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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~新型、極め~
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「俺達の次の目的は、エイミー率いるアメリカの【救世同盟】を叩く事にしようと思う」
それはスイス滞在六日目の事。
アルディ引き渡しに出向いたリッダとアネットの帰還を待つかの様に、連日に継いで長引いた会議は勇の一言で収束し始めていた。
内容は当然、今後の目標の事。
【救世同盟】を叩き、世界の感情バランスを正の方向へと傾けさせる為の計画を立てるため。
参加者は勇と莉那を筆頭に、福留、ミシェル、龍。
その傍らには記録として笠本や、同伴者として茶奈と、人数的には少ない方だ。
「理由としては、第一にフランス情勢が落ち着いている所から、下手に突くのは藪蛇かなって思ったから。 第二に、出来るならアメリカの後ろ盾を早めに確保したい」
「アメリカも【救世同盟】の勢力拡大に頭を悩ませていますから、その対応は願ったりでしょうね」
内情を良く知るミシェルが頷き、勇の意見に同意を見せる。
他の者達も反対意見は無い様で、頷いたり考えを巡らせる様を見せていた。
「後は俺達自身が釣り餌になるだけだ。 今はフランスの傍に居るからデュラン達は形を潜めているんだろう。 でも離れれば活発化するはずだ。 そこを突く為に、俺達は一旦ヨーロッパを離れるべきだと思ったんだ」
デューク=デュランの団体の居場所は未だ公表されておらず、広いフランス国内のどこに存在するかはまだわからない。
そこで動きが沈静化すれば足取りを追う事も出来ず、結果的に手の出しようもなくなるという訳だ。
しかしエイミー=ブラットニー率いる団体は違う。
彼女は公人であり、公式に【救世同盟】関連団体【地球の怒り】を名乗っている。
居場所はもちろんの事、公人としての仕事内容もしっかりと公表されているのだ。
そこに突破口があるかもしれないと踏んでの事だった。
こうして、グランディーヴァの次の目的地が定まった。
向かうは北米大陸……ユナイテッドステイツオブアメリカ。
今の地でやり残したのは駐留許可をくれたスイス政府に礼を述べ、出向いたリッダとアネットを回収するのみ。
それが全て終えた時、彼等は再び大空を舞う。
自由の旗を再び靡かせる為に。
その頃、勇達が会議を行う会議スペースの近く、訓練スペース。
そこでは彼等とは別の形での盛り上がりを見せていた。
そこに立つのは心輝。
腕をグルグルと回し、小さく両足で跳ねる。
時折素早く拳を振り抜き、自身の体の鈍りを確かめる様を見せていた。
「随分なまっちまったなぁ。 まぁでも動く分には申し分ねぇけどな」
ようやく体が動かせる程までに完治し、こうして訓練スペースにて不自由からの鬱憤を吹き飛ばす様に体を動かしに来たという訳だ。
スペースの端には付き添いのレンネィの他に、瀬玲やイシュライト、マヴォの姿も見られる。
展望室にはナターシャ達も興味本位で訪れている様だ。
そんな彼等がこの場に居合わせたのには、実はもう一つの理由があった。
彼女等の他にもまた一人、いそいそと道具を扱いながら座る毛玉の姿が。
「さて、これで良しと……うぴぴ」
その手に握るのは銀濁色の手甲。
デザインもへったくれも無い、手の甲を隠す程度の小ささを有した粗削りの金属肌が露出した物だった。
その足元には同様の姿を晒す靴サイズの足甲も置かれている。
それらを助手の男と共に抱え上げ、心輝の下へと歩み寄る。
心輝はそれを待ちかねたと言わんばかりに笑顔で迎えた。
「とりあえず試作でこしらえたもんなんで、強度とか出力とか度外視ッス。 何せ命力耐性は未知数ッスからね、使う時は要注意ッスよ」
カプロが持っていたのは、心輝が使うであろう新型魔剣の雛型。
超金属【蒼燐合金鋼アーディマス】をふんだんに使用した最新機構の魔剣だ。
しかし命力伝導率に優れた金属であつらえた魔剣は今回が初めて。
それに関するデータが乏しいとあって、今回は素体データ採集を行う為の実験として心輝達が集められたという訳である。
「まだ魔剣っつうには程遠いな。 まぁ俺はこういう剥き身でもカッコよさを感じるタイプだけどな!!」
「アンタが何言ってんのかさっぱりわかんないんだけど?」
鋭いツッコミを受けても構う事無く、心輝は渡された試作魔剣に興味を注ぐ。
見た目ではただの鉄の塊にしか見えず、神話で謳われていた【アーディマス】の逸話に感慨を馳せる。
ただの硬い鉄と言われるのもわかる程に、普遍的だったから。
「しっかし、蒼燐とか言っといて全然青くねぇな……」
「精錬時、表層部に青い波紋が浮き上がってたんで、きっとそれを蒼燐って呼んでたんッスね」
心輝もそう言われれば、「なるほど」と手を打ち納得する様を見せる。
そんな些細な事でもカッコよさへと繋げた所に、古代人のセンスを感じずにはいられない心輝なのであった。
試作魔剣を受け渡すと、カプロと助手がそそくさと瀬玲の裏へと隠れる。
何故瀬玲の裏なのか、理由は敢えて言わない方が良いだろう。
ちなみに瀬玲は訓練とあって戦闘服に着替えてきているのでご察しの通りだ。
瀬玲はと言えば―――呆れ顔と共に「ヘッ」と声を漏らしつつも、渋々命力の盾を展開させていた。
「そんじゃ、一発かっとばしますかねぇ!!」
両手両足に魔剣を嵌め込み、心輝が咆える。
新たな相棒となるであろう魔剣に力を籠め。
気迫が、気力が、彼の心を包み込んだ。
ドッガォォォンッッッッ!!!!!
それは今までに聴いた事も無い様な、空間周囲全てを鋭く叩いた様な爆発音。
心輝の力や今までの魔剣では再現する事も出来ぬ、未知の領域を体現した衝撃力。
その力は、盾で防いでいた瀬玲達がその身を引かせるほど。
たったその一瞬で、その場に居た者達は感じ取る事が出来ていた。
超金属の恩恵たる、命力伝導率の極地を。
その力が放たせられる、極限の可能性を。
壁へと激突した心輝の姿を見届ける事で。
「ンゴォ……」
たちまち心輝の体がズルリと壁からずり落ち、グシャリと床へ崩れ込む。
余りの衝撃故に、壁にはべっとりと血のりが付着していた。
「シーーーーーン!!!」
正直に言えば冗談にもならない状況だ。
しかしカプロの進言からのこの結果に、慌てるレンネィ以外は苦笑の一言。
瀬玲に至っては先程以上に呆れざるを得ない様子。
仲間達が心輝の下へと駆け寄っていく。
心輝はと言えばその間も微動だにせず、尻を持ち上げて突っ伏す情けない姿を晒していた。
「な……んでごんな……ガブロォ……」
「アンタ馬鹿ッスか。 だから要注意って言ったんスよ」
カプロももはや溜息しか出ず、お手上げの様を見せつける。
その様子を見たのを最後に、心輝の頭が「コテン」と床へと落ちた。
どうやら相当な衝撃を喰らった事には間違いない様で。
「シンの復帰、まだまだ先になりそうねぇ」
最後の最後には、レンネィすらも苦笑を浮かべるしかなかった。
【蒼燐合金鋼アーディマス】によって精錬された魔剣の出力は、カプロ達の想像を遥かに超えていた。
その結果、心輝が再び戦闘続行不能なまでの怪我を負う事となってしまった訳で。
もちろんそれは自業自得なのだが、恐るべきは心輝の反応速度すら凌駕する魔剣へと仕上がってしまった事だろうか。
心輝がまだ病み上がりであり、魔剣自体も未調整だった事は否めない。
だがそれでも魔剣そのものに破損は見られず、それ程の稼働率でも魔剣が壊れないという事を暗に示唆していた。
それ程までの強度を【アーディマス】は有していたのである。
惜しむらくは……魔剣の被験者が退場してしまった事か。
現実に復活の壺は無いので復帰は恐らく数日後だろう。
「まぁこうなったもんは仕方ねッス。 気長にやってくしかねぇッスねぇ」
心輝は既に瀬玲に担がれ、レンネィと共に医務室へ。
それは仲間達で血のりを拭き取り終えた後の事。
もはや呆れも通り越し、諦めの表情でカプロが落ちていた試作魔剣へ手を伸ばす。
するとそれをカプロよりも手早く掴み取る者が居た。
「カプロ、物は相談なのだが……魔剣の実験を俺でしてみないか?」
「へっ?」
立ち上がったその者の体の呼んだ影が、小さなカプロを包み込む。
そう言い放ったのは他の誰でもない、マヴォだった。
「今更だが、俺は【アンフェルジィ】を造り直すつもりは無い。 その理由はお前も知っているハズだ。 だが強い力を得たいという願望が無い訳ではない」
「ふむー……」
「だからこれを俺にくれないか? それならシンの代わりに俺がデータ取りの協力をしよう。 そうすればおのずと計画は進むハズだ」
おあつらえ向きと言わんばかりに、まだ試作魔剣は誰が持っても使える程度の形にしか成っていない。
カプロの手に掛かればマヴォの体に合わせて造り替える事など造作も無いだろう。
そしてカプロもその進言に乗り気の様子を見せていた。
「いいッスねそれ、マヴォさんがいいならそうしましょ。 正直言えばシンよりマヴォさんの方がこんな実験には最適ッスからね」
「そ、そうか?」
「そりゃそうッス。 体躯も成長密度も経験も、そして命力の強さも……実はマヴォさんの方が上ッスからね」
これは決してお世辞ではない。
そんな結果が生まれたのも必然の事。
当然だ、マヴォは幼少期から戦いに関する技術を学んできた。
それは『あちら側』で生きる術とも言えるが故に当たり前と思われていた事だが、今となっては異なる。
【こちら側】の人間と比べれば、それは英才教育とも言える所業。
おまけに加えて魔者という体に恵まれ、力強さは人間を超えている。
最初から、マヴォは変わる事なく心輝よりも強い存在として在り続けているのだ。
ただ戦い方や持っている魔剣の特性が異なるから、派手に見えなかったに過ぎない。
恐らく先程の心輝と同じ事をしでかしても、マヴォは再び立ち上がる事が出来るだろう。
それだけの身体能力の差が、二人にはあるのだ。
「ほいじゃ善は急げッス。 一時間後にまた戻ってくるんで、マヴォさんはちょっとここで覚悟を決めて瞑想でもしてて欲しいッス」
「覚悟!? 瞑想!? 何をするつもりだカプロォ!?」
しかしカプロは「うぴぴ」と含み笑いだけを返しながら踵を返し、助手と共に素早く走り去っていった。
後に残るのは唖然とするマヴォと、苦笑を浮かべるイシュライトのみ。
その後間髪入れず獅堂がやってくるも、その時だけは訓練に身が入らぬマヴォの姿があったという……。
それはスイス滞在六日目の事。
アルディ引き渡しに出向いたリッダとアネットの帰還を待つかの様に、連日に継いで長引いた会議は勇の一言で収束し始めていた。
内容は当然、今後の目標の事。
【救世同盟】を叩き、世界の感情バランスを正の方向へと傾けさせる為の計画を立てるため。
参加者は勇と莉那を筆頭に、福留、ミシェル、龍。
その傍らには記録として笠本や、同伴者として茶奈と、人数的には少ない方だ。
「理由としては、第一にフランス情勢が落ち着いている所から、下手に突くのは藪蛇かなって思ったから。 第二に、出来るならアメリカの後ろ盾を早めに確保したい」
「アメリカも【救世同盟】の勢力拡大に頭を悩ませていますから、その対応は願ったりでしょうね」
内情を良く知るミシェルが頷き、勇の意見に同意を見せる。
他の者達も反対意見は無い様で、頷いたり考えを巡らせる様を見せていた。
「後は俺達自身が釣り餌になるだけだ。 今はフランスの傍に居るからデュラン達は形を潜めているんだろう。 でも離れれば活発化するはずだ。 そこを突く為に、俺達は一旦ヨーロッパを離れるべきだと思ったんだ」
デューク=デュランの団体の居場所は未だ公表されておらず、広いフランス国内のどこに存在するかはまだわからない。
そこで動きが沈静化すれば足取りを追う事も出来ず、結果的に手の出しようもなくなるという訳だ。
しかしエイミー=ブラットニー率いる団体は違う。
彼女は公人であり、公式に【救世同盟】関連団体【地球の怒り】を名乗っている。
居場所はもちろんの事、公人としての仕事内容もしっかりと公表されているのだ。
そこに突破口があるかもしれないと踏んでの事だった。
こうして、グランディーヴァの次の目的地が定まった。
向かうは北米大陸……ユナイテッドステイツオブアメリカ。
今の地でやり残したのは駐留許可をくれたスイス政府に礼を述べ、出向いたリッダとアネットを回収するのみ。
それが全て終えた時、彼等は再び大空を舞う。
自由の旗を再び靡かせる為に。
その頃、勇達が会議を行う会議スペースの近く、訓練スペース。
そこでは彼等とは別の形での盛り上がりを見せていた。
そこに立つのは心輝。
腕をグルグルと回し、小さく両足で跳ねる。
時折素早く拳を振り抜き、自身の体の鈍りを確かめる様を見せていた。
「随分なまっちまったなぁ。 まぁでも動く分には申し分ねぇけどな」
ようやく体が動かせる程までに完治し、こうして訓練スペースにて不自由からの鬱憤を吹き飛ばす様に体を動かしに来たという訳だ。
スペースの端には付き添いのレンネィの他に、瀬玲やイシュライト、マヴォの姿も見られる。
展望室にはナターシャ達も興味本位で訪れている様だ。
そんな彼等がこの場に居合わせたのには、実はもう一つの理由があった。
彼女等の他にもまた一人、いそいそと道具を扱いながら座る毛玉の姿が。
「さて、これで良しと……うぴぴ」
その手に握るのは銀濁色の手甲。
デザインもへったくれも無い、手の甲を隠す程度の小ささを有した粗削りの金属肌が露出した物だった。
その足元には同様の姿を晒す靴サイズの足甲も置かれている。
それらを助手の男と共に抱え上げ、心輝の下へと歩み寄る。
心輝はそれを待ちかねたと言わんばかりに笑顔で迎えた。
「とりあえず試作でこしらえたもんなんで、強度とか出力とか度外視ッス。 何せ命力耐性は未知数ッスからね、使う時は要注意ッスよ」
カプロが持っていたのは、心輝が使うであろう新型魔剣の雛型。
超金属【蒼燐合金鋼アーディマス】をふんだんに使用した最新機構の魔剣だ。
しかし命力伝導率に優れた金属であつらえた魔剣は今回が初めて。
それに関するデータが乏しいとあって、今回は素体データ採集を行う為の実験として心輝達が集められたという訳である。
「まだ魔剣っつうには程遠いな。 まぁ俺はこういう剥き身でもカッコよさを感じるタイプだけどな!!」
「アンタが何言ってんのかさっぱりわかんないんだけど?」
鋭いツッコミを受けても構う事無く、心輝は渡された試作魔剣に興味を注ぐ。
見た目ではただの鉄の塊にしか見えず、神話で謳われていた【アーディマス】の逸話に感慨を馳せる。
ただの硬い鉄と言われるのもわかる程に、普遍的だったから。
「しっかし、蒼燐とか言っといて全然青くねぇな……」
「精錬時、表層部に青い波紋が浮き上がってたんで、きっとそれを蒼燐って呼んでたんッスね」
心輝もそう言われれば、「なるほど」と手を打ち納得する様を見せる。
そんな些細な事でもカッコよさへと繋げた所に、古代人のセンスを感じずにはいられない心輝なのであった。
試作魔剣を受け渡すと、カプロと助手がそそくさと瀬玲の裏へと隠れる。
何故瀬玲の裏なのか、理由は敢えて言わない方が良いだろう。
ちなみに瀬玲は訓練とあって戦闘服に着替えてきているのでご察しの通りだ。
瀬玲はと言えば―――呆れ顔と共に「ヘッ」と声を漏らしつつも、渋々命力の盾を展開させていた。
「そんじゃ、一発かっとばしますかねぇ!!」
両手両足に魔剣を嵌め込み、心輝が咆える。
新たな相棒となるであろう魔剣に力を籠め。
気迫が、気力が、彼の心を包み込んだ。
ドッガォォォンッッッッ!!!!!
それは今までに聴いた事も無い様な、空間周囲全てを鋭く叩いた様な爆発音。
心輝の力や今までの魔剣では再現する事も出来ぬ、未知の領域を体現した衝撃力。
その力は、盾で防いでいた瀬玲達がその身を引かせるほど。
たったその一瞬で、その場に居た者達は感じ取る事が出来ていた。
超金属の恩恵たる、命力伝導率の極地を。
その力が放たせられる、極限の可能性を。
壁へと激突した心輝の姿を見届ける事で。
「ンゴォ……」
たちまち心輝の体がズルリと壁からずり落ち、グシャリと床へ崩れ込む。
余りの衝撃故に、壁にはべっとりと血のりが付着していた。
「シーーーーーン!!!」
正直に言えば冗談にもならない状況だ。
しかしカプロの進言からのこの結果に、慌てるレンネィ以外は苦笑の一言。
瀬玲に至っては先程以上に呆れざるを得ない様子。
仲間達が心輝の下へと駆け寄っていく。
心輝はと言えばその間も微動だにせず、尻を持ち上げて突っ伏す情けない姿を晒していた。
「な……んでごんな……ガブロォ……」
「アンタ馬鹿ッスか。 だから要注意って言ったんスよ」
カプロももはや溜息しか出ず、お手上げの様を見せつける。
その様子を見たのを最後に、心輝の頭が「コテン」と床へと落ちた。
どうやら相当な衝撃を喰らった事には間違いない様で。
「シンの復帰、まだまだ先になりそうねぇ」
最後の最後には、レンネィすらも苦笑を浮かべるしかなかった。
【蒼燐合金鋼アーディマス】によって精錬された魔剣の出力は、カプロ達の想像を遥かに超えていた。
その結果、心輝が再び戦闘続行不能なまでの怪我を負う事となってしまった訳で。
もちろんそれは自業自得なのだが、恐るべきは心輝の反応速度すら凌駕する魔剣へと仕上がってしまった事だろうか。
心輝がまだ病み上がりであり、魔剣自体も未調整だった事は否めない。
だがそれでも魔剣そのものに破損は見られず、それ程の稼働率でも魔剣が壊れないという事を暗に示唆していた。
それ程までの強度を【アーディマス】は有していたのである。
惜しむらくは……魔剣の被験者が退場してしまった事か。
現実に復活の壺は無いので復帰は恐らく数日後だろう。
「まぁこうなったもんは仕方ねッス。 気長にやってくしかねぇッスねぇ」
心輝は既に瀬玲に担がれ、レンネィと共に医務室へ。
それは仲間達で血のりを拭き取り終えた後の事。
もはや呆れも通り越し、諦めの表情でカプロが落ちていた試作魔剣へ手を伸ばす。
するとそれをカプロよりも手早く掴み取る者が居た。
「カプロ、物は相談なのだが……魔剣の実験を俺でしてみないか?」
「へっ?」
立ち上がったその者の体の呼んだ影が、小さなカプロを包み込む。
そう言い放ったのは他の誰でもない、マヴォだった。
「今更だが、俺は【アンフェルジィ】を造り直すつもりは無い。 その理由はお前も知っているハズだ。 だが強い力を得たいという願望が無い訳ではない」
「ふむー……」
「だからこれを俺にくれないか? それならシンの代わりに俺がデータ取りの協力をしよう。 そうすればおのずと計画は進むハズだ」
おあつらえ向きと言わんばかりに、まだ試作魔剣は誰が持っても使える程度の形にしか成っていない。
カプロの手に掛かればマヴォの体に合わせて造り替える事など造作も無いだろう。
そしてカプロもその進言に乗り気の様子を見せていた。
「いいッスねそれ、マヴォさんがいいならそうしましょ。 正直言えばシンよりマヴォさんの方がこんな実験には最適ッスからね」
「そ、そうか?」
「そりゃそうッス。 体躯も成長密度も経験も、そして命力の強さも……実はマヴォさんの方が上ッスからね」
これは決してお世辞ではない。
そんな結果が生まれたのも必然の事。
当然だ、マヴォは幼少期から戦いに関する技術を学んできた。
それは『あちら側』で生きる術とも言えるが故に当たり前と思われていた事だが、今となっては異なる。
【こちら側】の人間と比べれば、それは英才教育とも言える所業。
おまけに加えて魔者という体に恵まれ、力強さは人間を超えている。
最初から、マヴォは変わる事なく心輝よりも強い存在として在り続けているのだ。
ただ戦い方や持っている魔剣の特性が異なるから、派手に見えなかったに過ぎない。
恐らく先程の心輝と同じ事をしでかしても、マヴォは再び立ち上がる事が出来るだろう。
それだけの身体能力の差が、二人にはあるのだ。
「ほいじゃ善は急げッス。 一時間後にまた戻ってくるんで、マヴォさんはちょっとここで覚悟を決めて瞑想でもしてて欲しいッス」
「覚悟!? 瞑想!? 何をするつもりだカプロォ!?」
しかしカプロは「うぴぴ」と含み笑いだけを返しながら踵を返し、助手と共に素早く走り去っていった。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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