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第二十九節「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
~その想定外 落胆~
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問題を解決した勇達を待っていたのは、怒り狂う笠本であった。
「……それで結果、三・四番隊の皆さんは全員逃亡、現在行方知れずという訳ですか」
「……はい、すいません……」
プンスコと頬を膨らませて怒る笠本の前に立つのは、しょげる勇。
先程の戦いとは打って変わって情けない姿を見せる彼に、茶奈達は笑いを堪えるので精一杯だ。
理不尽な怒りならともかく、正論を前に勇が反論できる程の知恵を持っている訳では無く。
それと言うのも……笠本も茶奈達と同じ気持ちを以って彼等を向かわせたからだ。
勇がやってくれるであろう、彼等への〝躾〟が叶う事を願って。
「アンディ君とナターシャさんの様に更生してくれる事を期待していたのに、なんでこうなるんですか?」
「それはその……えっと……」
「確かに彼等はマジでムカつくキモい奴等でしたけど、やり過ぎなんじゃないですか!?」
「ささもっちゃん、本音、本音漏れてる」
そこで漏れたのは以前の様なノリでの声。
だが空かさず笠本の鋭い視線が返され、マヴォが堪らず目を逸らす。
眼鏡から反射される日光がまるでレーザーの様に突き刺さり、目を逸らしていてもわかる程に痛い視線が浴びせられていた。
相変わらずマヴォは笠本の事が苦手な様だ。
「……とりあえず、起きた事は仕方ありませんが……彼等を捕らえるまで時間かかりそうですね……はぁ」
これからの事を思うと、笠本の溜息が止まらない。
それもそのはず……彼等三・四番隊の魔剣使い達はいずれも、他国から連れてこられたはみ出し者達だった。
『こちら側』の文化に順応せず、自分達が強いが故に好き放題し、厄介払いされたのである。
幸い小嶋の思惑もあってか給料も払うという事で、各国はこれ見よがしに日本に押し付けたという訳だ。
そんな彼等を縛り付ける事が魔特隊という看板だったが……外に出て行ってしまえば、彼等が何をするかは検討も付く。
まるで猛獣を檻から出した様なものだ、放って置ける訳が無い。
バロルフ並みの戦闘力を持つのであれば捕まえるのは容易ではないが、それ以外であれば現状の対魔兵装でも事足りるとの事で、勇達が出張る必要も無いのが幸いと言った所か。
ちなみにバロルフ本人はあの後勇達によって拘束され、現在は病室に隔離中。
もちろん拘束バンドによって完全拘束され、身動き一つ取れない状態だ。
拘束バンドは以前ブラジルで使用した物よりも強烈な最新型なので安心である。
「……安心な訳ありません、誰があの猛獣の面倒を見るんですか……私は嫌です。 いっそトドメ指してくれた方がありがたいです」
「ささもっちゃん……」
笠本も散々嫌な思いをしてきたのだろう。
彼女の口から漏れる毒気は仲間達の失笑を漏れなく呼び込む。
茶奈だけは同感だったのか、一人「ウンウン」と頷く様を見せてはいるが。
「まぁ確かに嫌な奴なのはわかるさ……でも殺したらダメだ。 それじゃ感情は収まっても憎しみが留まるから」
憎しみが留まる……それは憎しみという感情のレベルが上がってしまうという事。
それは衝動を抑える基準を引き下げる事に他ならないのである。
人の心は一つのキッカケがあれば大きく変わる。
もし誰でも人を殺せば、例え最初に悪寒を憶えても、次が訪れた時は慣れてしまう。
人とはその様に出来ている生き物だ。
それでも人には感情がある。
衝動を抑える事が出来る。
それを抑え、自分の中で消化する事で人は人でいられるのだ。
衝動に従ってしまえば、それはただの獣と変わりはしないのだから。
「……そうですね、言い過ぎました、ごめんなさい」
「あ、いや、気持ちはわかるから……ね?」
「はい……」
気付けば立場は変わり、勇が笠本を宥める形に。
さすがに笠本も反省し、それ以上の敵意を向ける事は無かった。
「とりあえず、勇さん達はミーティングルームで待機願います。 福留先生はあと二時間程したら来られるとの事ですので、それまで談笑でもしていてください」
「わかった。 じゃあ皆で待ってる事にするよ」
勇が相変わらずの笑顔を見せ、茶奈達に合図を送る。
皆も二人の会話が聞こえている訳で……ほんの雑談を交えながら部屋の外へと去っていった。
勇も彼等に続き振り向こうとその身を揺らす。
そんな時ふと、勇の服の袖が引っ張られた。
彼の袖を引いたのは、恥ずかしそうに頬を赤らめながら視線を外す笠本だった。
「え、何ですか……?」
もじもじと身をよじらせる笠本。
そんな彼女を前に、勇もまた何かを感じ……思わず頬を赤く染めた。
「えっと……ですね……その……」
そう口を詰まらせる笠本はどこか大人の色気を醸し出す。
意識してみればスーツが体のラインにぴっちりと合っており、それがどこか艶めかしく見えて……。
気付けば勇の胸が妙な高鳴りを見せていた。
「笠本さん……?」
仲間達はもういない。
この場に居るのは二人だけだ。
「藤咲さん……」
その時、笠本がもう片手をそっと机の引き出しへと添える。
引き出しを開き、中から何かを取り出すと……勇へと差し出したのだった。
それは見るからに清潔感の溢れる様相。
グリーンを基調とした白のボディに、鮮やかな紋様や柄が描かれている。
対し、まるで龍の首を模したデザインが目を惹き、思わず勇の瞳を見開かせた。
そこに描かれていたのは……「除菌・消臭・ファヴニーズ」という文字。
「ミーティングルームの除菌をお願いします……」
真っ先に「除菌」という言葉が出る辺り、未だ憎しみらしき感情が燻っている様だ。
今までの事を想像すれば仕方の無い事ではあるが。
「……う、うん、わかった……」
確かに臭いもきつかった。
彼女も魔剣使い達がたむろした部屋に行き辛いのだろう……物理的な意味で。
掃除をするであろうレンネィの出勤時刻もまだ先、除菌するには勇達がうってつけ。
それをなんとなく察してしまったからこそ、勇はしっかりとファヴニーズを受け取る。
疚しい心を持ってしまった事に僅かながら反省しつつ、勇はそそくさと仲間達の後を付いていくのだった。
「……それで結果、三・四番隊の皆さんは全員逃亡、現在行方知れずという訳ですか」
「……はい、すいません……」
プンスコと頬を膨らませて怒る笠本の前に立つのは、しょげる勇。
先程の戦いとは打って変わって情けない姿を見せる彼に、茶奈達は笑いを堪えるので精一杯だ。
理不尽な怒りならともかく、正論を前に勇が反論できる程の知恵を持っている訳では無く。
それと言うのも……笠本も茶奈達と同じ気持ちを以って彼等を向かわせたからだ。
勇がやってくれるであろう、彼等への〝躾〟が叶う事を願って。
「アンディ君とナターシャさんの様に更生してくれる事を期待していたのに、なんでこうなるんですか?」
「それはその……えっと……」
「確かに彼等はマジでムカつくキモい奴等でしたけど、やり過ぎなんじゃないですか!?」
「ささもっちゃん、本音、本音漏れてる」
そこで漏れたのは以前の様なノリでの声。
だが空かさず笠本の鋭い視線が返され、マヴォが堪らず目を逸らす。
眼鏡から反射される日光がまるでレーザーの様に突き刺さり、目を逸らしていてもわかる程に痛い視線が浴びせられていた。
相変わらずマヴォは笠本の事が苦手な様だ。
「……とりあえず、起きた事は仕方ありませんが……彼等を捕らえるまで時間かかりそうですね……はぁ」
これからの事を思うと、笠本の溜息が止まらない。
それもそのはず……彼等三・四番隊の魔剣使い達はいずれも、他国から連れてこられたはみ出し者達だった。
『こちら側』の文化に順応せず、自分達が強いが故に好き放題し、厄介払いされたのである。
幸い小嶋の思惑もあってか給料も払うという事で、各国はこれ見よがしに日本に押し付けたという訳だ。
そんな彼等を縛り付ける事が魔特隊という看板だったが……外に出て行ってしまえば、彼等が何をするかは検討も付く。
まるで猛獣を檻から出した様なものだ、放って置ける訳が無い。
バロルフ並みの戦闘力を持つのであれば捕まえるのは容易ではないが、それ以外であれば現状の対魔兵装でも事足りるとの事で、勇達が出張る必要も無いのが幸いと言った所か。
ちなみにバロルフ本人はあの後勇達によって拘束され、現在は病室に隔離中。
もちろん拘束バンドによって完全拘束され、身動き一つ取れない状態だ。
拘束バンドは以前ブラジルで使用した物よりも強烈な最新型なので安心である。
「……安心な訳ありません、誰があの猛獣の面倒を見るんですか……私は嫌です。 いっそトドメ指してくれた方がありがたいです」
「ささもっちゃん……」
笠本も散々嫌な思いをしてきたのだろう。
彼女の口から漏れる毒気は仲間達の失笑を漏れなく呼び込む。
茶奈だけは同感だったのか、一人「ウンウン」と頷く様を見せてはいるが。
「まぁ確かに嫌な奴なのはわかるさ……でも殺したらダメだ。 それじゃ感情は収まっても憎しみが留まるから」
憎しみが留まる……それは憎しみという感情のレベルが上がってしまうという事。
それは衝動を抑える基準を引き下げる事に他ならないのである。
人の心は一つのキッカケがあれば大きく変わる。
もし誰でも人を殺せば、例え最初に悪寒を憶えても、次が訪れた時は慣れてしまう。
人とはその様に出来ている生き物だ。
それでも人には感情がある。
衝動を抑える事が出来る。
それを抑え、自分の中で消化する事で人は人でいられるのだ。
衝動に従ってしまえば、それはただの獣と変わりはしないのだから。
「……そうですね、言い過ぎました、ごめんなさい」
「あ、いや、気持ちはわかるから……ね?」
「はい……」
気付けば立場は変わり、勇が笠本を宥める形に。
さすがに笠本も反省し、それ以上の敵意を向ける事は無かった。
「とりあえず、勇さん達はミーティングルームで待機願います。 福留先生はあと二時間程したら来られるとの事ですので、それまで談笑でもしていてください」
「わかった。 じゃあ皆で待ってる事にするよ」
勇が相変わらずの笑顔を見せ、茶奈達に合図を送る。
皆も二人の会話が聞こえている訳で……ほんの雑談を交えながら部屋の外へと去っていった。
勇も彼等に続き振り向こうとその身を揺らす。
そんな時ふと、勇の服の袖が引っ張られた。
彼の袖を引いたのは、恥ずかしそうに頬を赤らめながら視線を外す笠本だった。
「え、何ですか……?」
もじもじと身をよじらせる笠本。
そんな彼女を前に、勇もまた何かを感じ……思わず頬を赤く染めた。
「えっと……ですね……その……」
そう口を詰まらせる笠本はどこか大人の色気を醸し出す。
意識してみればスーツが体のラインにぴっちりと合っており、それがどこか艶めかしく見えて……。
気付けば勇の胸が妙な高鳴りを見せていた。
「笠本さん……?」
仲間達はもういない。
この場に居るのは二人だけだ。
「藤咲さん……」
その時、笠本がもう片手をそっと机の引き出しへと添える。
引き出しを開き、中から何かを取り出すと……勇へと差し出したのだった。
それは見るからに清潔感の溢れる様相。
グリーンを基調とした白のボディに、鮮やかな紋様や柄が描かれている。
対し、まるで龍の首を模したデザインが目を惹き、思わず勇の瞳を見開かせた。
そこに描かれていたのは……「除菌・消臭・ファヴニーズ」という文字。
「ミーティングルームの除菌をお願いします……」
真っ先に「除菌」という言葉が出る辺り、未だ憎しみらしき感情が燻っている様だ。
今までの事を想像すれば仕方の無い事ではあるが。
「……う、うん、わかった……」
確かに臭いもきつかった。
彼女も魔剣使い達がたむろした部屋に行き辛いのだろう……物理的な意味で。
掃除をするであろうレンネィの出勤時刻もまだ先、除菌するには勇達がうってつけ。
それをなんとなく察してしまったからこそ、勇はしっかりとファヴニーズを受け取る。
疚しい心を持ってしまった事に僅かながら反省しつつ、勇はそそくさと仲間達の後を付いていくのだった。
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