時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」

~私は私さ。今も昔も変わらない~

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 双界連合グランディーヴァとアメリカ合衆国との戦争は世界に多大な衝撃と変化をもたらした。
 その原因の要こそ、アメリカ国内で人気を誇っていたエイミー=ブラットニーがアルトランによって操られていたという事実。
 これがアメリカ政府代表であるブライアン大統領自ら公表される事となり、瞬く間に世界中へと伝搬されたからだ。

 それでもアメリカという一国が発信した情報だけで全てが動いたという訳ではない。
 大国とはいえ、諸々の事情で信用していない国も多いからだ。
 そこに一時敵対したグランディーヴァが間に入る事で更に信憑性を増させ、世界中の国々を動かす結果となったのである。

 変化を顕著に現したのは当然、【救世同盟】だ。
 世界中に波及した【救世同盟】の関連団体が一つ、また一つと解散の意思を見せ始め。
 二日目には、無数に存在した団体の幾つもが解体・解散を表明する程にまで発展。
 また世界各国の、主に反救世同盟の意思を持つ国が半ば強制的に派生団体を解体に追いやった。
 それらの強制的に解体された団体のメンバー達の殆ども事実を受け入れ、抵抗はほぼ無かったそうな。

 それから今に至る、終戦から三日後。
 その三日目の出来事が、世界の認識を著しい変化へと促す事となる。

 その立役者となったのは―――エイミー当人。
 弱った体を圧し、彼女が自ら会見でエイミー・ネメシスへと至った経緯と状態を余す事無く伝えたのである。

 きっと彼女自身の言葉を誰しもが待っていたのだろう。
 元救世同盟派生団体【アースレイジー】代表であり、被害者でもある彼女の言葉を。
 彼女自身から真実を聴いて判断しようと思っていた団体も多かったのかもしれない。

 その会見を皮切りに、とうとう活動的な中規模団体までもが解散を表明し始めたのだ。
 中にはグランディーヴァへの協力を表明する者達までもが出始め。
 世界中の勢力図があっという間にグランディーヴァの色へと変化していったのである。

 まるで湖面を揺らす波紋の様な広がり方で。



 そしてその変化は、最も【救世同盟】の影響が強いフランスでも例外では無かった。


 
 フランス、オルレアン。
 デューク=デュラン達の屋敷。

 閑静な立地を有するその屋敷でも、世界の喧騒に追従するかの如き動きを見せ始める。



「デュラン、中にいらっしゃいますか?」

 そこは屋敷内にある主要路。
 人三人分は並んで歩ける程の広い通路で、左右を見れば幾つもの扉が。 
 
 その一つを眼鏡を掛けた長身の男が「コツコツ」と叩く。

 その男、先日もデュランと共に行動していた者の一人。
 深青の髪を有し、僅かに強張りはあるもののセミロング程に纏められて毛先を散らさせる。
 しかし輪郭が流れる様なラインを引く整った顔付きを有し、無駄・強張り無き細さを誇る美形。
 眼鏡から覗く目も目尻が低く、優しさを抱いた瞳を演出していて。
 その瞳に浮かぶのは薄紫……光を受けて淡く輝く様子はまるで磨かれた紫水晶アメジストのよう。

 長身の身長はおおよそ百九十センチメートル弱といったところか。
 高身長で比較的細身、とはいえ各節々は鍛えられた相応の体付きを有していて。
 白を基調として青の意匠デザインラインがあしらわれた腰程までの短いローブを身に纏う。
 全体的に清潔感を押し出したその様子は好青年像そのものである。

「ああ、居るよエクィオ。 入ってきてくれて構わない」

 すると間も無く扉の奥から籠った声が聴こえ。
 エクィオと呼ばれた男が僅かに微笑みを浮かべながら戸を開く。

 彼が足を踏み入れたのはデュランの私室。
 戸を開いて真っ先に見えるのは、書籍が立て掛けられた本棚が壁一面に沿われた様子。
 とはいえ窓は無く、部屋そのものも八畳ほどと非常に狭い。
 他にも木製の小さな机が所狭しと置かれ、彼の趣味趣向が顕著に現れている。

 そんな部屋の中央に置かれた一人用のソファーに、本を開いて座るデュラン本人の姿があった。

「なんだいエクィオ、またピューリーが何かをやらかしたのかい?」

「それはいつもの事ですよ。 そんな些細な事ではなく―――」

 エクィオがそう返しながら足を踏み入れ周囲を見回す。
 映った光景こそいつも通りだが、そこに彼が思っていた人物の姿が無く。
 それに気付き、思わず「おや?」と首を傾げる姿を見せていた。

「リデルさんはどうしたのですか? 一緒かと思っていたのですが」

「あぁ、彼女は今実家に帰っているよ。 もうすぐここもかもしれないからね。 力を持たない彼女を置いておく訳にはいかない」

「なるほど。 少し寂しいですが、それなら仕方ありません」

 デュランが本を「パタン」と閉じ、傍に添えられた机へと音も無く置く。
 視線をエクィオへと向けたまま。
 そんな彼の表情は会話の雰囲気に伴わない、浮かない表情だった。

「それで、のかな?」

 それはさも当然の如き返し。
 【救世同盟】の元締めたるデュランだからこその。

 今、デュランは休憩の真っ最中。
 ……にも拘らずそのタイミングでエクィオが訪れたという事。
 それが秘めた事実の重大さを悟らせるには充分だったのだ。

「……【革命の旗】が【救世同盟】からの離脱・解散を打診してきました。 これで中規模団体からの解散打診は六件目になります」

「そうか―――」

 そう応えるデュランも、声こそ穏やかではあったが落胆を隠せない。
 僅かに俯くその顔には陰りが生まれ、エクィオの不安を引き出していた。



 フランスにおいて【救世同盟】の活動は世界でも有数と言える程に活発的だ。
 デュラン達が率いる大団体を筆頭に、国中に散らばる中規模団体へ指示を送り。
 そこから小規模団体へと派生し、あらゆる都市部で活動を行うというのが今までの在り方だった。

 しかしデュランと下部組織を繋ぐ中規模団体が解散。
 それは各都市での【救世同盟】による活動に制御が利かなくなるという事に他ならない。
 そうなれば下部組織による〝非国民〟への監視や活動、制裁といった行動に判断力が伴わなくなってしまうだろう。
 もしかしたら暴走し、必要以上の暴動や活動を始めてしまう可能性すら有り得る。

 その結果がもたらすのは国内の混乱。
 そうなった時、デュラン達の影響力は薄れ。
 監視の目が緩み、敵対組織の付け入る隙となるだろう。

 その隙とはすなわち、デュラン達を覆い隠す鉄壁のヴェールに開いた覗き穴の事。

 その穴が今、着実に広がりつつあるのだ。



「―――彼等がそう判断したのならば、認めない訳にはいかないね」

「デュラン……貴方はそれでいいのですか?」

 肘掛で頬杖を突くデュランを前に、エクィオの顔にも陰りが帯びる。

 【救世同盟】の存在感に陰りが生まれてしまったのは、彼としても不本意な事。
 自分達の手で栄華を築き上げたからこそ、愛着もあるのだろう。
 何より彼等が信じた信念を基にして生まれた団体だからこそ、現状に憤りすら抱きもしよう。

 だがデュランはそれでもなお微笑みを絶やす事は無かった。
 それは彼が誰よりも〝人〟を知っていたから。



「彼等の信念は私達とは違うんだエクィオ。 君が居た世界とは違ってね、人には人の生活がある。 戦いよりも、生き様よりも、安心を選べるのがこの世界の良い所なのだから」



 するとデュランが背もたれに頭を預け、見上げる様に視線と微笑みを向ける。
 その姿は堂々と、それでいて慈愛を帯びた優しい声色が向けられて。

 男であるエクィオが見惚れてしまう程に―――その姿は自信と希望に満ち溢れていた。

「そしてそこに私達の意思が介在する必要は無い。 口よりも、現実よりも、意思を見せる事が何より人を惹きつける原動力となる。 だから私達は彼等の意思がまた向く事に期待して、自分達の信念を貫き続ければいい。 そこに結果が伴えば人はおのずと付いてくるものさ」

 これがデュランの意思。
 これが今までずっと変わる事の無い姿勢スタンス
 多くの人間を【救世同盟】へと誘った、〝デューク=デュラン〟の象徴性カリスマの正体。

 そしてその意思に惹かれたエクィオだからこそ―――

「そうですね、要らぬ心配でした。 こんな事ではまたピューリーに笑われてしまいそうです」

「はは、彼女もああいう性格だからね。 悪気は無い……と思うよ?」

 たちまち浮かべていた微笑みもにこやかな笑みへと変わり。
 それがエクィオにも伝搬したのか、部屋一杯に笑い声が広がっていて。
 そこには【救世同盟】の「互いを憎み合え」という思想など欠片も見当たりはしなかった。

 きっとそんな思想など彼等には関係無いのだろう。
 ただ目的世界救済を達する為に、この様に戦う事を選んだだけに過ぎない。



 この姿が……彼等にとっての普通なのだから。



「―――デュラーン!! アルバが筋肉過ぎてウゼェー!!」
「何故だピューリー!! 筋肉こそ正義であり―――」

 そんな中、部屋の向こうから甲高い叫び声と野太い雄叫びが。
 戸も閉めずに話を続けていた所為か、遮られる事無く二人の耳に飛び込んできた。

「またあの二人か……」

「はは、いいじゃないか楽しくて―――」

 そしてこんな仲間達が居て。
 笑顔で迎える様子は、勇達と何ら変わりは無い。

 そう、彼等もまた人間。
 明日を望み、未来に願いを馳せる―――普通の人間なのだ。

「デュラン、一つ教えてください」

「なんだいエクィオ?」

 自身を呼ぶ声に惹かれたデュランが身を乗り出す中、エクィオがそっと眼鏡を引き上げ。
 途端、紫瞳しどうが鋭い眼差しへと変わり、デュランの瞳へとその視線で突く。

「貴方は……アルトランとやらの手先では無いのですよね?」

 これは誰しもが抱かざるを得ない不安。

 相手が目に見えぬ存在だからこその。
 証明された存在を見てしまったからこその。

 でもその不安はの前では無意味に等しい。



「ああ、私は私さ。 今も昔も何も変わらない〝デューク=デュラン〟だ」



 迷い無くそう言い切る事が出来るからこそ、彼は強い。

 意思の強さ、心の強さ。
 それこそが命力に繋がるのだから。

 その力の強さを推し量る事は、、まだ誰にも出来ない。





 激動を控えたフランスの片隅で、勇達とは違う戦士達の想いが交錯する。
 彼等もまた世界を救う為に、自分達の望む未来を勝ち取る為に己の牙を磨く。

 来たるべきその時が……もう間も無く訪れようとしているのだから。


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