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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~巨艦、浮き~
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艦隊を形作る戦艦が一隻、また一隻と、時間を掛けてだが静かに堕ちていく。
いずれもが甲板上部よりまるごと全てを斬り落とされたという事実。
にわかに信じがたい光景を目の当たりにした他の艦船の乗組員達の心境は計り知れない。
「馬鹿な!? 駆逐艦はガムで出来てるんじゃないんだぞ……!?」
グランディーヴァの力はここまでの戦いである程度は正認識されている。
それに加えてグランディーヴァ勢の脚色もブライアンを通して伝えられており、彼等の力を把握していたつもりだった。
だがこれ程の力を持つなどとは一切聞いていない。
〝これ程の力を持つのはせいぜい茶奈だけ〟、この様な認識でしかなく。
しかし肝心の茶奈の姿は戦域には見当たらない。
詰まる所〝戦っているのは下位戦力〟とでも思い込んでいたのだろう。
想定外すら超えた想定外に、彼等の焦りが表層上に噴出するのも時間の問題だった。
「艦長!! 支援砲撃は!?」
「支援はッ、仲間に当たる……いや、だがッ!! 撃て、甲板に向けて撃つんだ!!」
焦りは冷静さを失わせ、判断にも支障をきたす。
いや、もしかしたら彼等にはそんな指示もが指令通りだったのかもしれない。
艦甲板前方に設置された砲塔が回頭し、たちまち凄まじい爆音と共に砲撃を撃ち放つ。
それはたった今マヴォが斬り落とした戦艦の残骸へと向けて。
彼等はもはや友軍攻撃すら厭わないのだ。
間も無く、砲弾が艦体に直撃し激しい爆発を巻き起こす。
それが内部可燃物に引火したのだろうか、連鎖的に爆発を引き起こしていて。
赤炎と黒煙を轟々と撒き散らし、徐々に崩れて海に沈んでいく。
そんな光景を前に、管制室では「やったか!?」などという声が湧き上がっていた。
マヴォが既に別の場所へと向かっていた後というのにも気付く事無く。
その様はまるで狂気そのものだ。
砲撃された艦船にはまだ乗組員が多く乗っていただろう。
守るべき仲間達を手に掛けたのにも拘らず、艦長と思われる男は手応え有りと見せていて。
そんな姿は周りから見れば余りにも滑稽そのもの。
周囲の乗組員達すらも戸惑いを感じずには居られない程に。
しかして戦況が読み取れず、僅かな沈黙が艦橋内を包み込む。
するとその折、周囲を監視していた者から声が打ち上がった。
「か、艦長……ぜ、前方に、人が……」
「何? 人が何だと言うのだ!?」
「人が……海上に立ってます」
それを見つけた者はただただそう答えるしか出来無かった。
事実をそのまま伝える事しか。
先程から続く信じ難い出来事の連続に、事実を飲み込む力すら失っていたから。
ただ茫然とするままに事実を語って指を差し。
艦長と呼ばれた男も示された方へと双眼鏡を向けて覗き込む。
だがその瞬間、その男もが愕然とする事となる。
それは確かに人だった。
海の上を歩く、人だったのだ。
でも艦長が驚いていたのはそこではない。
歩いていた人物を知っていたからこそ、驚愕する他無かったのである。
その者……剣聖。
それはもう五年前の情報に過ぎない。
しかしそれでも十分過ぎるインパクトがあったから忘れられなかったのだろう。
アメリカ国内で起きた未曽有の危機を救った男。
突如国に出現した身長三百メートルはある巨大魔者【グリュダン】を粉砕した者こそ彼だったのだから。
艦長ともなりえる程の人物がその事を知らぬはずも無かったのだ。
「たったたた回頭!! 回頭だ!! 奴との戦闘はッ―――」
「た、対象、走り始めました!! 海の上を!!」
途端に怯える艦長を他所に、状況は大きく変化を迎える。
剣聖が走り込んで来るのは彼等の下。
海上を進む船舶が急に止まれないのは当然の事、その間隔があっという間に詰められていく。
艦橋では状況を把握出来ていない者は、慄く艦長を前に戸惑うばかり。
迫りくる一人の大男を前に、何するものかと思っていたのだろう。
だが剣聖が一直線に艦へと向けて跳び出した時―――彼等の思惑は全て反転する。
その瞬間、彼等の世界は真の意味で反転していた。
先日磨いた床が目上にあって、電灯輝く天井が目下にあって、自分達がその中心にいた。
周囲の仲間達も同様に、あるいは壁に跳ねられ明後日の方向へと舞っていく。
一方でその光景を目の当たりにした友軍艦の乗組員達は何を想っただろうか。
目の前で起きた光景に、ただただ一言「なんてこった……」という声だけが呟かれるばかりだ。
全長百メートルを超す巨大な駆逐艦が……空を飛んでいたのだから。
海水を撒き散らしながら艦体を水平に回転させて舞う様は、もはや幻想に等しい光景だった。
その進路の下で航行していた船舶の乗組員達はただただ見上げ、友軍艦が飛んでいく様を唖然と見守るしか出来るはずもなく。
常識の通用しない出来事の連続に、思考すら凍結させながら。
当の剣聖はと言えば、既に海上へと着地を果たしていた。
満足そうに「ニカリ」と笑みを浮かべ、それでもやる気満々と言わんばかりに右腕を振り回す。
一体何が起きたのか。
剣聖はただ、殴っただけに過ぎない。
全力で海面を蹴り上げ、命力をふんだんに篭めて艦首を殴り付けたら駆逐艦が空を飛んだ。
ただそれだけである。
では何故海の上に立てるのか。
これも簡単だ。
海面に命力の盾を形成し、海水を大地に見立てて歩いていただけ。
海水という物質があり、そこに抵抗力があるのならば、剣聖にとっては土があるのと何ら変わりは無い。
今までもこうして移動してきたからこそ、扱い慣れたもので。
そして彼の尋常ではない命力と育まれてきた操作力がこの様な事をいとも容易く実現してしまったのだ。
もちろんこれは彼の力の一端に過ぎず、船一隻を飛ばした程度では消耗は微々たるもの。
まだまだ力は有り余っている様子を見せ、次の獲物に狙いを付ける。
「クハハッ!! さぁて、お次はどいつで遊んでやろうかァ!!!!」
彼にとってはこんな戦いも遊びでしかないのだ。
いずれもが甲板上部よりまるごと全てを斬り落とされたという事実。
にわかに信じがたい光景を目の当たりにした他の艦船の乗組員達の心境は計り知れない。
「馬鹿な!? 駆逐艦はガムで出来てるんじゃないんだぞ……!?」
グランディーヴァの力はここまでの戦いである程度は正認識されている。
それに加えてグランディーヴァ勢の脚色もブライアンを通して伝えられており、彼等の力を把握していたつもりだった。
だがこれ程の力を持つなどとは一切聞いていない。
〝これ程の力を持つのはせいぜい茶奈だけ〟、この様な認識でしかなく。
しかし肝心の茶奈の姿は戦域には見当たらない。
詰まる所〝戦っているのは下位戦力〟とでも思い込んでいたのだろう。
想定外すら超えた想定外に、彼等の焦りが表層上に噴出するのも時間の問題だった。
「艦長!! 支援砲撃は!?」
「支援はッ、仲間に当たる……いや、だがッ!! 撃て、甲板に向けて撃つんだ!!」
焦りは冷静さを失わせ、判断にも支障をきたす。
いや、もしかしたら彼等にはそんな指示もが指令通りだったのかもしれない。
艦甲板前方に設置された砲塔が回頭し、たちまち凄まじい爆音と共に砲撃を撃ち放つ。
それはたった今マヴォが斬り落とした戦艦の残骸へと向けて。
彼等はもはや友軍攻撃すら厭わないのだ。
間も無く、砲弾が艦体に直撃し激しい爆発を巻き起こす。
それが内部可燃物に引火したのだろうか、連鎖的に爆発を引き起こしていて。
赤炎と黒煙を轟々と撒き散らし、徐々に崩れて海に沈んでいく。
そんな光景を前に、管制室では「やったか!?」などという声が湧き上がっていた。
マヴォが既に別の場所へと向かっていた後というのにも気付く事無く。
その様はまるで狂気そのものだ。
砲撃された艦船にはまだ乗組員が多く乗っていただろう。
守るべき仲間達を手に掛けたのにも拘らず、艦長と思われる男は手応え有りと見せていて。
そんな姿は周りから見れば余りにも滑稽そのもの。
周囲の乗組員達すらも戸惑いを感じずには居られない程に。
しかして戦況が読み取れず、僅かな沈黙が艦橋内を包み込む。
するとその折、周囲を監視していた者から声が打ち上がった。
「か、艦長……ぜ、前方に、人が……」
「何? 人が何だと言うのだ!?」
「人が……海上に立ってます」
それを見つけた者はただただそう答えるしか出来無かった。
事実をそのまま伝える事しか。
先程から続く信じ難い出来事の連続に、事実を飲み込む力すら失っていたから。
ただ茫然とするままに事実を語って指を差し。
艦長と呼ばれた男も示された方へと双眼鏡を向けて覗き込む。
だがその瞬間、その男もが愕然とする事となる。
それは確かに人だった。
海の上を歩く、人だったのだ。
でも艦長が驚いていたのはそこではない。
歩いていた人物を知っていたからこそ、驚愕する他無かったのである。
その者……剣聖。
それはもう五年前の情報に過ぎない。
しかしそれでも十分過ぎるインパクトがあったから忘れられなかったのだろう。
アメリカ国内で起きた未曽有の危機を救った男。
突如国に出現した身長三百メートルはある巨大魔者【グリュダン】を粉砕した者こそ彼だったのだから。
艦長ともなりえる程の人物がその事を知らぬはずも無かったのだ。
「たったたた回頭!! 回頭だ!! 奴との戦闘はッ―――」
「た、対象、走り始めました!! 海の上を!!」
途端に怯える艦長を他所に、状況は大きく変化を迎える。
剣聖が走り込んで来るのは彼等の下。
海上を進む船舶が急に止まれないのは当然の事、その間隔があっという間に詰められていく。
艦橋では状況を把握出来ていない者は、慄く艦長を前に戸惑うばかり。
迫りくる一人の大男を前に、何するものかと思っていたのだろう。
だが剣聖が一直線に艦へと向けて跳び出した時―――彼等の思惑は全て反転する。
その瞬間、彼等の世界は真の意味で反転していた。
先日磨いた床が目上にあって、電灯輝く天井が目下にあって、自分達がその中心にいた。
周囲の仲間達も同様に、あるいは壁に跳ねられ明後日の方向へと舞っていく。
一方でその光景を目の当たりにした友軍艦の乗組員達は何を想っただろうか。
目の前で起きた光景に、ただただ一言「なんてこった……」という声だけが呟かれるばかりだ。
全長百メートルを超す巨大な駆逐艦が……空を飛んでいたのだから。
海水を撒き散らしながら艦体を水平に回転させて舞う様は、もはや幻想に等しい光景だった。
その進路の下で航行していた船舶の乗組員達はただただ見上げ、友軍艦が飛んでいく様を唖然と見守るしか出来るはずもなく。
常識の通用しない出来事の連続に、思考すら凍結させながら。
当の剣聖はと言えば、既に海上へと着地を果たしていた。
満足そうに「ニカリ」と笑みを浮かべ、それでもやる気満々と言わんばかりに右腕を振り回す。
一体何が起きたのか。
剣聖はただ、殴っただけに過ぎない。
全力で海面を蹴り上げ、命力をふんだんに篭めて艦首を殴り付けたら駆逐艦が空を飛んだ。
ただそれだけである。
では何故海の上に立てるのか。
これも簡単だ。
海面に命力の盾を形成し、海水を大地に見立てて歩いていただけ。
海水という物質があり、そこに抵抗力があるのならば、剣聖にとっては土があるのと何ら変わりは無い。
今までもこうして移動してきたからこそ、扱い慣れたもので。
そして彼の尋常ではない命力と育まれてきた操作力がこの様な事をいとも容易く実現してしまったのだ。
もちろんこれは彼の力の一端に過ぎず、船一隻を飛ばした程度では消耗は微々たるもの。
まだまだ力は有り余っている様子を見せ、次の獲物に狙いを付ける。
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彼にとってはこんな戦いも遊びでしかないのだ。
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