時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
982 / 1,197
第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」

~空域、轟く~

しおりを挟む
 マヴォと剣聖が海上艦隊を、ディックと獅堂が潜水艦を次々と沈黙させ。
 最前線のアメリカ軍戦力は徐々にその数を減らしつつあった。

 しかしそれはあくまでも最前線戦力。
 マヴォ達が制したのはまだ前線艦隊の一割にも満たない戦力に過ぎなかったのだ。

 後方からはなお後続艦隊がアルクトゥーンを追う様に前進し、包囲しようと速度を上げる。
 例え仲間達が犠牲になろうとも、本丸旗艦を落とせばその時点でこの戦争が終わるのだから。

 時間が過ぎれば過ぎる程、艦隊によるアルクトゥーンの包囲は広がっていくばかりだ。
 もし広がりきってしまえば、いくらマヴォと剣聖であろうと全てを処理する事は困難を極めるだろう。
 だからこそ、二人は二手に分かれて迫る艦隊を迎え撃つ。

 全てはアルクトゥーンを防衛しきるために。





 一方その頃、戦域上空。
 周囲全域を白と灰の濃い雲が覆い、海を包み隠すかのよう。

 そんなアルクトゥーンを取り巻く空域では、海上を超えた激しい戦闘が繰り広げられていた。

「これもう私達の方が肝なんじゃないのッッッ!!!」

 瀬玲がそう咆えるのも無理は無い。
 既に無数の戦闘機が到来し、アルクトゥーンへと攻撃を開始していたのだ。
 だがその攻撃の殆どは対象へ到達する前に撃ち落とされる。
 周囲を瀬玲が打ち放ったこれでもかという程の無数の矢弾が、覆い尽くさんとばかりに飛び交っているのだから。
  音速で到来する戦闘機も紙一重で躱し、追撃を掛けて撃墜する。
 追撃の矢弾も速度こそ全速力の戦闘機には敵わないものの追尾性は非常に高く、旋回が必要なこの戦域では瀬玲側がの方が断然有利だ。
 次々と鉄の塊たる戦闘機が無数の破片を撒き散らしながら爆散し、空を煙で黒染め上げていた。

 その間も当然、防御の要である瀬玲達への攻撃も行われている。
 それをナターシャが高速機動によって回避し、反撃に繋げているのだ。

 ミサイルや戦闘機の追跡は音速の領域、並みの人間では何する間も無く対処は出来ない。
 しかしナターシャの航空能力もそれらに対して負けるとも劣らない能力を誇っている。
 速度こそ戦闘機には敵わないが、小回りは戦闘機の比では無い。
 空中急転回や滞空、逆行―――並みの戦闘機では成し得ない行動力を駆使すれば回り込むのは容易なのだ。

 そんな攻防が繰り返される最中、瀬玲が気付く。
 攻撃が更に激化している事に。

 しかし、攻撃そのものが激化しているのではない。
 後からやってきた戦闘機や戦闘ヘリ攻撃は彼女達に向けられていて。

 そう、航空戦力の標的がアルクトゥーンから彼女達に変わっていたのだ。

 そうする様に指令があったのか、それとも別の意図があるのかは知れない。
 だが少なくとも瀬玲を倒せばアルクトゥーンの防御は半減し、追撃で堕とす事も可能だろう。
 まるでそんな意図が垣間見えるかの様に、航空戦力が突如として瀬玲達へと向けて総攻撃を開始したのである。

 アメリカ軍はもはや必死だ。
 海上ではマヴォと剣聖が艦隊を沈黙させ続けており、艦隊からのミサイル攻撃には期待出来ない。
 だからこそ航空戦力だけで堕とさんと決死の特攻を掛ける。
 相手は魔剣使いであろうと人間であり、音速で鉄の塊がぶつかればダメージは免れないだろう。
 そう思った戦闘機のパイロットがあろうことか機体をぶつけんばかりの特攻を幾度と無く仕掛け始めたのだ。

 それにはナターシャも必死で回避せねばならない。

 機銃掃射とミサイルの雨。
 戦闘機の特攻。
 それがありとあらゆる方向から繰り出され、息つく暇も無い。
 それすらも彼女達を疲弊させる為の罠だと思えんばかりに。

 それでも二人は諦めない。
 迫りくる攻撃を冷静に躱し、反撃し、撃ち落す。
 戦いともなればナターシャからは普段の緩さも消え、誰にも負けない集中力を見せつけていて。
 瀬玲もまた冷静クレバーに徹する事が出来るからこそ、ナターシャの動きに同調させて隙を逃さずにあらゆる姿勢からであろうと反撃を繰り出し続けていた。

 そんな中で、とうとうアルクトゥーンが巨大な雲の中へとその姿を埋め始める。

 アルクトゥーン自体も巨大であるのにも拘らず、それすらをもちっぽけに見せる程に大きな雲影。
 それは勇達が予想にしなかった物でありながらも、絶好の機会とも言える天賜てんし



 そして遂に巨大龍がとうとうその中へと身を隠したのだった。



「アルクトゥーンが行ったッ!!」
「見えてるッ!! こンのォ!!」

 その時彼女達は急上昇を掛け、相手の視線を一挙に引き受けて。
 一瞬でもいい、アルクトゥーンから視線を外せるならば。
 そんな想いのままに瀬玲が魔剣の光を引き絞り、空へと向けて力を解き放つ。

 その時、雲の無い青の空に無数の閃光が撃ち上がり。
 それが瞬く間に進路を急転させ、海上目掛けて落下していく。
 戦闘機も、ミサイルも、砲撃も、雲も、全てを巻き込み、貫いていく。

 それを仲間が、アメリカ軍人が、空を仰いで眺め観た。



 数えきれないほど無数の虹雨こううが、雲座る空を貫いて降りしきる瞬間を。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...