時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
745 / 1,197
第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」

~旅立ちの決意~

しおりを挟む
 小嶋由子が提示したのは魔特隊の処遇と勇の除隊宣言には限らなかった。



 アンディもまた除隊の対象に。
 それに伴い、ナターシャも除隊という形に収まった。
 その理由としてはアンディの戦闘続行が困難である事。
 そして何より二人がまだ幼いからこそ、子供を戦列に並ばせる事に対する不満を払拭する為であった。
 二人はロシアに返される手筈だったが……そこに話を聞いたレンネィが間に入り、彼女の下に引き取られる事となった。



 イシュライトが魔特隊に所属へ。
 彼自身も瀬玲と共に居る事を望んだため、こちらに関してはすんなりと手続きが済んだ様だ。
 人員が少なくなった事に対する補填ともあり、彼の対応に対して恩赦が発生した。
 モンゴル政府を通して彼の故郷イ・ドゥールへの援助が確約されたのである。
 彼の祖父であるウィグルイはその旨を伝えられ、日本政府によるVIP待遇での帰国となった。



 こうして魔特隊内部での改革は進められ、早くも政府関係者による本部の運用が始まろうとしていた。










 小嶋の発表から一週間後……メンバーに許された期限最終日。

 心輝が、瀬玲が、家族とのしばしの別れを惜しみ、家族水入らずで時間を共に過ごす中……勇と茶奈もまた、自分達の家で最後の一日を過ごしていた。

 茶奈は元々藤咲家の一員では無かった。
 だが、フララジカがきっかけで藤咲家に居候する事と成り、今となってはもはや家族も同然だ。
 彼女が大人しく、素直で家族思いだった事もあり……今回の別れに、藤咲夫婦は大きな落胆を見せていた。

「今日で最後なんだよな……茶奈ちゃん、今日は存分に甘えていいんだよ?」
「そうそう……私達は茶奈ちゃんを本当の家族だと思っているんだから……」

 元々、藤咲夫婦は女の子が欲しかったのだとか。
 それを初めて聞かされた時、勇はちょっと複雑だった様だが。
 しかしこうして、手間のかからない珠の様な子が訪れたのだ……可愛がりもしよう。
 当人もまた、過去の経緯からそういった愛情に飢えていたからこそ……二人の好意を心から喜んでいた。

「お父さん、お母さん……ありがとう……でも、きっとこれが最後じゃないって思ってるから……また会えるって思ってるから……今は普通で……普通でいさせてください……」

 それは彼女なりの望み。

 普通でありたかった。
 ずっと願っていた。
 そして少し違うけど、それでも叶った。
 望んでいたからこそ、彼女にとっては普通が何よりもの幸せ。

 彼女の望む声を前に、藤咲夫婦も、勇も……彼女の望むままに、共に過ごした。

 父親も、母親も、その日の為に休みを取り。
 勇も彼女に合わせて色々と動き回った。



 その結果もあり、最後の日はほんの少し特別だったけれど……普通な日常の一幕となった。

 

 心輝と瀬玲の家で、三家族によりちょっとしたホームパーティが開催された。
 小さい家の中を嬉々として動き回り、家族で、友人で、語り合い、笑い合い……しばし訪れる別れを惜しむ様に楽しく時を過ごす。





 気付けば一日はあっという間に過ぎて……翌日。
 彼等にとうとう別れの時が訪れた。





 心輝や瀬玲は両親との別れを済ませ、既に本部へと移動済み。
 残すは茶奈だけだった。

 玄関に立つ茶奈を、無言の両親がそっと抱き締め離さない。
 そんな様子を勇は静かに見つめていた。

「そろそろ行かないと……怒られちゃいますから……」
「うん……ごめんね、茶奈ちゃん……」

 彼女の柔らかな長髪からは母親と同じコンディショナーの甘い香りが漂い、それが更なる親近感を呼ぶ。
 その香りを惜しむかのように……二人はそっと彼女から離れた。

「それじゃ、行ってきます……」

 そう一言告げて、彼女はそっと踵を返す。
 その肩は震え、二度と訪れるかもわからぬ愛情との別れを拒否するかのよう。



 そんな時……彼女達の背後から声が上がった。



「茶奈……」

「っ!?」

 それは勇から発せられた、彼女を気遣うかの様な優しい声色。
 その声に茶奈は思わず歩を止め、背を向けたままじっと佇む。

「君を巻き込んでごめん……こんな事になるなら最初から……」
「それは違いますよ勇さん……これは私が望んで進んだ道なんです」

 今にも泣きそうな、僅かに震えた声が返り……勇が思わず言葉を詰まらせる。

 その先が言えなくて。
 どうしても伝えられなくて。
 思わずその口がすぼみ、強張りを生む。

 そんな勇へ……茶奈が勇気を振り絞り、想いを言葉に換えて連ねる。

「私は勇さんに一杯勇気をもらったから……だから今度は勇さんの代わりに皆に勇気を与えたいんです。 私は……私は……うぅ……」

 彼女の感情が昂り、そして溢れ出る。
 熱い感情が水滴となって頬を流れ、赤く染めた肌に一筋の跡を残す。

 そして彼女が振り向き、彼等に見せたのは……悲しみを乗り越えた、笑顔だった。





「私が……勇さんの代わりに……皆を導きますから……!!」





 それが彼女の決意。

 もう、弱々しかった彼女は居ない。
 そこに居るのは一人の戦士。
 一人の強い……女性だった。



 人は成長する。
 最初は弱くても。
 厳しい事を目の当たりにしても、諦めなければ……どんどんと成長していく。
 彼女もまた、勇と共に成長してきた。

 そして今、彼女は勇を超えようとしていた。

 誰の為でも無い……自分の為に。

 それが仲間や……勇の為になると信じて。



 その言葉を最後に、茶奈は藤咲家から去っていった。
 それ以降、彼女の部屋を使う者は誰一人としているはずもなかった……。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...