時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」

~秘物、携え~

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 アルクトゥーン後部、魔導技術開発ルーム。
 カプロが管理するその場所は現在、絶賛フル稼働中だ。
 超金属の精製方法がわかってからというものの、精製した素材に関する剛性試験やそれらテストデータの取得と記録といった作業がひっきりなしに行われている。
 カプロや魔者の助手が精製に成功した素材は勇が示した通りの性能を誇っており、精製方法に関しては既に解決クリア
 後は素材を使用してどこまでの性能を引き出す事が出来るかをあらゆる方面から情報を集め導くのみ。
 ただしこれが最も困難を極める所でもあり、研究班が四苦八苦する様を見せていた。

 研究班は全員、魔特隊時代からカプロの下で働いてきた実績ある者達。
 こんな時こそ今までに培ってきた技術や知能が最大限に発揮される時である。
 加えてマヴォが完成物の実証試験に携わる事となり、彼等の研究は飛躍的に進歩するだろう。

 後はそのデータを基にカプロが形にすれば……魔剣の完成となる。

 そうも考えれば、完成までは意外とそう遠くない事なのかもしれない。
 




 そんな研究班が騒がしく動き回るのも昼間の話。
 その日は既に夜間。
 室内は暗闇がウェイトを占め、一部明かりに照らされている様が浮かび上がる。

 ここで一人作業していたのは―――カプロである。

 マヴォの働きで新型試作魔剣一号の試験が無事終え、試験結果の反映フィードバックの為に弄り回す。
 日中に行われた試験は良好。
 マヴォの大柄には見合わぬ繊細な命力コントロールが功を奏し、予想を超えた試験データを取得する事が出来た様だ。
 その結果を前に、魔剣を弄るカプロの口元には喜びからの笑みが零れていた。
 自分の作品とも言える装備が上手に扱われる事が出来たのだ、嬉しくもなろう。

 そんな彼の頭の中には、一号をベースとした次の形状イメージがもう既に浮かんでいた。

 その為の調整と改良、それも彼にとっては遊びの様な物で。
 現在、艦内時間はおおよそ二十三時過ぎ。
 既に研究班の人員はカプロを除いて皆、自室に戻った後だ。
 それにも拘らず残っているのは、もはやこんなモノづくりが彼にとっての人生の一部だからだろう。

 するとそんな工房に突然、来客を知らせるコール音が鳴り響いた。

 現在深夜帯という事もあって入口の扉は閉じている。
 研究班なら誰でも入れる工房ということもあって、お客はどうやらそうではなさそうだ。

「こんな時間に誰っスか?」

 カプロが振り向く事も無くそう答えると、艦内システムが音声を拾って外部へ送る。
 声に乗った命力に反応して起動するハンズフリー呼び鈴だ、便利な物である。

『私だけど、ちょっといいかな?』

 その時聞こえたのは瀬玲の声。
 工房に最も縁の無い彼女の登場に、思わずカプロの手が止まる。

 ただし理由は別の所にあるのだが。

「―――昼間のは事故ッスよ、シンの炎が予想を超えて凄かったんで掴む所が必要だったんス」

『……アンタやっぱりわざとでしょ』

 カプロがそんな問答の間にも魔剣を降ろし、両手指をわしゃりとしならせる。
 その動きはどこかいやらしく、カプロの頬も僅かに赤らめていた。

『ま、それはいいわ。 それより、ちょっと相談があるんだけどいい?』

 そんな答えが返ってくると、カプロは無言のままに肘を腰へ引き込み喜びを体現する。
 許されて嬉しいのはわかるが、姿が見えていないのをいい事にやりたい放題である。

「セリさんの頼みなら聞かない訳にもいかねッス。 どうぞ入って」

 興奮の余りに立ち上がっていた身を素早く椅子上へ戻し、瀬玲を迎え入れようと扉開放のスイッチを押す。
 すると間も無く扉が開き、瀬玲が足を踏み込ませた。
 入って来た瀬玲はいつも通りのままで、昼間起きた二人だけの出来事を怒っている様には見えない。

 しかしカプロはそんな事よりも、気になるへと視線を向けて離さなかった。

 それは瀬玲の左手に握られていた、白い布に巻かれた細長い何か。
 人間の身長にすら匹敵する程の長さを持つ、謎の代物であった。

「セリさん、それ何ッスか?」

 当然それはカプロも与り知らぬ物。
 想像すら付かぬ持ち込み物に思わず首を傾げるほど。

 瀬玲はそんな事に目も暮れず、椅子に座るカプロを退ける様に手で払う。
 カプロが慌て椅子ごと離れる間に、瀬玲は手に持つ長物を散らかった机の上へと「コトリ」と置いた。

「ま、開けてみればわかるよ」

「じれったいッスねぇ」

「アンタのアプローチの仕方よりはマシ」

 痛い所を突かれ、カプロの顔に苦虫を噛み潰した様なしかめっ面が浮かぶ。
 とはいえ目の前に置かれた物に興味が無い訳でも無く。
 再び椅子ごと机の前に戻ると、焦らす事も無く長物に巻かれた布を解き始めた。

 そして全てが解かれ、中身が露わとなった時―――唸り声が打ち上がる。



「こ、これって……!!」



 姿を晒したのはなんと魔剣。

 その名は【エベルミナク】。



 かつて【東京事変】の際に【救世】の一員であるレヴィトーンという魔者が持っていた陣太刀型魔剣。
 古代三十種の一つであり、その性能は上から数えた方が速いというまでの物。
 現在はジョゾウが所持し、最近まで奮っていたはずの一品である。

 それはカプロも認識済みで、何故瀬玲がそんな物を持っていたのか不思議でならなかったのだ。

「そ、【エベルミナク】。 こないだの日本での出来事の時にジョゾウさんから預かったの」

「はぇー。 でもなんでジョゾウさんが? 二年前あんだけ『触ってはならん!!』なんて言って触れる事すらさせてくれなかったのに」



 それは二年前、【東京事変】の直後。
 旧魔特隊本部襲撃を退け、落ち着いた時の話。
 カプロらは一度集まり、互いの状況を説明し合った。
 その際、ジョゾウは親友ボウジの命と引き換えにレヴィトーンを倒し、【エベルミナク】を得たのだと語った。
 それに興味を持ったカプロがジョゾウに調査を懇願したのだが、見事に断られたのだ。

 なんでも彼が言うには「この魔剣は悲哀に囚われた者の形見であり魂、もう戦いに巻き込む事は望まぬ」と徹底拒否したのだという。



 しかし一ヵ月ほど前の小嶋由子の事件の際、ジョゾウは魔剣を使った実績がある。
 そして今こうして現物が目の前にある。
 それがカプロには不条理に思えてならない様だ。

「その事はジョゾウさんも謝ってたよ。 でも、二年前から色々あったみたいだから……だからきっと、こないだの日本での講演を聴いて思い直したんだと思う」

 こうして瀬玲がこの魔剣を持つに至ったのもジョゾウの意思によるもの。
 まるでそれに頷くかの如く、照明の光を浴びた鍔が眩い瞬きを「ギラリ」と返す。

 瀬玲は傍に置かれた椅子を見つけると、そっと手繰り寄せて腰を降ろす。
 そのまま彼女が語るのはほんの数日前の起きた事。

 ア・リーヴェの話を終え、アルクトゥーンが日本を発つ直前の出来事だった……。


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