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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
~SIDE心輝-02 猛り狂う正義~
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同時刻 日本時間16:19......
魔特隊本部から飛び出した心輝が勢いのままに向かったのは……勇の家だった。
勇と茶奈が日本を発ってからだいぶ時間が経っている。
二人の動向を察知する動きが早ければ、彼等の両親の身に危険が及んでしまう可能性があるかもしれない。
そう察したが故の行動であった。
魔特隊の本部と勇達の家の距離は直線距離で言えば3キロメートル程。
心輝の速さであれば5分と掛からない距離だ。
自慢の魔剣から炎を吹き出し、滑る様に空を翔けていく。
その姿はまるで赤く光る鳥のよう。
煌めきを纏う二翼と尾羽……それらを象った炎は赤々と迸り、地上を行く人々の興味を誘う。
炎の彩りが混じった深紅の閃光が一直線に尾を引き、勇の家の方面へと刻まれていく。
その閃光の元……心輝はその眼でとうとう目的地の建屋を捉えた。
そこに映ったのは……四台程のパトカーが並ぶ光景だった。
複数人の警官が車外で動き、何かをしている様子が見える。
その時、状況の深刻さに気付いた心輝が思わず高い舌打ちを打ち鳴らした。
「思ったよりも動きがはえぇ!! 間に合うかッ!?」
ドォンッ!!
爆発音を弾き鳴らし、勇の家へと一直線に突っ込んでいく。
一瞬にして加速した心輝の体は瞬く間に敷地の小さな庭へと飛び込んだ。
ドッバァッ!!
着地による衝撃の反動によって、床地のコンクリートが細かく砕けて宙を舞う。
土、砂粒、破片……周囲に着地の残滓を撒き散らし、心輝が突然の登場を果たした。
それは激しい衝撃波すら生み出し、たむろする警官達を激しく驚かせる。
「そ、園部心輝……何で魔特隊がここに……」
そんな声などに構う事無く、心輝はそのまま勇の家へ駆け込む様に玄関の扉を開いた。
バタンッ!
「勇のおじさん、おばさん、平気かッ!?」
扉が激しく開かれ、心輝が屋内へ飛び込む。
彼の視界に入ったのは……こちらを向く様に立つ勇の両親と、その前で彼等と対峙する二人の警官だった。
「あ、し、心輝君っ!!」
勇の父親が焦りを伴わせたハイトーンの不揃い声を上げる。
どうやら警官は今しがた到着したばかりなのだろう。
彼等はまだ勇の両親を拘束するには至っていない様だった。
「君は確か魔特隊の……」
そう答えて振り向く警官二人。
一人は中年の、もう一人は比較的若めの、どちらもガタイの良い成り。
首元に付けた階級章から、彼等がそれなりに立場の人間である事が伺えた。
「ああ、一番隊副隊長の園部心輝だ。 所でアンタら、勇の両親をどうするつもりだ? 返答次第じゃあタダじゃおかねぇぞ、おぉ?」
どちらが正しいのかわからなくなる程に、心輝が睨みを利かせた上目遣いで警官達へ脅し声を上げる。
その形やまるでチンピラそのもの……思わず警官達も顔を強張らせ、怯まず立ち塞がった。
「事情を知らないのか? お前達の上司の田中茶奈が国外逃亡を果たしたんだぞ? これにより、国家保安の関係上、藤咲両名を逮捕、拘束する様指示が出たんだよ」
「そんな……茶奈ちゃんが……」
その事実を初めて知らされた勇の母親が顔を青ざめさせる。
ふらりと足元のバランスを崩すが……そっと勇の父親が彼女の腰をとって支えた。
「よって、藤咲徹と真子、お前達を署まで連行させてもらう。 言っておくが園部心輝、もし我々の邪魔をする様なら、お前の両親も同様の対象になるという事を忘れるなよ?」
俄然強気の中年警官が、手馴れた口ぶりで悪びれた心輝に揺さぶりをかける。
彼等もそういった人間達を相手にしてきたのだから、その応対も慣れたものである。
しかし、そんな警官達を前に……心輝は更に「ずいっ」と前に踏み出した。
「はぁ? んな事してみろよ……俺様が一人残らずブチのめしてやんよ!!」
「ちょ、ちょっと心輝君!?」
妙に喧嘩腰の心輝に、勇の父親が慌てて仲裁に入る。
「そこまでしなくても」……そんな声が聞こえてきそうな、不安を交えた声を上げて。
「俺達はよぉ~……天下の『正義の味方』魔特隊様だぜぇ? そんな事して無事に済むと思ってんのかよぉ~!?」
心輝はそれでも止まらず、まるで警官を煽る様に声を荒げて悪態を突き続ける。
目尻をピクピクと震わせて睨み付ける様は本当に悪人の様だ。
彼の度重なる悪態。
それを前に中年警官が何を思ったのか。
顔に浮かべたのは……「ニタリ」とした笑みだった。
「フン……魔特隊がどの様な組織かは知っていたつもりだが……どうやら想像以上に小物の集まりだったようだな」
それは余裕から生まれた笑み。
何故なら、彼等は心輝達がそんな事など出来るはずも無いのだと知っているから。
家族だけではない、親戚や友人……心輝が手を出した瞬間、広域に渡る彼の関係者が一斉に検挙される事となるのだ。
それこそが心輝達の弱みであり、警官達の強みでもあるのだから。
「んだとぉ……!?」
怒りのあまり、心輝の手が中年警官へと伸びる。
だが……その制服へ触れそうになった瞬間、その手は止まる事となる。
「どうした、触れてみろよ? そうなればどうなるか……わかるだろう?」
「クッ……」
先程の威勢は既に消え、心輝の手が警官の制服に触れるどころか下がっていく。
そんな彼の委縮具合を前に、中年男性の笑みが更に大きくなっていた。
「やはりな……わかっていない様だが、お前達は所詮ただ力任せに戦うだけのならず者の集団でしかない。 お前達はただ命令に従って動いてればそれでいいんだよ!!」
そう言われた途端、心輝が苦虫を噛み潰した様なしかめ面を浮かばせる。
食いしばった歯を覗かせるも……反論出来ず、ただ声を殺し、睨み付ける事しか出来ない。
心輝の勢いが完全に止まると、これみよがしに中年警官が勢いに乗り始める。
「何が正義の集団だ!! 暴力でしか事を解決出来ないお前達のどこに正義がある!! 正義とは、我々の様に秩序を正し、定められた法に則って裁量を下す事を言うんだ!!」
隣の若年の警官も中年警官の攻勢を前に、静かに成り行きを見届けるのみ。
勇の両親もまた同様に。
加熱した中年警官が感情を露わにし、首を引く心輝へ向けて怒号をぶつけ続けた。
「いいか、よく聞け!! 秩序を乱すお前達に正義を語る資格があると思うなよ!? 何が正義か……そんな事決まっている……!! 秩序を守る我々こそが正義なのだ!!」
場が凍り付いた様に……静けさが包んだ。
勇の両親も、若年の警官も黙っていたのもあったのだろう。
だが何より……心輝が動きを完全に止めていたのだから。
彼の顔が影で覆い尽くされる程に、沈み俯かせる。
中年警官は心輝を押し負かした事で誇った様に胸を張り上げ、愉快そうな笑みを隠す事無く浮かべていた。
その時……零れた声が、凍り付いた場に響く。
「あー……なんつかよぉ、この仕事やってっと……やたらと相手の主義主張やら耳にするんだわ」
笑う中年警官がそれに気付き、見下ろす様に心輝を顔を覗き込んだ。
視界に映ったのは、僅かに陰りを薄めた心輝の顔。
そこから覗いていたのは……片笑窪を高々と上げた「ニヤリ」とした笑みだった。
「んなっ……」
心輝の突然の豹変で中年警官の余裕が一瞬で消え去る。
「それでよぉ、その手の奴は決まって……やたらとその言葉を使いたがるんだよなぁ。 決まりなのか、それとも無意識にそう思ってるのか知らねぇけどよぉ……」
彼の言葉に滲む重圧感。
その場に居た誰しもに額に冷や汗を呼ぶ。
中年警官に最早……笑みなど残るはずも無い。
「オッサン、お前……【救世同盟】だろ?」
その一言が、激しい驚きを呼び込んだ。
勇の両親、若年の警官……そして当の中年警官。
誰しもが目を見開き、衝撃の発言内容に耳を疑う。
そして周囲の視線は……中年警官へと向けられた。
「な、何を馬鹿な事を……そんな事がある訳―――」
「おおぉーっと、今ちょっとだけ視線外したな? 俺がわからないとでも思ったかよ?」
中年男性が顔に浮かばせるのは代り映えのしない仏頂面。
感情を読み取らせない様に訓練する事で浮かべる事が出来る表情だ。
だが、例え僅かな感情の起伏で生まれた反射的動作までは隠し通せはしない。
普通の人間には隠せる様な微々たる変化だが……それを逃す心輝ではなかった。
「い、言いがかりだ!! そうやって私をハメようと―――」
「オイオイ……魔特隊の事知ってるんだろ? 俺もよ、わかるんだよ……心の色ってぇやつがよ? わかるぜぇ、アンタの心の色が手に取る様によ……まるで透明な水がドス黒い墨汁で塗り潰されていく様に染まっていくのがハッキリとよぉ!! 騙し通せると思うなよ!?」
中年警官は心輝の策略にまんまと乗せられたのだ。
悪態を突いていたのも、彼の作戦の一つ。
そうやって敢えて自分を落とし込む事で相手に優勢だと錯覚させる。
そして勘違いした相手が感情を露わにすれば……その隙を突く事など容易いのである。
確証などありはしない。
ただ、心輝はなんとなく察知したのだろう。
心の色、素振り、そして態度……凡人との僅かな差ではあったが、【救世同盟】メンバー特有の波を感じ取っていたのである。
「埒があかん!! 藤咲両名を確保して戻るぞ!!」
中年警官が心輝の発言など無視するが如く声を張り上げ、咄嗟に勇の母親の手首を掴み取る。
その華奢な腕を引いた途端……不意に彼の腕に叩いた様な衝撃が走った。
「なっ!?」
それは中年男性が伸ばした腕を、何者かの手が掴んで起こしたもの。
彼の腕を掴んだのは……若輩の警官だった。
「警部、残念ですが少し事情を尋ねたいので同行願えますか?」
彼の眼差しが鋭く向けられ、威圧にも足る視線が思わず中年男性を怯ませる。
「なっ……だから今のは誤解だと―――」
「警部……実は貴方に【救世同盟】関与の嫌疑が掛けられていたのですよ。 ですが今回の一件でハッキリとしました。 暴れなければ手荒な事はしません、署まで連行しますので大人しくしていてください」
その一言を受けた途端、中年警官の顔が青ざめていく。
己の置かれた状況を理解したのだろう……とうとう肩を落とし、ガクリと顔を俯かせた。
「園部心輝さん、ご協力ありがとうございます。 そしてご迷惑をお掛け致しました。 では……」
「お、おう……」
さしもの心輝も、この急展開にはさすがに驚いた様で。
勇の両親と揃い、見開いた眼で二人が去っていくのを茫然としながら見届けたのだった。
魔特隊本部から飛び出した心輝が勢いのままに向かったのは……勇の家だった。
勇と茶奈が日本を発ってからだいぶ時間が経っている。
二人の動向を察知する動きが早ければ、彼等の両親の身に危険が及んでしまう可能性があるかもしれない。
そう察したが故の行動であった。
魔特隊の本部と勇達の家の距離は直線距離で言えば3キロメートル程。
心輝の速さであれば5分と掛からない距離だ。
自慢の魔剣から炎を吹き出し、滑る様に空を翔けていく。
その姿はまるで赤く光る鳥のよう。
煌めきを纏う二翼と尾羽……それらを象った炎は赤々と迸り、地上を行く人々の興味を誘う。
炎の彩りが混じった深紅の閃光が一直線に尾を引き、勇の家の方面へと刻まれていく。
その閃光の元……心輝はその眼でとうとう目的地の建屋を捉えた。
そこに映ったのは……四台程のパトカーが並ぶ光景だった。
複数人の警官が車外で動き、何かをしている様子が見える。
その時、状況の深刻さに気付いた心輝が思わず高い舌打ちを打ち鳴らした。
「思ったよりも動きがはえぇ!! 間に合うかッ!?」
ドォンッ!!
爆発音を弾き鳴らし、勇の家へと一直線に突っ込んでいく。
一瞬にして加速した心輝の体は瞬く間に敷地の小さな庭へと飛び込んだ。
ドッバァッ!!
着地による衝撃の反動によって、床地のコンクリートが細かく砕けて宙を舞う。
土、砂粒、破片……周囲に着地の残滓を撒き散らし、心輝が突然の登場を果たした。
それは激しい衝撃波すら生み出し、たむろする警官達を激しく驚かせる。
「そ、園部心輝……何で魔特隊がここに……」
そんな声などに構う事無く、心輝はそのまま勇の家へ駆け込む様に玄関の扉を開いた。
バタンッ!
「勇のおじさん、おばさん、平気かッ!?」
扉が激しく開かれ、心輝が屋内へ飛び込む。
彼の視界に入ったのは……こちらを向く様に立つ勇の両親と、その前で彼等と対峙する二人の警官だった。
「あ、し、心輝君っ!!」
勇の父親が焦りを伴わせたハイトーンの不揃い声を上げる。
どうやら警官は今しがた到着したばかりなのだろう。
彼等はまだ勇の両親を拘束するには至っていない様だった。
「君は確か魔特隊の……」
そう答えて振り向く警官二人。
一人は中年の、もう一人は比較的若めの、どちらもガタイの良い成り。
首元に付けた階級章から、彼等がそれなりに立場の人間である事が伺えた。
「ああ、一番隊副隊長の園部心輝だ。 所でアンタら、勇の両親をどうするつもりだ? 返答次第じゃあタダじゃおかねぇぞ、おぉ?」
どちらが正しいのかわからなくなる程に、心輝が睨みを利かせた上目遣いで警官達へ脅し声を上げる。
その形やまるでチンピラそのもの……思わず警官達も顔を強張らせ、怯まず立ち塞がった。
「事情を知らないのか? お前達の上司の田中茶奈が国外逃亡を果たしたんだぞ? これにより、国家保安の関係上、藤咲両名を逮捕、拘束する様指示が出たんだよ」
「そんな……茶奈ちゃんが……」
その事実を初めて知らされた勇の母親が顔を青ざめさせる。
ふらりと足元のバランスを崩すが……そっと勇の父親が彼女の腰をとって支えた。
「よって、藤咲徹と真子、お前達を署まで連行させてもらう。 言っておくが園部心輝、もし我々の邪魔をする様なら、お前の両親も同様の対象になるという事を忘れるなよ?」
俄然強気の中年警官が、手馴れた口ぶりで悪びれた心輝に揺さぶりをかける。
彼等もそういった人間達を相手にしてきたのだから、その応対も慣れたものである。
しかし、そんな警官達を前に……心輝は更に「ずいっ」と前に踏み出した。
「はぁ? んな事してみろよ……俺様が一人残らずブチのめしてやんよ!!」
「ちょ、ちょっと心輝君!?」
妙に喧嘩腰の心輝に、勇の父親が慌てて仲裁に入る。
「そこまでしなくても」……そんな声が聞こえてきそうな、不安を交えた声を上げて。
「俺達はよぉ~……天下の『正義の味方』魔特隊様だぜぇ? そんな事して無事に済むと思ってんのかよぉ~!?」
心輝はそれでも止まらず、まるで警官を煽る様に声を荒げて悪態を突き続ける。
目尻をピクピクと震わせて睨み付ける様は本当に悪人の様だ。
彼の度重なる悪態。
それを前に中年警官が何を思ったのか。
顔に浮かべたのは……「ニタリ」とした笑みだった。
「フン……魔特隊がどの様な組織かは知っていたつもりだが……どうやら想像以上に小物の集まりだったようだな」
それは余裕から生まれた笑み。
何故なら、彼等は心輝達がそんな事など出来るはずも無いのだと知っているから。
家族だけではない、親戚や友人……心輝が手を出した瞬間、広域に渡る彼の関係者が一斉に検挙される事となるのだ。
それこそが心輝達の弱みであり、警官達の強みでもあるのだから。
「んだとぉ……!?」
怒りのあまり、心輝の手が中年警官へと伸びる。
だが……その制服へ触れそうになった瞬間、その手は止まる事となる。
「どうした、触れてみろよ? そうなればどうなるか……わかるだろう?」
「クッ……」
先程の威勢は既に消え、心輝の手が警官の制服に触れるどころか下がっていく。
そんな彼の委縮具合を前に、中年男性の笑みが更に大きくなっていた。
「やはりな……わかっていない様だが、お前達は所詮ただ力任せに戦うだけのならず者の集団でしかない。 お前達はただ命令に従って動いてればそれでいいんだよ!!」
そう言われた途端、心輝が苦虫を噛み潰した様なしかめ面を浮かばせる。
食いしばった歯を覗かせるも……反論出来ず、ただ声を殺し、睨み付ける事しか出来ない。
心輝の勢いが完全に止まると、これみよがしに中年警官が勢いに乗り始める。
「何が正義の集団だ!! 暴力でしか事を解決出来ないお前達のどこに正義がある!! 正義とは、我々の様に秩序を正し、定められた法に則って裁量を下す事を言うんだ!!」
隣の若年の警官も中年警官の攻勢を前に、静かに成り行きを見届けるのみ。
勇の両親もまた同様に。
加熱した中年警官が感情を露わにし、首を引く心輝へ向けて怒号をぶつけ続けた。
「いいか、よく聞け!! 秩序を乱すお前達に正義を語る資格があると思うなよ!? 何が正義か……そんな事決まっている……!! 秩序を守る我々こそが正義なのだ!!」
場が凍り付いた様に……静けさが包んだ。
勇の両親も、若年の警官も黙っていたのもあったのだろう。
だが何より……心輝が動きを完全に止めていたのだから。
彼の顔が影で覆い尽くされる程に、沈み俯かせる。
中年警官は心輝を押し負かした事で誇った様に胸を張り上げ、愉快そうな笑みを隠す事無く浮かべていた。
その時……零れた声が、凍り付いた場に響く。
「あー……なんつかよぉ、この仕事やってっと……やたらと相手の主義主張やら耳にするんだわ」
笑う中年警官がそれに気付き、見下ろす様に心輝を顔を覗き込んだ。
視界に映ったのは、僅かに陰りを薄めた心輝の顔。
そこから覗いていたのは……片笑窪を高々と上げた「ニヤリ」とした笑みだった。
「んなっ……」
心輝の突然の豹変で中年警官の余裕が一瞬で消え去る。
「それでよぉ、その手の奴は決まって……やたらとその言葉を使いたがるんだよなぁ。 決まりなのか、それとも無意識にそう思ってるのか知らねぇけどよぉ……」
彼の言葉に滲む重圧感。
その場に居た誰しもに額に冷や汗を呼ぶ。
中年警官に最早……笑みなど残るはずも無い。
「オッサン、お前……【救世同盟】だろ?」
その一言が、激しい驚きを呼び込んだ。
勇の両親、若年の警官……そして当の中年警官。
誰しもが目を見開き、衝撃の発言内容に耳を疑う。
そして周囲の視線は……中年警官へと向けられた。
「な、何を馬鹿な事を……そんな事がある訳―――」
「おおぉーっと、今ちょっとだけ視線外したな? 俺がわからないとでも思ったかよ?」
中年男性が顔に浮かばせるのは代り映えのしない仏頂面。
感情を読み取らせない様に訓練する事で浮かべる事が出来る表情だ。
だが、例え僅かな感情の起伏で生まれた反射的動作までは隠し通せはしない。
普通の人間には隠せる様な微々たる変化だが……それを逃す心輝ではなかった。
「い、言いがかりだ!! そうやって私をハメようと―――」
「オイオイ……魔特隊の事知ってるんだろ? 俺もよ、わかるんだよ……心の色ってぇやつがよ? わかるぜぇ、アンタの心の色が手に取る様によ……まるで透明な水がドス黒い墨汁で塗り潰されていく様に染まっていくのがハッキリとよぉ!! 騙し通せると思うなよ!?」
中年警官は心輝の策略にまんまと乗せられたのだ。
悪態を突いていたのも、彼の作戦の一つ。
そうやって敢えて自分を落とし込む事で相手に優勢だと錯覚させる。
そして勘違いした相手が感情を露わにすれば……その隙を突く事など容易いのである。
確証などありはしない。
ただ、心輝はなんとなく察知したのだろう。
心の色、素振り、そして態度……凡人との僅かな差ではあったが、【救世同盟】メンバー特有の波を感じ取っていたのである。
「埒があかん!! 藤咲両名を確保して戻るぞ!!」
中年警官が心輝の発言など無視するが如く声を張り上げ、咄嗟に勇の母親の手首を掴み取る。
その華奢な腕を引いた途端……不意に彼の腕に叩いた様な衝撃が走った。
「なっ!?」
それは中年男性が伸ばした腕を、何者かの手が掴んで起こしたもの。
彼の腕を掴んだのは……若輩の警官だった。
「警部、残念ですが少し事情を尋ねたいので同行願えますか?」
彼の眼差しが鋭く向けられ、威圧にも足る視線が思わず中年男性を怯ませる。
「なっ……だから今のは誤解だと―――」
「警部……実は貴方に【救世同盟】関与の嫌疑が掛けられていたのですよ。 ですが今回の一件でハッキリとしました。 暴れなければ手荒な事はしません、署まで連行しますので大人しくしていてください」
その一言を受けた途端、中年警官の顔が青ざめていく。
己の置かれた状況を理解したのだろう……とうとう肩を落とし、ガクリと顔を俯かせた。
「園部心輝さん、ご協力ありがとうございます。 そしてご迷惑をお掛け致しました。 では……」
「お、おう……」
さしもの心輝も、この急展開にはさすがに驚いた様で。
勇の両親と揃い、見開いた眼で二人が去っていくのを茫然としながら見届けたのだった。
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