814 / 1,197
第二十九節「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
~その立回り 憤り~
しおりを挟む
翌日、土曜日。
早く寝床に就いたという事もあって、ナターシャの朝は早かった。
裸のまま寝てしまった事に慌てつつも、洗わないまま出てきた事を思い出し、再びシャワーを浴びる。
それがどうにも気持ち良くて……先日の想いを全て洗い落とすかの様で。
気付けば長く浴び続けていた。
上がった頃には既にアンディは家を出た後。
レンネィも出勤の準備を始めていた。
「ナッティ、遅いわよぉ?」
「ごめんママ、朝ご飯は?」
「ほらこれ」
差し出されたのはトースト。
おあつらえ向きと言えばその通りだが、空かさずそこにレンネィが言葉を連ねる。
「あんまりゆっくりしていられないからって咥えて行っちゃだめよぉ?」
一体どこで得た知識なのか。
そんな一言を添えると、思わずナターシャの嘲笑を呼ぶ。
「ボクはシンパパみたいな事はしないもん」
本当は「シンパパが教えた様な事はしない」と言いたかったのだろうが、妙な一言へと摩り替った事がレンネィのツボを強く突いた。
「シンがパンを咥え……ブフッ!!」
女の子がパンを咥えて走るなど、少女漫画ではよくある事だが……大の男がパンを咥えて走るシーンなど目新しいにも程がある。
心輝の無様とも言えるシーンを想像したレンネィは思わず膝を抱えて大笑いをあげていた。
「ナッティほんと!! 相変わらずねぇ!! アッハハ!!」
笑いを上げるレンネィを前に、ナターシャは不機嫌に「ぷぅ」と頬を膨らませる。
でもそんなレンネィの姿がどこか、昨日話をした竜星と被り……
気付けば、彼女もまた大きな笑い声を上げていた……。
◇◇◇
麗陽学園では、月の第一週と第三週目の土曜日が登校日となっている。
今週は第三土曜日……昼までの四時限だけであるが、いつもと変わらぬ登校の様子が訪れるのである。
教室へと辿り着いたナターシャが最初に視界に映したのは、竜星だった。
入口の後方二列目にある彼女の席に対し、竜星は窓際中腹。
教室の裏から入って来たとあればそうなるのも必然だろう。
竜星もまた彼女が来るのを待っていたのか顔を入り口側へと向けており、互いに気付くと手を振って挨拶を交わした。
声で挨拶するのはさすがに恥ずかしかったのだろう。
こうして、その日の学校生活が始まりを告げた。
とはいえ、四時限だけともあれば、過ぎるのはあっという間で。
気付けば授業は終わり、放課後が訪れていた。
そうともなれば、いつもの様に教室はアンディを中心に会話で一杯になる。
「やったー! 授業終わったぁ~!!」
「ねぇねぇアンディ君、この後皆で遊びに行かね?」
「お、いいね!」
「じゃあさ、カラオケとかどう? その後御飯も皆で一緒にさ」
「おお~!」
そんな話題で盛り上がりを見せ、教室が笑い声に包まれる。
それを話の外の者までもが楽しそうに眺め、あるいは仲間に入れてと手を挙げる。
気付けば先日の規模などを越え、クラスの半数が集まっていた。
「じゃあ晩飯はサイゼリ屋とか?」
「カラオケで食べればいいんじゃね?」
「もうそれでいいなぁ、もうぶっ通しでいかね?」
しかしアンディはと言えば、頷くだけで提案は無し。
先日のレンネィとの約束の手前、頷けない様にも見えた。
その時、仲間の一人がアンディへと話題を振る。
「アンディは何か案あるか?」
「え? あぁ……いや、いいんじゃねぇか? 俺もそれでいいよ」
「よしケッテーイ!!」
流れる様に話が纏まり、皆が盛り上がる。
彼等の決定に最初は苦笑していたアンディも……盛り上がりが強くなると、まるで乗り気の様に笑いを上げていた。
同調し、仲間達と共に笑い合う。
そこに居たのは、人気者という立場を享受する一人の少年に過ぎなかったのだ。
だが、そんな彼を前に……聞き耳を立てていたナターシャが突如怒り、奮い立った。
「アニキッ!! なんで!! 今日はママとご飯食べに行くって言ってたじゃないか!!」
アンディも楽しみな風に声を上げていたはずだった。
でも、今もまた楽しみな様に見えて。
どっちが本当で、どっちが嘘なのかわからなくて。
本当はレンネィを愛してはいないんじゃないか。
本当はクラスの仲間達を友人だと思っていないんじゃないか。
そんな不安が彼女の怒りを焚き付けたのである。
だがその時アンディから向けられたのは……敵意の滲む、鋭い眼だった。
「は? ナッティ……お前、何言ってくれてんだ……?」
そして浴びせられた声は、腹の奥底から湧き上がる様に低く唸る様な声色。
その視線、その声を向けられた瞬間、怒りを上げていたはずのナターシャの声が詰まる。
息も詰まり、彼女の体もが……途端に身動きを止めた。
「お前……いい加減言葉に気を付けろって言っただろ? いつまで子供のままなんだよ……ッ!」
「ア……アニキ……」
二人のやり取りを前に、教室が凍り付く。
アンディの言葉もまた感情を乗せた声。
それを耳にした仲間達が思わず顔を強張らせる程の……強い怒り。
アンディがナターシャを忌避し続けたのには理由があった。
それは彼女の言動が考え足らず過ぎる事だ。
その傾向は二年前からあった。
厳密に言えば、アンディが魔剣【レイデッター】を受け渡してから。
今までは、二人が持つ魔剣【レイデッター】と【ウェイグル】の持つ特殊能力【共感覚】によって二人の意思が混ざり合い、共通の意思を持つ事が出来た。
それによってアンディの強気な意識や知恵がナターシャにも備わり、彼女を普通に仕立てていたのだ。
魔剣を得る以前はまだ子供だったからという事もあって、気付きはしなかったのだろう。
しかし魔剣の恩恵が無くなった今、ナターシャは限りなくありのままに戻っていたのだ。
ありのままとは……彼女の知能が低いというの事。
覚える事に弱く、実践する事に弱い。
人よりも多く繰り返さなければ身に付かない。
身に付くのは感覚的な事だけ……それも続けなければ忘れていく。
そんな彼女に嫌気が差したのだ。
いつか、今の成功した自分を引っ張る事が恐ろしくて。
そして今実際に、ナターシャがアンディを辱めている。
彼女がそれに気付かずとも……彼はもう、それが我慢ならなかったのである。
「プッ、何、アニキって……任侠?」
「あ、それな、昔そう呼ばれてたんだよ……恥ずかしいなー」
「つかアンディ、ナターシャの事ナッティって呼んでるんだ?」
「それも昔の敬称ってやつだよ、ハハ……つい出ちまった!」
気まずい空気を和らげる様に、仲間達がアンディを突く。
それをゆるりと躱し、笑みを浮かべるも……彼の目は笑ってはいなかった。
一点にナターシャへ向けて、鋭い眼光をぶつけて続けていたのである。
それを前にナターシャは恐怖を憶え、身動き一つ取れないまま。
そんな事など露知らず、仲間達の声は次第にエスカレートし始めた。
「ナッティ~アンタまだ『ママ』とか言っちゃってるの~? はっずぅ~!」
「そうだぜナッティ~、アンディ困ってるじゃん? 少しは頭使った方がいいんじゃね?」
嘲笑が次第に強くなり、ナターシャへのあたりが強くなっていく。
その間も、ナターシャは静かに震えながら……皆の声を耐え忍んでいた。
「ナッティ~、アンタさ、ちょっとアンディ君に頼り過ぎじゃね? ぶっちゃけキモい」
「ナッティ~、ナッティ~!!」
気付けば声は教室中に広まり、まるで教室全体が彼女を責め立てる様になっていた。
彼等にとっても、彼女はただ面倒な人間にしか過ぎなかったのだ。
アンディに付きまとう……金魚のフンの様な存在としか思っていなかったのである。
バシャッ!!
その時、ナターシャの頭部に何かが投げ付けられた。
それは牛乳パック……誰かが飲んでいた飲み掛けの物である。
たちまち彼女の頭に牛乳が巻き散らかされ、赤い髪に白の液体がべしゃりと降りかかった。
「良かったね~ナッティ、白い肌がますます白くなっちゃった~!」
その声はアンディの取り巻きの女の子の一人。
牛乳パックを投げつけた本人である。
しかし彼等の中からは誰も心配する声は上がらない。
むしろ嘲笑を続け、彼女をあざ笑う。
アンディもまた、「おいおい、酷いなぁ」などと言いつつも彼等と共に笑い合っていた。
ナターシャはただ静かに押し黙り……惨状を受け入れていく。
「皆いい加減にしろよ!!」
突如、教室の陰険な空気を引き裂く怒鳴り声が響き渡った。
途端、騒がしかった室内が沈黙し……彼等の視線が声の方へと向けられる。
ナターシャの視線もまた同様に。
それは教室の窓際……そこに立つのは竜星。
「なんで皆そんなにナターシャちゃんを責めるんだよ……彼女は何も悪い事してないじゃないか!!」
そんな彼の手は……震えていた。
竜星は決して勇気がある子ではない。
どちらかと言えば臆病な方なのだろう。
でも、好きな子がイジメられれば……そんな少年でも、奮い立つ。
許せる訳が無いのだから。
だが……その一言が、彼等の行動を更にエスカレートさせる事になるとは思わなかったのだろう。
「ちょっと乾……お前、もしかしてナッティの事好きなの?」
「ナターシャちゃーんって!! 笑う!!」
そんな返しが来て初めて、竜星は気付く。
自分がまた失言をしていた事に。
それがどうにも恥ずかしくて……思わず竜星の口元が震え始めていた。
「ナッティ~好き~って言ってみてよ!! アンタ達付き合えるって!!」
「ギャハハハ!!」
その間、アンディは黙りっぱなしだったが……見下した視線を竜星へと向けていた。
まるで憐れむ様に……細く冷たい瞳を浮かべて。
すると何を思ったのか……ナターシャが鞄を一掴みし、室内から飛び出した。
アンディの視線が反れ、重圧が途切れたからだろう。
この場に居る事が居た堪れなくなって。
気付けば全力で……駆け抜けていた。
「ナ、ナターシャさんッ!!」
竜星も彼女を追う様に駆け抜け……二人揃って、その場から姿を消したのだった。
「……皆、ごめんな……騒がせちまった」
後に残ったアンディは仲間達へと陳謝を送る。
しかし彼等はそんな事気にする事も無く……彼を励まし、いつもの様子へと戻すのだった。
早く寝床に就いたという事もあって、ナターシャの朝は早かった。
裸のまま寝てしまった事に慌てつつも、洗わないまま出てきた事を思い出し、再びシャワーを浴びる。
それがどうにも気持ち良くて……先日の想いを全て洗い落とすかの様で。
気付けば長く浴び続けていた。
上がった頃には既にアンディは家を出た後。
レンネィも出勤の準備を始めていた。
「ナッティ、遅いわよぉ?」
「ごめんママ、朝ご飯は?」
「ほらこれ」
差し出されたのはトースト。
おあつらえ向きと言えばその通りだが、空かさずそこにレンネィが言葉を連ねる。
「あんまりゆっくりしていられないからって咥えて行っちゃだめよぉ?」
一体どこで得た知識なのか。
そんな一言を添えると、思わずナターシャの嘲笑を呼ぶ。
「ボクはシンパパみたいな事はしないもん」
本当は「シンパパが教えた様な事はしない」と言いたかったのだろうが、妙な一言へと摩り替った事がレンネィのツボを強く突いた。
「シンがパンを咥え……ブフッ!!」
女の子がパンを咥えて走るなど、少女漫画ではよくある事だが……大の男がパンを咥えて走るシーンなど目新しいにも程がある。
心輝の無様とも言えるシーンを想像したレンネィは思わず膝を抱えて大笑いをあげていた。
「ナッティほんと!! 相変わらずねぇ!! アッハハ!!」
笑いを上げるレンネィを前に、ナターシャは不機嫌に「ぷぅ」と頬を膨らませる。
でもそんなレンネィの姿がどこか、昨日話をした竜星と被り……
気付けば、彼女もまた大きな笑い声を上げていた……。
◇◇◇
麗陽学園では、月の第一週と第三週目の土曜日が登校日となっている。
今週は第三土曜日……昼までの四時限だけであるが、いつもと変わらぬ登校の様子が訪れるのである。
教室へと辿り着いたナターシャが最初に視界に映したのは、竜星だった。
入口の後方二列目にある彼女の席に対し、竜星は窓際中腹。
教室の裏から入って来たとあればそうなるのも必然だろう。
竜星もまた彼女が来るのを待っていたのか顔を入り口側へと向けており、互いに気付くと手を振って挨拶を交わした。
声で挨拶するのはさすがに恥ずかしかったのだろう。
こうして、その日の学校生活が始まりを告げた。
とはいえ、四時限だけともあれば、過ぎるのはあっという間で。
気付けば授業は終わり、放課後が訪れていた。
そうともなれば、いつもの様に教室はアンディを中心に会話で一杯になる。
「やったー! 授業終わったぁ~!!」
「ねぇねぇアンディ君、この後皆で遊びに行かね?」
「お、いいね!」
「じゃあさ、カラオケとかどう? その後御飯も皆で一緒にさ」
「おお~!」
そんな話題で盛り上がりを見せ、教室が笑い声に包まれる。
それを話の外の者までもが楽しそうに眺め、あるいは仲間に入れてと手を挙げる。
気付けば先日の規模などを越え、クラスの半数が集まっていた。
「じゃあ晩飯はサイゼリ屋とか?」
「カラオケで食べればいいんじゃね?」
「もうそれでいいなぁ、もうぶっ通しでいかね?」
しかしアンディはと言えば、頷くだけで提案は無し。
先日のレンネィとの約束の手前、頷けない様にも見えた。
その時、仲間の一人がアンディへと話題を振る。
「アンディは何か案あるか?」
「え? あぁ……いや、いいんじゃねぇか? 俺もそれでいいよ」
「よしケッテーイ!!」
流れる様に話が纏まり、皆が盛り上がる。
彼等の決定に最初は苦笑していたアンディも……盛り上がりが強くなると、まるで乗り気の様に笑いを上げていた。
同調し、仲間達と共に笑い合う。
そこに居たのは、人気者という立場を享受する一人の少年に過ぎなかったのだ。
だが、そんな彼を前に……聞き耳を立てていたナターシャが突如怒り、奮い立った。
「アニキッ!! なんで!! 今日はママとご飯食べに行くって言ってたじゃないか!!」
アンディも楽しみな風に声を上げていたはずだった。
でも、今もまた楽しみな様に見えて。
どっちが本当で、どっちが嘘なのかわからなくて。
本当はレンネィを愛してはいないんじゃないか。
本当はクラスの仲間達を友人だと思っていないんじゃないか。
そんな不安が彼女の怒りを焚き付けたのである。
だがその時アンディから向けられたのは……敵意の滲む、鋭い眼だった。
「は? ナッティ……お前、何言ってくれてんだ……?」
そして浴びせられた声は、腹の奥底から湧き上がる様に低く唸る様な声色。
その視線、その声を向けられた瞬間、怒りを上げていたはずのナターシャの声が詰まる。
息も詰まり、彼女の体もが……途端に身動きを止めた。
「お前……いい加減言葉に気を付けろって言っただろ? いつまで子供のままなんだよ……ッ!」
「ア……アニキ……」
二人のやり取りを前に、教室が凍り付く。
アンディの言葉もまた感情を乗せた声。
それを耳にした仲間達が思わず顔を強張らせる程の……強い怒り。
アンディがナターシャを忌避し続けたのには理由があった。
それは彼女の言動が考え足らず過ぎる事だ。
その傾向は二年前からあった。
厳密に言えば、アンディが魔剣【レイデッター】を受け渡してから。
今までは、二人が持つ魔剣【レイデッター】と【ウェイグル】の持つ特殊能力【共感覚】によって二人の意思が混ざり合い、共通の意思を持つ事が出来た。
それによってアンディの強気な意識や知恵がナターシャにも備わり、彼女を普通に仕立てていたのだ。
魔剣を得る以前はまだ子供だったからという事もあって、気付きはしなかったのだろう。
しかし魔剣の恩恵が無くなった今、ナターシャは限りなくありのままに戻っていたのだ。
ありのままとは……彼女の知能が低いというの事。
覚える事に弱く、実践する事に弱い。
人よりも多く繰り返さなければ身に付かない。
身に付くのは感覚的な事だけ……それも続けなければ忘れていく。
そんな彼女に嫌気が差したのだ。
いつか、今の成功した自分を引っ張る事が恐ろしくて。
そして今実際に、ナターシャがアンディを辱めている。
彼女がそれに気付かずとも……彼はもう、それが我慢ならなかったのである。
「プッ、何、アニキって……任侠?」
「あ、それな、昔そう呼ばれてたんだよ……恥ずかしいなー」
「つかアンディ、ナターシャの事ナッティって呼んでるんだ?」
「それも昔の敬称ってやつだよ、ハハ……つい出ちまった!」
気まずい空気を和らげる様に、仲間達がアンディを突く。
それをゆるりと躱し、笑みを浮かべるも……彼の目は笑ってはいなかった。
一点にナターシャへ向けて、鋭い眼光をぶつけて続けていたのである。
それを前にナターシャは恐怖を憶え、身動き一つ取れないまま。
そんな事など露知らず、仲間達の声は次第にエスカレートし始めた。
「ナッティ~アンタまだ『ママ』とか言っちゃってるの~? はっずぅ~!」
「そうだぜナッティ~、アンディ困ってるじゃん? 少しは頭使った方がいいんじゃね?」
嘲笑が次第に強くなり、ナターシャへのあたりが強くなっていく。
その間も、ナターシャは静かに震えながら……皆の声を耐え忍んでいた。
「ナッティ~、アンタさ、ちょっとアンディ君に頼り過ぎじゃね? ぶっちゃけキモい」
「ナッティ~、ナッティ~!!」
気付けば声は教室中に広まり、まるで教室全体が彼女を責め立てる様になっていた。
彼等にとっても、彼女はただ面倒な人間にしか過ぎなかったのだ。
アンディに付きまとう……金魚のフンの様な存在としか思っていなかったのである。
バシャッ!!
その時、ナターシャの頭部に何かが投げ付けられた。
それは牛乳パック……誰かが飲んでいた飲み掛けの物である。
たちまち彼女の頭に牛乳が巻き散らかされ、赤い髪に白の液体がべしゃりと降りかかった。
「良かったね~ナッティ、白い肌がますます白くなっちゃった~!」
その声はアンディの取り巻きの女の子の一人。
牛乳パックを投げつけた本人である。
しかし彼等の中からは誰も心配する声は上がらない。
むしろ嘲笑を続け、彼女をあざ笑う。
アンディもまた、「おいおい、酷いなぁ」などと言いつつも彼等と共に笑い合っていた。
ナターシャはただ静かに押し黙り……惨状を受け入れていく。
「皆いい加減にしろよ!!」
突如、教室の陰険な空気を引き裂く怒鳴り声が響き渡った。
途端、騒がしかった室内が沈黙し……彼等の視線が声の方へと向けられる。
ナターシャの視線もまた同様に。
それは教室の窓際……そこに立つのは竜星。
「なんで皆そんなにナターシャちゃんを責めるんだよ……彼女は何も悪い事してないじゃないか!!」
そんな彼の手は……震えていた。
竜星は決して勇気がある子ではない。
どちらかと言えば臆病な方なのだろう。
でも、好きな子がイジメられれば……そんな少年でも、奮い立つ。
許せる訳が無いのだから。
だが……その一言が、彼等の行動を更にエスカレートさせる事になるとは思わなかったのだろう。
「ちょっと乾……お前、もしかしてナッティの事好きなの?」
「ナターシャちゃーんって!! 笑う!!」
そんな返しが来て初めて、竜星は気付く。
自分がまた失言をしていた事に。
それがどうにも恥ずかしくて……思わず竜星の口元が震え始めていた。
「ナッティ~好き~って言ってみてよ!! アンタ達付き合えるって!!」
「ギャハハハ!!」
その間、アンディは黙りっぱなしだったが……見下した視線を竜星へと向けていた。
まるで憐れむ様に……細く冷たい瞳を浮かべて。
すると何を思ったのか……ナターシャが鞄を一掴みし、室内から飛び出した。
アンディの視線が反れ、重圧が途切れたからだろう。
この場に居る事が居た堪れなくなって。
気付けば全力で……駆け抜けていた。
「ナ、ナターシャさんッ!!」
竜星も彼女を追う様に駆け抜け……二人揃って、その場から姿を消したのだった。
「……皆、ごめんな……騒がせちまった」
後に残ったアンディは仲間達へと陳謝を送る。
しかし彼等はそんな事気にする事も無く……彼を励まし、いつもの様子へと戻すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる