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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
~対面話曲〝身上〟~
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コンビニを一通り回り終えた勇達は、周囲の施設の散策を続ける。
軽く回った所で福留との約束の時間も訪れ……ここで一旦勇は瀬玲達と別れる事となった。
福留の部屋があるのは、勇達の部屋と同様、艦内前方の構成員用個室フロア。
有事の際に管制デッキである頭部へとすぐに向かえる場所に用意されているという訳だ。
勇は一人、福留の部屋へと訪れると……おもむろに部屋前の呼び出しスイッチに指を掛ける。
すると間も無く、スライド式の扉が音も無く「スゥー」っと開いた。
その先に居るのは当然福留。
入口の扉は中の人間が声一つで自由に開け閉め可能となっていて非常に便利である。
「やぁ勇君、どうぞ入ってください」
部屋中央に置かれた小さな机と椅子二つ。
福留がそこに腰掛けながら勇を室内へと手招きで誘う。
勇は誘われるがままに恐る恐る足を踏み入れ……福留に相対する様にもう一つの椅子へと腰を掛けた。
そんな勇はどこか不安げに眉間を寄せた表情を浮かべる。
福留の言う「話」が彼の不安を押し上げているのだろう。
それを察したのか……福留はニコリと笑みを浮かべ、手を小さく左右に振る仕草を見せた。
「安心してください、私が話そうとしているのは世間話みたいなものですから」
それがどうにも見透かされた様で、思わず勇が苦笑いを浮かべる。
その笑いは僅かながら溜息も混じっていたのか、ほんの少しぎこちない間隔を刻んでいた。
「なんとなくはわかっていたんですけどね……やっぱり福留さんの『話』っていうのはどうにも緊張しちゃいますよ」
「ハハハ……いつもながら申し訳ない」
福留が薄毛の頭を摩りながら小さく頭を下げる。
振られた直後では良い話か悪い話かわからない……そんな話題の振り方も福留流と言った所か。
既に定着しているとも言える彼の話し方は、聴く方にとっては何にせよ一定の覚悟が必要になっている様だ。
もはや直る事も無い福留の独特な悪い癖の様なものではあるが、合わせての低姿勢がそれを許してきたのだろう。
ふと福留が立ち上がり、あらぬ方へと足を踏み出す。
その先に在るのは冷蔵庫……個室に用意された、手で抱える事が出来るくらいの小さなサイズの物だ。
そこから何かを取り出したと思えば……手に握られたのは二本の500mlペットボトル。
なんて事の無い、日本の銘柄のお茶だ。
「本当は上物のワインでも飲み交わしながら語りたい所ですが……状況柄、そうもいきませんからねぇ」
ペットボトルを携えながら席へと戻ると、勇の前に内一本をそっと添える。
福留なりの歓迎の仕方だ。
ワイングラスも冷蔵庫の上の棚に置かれており……それこそワインであれば上品な雰囲気になっていただろう。
勇が差し出されたお茶に視線を向けると、福留の手先がそっと彼へ向けられているのが映る。
福留の好意を受け入れる様に……勇はゆっくりと会釈をすると、遠慮する事無くペットボトルを手に取った。
「なぁに、本当に大した事は無いのです。 先程私の事を話していらっしゃったでしょう? なので……勇君には是非、私の身の上話を知って頂きたくてね」
「福留さんの……?」
勇が思わずポカンと口を開けて唖然とし、福留の顔を見つめる。
しかし福留はと言えば、いつもと変わらぬ笑顔を見せたまま。
「ウンウン」と頷く様を見せると、勇はどこか申し訳なさそうに顔を俯き視線を逸らした。
「いいんですか? 俺なんかにそんな事話しちゃって……」
勇もさすがに歳が四倍近くも離れた人の過去を聞くのがどうにも申し訳なく思えて。
しかし年寄りというものは案外こういう事を語りたがるものだ。
福留の様に色んな事を体験してきたであろう人間ならなおさらの事で。
そんな勇を前に、福留は深く頷き―――
「ええ、もちろんです。 勇君にこそ聞いてもらいたいとすら思っていますよ」
「えっ……」
意外な答えに再び勇が唖然とする。
「今まで勇君や茶奈さんには私の所為で色々と辛い思いをさせてしまいましたからね。 それに、君達の成長は本当に素晴らしいものです。 決して肉体的な事ではなく、精神面での……ね?」
福留が勇達と初めて出会った時、二人はほんの普通の少年少女だった。
それどころか普通の人よりも劣っているのではないか……そう思わせた事さえある。
しかし多くの戦いや一変した生活、仲間達との絆や魔者達との交流がその心を大きく成長させた。
その成長は、福留の様な自身の時が止まった年寄りには著しく見えたのだ。
あっという間の出来事、あっという間の急成長……そう思わせる程に。
「だからこそ、君達には知ってもらいたいのです。 同じ仲間として、私の持つ志の素となった過去の話を。 今の福留と成ったそのいきさつをね」
福留がお茶のキャップを開け、乾いた喉を潤す。
勇もそれに追従する様にお茶を口に含むと……程よく冷えた茶が、先程の移動で熱籠った体を僅かに癒させた。
「実はね、私は日本人ではないのですよ」
「えっ……?」
「まぁ半分は日本人ですがね、残り半分はアラブ系の血が混じっています。 日本人の血が強い様で、こうやって見分けは付きませんけどねぇ」
彼の口から真っ先に語られたのは衝撃の事実。
しかしその態度はと言えば……先程から変わらぬ、ゆるりとした表情。
落ち着きを伴ったその場で、福留が続きを語り始める。
彼の口から語られるのは、自身の生い立ち。
そして今に至るまでの……人生。
一人の老人が紡いできた秘密が彼自身の口によって今、明かされる。
軽く回った所で福留との約束の時間も訪れ……ここで一旦勇は瀬玲達と別れる事となった。
福留の部屋があるのは、勇達の部屋と同様、艦内前方の構成員用個室フロア。
有事の際に管制デッキである頭部へとすぐに向かえる場所に用意されているという訳だ。
勇は一人、福留の部屋へと訪れると……おもむろに部屋前の呼び出しスイッチに指を掛ける。
すると間も無く、スライド式の扉が音も無く「スゥー」っと開いた。
その先に居るのは当然福留。
入口の扉は中の人間が声一つで自由に開け閉め可能となっていて非常に便利である。
「やぁ勇君、どうぞ入ってください」
部屋中央に置かれた小さな机と椅子二つ。
福留がそこに腰掛けながら勇を室内へと手招きで誘う。
勇は誘われるがままに恐る恐る足を踏み入れ……福留に相対する様にもう一つの椅子へと腰を掛けた。
そんな勇はどこか不安げに眉間を寄せた表情を浮かべる。
福留の言う「話」が彼の不安を押し上げているのだろう。
それを察したのか……福留はニコリと笑みを浮かべ、手を小さく左右に振る仕草を見せた。
「安心してください、私が話そうとしているのは世間話みたいなものですから」
それがどうにも見透かされた様で、思わず勇が苦笑いを浮かべる。
その笑いは僅かながら溜息も混じっていたのか、ほんの少しぎこちない間隔を刻んでいた。
「なんとなくはわかっていたんですけどね……やっぱり福留さんの『話』っていうのはどうにも緊張しちゃいますよ」
「ハハハ……いつもながら申し訳ない」
福留が薄毛の頭を摩りながら小さく頭を下げる。
振られた直後では良い話か悪い話かわからない……そんな話題の振り方も福留流と言った所か。
既に定着しているとも言える彼の話し方は、聴く方にとっては何にせよ一定の覚悟が必要になっている様だ。
もはや直る事も無い福留の独特な悪い癖の様なものではあるが、合わせての低姿勢がそれを許してきたのだろう。
ふと福留が立ち上がり、あらぬ方へと足を踏み出す。
その先に在るのは冷蔵庫……個室に用意された、手で抱える事が出来るくらいの小さなサイズの物だ。
そこから何かを取り出したと思えば……手に握られたのは二本の500mlペットボトル。
なんて事の無い、日本の銘柄のお茶だ。
「本当は上物のワインでも飲み交わしながら語りたい所ですが……状況柄、そうもいきませんからねぇ」
ペットボトルを携えながら席へと戻ると、勇の前に内一本をそっと添える。
福留なりの歓迎の仕方だ。
ワイングラスも冷蔵庫の上の棚に置かれており……それこそワインであれば上品な雰囲気になっていただろう。
勇が差し出されたお茶に視線を向けると、福留の手先がそっと彼へ向けられているのが映る。
福留の好意を受け入れる様に……勇はゆっくりと会釈をすると、遠慮する事無くペットボトルを手に取った。
「なぁに、本当に大した事は無いのです。 先程私の事を話していらっしゃったでしょう? なので……勇君には是非、私の身の上話を知って頂きたくてね」
「福留さんの……?」
勇が思わずポカンと口を開けて唖然とし、福留の顔を見つめる。
しかし福留はと言えば、いつもと変わらぬ笑顔を見せたまま。
「ウンウン」と頷く様を見せると、勇はどこか申し訳なさそうに顔を俯き視線を逸らした。
「いいんですか? 俺なんかにそんな事話しちゃって……」
勇もさすがに歳が四倍近くも離れた人の過去を聞くのがどうにも申し訳なく思えて。
しかし年寄りというものは案外こういう事を語りたがるものだ。
福留の様に色んな事を体験してきたであろう人間ならなおさらの事で。
そんな勇を前に、福留は深く頷き―――
「ええ、もちろんです。 勇君にこそ聞いてもらいたいとすら思っていますよ」
「えっ……」
意外な答えに再び勇が唖然とする。
「今まで勇君や茶奈さんには私の所為で色々と辛い思いをさせてしまいましたからね。 それに、君達の成長は本当に素晴らしいものです。 決して肉体的な事ではなく、精神面での……ね?」
福留が勇達と初めて出会った時、二人はほんの普通の少年少女だった。
それどころか普通の人よりも劣っているのではないか……そう思わせた事さえある。
しかし多くの戦いや一変した生活、仲間達との絆や魔者達との交流がその心を大きく成長させた。
その成長は、福留の様な自身の時が止まった年寄りには著しく見えたのだ。
あっという間の出来事、あっという間の急成長……そう思わせる程に。
「だからこそ、君達には知ってもらいたいのです。 同じ仲間として、私の持つ志の素となった過去の話を。 今の福留と成ったそのいきさつをね」
福留がお茶のキャップを開け、乾いた喉を潤す。
勇もそれに追従する様にお茶を口に含むと……程よく冷えた茶が、先程の移動で熱籠った体を僅かに癒させた。
「実はね、私は日本人ではないのですよ」
「えっ……?」
「まぁ半分は日本人ですがね、残り半分はアラブ系の血が混じっています。 日本人の血が強い様で、こうやって見分けは付きませんけどねぇ」
彼の口から真っ先に語られたのは衝撃の事実。
しかしその態度はと言えば……先程から変わらぬ、ゆるりとした表情。
落ち着きを伴ったその場で、福留が続きを語り始める。
彼の口から語られるのは、自身の生い立ち。
そして今に至るまでの……人生。
一人の老人が紡いできた秘密が彼自身の口によって今、明かされる。
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