時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
788 / 1,197
第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」

~SIDE空蔵-04 深き愛ゆえに~

しおりを挟む
 現在時刻 日本時間19:56......

 カラクラの里攻略が順調に行われつつある現状で、キャンプ地では高官達が喜びの声を上げていた。
 ジョゾウ発見の報告が彼等の元まで届いていたからだ。

「ははは!! 鳥頭カシラ共も脆いもんだ……全く何で今までこうしなかったのか不思議でならんよ」

「いやいや、今のタイミングでいいんだよ。 イメージっていうもんがあるだろう? そういうのは徐々に醸成させていく方が信憑性が高いってもんだ」

 その片手にはビールの缶が掴まれ、机の上には空の缶も幾つか転がっている。
 四人程いる高官は皆、部下達の事など気にする事も無く酒を浴びる様に飲んではこの様にくっちゃべる……そんな怠惰を見せつけていた。



 彼等の言うイメージとはいわゆる、偽装工作ネガキャンの事だ。
 この作戦が行われる数日前から、彼等の計画は始まっていたのである。

 彼等は地元のテレビ局へ、こんな情報を送っていた。
 『友好的なはずのカラクラの里で、人の死体が見つかった』、『夜な夜なカラクラ族が近隣の人を攫っているのを目撃した』という情報を。

 もちろんそれはデマ……彼等がカラクラを追い詰める為に創ったフェイクニュースだ。

 しかしそれを信じた人がいれば、徐々に彼等への不信感は募る。
 そこで魔特隊が制圧したとなれば、正義は魔特隊にあると皆は信じて疑わない。
 それこそ魔特隊を支配した【救世同盟】の常套手段でもあったのだ。

 

 笑いを上げて雑談を楽しむ高官達。
 そんな彼等を他所に……突如、傍で指示を送る通信兵が堪らず声を上げた。

「何っ!? 一番隊の相沢瀬玲が!?」

 驚きを露わにする通信兵に気付き、歓談する高官達が視線を向ける。
 通信兵もまた、指示を求めるかのように彼等へ向けて顔をくるりと回して向けていた。

「どうした? 何があった?」
「そ、それが……一番隊の相沢瀬玲が現場に現れたそうです……作戦を妨害したとの事……」
「ん何ィ!?」

 彼等もまた現場の者達と同様、一番隊がこの現場に来るなどとは思いもしない。
 物理的に来れる可能性など無いに等しかったのだから。

 だが現実に彼女は現れた。

 一体何が起きたのか理解出来ぬ高官達はワナワナと肩を震えさせる。
 予期せぬ状況を前に、思い通りに行かない事から生まれた怒りの感情が沸々と湧き上がっていく。
 感情に身を任せた高官の一人が突如として声を張り上げた。

「ならば相沢瀬玲は反逆者だ!! さっさと始末しろ!!」
「りょ、了解……」

 怒号に怯んだ通信兵が慌てて通信を送る。
 その隣で、高官達が掴んでいたビール缶を握り潰し、床へと叩き付けていた。
 たちまち周囲に黄色の液体が撒き散らされ、アルコール独特の上気が場に立ち込めていく。

「バカな……何故一番隊がここに……奴等は鳥籠じゃあなかったのかッ!!」

「知った事か……だが一人でどうにかなる事ではあるまい? どうせすぐ済む……後は、適当に誤魔化して、死体はカラクラにでも殺された事にしておけばよかろう。 せっかくだ、むごたらしく死んで貰おうじゃないか。 そう、悲劇のヒロイン、残酷な魔者に惨殺される……とね」

 たちまちその場に溢れかえる笑い声。
 四人だけのものだったが、兵士すら少ない静かなその場を濁すには十分だった。





「なるほど、それはきっと皆悲しむ事でしょう……セリは強く美しい、皆の女神ですからね」





 その中を斬り裂く様に、鋭く澄んだ声が響いた。
 命力を乗せた声は、例え喧騒の中であろうとしっかりと届く。

 高官達にも当然それは聴こえていた。

 声に気付き、彼等は振り向く。
 その背後、何も居ないはずだった暗闇の空間へ。



 そこに立っていたのは……イシュライトだった。



 気配を殺し、誰にも気付かれず……彼はそこに居た。
 左手に何かしらの機械を持ち、彼等にひけらかしながら。

「文明の利器とはすばらしいものですね、この様に何でも簡単に再現出来てしまうのですから」

『―――せっかくだ、むごたらしく死んで貰おうじゃないか―――』

 それはボイスレコーダー。
 イシュライトが持ち合わせていた、ちょっとした遊び道具である。

「き、貴様は一番隊の……!!」
「何故貴様がここにいる!?」

 言質を録られていた事に気付いた四人が慌てふためく様を見せる。
 この様な事態の想定は愚か、遭った事すら無いのだろう……軍人とは思えぬ怯えを見せていた。

 それに対し、イシュライトは至って笑顔。
 ニコニコと笑顔を向ける様はまるで敵意を感じない。

 敵意を向けず、未だ佇んだままのイシュライトを前に、委縮していた高官達は次第に勢いを取り戻していく。
 そしてあろうことか……彼に追従するかの様に再び下卑た笑いを浮かべ始めた。

「ハ、ハハ……まぁそうだな、たった一人で現れたんだ……どうしようもないんだろう? つまり君の言い分はこうだ……そのレコーダーと何かしらの条件の交換。 なんだ、何が欲しい、自由か? 金か? もしかして女かぁ? 何ならワシらの仲間にしてやってもいいぞ?」

 一人がそう声を上げると、周囲の者達も釣られて笑いを上げ始める。
 再びその場が笑いに包まれるが……イシュライトは未だ笑顔を浮かべたまま、じっと佇み続けていた。

「なんだ、今なら何でも聞いてやるぞ? 今ワシらは非常に機嫌が良いからな!!」

 あまりの笑い声は周囲に居る通信兵達を怯ませるほど。
 いや……きっと怯んでいるのは別の理由……。
 厳密に言えば、その原因は彼等の耳に絶え間なく届く……魔特隊兵達の悲鳴。

 特異な状況にすら気付かず、ただ笑いを上げる高官達を前に……イシュライトは片笑窪を「クイッ」と上げた。

「では、全て頂きましょう。 私は我儘なのです」

「えっ……」

 その一瞬、何を言っているのか理解出来ぬ四人が揃って素っ頓狂な呆け声を漏らす。
 それを知ってか知らずか……イシュライトの顔には大きく、口を開いた万遍な笑顔を浮かばせた。





「貴方達の地位、名誉、金……そして命を頂きます。 それが貴方達に課せられた対価です」





 じわじわとイシュライトの発言を理解した高官達が笑いを止めて表情を強張らせていく。
 そして空かさず彼等の一人がいきり立ち、怒号にも足る声を張り上げた。

「誰かコイツを殺せェ!! 最上位命令だあッ!!」

 途端、その場に居合わせ銃を構えていた兵士達が一斉に発砲する。
 フルオートのマシンガンが火を噴き、イシュライトに向けて無数の銃弾が撃ち放たれた。



 だが、もうそこに彼の姿は無い。



 誰しもがその姿を見失い、目を疑う。
 銃弾が空しく夜の闇の中へと消え、狙いを失った銃口は左右に振れるのみ。

「―――全くもって残念です。 とても、ね……」

 その声が響くのは、虚無を注視していた彼等の背後。
 それに気付き、全員が振り向くが……そこにすら誰も居ない。
 堪らず周囲を見渡すが、彼の姿はどこにも見当たらない。

「なんだ、なにがどうなッ―――」

 兵士の一人がそう叫んだ時……その兵士は高く宙を舞っていた。
 頭上に張られたテントを突き破り、闇を落とす林の中へと消えていった。

「な―――」

 そしてもう一人、また一人……イシュライトの姿が見えぬまま、次々と打ち上げられていく。
 誰一人加減する事無く……その一撃の名の下に、空へと消えていった。

 気付けば残るは高官二人。
 通信兵すら、もはや空の彼方だ。

「な……なああ……ああああ!?」
「ひいいいい!?」

 残されたのは、先程彼に要求した者と、最も醜く笑いを向けた者。
 どちらもイシュライトという謎の存在に怯え、堪らず尻餅を突いた。

 彼等には全く見えていなかったのである。
 イシュライトが全員の死角を移動し、一人一人を掌底たった一発で吹き飛ばしていた事を。
 この身のこなしはもはや常人に捕らえる事叶わない。

 それは彼が持つ元々の力。
 イ・ドゥール族が誇る武芸の極みの一端である。

「さて、そんな貴方達に選んで頂きましょう……私に望む事を……今なら叶えて差し上げますよ」

 そんな甘言にも聞こえる誘いを前に、縋る様に二人が共に頭を何度も縦に振る。
 死にたくない……そんな一心が彼等をただひたすら従わせていた。



 だが、彼等が思う程……イ・ドゥール族は甘くはない。





「頭を潰されて楽に死ぬか、四肢をもがれて苦しんで死ぬか……それとも、お二人で殺し合いますか?」





 そこにもはや慈悲は無い。
 祖父ウィグルイを彷彿とさせる選択肢を前に、高官二人の開いた口が塞がらない。

 だがもう、彼等の口は二度と塞がる事は無かった。





 次の瞬間……二人肉片が空へとばら撒かれ、闇夜へと消えたのだった。





「―――私はセリに殺意を向けた貴方達を見て、今とても……機嫌が悪いのです……!!」

 その時見せたイシュライトの表情は、誰に見せた事も無い……修羅。
 愛する者を咎めようとするを、彼は絶対に許しはしない。

 それは彼の大きな愛ゆえに……。



 手に付いた血のりを振り払い、静かとなったキャンプ地でイシュライトが一人佇む。
 椅子を見つけると、そっとそれに座り……再びボイスレコーダーを弄り始めた。

「セリ……きっと今頃楽しんでいるのでしょうね……私も楽しみたかった。 あまりにも残念でなりません」

 グリュダンの出現や今回の戦いで暴れられると踏んでいた彼の期待も無為に消え、虚しさから生まれた溜息が口から漏れる。
 戦闘民族である彼等にとって、今回の戦いは拍子抜けだった様だ。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...