時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」

~自由に潜みし者の唄~

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 かつて砂上の戦教師などと呼ばれ、宗教を翳して多くの人間を戦いへと先導した男……アルディ=マフマハイド。
 しかし一度その仮面を外せば、先進国で働く起業家という素顔が暴かれる事となった。

 いや、もしかしたら……彼にとって、どちらも仮面で隠した顔だったのかもしれない。

 少なくとも今、勇達の目の前に居るのは……自分の意思に誠実なだけの普通の男に他ならなかったのだから。
 




「まず聞きたいのは……【救世同盟】の他の勢力の情報だ」

 【救世同盟】の始まりは一つの団体からだった。
 しかし気付けば各国に幾つも勢力が生まれ、集まって拡大し、輪を広げていった。
 今では三大勢力の他にも、有力団体が多数存在し、その他にも小規模の団体であれば水面下で数えきれないほど存在する。
 そのほとんどは拠点所在地が不明であったり、国家そのものが秘匿するなど、正しい情報が未だ極秘にすら上がってきていない状況だ。
 今回のアルディの様に魔剣ミサイルを使用するという目的があったからこそ、彼は自らを囮として所在地を明かした訳だが……それはイレギュラーに過ぎない。
 どの団体も、規模が大きければ大きい程……秘密漏洩を恐れ、徹底的に隠し通しているのだ。

 だから勇達は欲した。
 アルディが知る他団体の情報を。
 三大勢力の内の一つの頭領だからこそ、重要な情報を知っているかもしれないから。



 だが、勇達の期待を他所に……アルディの反応は良くは無かった。



 勇の質問を受けたアルディは「ふぅむ」と声を唸らせると、彼等から視線を外す。
 手を顎に充て、悩む様な仕草を見せながら。

「やはりその質問が来たか……」

 彼としても予想通りだったのだろう。
 そもそもが想像出来ないはずも無い内容な訳ではあるが。

 先程まで語る事に乗り気だったアルディだが……その質問が飛ぶや否や、途端に口を籠らせた。

「なんだぁ、あれだけ大見栄切って尻込みかい?」

「いや、そうじゃないんだ。 なんというか、凄く言いにくい事なんだが―――」

 途端、彼の両肘が机に当てられ、上に掲げられた手にその顎を乗せる。
 そしてもったいぶるかの様に「フゥー……」と一息付くと……その視線を勇へと向けた。



「実は私もよく知らないのだよ。 恐らく君達が知る程度にしかね」



 たちまち、周囲が溜息の音に包まれる。
 勇に至っては眉をピクリと動かし、眉間を寄せた悩ましい表情を浮かべていた。

「知らないって事はないだろ……他の団体と関わりは無かったのか?」

「無い訳じゃあないさ。 実際にデューク=デュランともエイミー=ブラットニーとも会った事があるからね」

「エイミー=ブラットニー……アメリカで勢力を広げている団体のリーダーですね」

 ミシェルも自国の事に関しては知っている様で、その名を聞いた途端に反応を示す。
 勇と茶奈にとっては初めて聞く名前だった。

「彼女も会う分には良い人だったよ。 仲間に対しては包容力があったものさ」

 そうも聞くと、勇の脳裏に浮かぶのは小嶋の姿。
 彼女を比較対象とした時、怒鳴り散らす姿が想像され……またしても勇の顔をしかめさせていた。

「そうだね、日本のユウコ=コジマとは性格が実に非対称だ」

 わかり易過ぎる表情が勇の心情を映したのか、ものの見事にアルディに見抜かれる。
 堪らず勇がその首を引き……「心の中を読むのはやめろ」と訴えるかの様に睨みつけるのだった。

 まるで彼に心の色が読まれている様で、勇はどこか複雑だ。

 アルディは今までに色んな人間を見て来た。
 先進国の人々の本音と建て前、宗教に絡んだ人々の欲望と渇望。
 それらを目の当たりにしてきたからこそ、自然と読心術が身に付いたのだ。

 それがあるからこそ……彼は人心を操る事が出来るのだろう。

「エイミー=ブラットニー率いる【地球の怒りアースレイジー】は確か今、ノースカロライナ州に拠点を置いているはずさ。 USA首都ワシントンD.C.のすぐ一歩手前だ。 アメリカ政府にとっては喉元にナイフを突きつけられているのと同じだろうね」

「ええ、我々もその情報は得ています。 迂闊に手出しが出来ないという事も」

 ミシェルの言う「我々」とは詰まる所のアメリカ政府の事だろう。
 つまり、アメリカ政府はエイミー=ブラットニーの居場所を知りながら放置しているという事だ。

「何故手出しが出来ないんですか? アメリカ軍ならドカンって出来そうですけど……」

「面白い質問だね、チャナ=タナカ……実際にそれが出来るなら、きっとアメリカは先進国ではいられないよ」

 他の者達が失笑する中、アルディが空かさず丁寧に答えを返す。
 彼の言う通り、アメリカが手出し出来ないのは……かの国が先進国だからであろう。

「エイミー=ブラットニーはアメリカ政府で働いた実績もある政治家なのです。 そして彼女が掲げているのは地球の存続であり、母国の防衛。 【救世同盟】の様に直接他者に危害を加えるといった行為ではありません。 ただ理念が同じ、それだけに過ぎないのです。 もちろんそれは表向きの話ですが」

 「表向きの話」……その一言が勇と茶奈に緊張を走らせる。
 まるで小嶋の時と同じ、全く異なる二面性を感じずにはいられなかったのだから。

「裏側ではアメリカ軍の高官とも幾つもパイプを有し、事実上アメリカ軍を乗っ取っているのと変わりありません。 実際に動かす事は出来ませんが……有事の際には軽くクーデターを起こす事も出来るのです。 そう、空島の一件の様に」

「おまけに彼女は私と違い、直接手は下さない。 彼女を捕まえる最もらしい理由が存在しないのだよ。 それを無理矢理【救世同盟】だ、と捕まえてもみたまえ。 途端に彼女のシンパや連携した環境団体や人権団体、彼等に惹かれた民衆がこぞってアメリカ政府を批判するだろうさ。 『無実の人間を捕まえた』とね。 そういった下積みが出来ているから、アメリカが彼女を捕まえる事は出来ないんだよ」

 もしかの国が人権や法律を無視し、感情だけで動く人知国家だったとしよう。
 途端、政治家や有力者、声の強い国民の意思だけで善悪が決まる国となってしまうだろう。
 そうなった時、国は正常な判断力を失う。
 まだ小国ならそれでも個人レベルでどうにか出来るかもしれない。
 だがアメリカは合衆国だ。
 それぞれが国家にも近い五十余の自治州が一つになった国なのだ。
 それらが個々に言い分を正としてしまえば……結果繋がるのは、アメリカという国の崩壊。
 それこそ先進国ではなくなるという事に他ならないのである。

「恐ろしい話ですね……目の前に居るのに捕まえられないなんて」

「それが出来るというのも、ある意味で言えば法治国家の欠陥なのだろうね。 だがそれを巧みに利用するエイミーがしたたかなだけに過ぎないのさ。 そういう人間がのし上がれる世界でもあるのだから仕方ない所でもある。 アメリカンドリームの弊害という奴だよ」

 茶奈が納得し、「うーん」と悩みの声を上げる。
 その傍らで、アルディは福留と共に「ウンウン」と頷く様を見せていた。

 エイミーの存在はアメリカにとっての脅威に他ならない。
 ただ、そう語る事の出来るアルディの知識もまた相当なものなのだろう。
 茶奈が納得出来る様なゆるりとした語りは、彼故の優しさと言った所か。


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