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第二十九節「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
~その仲蔑む 視線~
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昼過ぎから始まったデートは時間を忘れさせ、気付けば夕刻。
とはいえ六月ともなれば日暮れは遅め、まだ空は青いまま。
未だ多くの人が道行くその街で、ナターシャと竜星が足を止めて休む姿があった。
そんな彼女達を……遠くで見つめる影。
それは見慣れた制服を纏う四人の女。
そう……アンディと一緒に居るはずの、彼の取り巻きの女生徒達だった。
時は僅かに遡り……
二人が楽しそうに街を練り歩く、そんな時。
四人の女生徒の筆頭、如月 美愛は憤っていた。
それは何故か。
アンディに逃げられたのだ。
厳密に言えば、遊んでいる途中で彼が気分を理由に帰宅したのである。
その理由は「ナターシャとの事で気持ちが落ち着かず、気乗りがしない」というもの。
彼女は言わずともわかる通り、アンディの事が好きだった。
だからこそ先日や今日の様に遊びに誘い、あわよくばその事を告白するつもりだったのである。
しかしその思惑を事もあろうかナターシャに潰されてしまった。
それは言うなれば逆恨みの様なものであるが、如月には間接的であろうとも邪魔をしたナターシャの事が憎くてしょうがなかったのである。
そういう事もあって……言い出しっぺであった彼女達もがこうして抜け出し、イライラをぶつける場所を探しているという訳だ。
「あームカつく……はぁー……」
「美愛、大丈夫だってェ、次もチャンスあるって」
「それはわかってるけどさぁ~……ナッティマジで許せねーし」
友人の三人が宥めるも、如月のイライラは止まらない。
苛立ちの余りにロールした横髪を引き、くしゃりと潰す。
僅かに乱れて跳ねた髪型が、怒りを象徴する様であった。
するとそんな時、友人の一人が「あっ」と声を上げて思わずその歩を止める。
それに気付いた如月達が続き足を止め、その友人が差していた指の先へと視線を向けた。
その先に居たのは……ナターシャと竜星だった。
そう、如月達もアンディ達とこの場所へ遊びに来ていたのである。
そうとは露も知らずに此処を選んだナターシャと竜星の不運な事か。
偶然にも二人を見つけた如月達は……揃って驚きの表情を浮かべていた。
それもそのはず……気の弱いと思っていた二人が如何にもキメた格好で街を闊歩していたのだから。
そんな二人を前に、如月達に嫉妬にも足る感情が沸々と湧き上がっていく。
「ナッティの分際で……何アレ、ふざけてる……」
「あれ乾じゃん……あの二人、マジで付き合ってるんじゃ」
それと同時に湧き上がるのは動揺。
寄りにもよって憎たらしいナターシャが楽しそうに男と歩いているのだ。
自分達には彼氏の一人も居ないのに。
出遅れたとも言える状況に焦りすら感じさせていた。
怒り、憎しみ、妬み、焦り。
様々な感情が如月の心を掻きまわし、堪らず歯を「ガチガチ」とかち鳴らさせる。
そしてその感情が掻き回し続けた結果……彼女は一つの結論を導き出した。
「アイツ許せない……ねぇ皆、アレやるよ」
その一言を前に、友人達も静かに頷く。
彼女達はそれが何なのか、よく知っていたから。
ナターシャと竜星が歩みを止め、オープンカフェでくつろぎ始めた時……彼女達は二人に怪しい眼光をぶつけながら、何者かへ向けて連絡を取り始めていた。
アンディとナターシャが休憩に選んだのは、僅かな座席が外に並ぶ内外一体式のカフェだ。
車通りの殆ど無い商店街の様な通りともあって、道を自由に使えるのが売りなのだろう。
二人が空の見える座席に座り、疲れた体を休めつつも会話を弾ませる。
如月達の視線に気付く事も無く……話ながら訪れたばかりの小さなパフェを突いていた。
二人の話はここに至るまでに訪れた店の感想や欲しい物を言い合うなどの他愛も無い話。
その後のカラオケの話題ともなれば、二人は大好きなアニメを言い合うまでに発展した。
当初は思っても見なかった共通点。
それに気付けば華を咲かせる程に熱くなり、共通で好きなアニメの話ともなれば盛り上がるのは必然だった。
盛り上がりは時間を忘れさせ、空が僅かに赤みを帯びさせるまでの時が過ぎ去った。
ふとナターシャが視線を外し、思う事も無くあらぬ方向へと顔を向ける。
そこは如月達が居た場所。
しかしもうそこに、彼女達の姿は無く……その先の景色をチラリと覗くと、再び視線を竜星へと戻した。
「もうこんな時間か……早いなぁ」
そんな時、竜星は何気なく空を見上げていて……そこで時刻に気付き、思わず呟く。
ナターシャも時間までは気付かなかったのだろう、スマートフォンの時計を前に驚きの声を上げた。
「わぁ……ママもそろそろ家に帰る頃かも……」
「今日は予定があるんだっけ?」
「うん、時間までは決めてないケド……」
途端ナターシャが机へ「ペタリ」と張り付き、その身をぐにゃりと蹲らせる。
それはどこか、まだ話し足りないとアピールするかの様だった。
溶けたアイスクリームの如き有様に、竜星が堪らず微笑みを浮かべていた。
「なら明日もまた会おうよ、ナターシャちゃんがいいならさ」
「ワオ! ほんと!?」
「RAINのアドレス交換しよう? それで明日の予定、夜にでも決めようよ」
「うん!」
そう決めると行動は速く、互いに手馴れた様にスマートフォンを取り出す。
アドレスを送り合い、これ見よがしに今度はRAINでの会話を始めた。
遠くから不審な影が高速で近づいてきている事にも気付く事無く。
バッ!!
その時……突然、ナターシャの鞄が独りでに動く。
不審な影が彼女の鞄をひったくったのである。
「あっ!?」
油断していた彼女の反応は間に合わず……鞄は無情にも影の主によって取り上げられた。
影の主が跨るのはバイク。
通りにあった椅子を弾き飛ばしながら、更に速度を上げて走り去っていく。
それに気付いた時……ナターシャもまた飛び出していた。
バイクに追い付いてしまいそうな程の瞬発力で。
「ナターシャちゃんッ!?」
しかしその瞬間……ナターシャの動きがピタリと止まった。
心配して声を上げた竜星の声が仇となり、彼女の力の源が抑えられたのだ。
命力を人前で使うのは禁じられている……それを咄嗟に思い出し、自制が働いたのである。
とはいえそれが結果的にバイクを見逃す形となり……ひったくり犯は建物の影へと姿を消してしまうのだった。
「ボクの鞄……」
「全然気付かなかった……ごめん……」
思わず竜星の口から漏れる謝罪。
しかしそれは見当違いなもの。
ナターシャは首を横に振り、彼の姿勢を否定した。
「乾君は何も悪くないよ。 ボクが気付かなかったのが悪いんだ……」
鞄に入っているのは制服や教科書……そして財布。
持ち去られれば困る物ばかりで、こうなっては引き下がれない。
「警察に通報しなきゃ!」
「だめ、警察はあんまりいくない……」
警察という言葉に思わずナターシャが縮こまり、再び顔を横に振る。
別に警察と関わる事が悪い訳ではない。
それは彼女が過去の生活から公安の事が好きでは無かったのもあるのだろう。
でも何より、レンネィに迷惑を掛ける事が怖かったから。
そんな想いが駆け巡ると……自然とナターシャは顔を引き締め、俯かせた顔を凛々しく持ち上げた。
「ボクが自分で探すから、乾君は家に帰って!」
先程のなよなよしさは既に消えている。
そこにあるのは決意の意思。
だが、そんな彼女を前に……竜星もまた力強く拳を握り締め、強い意思を瞳に灯らせていた。
「いや、僕も手伝う! だから一緒に行こう!!」
「乾君……わかた!!」
周囲が騒ぎ立てる中、二人は一緒に駆け出した。
竜星の足に合わせた並みの速度で……ひったくり犯の消えた先、建物の後に続く曲がり角へと向けて。
しかしそれが悪意の呼び込んだ罠であるという事に……二人はまだ、気付いてはいなかった。
とはいえ六月ともなれば日暮れは遅め、まだ空は青いまま。
未だ多くの人が道行くその街で、ナターシャと竜星が足を止めて休む姿があった。
そんな彼女達を……遠くで見つめる影。
それは見慣れた制服を纏う四人の女。
そう……アンディと一緒に居るはずの、彼の取り巻きの女生徒達だった。
時は僅かに遡り……
二人が楽しそうに街を練り歩く、そんな時。
四人の女生徒の筆頭、如月 美愛は憤っていた。
それは何故か。
アンディに逃げられたのだ。
厳密に言えば、遊んでいる途中で彼が気分を理由に帰宅したのである。
その理由は「ナターシャとの事で気持ちが落ち着かず、気乗りがしない」というもの。
彼女は言わずともわかる通り、アンディの事が好きだった。
だからこそ先日や今日の様に遊びに誘い、あわよくばその事を告白するつもりだったのである。
しかしその思惑を事もあろうかナターシャに潰されてしまった。
それは言うなれば逆恨みの様なものであるが、如月には間接的であろうとも邪魔をしたナターシャの事が憎くてしょうがなかったのである。
そういう事もあって……言い出しっぺであった彼女達もがこうして抜け出し、イライラをぶつける場所を探しているという訳だ。
「あームカつく……はぁー……」
「美愛、大丈夫だってェ、次もチャンスあるって」
「それはわかってるけどさぁ~……ナッティマジで許せねーし」
友人の三人が宥めるも、如月のイライラは止まらない。
苛立ちの余りにロールした横髪を引き、くしゃりと潰す。
僅かに乱れて跳ねた髪型が、怒りを象徴する様であった。
するとそんな時、友人の一人が「あっ」と声を上げて思わずその歩を止める。
それに気付いた如月達が続き足を止め、その友人が差していた指の先へと視線を向けた。
その先に居たのは……ナターシャと竜星だった。
そう、如月達もアンディ達とこの場所へ遊びに来ていたのである。
そうとは露も知らずに此処を選んだナターシャと竜星の不運な事か。
偶然にも二人を見つけた如月達は……揃って驚きの表情を浮かべていた。
それもそのはず……気の弱いと思っていた二人が如何にもキメた格好で街を闊歩していたのだから。
そんな二人を前に、如月達に嫉妬にも足る感情が沸々と湧き上がっていく。
「ナッティの分際で……何アレ、ふざけてる……」
「あれ乾じゃん……あの二人、マジで付き合ってるんじゃ」
それと同時に湧き上がるのは動揺。
寄りにもよって憎たらしいナターシャが楽しそうに男と歩いているのだ。
自分達には彼氏の一人も居ないのに。
出遅れたとも言える状況に焦りすら感じさせていた。
怒り、憎しみ、妬み、焦り。
様々な感情が如月の心を掻きまわし、堪らず歯を「ガチガチ」とかち鳴らさせる。
そしてその感情が掻き回し続けた結果……彼女は一つの結論を導き出した。
「アイツ許せない……ねぇ皆、アレやるよ」
その一言を前に、友人達も静かに頷く。
彼女達はそれが何なのか、よく知っていたから。
ナターシャと竜星が歩みを止め、オープンカフェでくつろぎ始めた時……彼女達は二人に怪しい眼光をぶつけながら、何者かへ向けて連絡を取り始めていた。
アンディとナターシャが休憩に選んだのは、僅かな座席が外に並ぶ内外一体式のカフェだ。
車通りの殆ど無い商店街の様な通りともあって、道を自由に使えるのが売りなのだろう。
二人が空の見える座席に座り、疲れた体を休めつつも会話を弾ませる。
如月達の視線に気付く事も無く……話ながら訪れたばかりの小さなパフェを突いていた。
二人の話はここに至るまでに訪れた店の感想や欲しい物を言い合うなどの他愛も無い話。
その後のカラオケの話題ともなれば、二人は大好きなアニメを言い合うまでに発展した。
当初は思っても見なかった共通点。
それに気付けば華を咲かせる程に熱くなり、共通で好きなアニメの話ともなれば盛り上がるのは必然だった。
盛り上がりは時間を忘れさせ、空が僅かに赤みを帯びさせるまでの時が過ぎ去った。
ふとナターシャが視線を外し、思う事も無くあらぬ方向へと顔を向ける。
そこは如月達が居た場所。
しかしもうそこに、彼女達の姿は無く……その先の景色をチラリと覗くと、再び視線を竜星へと戻した。
「もうこんな時間か……早いなぁ」
そんな時、竜星は何気なく空を見上げていて……そこで時刻に気付き、思わず呟く。
ナターシャも時間までは気付かなかったのだろう、スマートフォンの時計を前に驚きの声を上げた。
「わぁ……ママもそろそろ家に帰る頃かも……」
「今日は予定があるんだっけ?」
「うん、時間までは決めてないケド……」
途端ナターシャが机へ「ペタリ」と張り付き、その身をぐにゃりと蹲らせる。
それはどこか、まだ話し足りないとアピールするかの様だった。
溶けたアイスクリームの如き有様に、竜星が堪らず微笑みを浮かべていた。
「なら明日もまた会おうよ、ナターシャちゃんがいいならさ」
「ワオ! ほんと!?」
「RAINのアドレス交換しよう? それで明日の予定、夜にでも決めようよ」
「うん!」
そう決めると行動は速く、互いに手馴れた様にスマートフォンを取り出す。
アドレスを送り合い、これ見よがしに今度はRAINでの会話を始めた。
遠くから不審な影が高速で近づいてきている事にも気付く事無く。
バッ!!
その時……突然、ナターシャの鞄が独りでに動く。
不審な影が彼女の鞄をひったくったのである。
「あっ!?」
油断していた彼女の反応は間に合わず……鞄は無情にも影の主によって取り上げられた。
影の主が跨るのはバイク。
通りにあった椅子を弾き飛ばしながら、更に速度を上げて走り去っていく。
それに気付いた時……ナターシャもまた飛び出していた。
バイクに追い付いてしまいそうな程の瞬発力で。
「ナターシャちゃんッ!?」
しかしその瞬間……ナターシャの動きがピタリと止まった。
心配して声を上げた竜星の声が仇となり、彼女の力の源が抑えられたのだ。
命力を人前で使うのは禁じられている……それを咄嗟に思い出し、自制が働いたのである。
とはいえそれが結果的にバイクを見逃す形となり……ひったくり犯は建物の影へと姿を消してしまうのだった。
「ボクの鞄……」
「全然気付かなかった……ごめん……」
思わず竜星の口から漏れる謝罪。
しかしそれは見当違いなもの。
ナターシャは首を横に振り、彼の姿勢を否定した。
「乾君は何も悪くないよ。 ボクが気付かなかったのが悪いんだ……」
鞄に入っているのは制服や教科書……そして財布。
持ち去られれば困る物ばかりで、こうなっては引き下がれない。
「警察に通報しなきゃ!」
「だめ、警察はあんまりいくない……」
警察という言葉に思わずナターシャが縮こまり、再び顔を横に振る。
別に警察と関わる事が悪い訳ではない。
それは彼女が過去の生活から公安の事が好きでは無かったのもあるのだろう。
でも何より、レンネィに迷惑を掛ける事が怖かったから。
そんな想いが駆け巡ると……自然とナターシャは顔を引き締め、俯かせた顔を凛々しく持ち上げた。
「ボクが自分で探すから、乾君は家に帰って!」
先程のなよなよしさは既に消えている。
そこにあるのは決意の意思。
だが、そんな彼女を前に……竜星もまた力強く拳を握り締め、強い意思を瞳に灯らせていた。
「いや、僕も手伝う! だから一緒に行こう!!」
「乾君……わかた!!」
周囲が騒ぎ立てる中、二人は一緒に駆け出した。
竜星の足に合わせた並みの速度で……ひったくり犯の消えた先、建物の後に続く曲がり角へと向けて。
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