962 / 1,197
第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~SS、一つ~
しおりを挟む
国連での公演から一週間後。
アルディ護送に立ち会ったリッダとアネットが帰還し、とうとうアルクトゥ―ン出発の時が訪れた。
目指すは北米大陸、アメリカを蝕む【救世同盟】を叩く為。
フランスの傍であるイタリア西部の高原地帯を抜けて地中海へと躍り出たアルクトゥーンは、そのまま海上を進み大西洋上を渡ってアメリカへと向かう。
刺激さえしなければデューク=デュラン達が手を出してくる事は無いだろう、そう踏んでの道順であった。
そしてそれは予想通りとなり、勇達グランディーヴァは無事太平洋へと抜ける事が出来たのだった。
この話は、そこに加えて大西洋上を行く間に起きた……様々なハプニングを収録したものである。
◇◇◇
SS第一話
≪リッダさんとアネットさんの出会い≫
「そういえばさ、リッダはなんで消えてないんだ?」
「そっ、それは……」
これは艦内で勇とリッダ達が遭遇した時の事。
そんな時、ふと勇は疑問に思った事を打ち明けた。
おおよそ四年前、リッダの一族であるナイーヴァ族は勇達によって討伐され、光になって消えた。
しかしリッダは同族にも拘らずこうやって今もこの世界に居る訳で。
ちょっとした矛盾に、勇も疑問を感じていた様だ。
例えア・リーヴェの知識にアクセス出来ても、そんな細かい所までを知る事は出来なかったから。
「実はですねぇ~リッダちゃん、その時家出してたんですよ~」
「バッカ!! なんで言うんだ!!」
溜めも無い素早い回答に、勇も驚く間も与えられぬまま「へぇ~」と頷く。
「それでですねぇ~しかもその時転移に巻き込まれたらしくて~アメリカ西海岸に漂着した後、途方に暮れてたらしいんですよ~」
「だから何でアネットが説明するんだ!! 私に語らせろ!! 語らせて!?」
アネットの下でリッダが跳ねているが、手が肩にすら届かないので全く意にも介さない。
「そこで偶然私が出会ってぇ~最初は剣を突きつけられて怖かったんですけど~……丁度持っていたツナ缶をあげたら大人しくなりましたぁ」
「ツナ缶!? なんで持ってたの!?」
家出で何も持たず、しかも知らない場所に突如放り出されたのだ、きっと当時のリッダは寂しかったし飢えていたのだろう。
そこに現れたが『こちら側』の人間であるアネット。
しかし持ち前の緩さと優しさはリッダの救いとなり、以降二人は打ち解け合ったという訳である。
「最初逢った時は人魚さんかと思って~なんか凄い嬉しかったんですよぅ」
「よくわからんが、会った時アネットがいきなり歌い始めてな。 『人魚はこう歌うものなんですぅ~』って。 でも歌を聴いた時、焦っていた気持ちが和らいだ気がして、気付いたら聴き入ってたんだ」
次ぐに次ぐ意外な展開は二人らしいと言えるが、それが今の仲の良さを生んだのだと思えば納得も行くもので。
気付けば感慨深く聞く勇の姿が在った。
「だから私とアネットはこうして手を取り合い、助けあって生きていく事が出来るんだ。 私達は間違いなく親友同士だと恥じる事も無く言わせてもらおう」
きっと彼女の言う通り、二人は比類なき友。
奇妙な運命が巡り合わせた最高の親友同士なのだろう。
そう、無い胸を張って言い切るリッダを、勇はそっと微笑みで返していた。
そんな時、不意にリッダの肩をアネットの指が「トントン」と突いた。
「なんだアネット?」
「ツナ缶ですぅ~!!」
「ガアアアア!!! 寄越せ!! ツナ缶は私のものだァアアアア!!!」
アネットが何故か持っていたツナ缶を提示された途端、リッダの目が血走り荒ぶる姿へと形を変える。
そのまま奪い取ると、「がうがう」と一心不乱に内包物を漁り始めた。
「……ナニコレ」
「リッダちゃんツナ缶が大好物なんですよ~餌付けですぅ~」
確かにリッダにとってアネットは親友なのだろう。
……アネットがどう思っているかは別として。
「藤咲さんもこれ、食べますか?」
「えっ?」
「最高級キャビアですぅ~」
人の価値は金額では換えられない。
しかし今こうして価値観を缶詰で見せつけられ、何とも言えぬ複雑な気持ちで表情を崩す勇の姿があった。
◇◇◇
SS第二話
≪創世の女神さんマジ最弱≫
とある時、茶奈はア・リーヴェさんを連れてアルクトゥーンを散策していた
勇はア・リーヴェさんを置いてどこかへ出掛けて不在。
会議も何も無いという事で、広い艦内を探す訳にもいかず。
退屈そうなア・リーヴェさんを捨て置く訳にもいかず、茶奈が暇潰しがてら彼女を連れて歩き始めたという訳だ。
「勇さんは一体どこに行ったんでしょうか」
『フジサキユウは【ゴーコ↓】なる物に行くとおっしゃっておりました。 それが何なのかは私にもわかりません』
「【ゴーコ】ってなんだろ……」
言語の壁も時には役立つ事もある。
もしそれが読み取られれば、茶奈が再び黒いフルクラスタを発現して勇を追いかけ回す事請け合いだ。
ア・リーヴェさんを肩に乗せ、茶奈がゆるりと歩く。
その歩みは優しく、ア・リーヴェさんが心遣いに笑みを零さずにはいられない。
「そう言えばア・リーヴェさんって勇さんと離れても平気なんですか?」
『ええ。 私は彼の天力を分けてもらって具現化しています。 この様に形に成る事である程度の自由が利きますから。 とはいえ具現化した私はあくまでア・リーヴェ本体の記憶にアクセス可能な別個体に過ぎません。 なので私はア・リーヴェであってア・リーヴェ本人では無いのです』
つまり今の彼女はア・リーヴェさんであってア・リーヴェではない。
今ここでさん付けさせているのはそういった理由があるからだ。
「うーん、よくわからないけど……コピーみたいなものでしょうか」
『大体そんな感じです。 ですからこの肉体が破壊されれば私は死にますし、記憶も個体差が生じます。 アクセスする事で記憶自体は補完可能ですが、脳に当たる部分が破砕されればその時点で現個体の有する記憶は全て抹消されます』
「こ、怖い事言わないで下さい……」
客観的に語るのはア・リーヴェ自身の癖なのか、それとも別個体だからと遠慮も要らないだけなのか。
『大丈夫ですよタナカチャナ。 例え私が死んでも、再び天力を頂ければ再構築は難しくありませんから』
「でも出来れば死んでほしくないですね……」
人が死ぬ様を見る事に馴れたとはいえ、見たいと思う訳でも無く。
いくら「何度でも甦るさ!」と言われようと、知り合いが死ぬ所は是が非でも見たくない所だ。
冗談か本気かもわからぬそんな会話をしながら二人が通路を行く。
目の前に在るのは十字路。
するとそんな時、突如として小さい影が足元を横切った。
「あっ!!」
小さい影は茶奈に気付かずぶつかり、不意な衝撃を与える。
思わぬ出来事に、茶奈がその腰を落として床に尻餅を突いた。
「いたた……」
「すまないチャナ=タナカ!! 悪気は無いんだ!!」
姿を現したのはお騒がせリッダさん。
当然後ろからアネットも。
「あのキッピーとかいう謎の生物を探していたんだ!! アイツは遊び甲斐があるからな!!」
「キッピーちゃんをどうしようっていうんですかぁ……」
神出鬼没の謎生物キッピーも、リッダに掛かれば玩具と化す。
きっと弄られるのが嫌で逃げたのだろう、そうも思えば同情せざるを得ない。
「今度はあっちを探す!! 行くぞアネット!!」
「がってんしょうち!!」
なんでそんな言葉を知っているのか疑問は尽きない。
茶奈は嵐の様に現れては去っていった二人へ呆れた視線を向けていた。
「全く……キッピーちゃん無事だといいけど。 あ……ア・リーヴェさんごめんなさい、どこ行っちゃいました?」
既に茶奈の肩にはア・リーヴェさんの姿は無い。
先程の衝撃でどこかに飛んだのだろうか。
周囲を見渡し探るも、人形の様な彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
「あれ……おかしいなどこに……―――!?」
そんな時、彼女の表情が石の様に固まった。
今彼女が感じたのは―――温もり。
腰部を伝い、感じさせるのは人の体温の様な感覚と、ぬめり。
恐る恐る茶奈が腰を上げ、そのままに視線をやった途端―――彼女の顔が蒼白となる。
「アッ……あっ……あああああ!!!!」
そこに生まれていたのは血だまり。
床の一部を真っ赤に染まり上げた創世の女神のコピー……だった物体の成れの果てだった。
「ああ……あああ……勇さっ……勇さあああああん!!!!」
その後、再び勇の手によってア・リーヴェさんは再構築された。
しかしア・リーヴェさんは「もう二度と人の肩に乗るのは止めよう」と誓い、それ以降肩に乗せられても頑なに降りる様になったのだという。
アルディ護送に立ち会ったリッダとアネットが帰還し、とうとうアルクトゥ―ン出発の時が訪れた。
目指すは北米大陸、アメリカを蝕む【救世同盟】を叩く為。
フランスの傍であるイタリア西部の高原地帯を抜けて地中海へと躍り出たアルクトゥーンは、そのまま海上を進み大西洋上を渡ってアメリカへと向かう。
刺激さえしなければデューク=デュラン達が手を出してくる事は無いだろう、そう踏んでの道順であった。
そしてそれは予想通りとなり、勇達グランディーヴァは無事太平洋へと抜ける事が出来たのだった。
この話は、そこに加えて大西洋上を行く間に起きた……様々なハプニングを収録したものである。
◇◇◇
SS第一話
≪リッダさんとアネットさんの出会い≫
「そういえばさ、リッダはなんで消えてないんだ?」
「そっ、それは……」
これは艦内で勇とリッダ達が遭遇した時の事。
そんな時、ふと勇は疑問に思った事を打ち明けた。
おおよそ四年前、リッダの一族であるナイーヴァ族は勇達によって討伐され、光になって消えた。
しかしリッダは同族にも拘らずこうやって今もこの世界に居る訳で。
ちょっとした矛盾に、勇も疑問を感じていた様だ。
例えア・リーヴェの知識にアクセス出来ても、そんな細かい所までを知る事は出来なかったから。
「実はですねぇ~リッダちゃん、その時家出してたんですよ~」
「バッカ!! なんで言うんだ!!」
溜めも無い素早い回答に、勇も驚く間も与えられぬまま「へぇ~」と頷く。
「それでですねぇ~しかもその時転移に巻き込まれたらしくて~アメリカ西海岸に漂着した後、途方に暮れてたらしいんですよ~」
「だから何でアネットが説明するんだ!! 私に語らせろ!! 語らせて!?」
アネットの下でリッダが跳ねているが、手が肩にすら届かないので全く意にも介さない。
「そこで偶然私が出会ってぇ~最初は剣を突きつけられて怖かったんですけど~……丁度持っていたツナ缶をあげたら大人しくなりましたぁ」
「ツナ缶!? なんで持ってたの!?」
家出で何も持たず、しかも知らない場所に突如放り出されたのだ、きっと当時のリッダは寂しかったし飢えていたのだろう。
そこに現れたが『こちら側』の人間であるアネット。
しかし持ち前の緩さと優しさはリッダの救いとなり、以降二人は打ち解け合ったという訳である。
「最初逢った時は人魚さんかと思って~なんか凄い嬉しかったんですよぅ」
「よくわからんが、会った時アネットがいきなり歌い始めてな。 『人魚はこう歌うものなんですぅ~』って。 でも歌を聴いた時、焦っていた気持ちが和らいだ気がして、気付いたら聴き入ってたんだ」
次ぐに次ぐ意外な展開は二人らしいと言えるが、それが今の仲の良さを生んだのだと思えば納得も行くもので。
気付けば感慨深く聞く勇の姿が在った。
「だから私とアネットはこうして手を取り合い、助けあって生きていく事が出来るんだ。 私達は間違いなく親友同士だと恥じる事も無く言わせてもらおう」
きっと彼女の言う通り、二人は比類なき友。
奇妙な運命が巡り合わせた最高の親友同士なのだろう。
そう、無い胸を張って言い切るリッダを、勇はそっと微笑みで返していた。
そんな時、不意にリッダの肩をアネットの指が「トントン」と突いた。
「なんだアネット?」
「ツナ缶ですぅ~!!」
「ガアアアア!!! 寄越せ!! ツナ缶は私のものだァアアアア!!!」
アネットが何故か持っていたツナ缶を提示された途端、リッダの目が血走り荒ぶる姿へと形を変える。
そのまま奪い取ると、「がうがう」と一心不乱に内包物を漁り始めた。
「……ナニコレ」
「リッダちゃんツナ缶が大好物なんですよ~餌付けですぅ~」
確かにリッダにとってアネットは親友なのだろう。
……アネットがどう思っているかは別として。
「藤咲さんもこれ、食べますか?」
「えっ?」
「最高級キャビアですぅ~」
人の価値は金額では換えられない。
しかし今こうして価値観を缶詰で見せつけられ、何とも言えぬ複雑な気持ちで表情を崩す勇の姿があった。
◇◇◇
SS第二話
≪創世の女神さんマジ最弱≫
とある時、茶奈はア・リーヴェさんを連れてアルクトゥーンを散策していた
勇はア・リーヴェさんを置いてどこかへ出掛けて不在。
会議も何も無いという事で、広い艦内を探す訳にもいかず。
退屈そうなア・リーヴェさんを捨て置く訳にもいかず、茶奈が暇潰しがてら彼女を連れて歩き始めたという訳だ。
「勇さんは一体どこに行ったんでしょうか」
『フジサキユウは【ゴーコ↓】なる物に行くとおっしゃっておりました。 それが何なのかは私にもわかりません』
「【ゴーコ】ってなんだろ……」
言語の壁も時には役立つ事もある。
もしそれが読み取られれば、茶奈が再び黒いフルクラスタを発現して勇を追いかけ回す事請け合いだ。
ア・リーヴェさんを肩に乗せ、茶奈がゆるりと歩く。
その歩みは優しく、ア・リーヴェさんが心遣いに笑みを零さずにはいられない。
「そう言えばア・リーヴェさんって勇さんと離れても平気なんですか?」
『ええ。 私は彼の天力を分けてもらって具現化しています。 この様に形に成る事である程度の自由が利きますから。 とはいえ具現化した私はあくまでア・リーヴェ本体の記憶にアクセス可能な別個体に過ぎません。 なので私はア・リーヴェであってア・リーヴェ本人では無いのです』
つまり今の彼女はア・リーヴェさんであってア・リーヴェではない。
今ここでさん付けさせているのはそういった理由があるからだ。
「うーん、よくわからないけど……コピーみたいなものでしょうか」
『大体そんな感じです。 ですからこの肉体が破壊されれば私は死にますし、記憶も個体差が生じます。 アクセスする事で記憶自体は補完可能ですが、脳に当たる部分が破砕されればその時点で現個体の有する記憶は全て抹消されます』
「こ、怖い事言わないで下さい……」
客観的に語るのはア・リーヴェ自身の癖なのか、それとも別個体だからと遠慮も要らないだけなのか。
『大丈夫ですよタナカチャナ。 例え私が死んでも、再び天力を頂ければ再構築は難しくありませんから』
「でも出来れば死んでほしくないですね……」
人が死ぬ様を見る事に馴れたとはいえ、見たいと思う訳でも無く。
いくら「何度でも甦るさ!」と言われようと、知り合いが死ぬ所は是が非でも見たくない所だ。
冗談か本気かもわからぬそんな会話をしながら二人が通路を行く。
目の前に在るのは十字路。
するとそんな時、突如として小さい影が足元を横切った。
「あっ!!」
小さい影は茶奈に気付かずぶつかり、不意な衝撃を与える。
思わぬ出来事に、茶奈がその腰を落として床に尻餅を突いた。
「いたた……」
「すまないチャナ=タナカ!! 悪気は無いんだ!!」
姿を現したのはお騒がせリッダさん。
当然後ろからアネットも。
「あのキッピーとかいう謎の生物を探していたんだ!! アイツは遊び甲斐があるからな!!」
「キッピーちゃんをどうしようっていうんですかぁ……」
神出鬼没の謎生物キッピーも、リッダに掛かれば玩具と化す。
きっと弄られるのが嫌で逃げたのだろう、そうも思えば同情せざるを得ない。
「今度はあっちを探す!! 行くぞアネット!!」
「がってんしょうち!!」
なんでそんな言葉を知っているのか疑問は尽きない。
茶奈は嵐の様に現れては去っていった二人へ呆れた視線を向けていた。
「全く……キッピーちゃん無事だといいけど。 あ……ア・リーヴェさんごめんなさい、どこ行っちゃいました?」
既に茶奈の肩にはア・リーヴェさんの姿は無い。
先程の衝撃でどこかに飛んだのだろうか。
周囲を見渡し探るも、人形の様な彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
「あれ……おかしいなどこに……―――!?」
そんな時、彼女の表情が石の様に固まった。
今彼女が感じたのは―――温もり。
腰部を伝い、感じさせるのは人の体温の様な感覚と、ぬめり。
恐る恐る茶奈が腰を上げ、そのままに視線をやった途端―――彼女の顔が蒼白となる。
「アッ……あっ……あああああ!!!!」
そこに生まれていたのは血だまり。
床の一部を真っ赤に染まり上げた創世の女神のコピー……だった物体の成れの果てだった。
「ああ……あああ……勇さっ……勇さあああああん!!!!」
その後、再び勇の手によってア・リーヴェさんは再構築された。
しかしア・リーヴェさんは「もう二度と人の肩に乗るのは止めよう」と誓い、それ以降肩に乗せられても頑なに降りる様になったのだという。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
85
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる