庁を占拠し、世界中に向けてこのフララジカの真実を公表した。
それを成したのは【救世】を統べるデュゼローという男。
彼に誘われ、勇達は【救世】と対峙した。
そしてその結果……勇達魔特隊は勝利を収めたのである。
だが、それと同時に……世界を元に戻す手がかりすらも失った。
フララジカを最も知るデュゼローを始め、彼等の幹部級の者達は全てその戦いで死亡。
僅かに残ったのは雑兵や事情の知らぬ関係者のみ。
全てが収まった時……人は、世界は、勝利とは言えぬ大きな不安を胸に抱かざるを得なかった。
それが俗に【東京事変】と呼ばれるようになる事件。
これはわずか昔の話。
【東京事変】が起きた数日後からこの話は始まる。
――――――
――――
――
―
痛々しい痕跡が残る都庁。
既に運用は止まり、内部にはもはや職員一人の姿すら居ない。
居るのは事件のを調査する警察関係の人間だけだ。
周囲は未だ進入禁止のテープが張り巡らされ、多くの関係者が事件の証拠をかき集める様を見せていた。
だが世間では既にその熱が冷め始めている。
数日前に流れたのはまるで映画の様な、現実とは思えない戦い。
映画のプロモーションなのではないかとすら噂が流れる事もあった程。
そんな現実離れな出来事も、日を追えば日常の中の一コマにすら納まってしまう程に小さくなってしまう。
当事者達を除いて。
魔特隊本部。
そこは東京都西部に設置された、一般学校程度の大きな敷地にある建屋だ。
故あって勇達の住む街に建設されたその場所は、巨大な壁に囲まれて外から内部が見えないようになっている。
だが、【東京事変】において襲撃を受け、その内外の至る場所は破壊されてしまった。
外壁は応急的な処理で塞がれたものの、内部が丸見えの状態。
その外側では魔特隊を良しとしない者達が集まり、非難の声を上げていた。
勇達はそんなボロボロの建屋の中で、比較的無事だった二階レクリエーションホールを利用して応急的な会議を行っていた。
彼等が招集されるのは事件後初の事だった。
その場に集まったのは魔特隊のメインメンバー達。
だがその数と言えば……ほぼ半数に等しい。
「―――ったく、アイツラ飽きないよなぁ……昨日も居たらしいぜ?」
座るビジネスチェアの背もたれを抱きかかえ、くるくると回りながら心輝がぼやく。
亜月の告別式を済ませ、全てを振り切ったのだろう……外面上だけであれば彼の態度は以前と変わらない様子を見せていた。
「彼等もどうしたらいいかわかんないんでしょ……それよか聞いてよ、昨日私の家にゴミ投げ付けられたのよ!?」
背もたれにぐったりしていた瀬玲は、その話題になった途端に身を乗り出して怒りを露わにする。
都庁を奪還したメンバーの素性は既に世間にリークされ、もはやプライベートなど存在しない。
「兄者は結局見つからなかったか……俺は一体どうすればいいんだ……」
話題から一人外れ、溜息を吐いて項垂れるのはマヴォ。
【東京事変】で共に戦ってきた兄アージは失踪し、代わりにかつての師匠の遺体が敷地内で見つかった。
親同然に思っていた師の死、それを目の当たりにして気落ちした彼にはもはや今までの覇気は無かった。
「この世界の人間も、結局は恐れや憎しみを断ち切る事は出来ないという事なのだろう……我々と変わらないのかもしれん」
そう呟くズーダー。
外の世界をあまり知らぬ彼……期待を寄せていた『こちら側』の人間の在り方に気付き、その落胆は計り知れない。
今回の戦いで信念を貫いた彼が魔特隊の志を裏切る事は無いが、現実を見せつけられては戸惑いもしよう。
「私としては、この様な事でも物珍しくはあります。 とはいえ、成り行きではありますが……この場から出る事が出来ないのはいささか退屈ではありますね」
彼等の背後に立ち佇むのはイシュライト。
彼は魔特隊ではないが、瀬玲を訪ねてモンゴルからはるばるやってきた所に今回の事件に遭遇し、彼等に手を貸したという訳である。
だが事件直後に魔者が出歩けば余計な嫌疑をかけられかねないともあり、外出を禁じられていた様だ。
「仕方ありませんよ……あれだけの事があったんです。 皆怖いのかもしれないですから」
そんな中、優しい声色で皆の不安を宥めるのは茶奈。
デュゼローが上げた動画とはまた別の動画で脚光を浴びた彼女に対する声は、批判よりも声援の方が比較的多い。
戦いの派手さで言えば勇よりも彼女の戦いの方がセンセーショナルであったという事と、持ち前の綺麗な顔付きから評判が良い模様。
彼女もそれを知ってか知らずか……その顔付きはいつも同様に落ち着いた様子を見せていた。
「そうッスよぉ!! ちょっと経てば落ち着くもんス。 あーだこーだ言っても気が滅入るだけッスよぉ」
カプロが中央で相変わらず「うぴぴ」と笑い、場を和ませる。
非戦闘員である彼も今回初めて戦いに巻き込まれた。
だが、戦いはしなかったものの……彼自身というキャラクターが壊れる様な事は無く、いつも通りのやんちゃな姿を見せつけ続けている。
内心は仲の良かった亜月を失った事で気落ちしているはずなのだが。
「そうだな……カプロの言う通りだよ。 俺達は俺達でやる事をやる。 今までと何ら変わりはないさ。 余裕が無いなら今は休めばいいんだから……」
そしてカプロの隣に座る勇が緩やかな顔付きで見上げ、皆を宥める。
その顔付きはどこか落ち着き、自信すら感じ取れる程。
戦いが始まる直前まで、謎の命力減衰によって死ぬかも知れなかった人間とは思えない……生に溢れた素顔だった。
「えぇ、その通りです。 今は事件の後という事もあって大きな動きを取る事は出来ませんので……本部建屋もこんな事になっておりますし。 今は我々がやれる事をこなしていきましょう」
勇が見上げる先、彼等の前に立つのは……魔特隊の元締めである福留。
その横には補佐である平野と笠本が椅子に座り、彼等の言葉に耳を傾け記録に残す。
集まったのは、それだけだった。
アージは戦い以降行方知れず。
ジョゾウは魔特隊を辞めて里に帰還した。
アンディは入院し、ナターシャも彼に付き添っている。
レンネィは未だ入院中、そもそも魔特隊を除隊した身ではあるが。
ズーダーの仲間達は戦いの折に裏切り、彼の手によって葬られた。
そして亜月はデュゼローの手に掛かって死んだ。
魔特隊ではない者達の行き先はこうだ。
バノは御味に連れられ帰郷した。
ウィグルイはバノと共に御味に連れられ京都へ。
ニャラもまた、勝手にふらふらと一人で里へ帰った様だ。
全盛期と比べて半分以下……今回の戦いが付けた傷跡はあまりにも深かった。
本来、魔特隊は極秘組織だ。
そう仕立てたのは、勇達のプライベートを守るためだった。
だが世間に公表された事でそれが裏目となり、秘密を嫌う世間は彼等を敵と認識したのだ。
外で声を荒げるのはその一端である。
思えば、それもまたデュゼローが仕組んだ計画の一つだったのだろう。
互いが憎み、恨み、ねたみ合う……そんな世界にする為の。
「……皆さんはよくやってくれました。 建屋や第一庁舎こそボロボロですが、成した事は歴史に残るくらいの偉業と言っても過言ではないでしょう。 自信を持ってください」
「福留さん……ありがとうございます」
そう応えた勇が頭を下げる。
まるで、自身がやってしまった事を詫びる様に。
彼自身も認識していた。
自分がやった事は本当に正しかったのか。
自分の戦いは本当に良かった事なのか。
デュゼローが成そうとしていた事が正しかったのではないか……とも思う事があった。
彼を倒したのはただ、デュゼローが許せなかったからだけに過ぎない。
世界を争いに導こうとしたから。
亜月を殺したから。
彼は真理よりも感情を取ってデュゼローと相対し、そして討ち果たした。
それが根本的な解決にはならない事はわかっていたのに。
彼に宿る力が……それを許さなかったのだ。
『デュゼローを止めろ』と、彼の心の何かが訴えたから……。
それが完全に事を成した時……宇宙の理が歪み、崩壊し、全てが原初に還る。
原理こそ不明だが、それを導き出した者達には何かしらの確証がある様であった。
そしてそれは別の形で勇達も知り及んでいた事でもある。
それを止める方法はただ一つ。
互いの世界の者同士で憎しみ、いがみ合う事。
これは勇達すらも知らない事だった。
『あちら側』の人・魔者が集まり、世界を救うと宣言した団体【救世】。
彼等は東京都庁を占拠し、世界中に向けてこのフララジカの真実を公表した。
それを成したのは【救世】を統べるデュゼローという男。
彼に誘われ、勇達は【救世】と対峙した。
そしてその結果……勇達魔特隊は勝利を収めたのである。
だが、それと同時に……世界を元に戻す手がかりすらも失った。
フララジカを最も知るデュゼローを始め、彼等の幹部級の者達は全てその戦いで死亡。
僅かに残ったのは雑兵や事情の知らぬ関係者のみ。
全てが収まった時……人は、世界は、勝利とは言えぬ大きな不安を胸に抱かざるを得なかった。
それが俗に【東京事変】と呼ばれるようになる事件。
これはわずか昔の話。
【東京事変】が起きた数日後からこの話は始まる。
――――――
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痛々しい痕跡が残る都庁。
既に運用は止まり、内部にはもはや職員一人の姿すら居ない。
居るのは事件のを調査する警察関係の人間だけだ。
周囲は未だ進入禁止のテープが張り巡らされ、多くの関係者が事件の証拠をかき集める様を見せていた。
だが世間では既にその熱が冷め始めている。
数日前に流れたのはまるで映画の様な、現実とは思えない戦い。
映画のプロモーションなのではないかとすら噂が流れる事もあった程。
そんな現実離れな出来事も、日を追えば日常の中の一コマにすら納まってしまう程に小さくなってしまう。
当事者達を除いて。
魔特隊本部。
そこは東京都西部に設置された、一般学校程度の大きな敷地にある建屋だ。
故あって勇達の住む街に建設されたその場所は、巨大な壁に囲まれて外から内部が見えないようになっている。
だが、【東京事変】において襲撃を受け、その内外の至る場所は破壊されてしまった。
外壁は応急的な処理で塞がれたものの、内部が丸見えの状態。
その外側では魔特隊を良しとしない者達が集まり、非難の声を上げていた。
勇達はそんなボロボロの建屋の中で、比較的無事だった二階レクリエーションホールを利用して応急的な会議を行っていた。
彼等が招集されるのは事件後初の事だった。
その場に集まったのは魔特隊のメインメンバー達。
だがその数と言えば……ほぼ半数に等しい。
「―――ったく、アイツラ飽きないよなぁ……昨日も居たらしいぜ?」
座るビジネスチェアの背もたれを抱きかかえ、くるくると回りながら心輝がぼやく。
亜月の告別式を済ませ、全てを振り切ったのだろう……外面上だけであれば彼の態度は以前と変わらない様子を見せていた。
「彼等もどうしたらいいかわかんないんでしょ……それよか聞いてよ、昨日私の家にゴミ投げ付けられたのよ!?」
背もたれにぐったりしていた瀬玲は、その話題になった途端に身を乗り出して怒りを露わにする。
都庁を奪還したメンバーの素性は既に世間にリークされ、もはやプライベートなど存在しない。
「兄者は結局見つからなかったか……俺は一体どうすればいいんだ……」
話題から一人外れ、溜息を吐いて項垂れるのはマヴォ。
【東京事変】で共に戦ってきた兄アージは失踪し、代わりにかつての師匠の遺体が敷地内で見つかった。
親同然に思っていた師の死、それを目の当たりにして気落ちした彼にはもはや今までの覇気は無かった。
「この世界の人間も、結局は恐れや憎しみを断ち切る事は出来ないという事なのだろう……我々と変わらないのかもしれん」
そう呟くズーダー。
外の世界をあまり知らぬ彼……期待を寄せていた『こちら側』の人間の在り方に気付き、その落胆は計り知れない。
今回の戦いで信念を貫いた彼が魔特隊の志を裏切る事は無いが、現実を見せつけられては戸惑いもしよう。
「私としては、この様な事でも物珍しくはあります。 とはいえ、成り行きではありますが……この場から出る事が出来ないのはいささか退屈ではありますね」
彼等の背後に立ち佇むのはイシュライト。
彼は魔特隊ではないが、瀬玲を訪ねてモンゴルからはるばるやってきた所に今回の事件に遭遇し、彼等に手を貸したという訳である。
だが事件直後に魔者が出歩けば余計な嫌疑をかけられかねないともあり、外出を禁じられていた様だ。
「仕方ありませんよ……あれだけの事があったんです。 皆怖いのかもしれないですから」
そんな中、優しい声色で皆の不安を宥めるのは茶奈。
デュゼローが上げた動画とはまた別の動画で脚光を浴びた彼女に対する声は、批判よりも声援の方が比較的多い。
戦いの派手さで言えば勇よりも彼女の戦いの方がセンセーショナルであったという事と、持ち前の綺麗な顔付きから評判が良い模様。
彼女もそれを知ってか知らずか……その顔付きはいつも同様に落ち着いた様子を見せていた。
「そうッスよぉ!! ちょっと経てば落ち着くもんス。 あーだこーだ言っても気が滅入るだけッスよぉ」
カプロが中央で相変わらず「うぴぴ」と笑い、場を和ませる。
非戦闘員である彼も今回初めて戦いに巻き込まれた。
だが、戦いはしなかったものの……彼自身というキャラクターが壊れる様な事は無く、いつも通りのやんちゃな姿を見せつけ続けている。
内心は仲の良かった亜月を失った事で気落ちしているはずなのだが。
「そうだな……カプロの言う通りだよ。 俺達は俺達でやる事をやる。 今までと何ら変わりはないさ。 余裕が無いなら今は休めばいいんだから……」
そしてカプロの隣に座る勇が緩やかな顔付きで見上げ、皆を宥める。
その顔付きはどこか落ち着き、自信すら感じ取れる程。
戦いが始まる直前まで、謎の命力減衰によって死ぬかも知れなかった人間とは思えない……生に溢れた素顔だった。
「えぇ、その通りです。 今は事件の後という事もあって大きな動きを取る事は出来ませんので……本部建屋もこんな事になっておりますし。 今は我々がやれる事をこなしていきましょう」
勇が見上げる先、彼等の前に立つのは……魔特隊の元締めである福留。
その横には補佐である平野と笠本が椅子に座り、彼等の言葉に耳を傾け記録に残す。
集まったのは、それだけだった。
アージは戦い以降行方知れず。
ジョゾウは魔特隊を辞めて里に帰還した。
アンディは入院し、ナターシャも彼に付き添っている。
レンネィは未だ入院中、そもそも魔特隊を除隊した身ではあるが。
ズーダーの仲間達は戦いの折に裏切り、彼の手によって葬られた。
そして亜月はデュゼローの手に掛かって死んだ。
魔特隊ではない者達の行き先はこうだ。
バノは御味に連れられ帰郷した。
ウィグルイはバノと共に御味に連れられ京都へ。
ニャラもまた、勝手にふらふらと一人で里へ帰った様だ。
全盛期と比べて半分以下……今回の戦いが付けた傷跡はあまりにも深かった。
本来、魔特隊は極秘組織だ。
そう仕立てたのは、勇達のプライベートを守るためだった。
だが世間に公表された事でそれが裏目となり、秘密を嫌う世間は彼等を敵と認識したのだ。
外で声を荒げるのはその一端である。
思えば、それもまたデュゼローが仕組んだ計画の一つだったのだろう。
互いが憎み、恨み、ねたみ合う……そんな世界にする為の。
「……皆さんはよくやってくれました。 建屋や第一庁舎こそボロボロですが、成した事は歴史に残るくらいの偉業と言っても過言ではないでしょう。 自信を持ってください」
「福留さん……ありがとうございます」
そう応えた勇が頭を下げる。
まるで、自身がやってしまった事を詫びる様に。
彼自身も認識していた。
自分がやった事は本当に正しかったのか。
自分の戦いは本当に良かった事なのか。
デュゼローが成そうとしていた事が正しかったのではないか……とも思う事があった。
彼を倒したのはただ、デュゼローが許せなかったからだけに過ぎない。
世界を争いに導こうとしたから。
亜月を殺したから。
彼は真理よりも感情を取ってデュゼローと相対し、そして討ち果たした。
それが根本的な解決にはならない事はわかっていたのに。
彼に宿る力が……それを許さなかったのだ。
『デュゼローを止めろ』と、彼の心の何かが訴えたから……。
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