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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~SS、二つ~
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SS第三話
≪荒ぶる創世の女神さん≫
創世の女神。
それはかつて今の宇宙を生み、その身を挺して一つだった星を二つに分けた高位の存在。
かつては人間だったが、その知恵と知識は現代の人間とは比べ物にならない程に高次元。
まさに神とも言える彼女は、誰しもが憧れ、追い求めるべき存在と言えるだろう。
しかしそんな彼女も人と同じ意思を持つ者。
時間を人と共にすれば、在り方もおのずと似通ってくるものだ。
そこは個室スペース。
最近では勇達がモンランに勤しんでいた事で注目を浴びた場所だ。
今日この日もまた特異な面々を揃え、元気に狩りが行われていた。
とりわけ目立っていたのは剣聖とラクアンツェ、そしてバロルフだ。
実はこれ、ラクアンツェのリハビリを兼ねた遊び。
現在上半身のみ修復が終わった彼女が人らしく動けるよう、細かい動作を行う訓練として剣聖が連れて来たというもの。
しかし何でも順応する剣聖と違い、ラクアンツェはどちらかと言えば勇側。
こんなゲームは不得意な様で。
直感的に動かせないアバターを前に唸る様を見せていた。
その隣のスペースでは所狭しとバロルフがコントローラーを握り、筋肉だるまx2とサイボーグが並んでゲームをするという異質な雰囲気を呼び込んでいた。
異質はそこで終わらない。
その隣ではリッダとアネットが騒ぎ立てながらコントローラーを握り、更にその隣ではキッピーが荒れ狂った様にコントローラーを振り回す。
阿鼻叫喚絵図、そこにもはや秩序は無い。
だが最も際立って異質を放っていたのは他でもない―――ア・リーヴェさんだった。
『モンランッ!! モンランッ!! ブンブラドォン!!!!』
机の上で小さな体全身で叩き付ける様にコントローラーのボタンを打ち、必死にプレイしている。
幾度と無く体をしならせ、奇声にも足る叫びを上げながらボタンを叩き続ける姿はもはや神たる威厳の欠片も在りはしない。
このプレイスタイルは彼女がゲームをどう楽しめばいいかわからないが故の結果である。
『※%$&*@!! §∥#〃Åゞ!!!』
興奮の余り、遂には自分達の使っていた言語すら飛び出す程。
次元も違う世界の言葉なので翻訳も働かない……と思いきや、これは言葉ではないらしい。
きっと前宇宙ではこんな娯楽は存在しなかったのだろう。
哀しい現実である。
「ア・リーヴェ!! うるせぇぞ!!」
心を突く叫びはゲーム音よりも優先される。
彼女の雄叫びに煩わしさを感じるのも無理は無い。
それでもア・リーヴェさんはコントローラーを叩き続ける。
その行為そのものがきっと楽しいのだ、それも仕方ない事か。
とはいえ、そんなプレイがゲーム玄人を唸らせるモンランに通用する訳もなかった。
『デッドエーンド!!』
間も無く聴こえる戦闘不能の音声。
当然対象はア・リーヴェさんの操るアバター。
『はうっ!?』
そしてその時受けた絶望が余りにも強すぎて。
間も無く彼女の体が波にさらわれた砂の様に溶けて消えていったのだった。
絶望は天士にとっての毒。
モンランはそんな毒を自ら生み出せる程のハードなゲームだったのである。
ちなみに原寸大で構築すればいいじゃないかという話も出ていたが、それだけの事をすると勇が二日間寝込む程に天力を消費するとあって話は結局無かった事になったそうな。
なおア・リーヴェさんの原寸は人間の平均身長の2.5倍程とのこと。
◇◇◇
SS第四話
≪愛を求める創世の女神さん≫
勇という天力提供者が出来たからか、ア・リーヴェさんの無茶振りが目立つ様になった。
そもそもが進路を決める為の打ち合わせで知識にアクセスする事が増えた為、具現化した彼女の知能が落ちたというデメリット故の出来事なのだが。
さすがに三度もモンランで自己崩壊を起こせば対策を取らねばならず。
とはいえ退屈させるのもなんだと、勇達が代わりに向かったのは心輝の下だった。
「―――んで、俺に何か退屈しのぎの何かを教えてくれって事か……」
サブカルチャーと言えば心輝だろう。
例え彼がわからずとも、前田と渡部との連携が相応しい答えを見つけだすかもしれない。
心輝も先日の新型魔剣騒動で再びベッド生活という事もあり、退屈しのぎには丁度良かったので。
という訳で心輝によるア・リーヴェさんへの質問会が始まりを迎えた。
「それじゃ何を勧めるか。 つかア・リーヴェさんってテレビの映像とか見れるのかよ? 映せないのに」
『その点は具現化によって私自身が光を認識出来るようになりますので問題はありません』
厳密に言えば彼女は映像に映らないのではなく、電気的信号として記録する事が出来ないだけ。
彼女自体は人間の様に光を感じ、受け取る事が出来る事が出来るそうだ。
「じゃあゲームは何でも可能って事だな。 そういや、好きなジャンルとかはあるのかよ?」
『じゃんる……ですか、つまり趣向の事ですね』
ゲームは基本的に目的を趣向という形に分け、個人個人の好みに合った内容の物を選ぶのが主流だ。
例えば操作する事で爽快感を与えるアクション、じっくりと考えて行動させるシミュレーション、頭脳を総動員して回転させるパズルや別世界を疑似体験をさせるロールプレイングなど、その幅は広い。
誰しもその中から自分に合った物があるはずで。
人間に近い思考論理を持つア・リーヴェさんも例外では無いだろう。
『そうですね……私はゲーム自体をした事がありませんでしたので何でも楽しいとは思いますが、それでもモンランの様な難しい物は厳しいでしょう』
それも当然か。
ア・リーヴェさんの体躯でアクションゲームなど、どのソフトを引っ張り出してもまともにプレイ出来はしない。
それに追随するパズルなども恐らくは不可能だろう。
もっとも、知恵の落ちきった個体にその選択肢は酷だが。
『どの様な趣向があるかはわかりませんが……私が好きな事はと言えばそうですね、やはり恋愛でしょうか』
「ほぉ、じゃあ恋愛シミュレーションってとこかなぁ」
そこはやはり女性といった所か。
前宇宙の女性が現代の女性と同じとは限らないが、その様な回答を前に心輝だけでなく勇達もが安堵の笑みを零す。
何せモンランで発狂した姿を見せられれば、次に選ぶのがどんなジャンルなのか不安にも思う訳で。
まともな回答に女性陣が「そこはやっぱりそうだよねー」などと明るい声を振りまいていた。
『ええ。 私達の世界ではありとあらゆる生命の誕生こそが喜びであり、至福でした。 それ故に恋愛は誰からも祝福され、喜びを分かち合ったものです。 それは例え異種族であろうと変わらぬ事。 よって私は望みます。 人間がどの様に恋に落ち、愛し合い、人生を謳歌するのか、その様子を見届ける事を』
「素敵ですね……」
きっとそんな慈愛に満ち溢れた世界だからこそ、彼女達は天士になるのも早かったのだろう。
世界を生む事を良しとしたのも、生まれる前から新世界を愛していたからなのかもしれない。
『あちら側』を最後まで諦めようとしなかったのもまた、彼女達の愛が故か。
『ええ、命はとても素晴らしいものです。 だからこそ、出来うる事ならば人が愛し合い、その後の人生が見届けられる様なゲームが良いですね』
「っつぅと恋愛ってより、人生ゲーム的なモンって事か。 ちょっと難しくなってきたなこれは」
男女の恋愛を描くゲームは無数にあるが、人生を描いたゲームは恐らく指で数えられる程しか無い。
需要が故の運命か。
そんな追加要求を前に堪らず心輝が眉を細める。
『難しいですか……では少し趣向を変え、恋愛に焦点を当てるのです。 そうですね、人が子を成すまでの行為を描写するゲームなどは如何でしょうか。 出来れば生々しく様子が描かれていれば幸いです』
「ちょ、ま……」
「「「それって……!?」」」
そう、ア・リーヴェさんが次に提示したのはいわゆる大人向けゲームである。
しかも行為から出産までをテーマとした、かなり偏った条件付き。
さすがのこの提案は心輝ですらも唸りを上げる。
それもそのはず。
この手のゲームには心輝も疎い。
というか解禁されてからもそんなゲームをやってる余裕が無く、ノータッチだったのだ。
しかも今やレンネィという妻が居る身で、もはや縁が無いにも等しい。
『ダメでしょうか?』
「いや、ダメじゃないけどな、少し現代文化理解しよう? 神様にエロゲ勧めてくれって言われた俺の身にもなってくれね?」
これはア・リーヴェさんに上手く伝わらず、心輝に哀しみの眼が向けられる。
世界を別った創世の女神はモンランかエロゲ以外受け付けない様だ。
モンラン or エロゲ。
極限の選択が突如として生まれ、混沌とした空気が勇達を包み込んだのは言うまでもない。
なお、次のゲームが決まる前に四度目の消滅を体験したア・リーヴェさんなのであった。
≪荒ぶる創世の女神さん≫
創世の女神。
それはかつて今の宇宙を生み、その身を挺して一つだった星を二つに分けた高位の存在。
かつては人間だったが、その知恵と知識は現代の人間とは比べ物にならない程に高次元。
まさに神とも言える彼女は、誰しもが憧れ、追い求めるべき存在と言えるだろう。
しかしそんな彼女も人と同じ意思を持つ者。
時間を人と共にすれば、在り方もおのずと似通ってくるものだ。
そこは個室スペース。
最近では勇達がモンランに勤しんでいた事で注目を浴びた場所だ。
今日この日もまた特異な面々を揃え、元気に狩りが行われていた。
とりわけ目立っていたのは剣聖とラクアンツェ、そしてバロルフだ。
実はこれ、ラクアンツェのリハビリを兼ねた遊び。
現在上半身のみ修復が終わった彼女が人らしく動けるよう、細かい動作を行う訓練として剣聖が連れて来たというもの。
しかし何でも順応する剣聖と違い、ラクアンツェはどちらかと言えば勇側。
こんなゲームは不得意な様で。
直感的に動かせないアバターを前に唸る様を見せていた。
その隣のスペースでは所狭しとバロルフがコントローラーを握り、筋肉だるまx2とサイボーグが並んでゲームをするという異質な雰囲気を呼び込んでいた。
異質はそこで終わらない。
その隣ではリッダとアネットが騒ぎ立てながらコントローラーを握り、更にその隣ではキッピーが荒れ狂った様にコントローラーを振り回す。
阿鼻叫喚絵図、そこにもはや秩序は無い。
だが最も際立って異質を放っていたのは他でもない―――ア・リーヴェさんだった。
『モンランッ!! モンランッ!! ブンブラドォン!!!!』
机の上で小さな体全身で叩き付ける様にコントローラーのボタンを打ち、必死にプレイしている。
幾度と無く体をしならせ、奇声にも足る叫びを上げながらボタンを叩き続ける姿はもはや神たる威厳の欠片も在りはしない。
このプレイスタイルは彼女がゲームをどう楽しめばいいかわからないが故の結果である。
『※%$&*@!! §∥#〃Åゞ!!!』
興奮の余り、遂には自分達の使っていた言語すら飛び出す程。
次元も違う世界の言葉なので翻訳も働かない……と思いきや、これは言葉ではないらしい。
きっと前宇宙ではこんな娯楽は存在しなかったのだろう。
哀しい現実である。
「ア・リーヴェ!! うるせぇぞ!!」
心を突く叫びはゲーム音よりも優先される。
彼女の雄叫びに煩わしさを感じるのも無理は無い。
それでもア・リーヴェさんはコントローラーを叩き続ける。
その行為そのものがきっと楽しいのだ、それも仕方ない事か。
とはいえ、そんなプレイがゲーム玄人を唸らせるモンランに通用する訳もなかった。
『デッドエーンド!!』
間も無く聴こえる戦闘不能の音声。
当然対象はア・リーヴェさんの操るアバター。
『はうっ!?』
そしてその時受けた絶望が余りにも強すぎて。
間も無く彼女の体が波にさらわれた砂の様に溶けて消えていったのだった。
絶望は天士にとっての毒。
モンランはそんな毒を自ら生み出せる程のハードなゲームだったのである。
ちなみに原寸大で構築すればいいじゃないかという話も出ていたが、それだけの事をすると勇が二日間寝込む程に天力を消費するとあって話は結局無かった事になったそうな。
なおア・リーヴェさんの原寸は人間の平均身長の2.5倍程とのこと。
◇◇◇
SS第四話
≪愛を求める創世の女神さん≫
勇という天力提供者が出来たからか、ア・リーヴェさんの無茶振りが目立つ様になった。
そもそもが進路を決める為の打ち合わせで知識にアクセスする事が増えた為、具現化した彼女の知能が落ちたというデメリット故の出来事なのだが。
さすがに三度もモンランで自己崩壊を起こせば対策を取らねばならず。
とはいえ退屈させるのもなんだと、勇達が代わりに向かったのは心輝の下だった。
「―――んで、俺に何か退屈しのぎの何かを教えてくれって事か……」
サブカルチャーと言えば心輝だろう。
例え彼がわからずとも、前田と渡部との連携が相応しい答えを見つけだすかもしれない。
心輝も先日の新型魔剣騒動で再びベッド生活という事もあり、退屈しのぎには丁度良かったので。
という訳で心輝によるア・リーヴェさんへの質問会が始まりを迎えた。
「それじゃ何を勧めるか。 つかア・リーヴェさんってテレビの映像とか見れるのかよ? 映せないのに」
『その点は具現化によって私自身が光を認識出来るようになりますので問題はありません』
厳密に言えば彼女は映像に映らないのではなく、電気的信号として記録する事が出来ないだけ。
彼女自体は人間の様に光を感じ、受け取る事が出来る事が出来るそうだ。
「じゃあゲームは何でも可能って事だな。 そういや、好きなジャンルとかはあるのかよ?」
『じゃんる……ですか、つまり趣向の事ですね』
ゲームは基本的に目的を趣向という形に分け、個人個人の好みに合った内容の物を選ぶのが主流だ。
例えば操作する事で爽快感を与えるアクション、じっくりと考えて行動させるシミュレーション、頭脳を総動員して回転させるパズルや別世界を疑似体験をさせるロールプレイングなど、その幅は広い。
誰しもその中から自分に合った物があるはずで。
人間に近い思考論理を持つア・リーヴェさんも例外では無いだろう。
『そうですね……私はゲーム自体をした事がありませんでしたので何でも楽しいとは思いますが、それでもモンランの様な難しい物は厳しいでしょう』
それも当然か。
ア・リーヴェさんの体躯でアクションゲームなど、どのソフトを引っ張り出してもまともにプレイ出来はしない。
それに追随するパズルなども恐らくは不可能だろう。
もっとも、知恵の落ちきった個体にその選択肢は酷だが。
『どの様な趣向があるかはわかりませんが……私が好きな事はと言えばそうですね、やはり恋愛でしょうか』
「ほぉ、じゃあ恋愛シミュレーションってとこかなぁ」
そこはやはり女性といった所か。
前宇宙の女性が現代の女性と同じとは限らないが、その様な回答を前に心輝だけでなく勇達もが安堵の笑みを零す。
何せモンランで発狂した姿を見せられれば、次に選ぶのがどんなジャンルなのか不安にも思う訳で。
まともな回答に女性陣が「そこはやっぱりそうだよねー」などと明るい声を振りまいていた。
『ええ。 私達の世界ではありとあらゆる生命の誕生こそが喜びであり、至福でした。 それ故に恋愛は誰からも祝福され、喜びを分かち合ったものです。 それは例え異種族であろうと変わらぬ事。 よって私は望みます。 人間がどの様に恋に落ち、愛し合い、人生を謳歌するのか、その様子を見届ける事を』
「素敵ですね……」
きっとそんな慈愛に満ち溢れた世界だからこそ、彼女達は天士になるのも早かったのだろう。
世界を生む事を良しとしたのも、生まれる前から新世界を愛していたからなのかもしれない。
『あちら側』を最後まで諦めようとしなかったのもまた、彼女達の愛が故か。
『ええ、命はとても素晴らしいものです。 だからこそ、出来うる事ならば人が愛し合い、その後の人生が見届けられる様なゲームが良いですね』
「っつぅと恋愛ってより、人生ゲーム的なモンって事か。 ちょっと難しくなってきたなこれは」
男女の恋愛を描くゲームは無数にあるが、人生を描いたゲームは恐らく指で数えられる程しか無い。
需要が故の運命か。
そんな追加要求を前に堪らず心輝が眉を細める。
『難しいですか……では少し趣向を変え、恋愛に焦点を当てるのです。 そうですね、人が子を成すまでの行為を描写するゲームなどは如何でしょうか。 出来れば生々しく様子が描かれていれば幸いです』
「ちょ、ま……」
「「「それって……!?」」」
そう、ア・リーヴェさんが次に提示したのはいわゆる大人向けゲームである。
しかも行為から出産までをテーマとした、かなり偏った条件付き。
さすがのこの提案は心輝ですらも唸りを上げる。
それもそのはず。
この手のゲームには心輝も疎い。
というか解禁されてからもそんなゲームをやってる余裕が無く、ノータッチだったのだ。
しかも今やレンネィという妻が居る身で、もはや縁が無いにも等しい。
『ダメでしょうか?』
「いや、ダメじゃないけどな、少し現代文化理解しよう? 神様にエロゲ勧めてくれって言われた俺の身にもなってくれね?」
これはア・リーヴェさんに上手く伝わらず、心輝に哀しみの眼が向けられる。
世界を別った創世の女神はモンランかエロゲ以外受け付けない様だ。
モンラン or エロゲ。
極限の選択が突如として生まれ、混沌とした空気が勇達を包み込んだのは言うまでもない。
なお、次のゲームが決まる前に四度目の消滅を体験したア・リーヴェさんなのであった。
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