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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」
~ここにはこんなにも希望が溢れていたのか~
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アメリカ軍との熾烈な戦いを経てから三日後。
勇達の乗るアルクトゥーンはと言えば―――
ワシントンD.C.の丁度真東、大西洋中腹部にて滞空していた。
アメリカ政府の目論み通りとは言えど、グランディーヴァとは戦争を行った者同士。
いくら休戦を結んでも、その旗艦が直後に領土内で滞在する訳にはいかない。
国民感情などの理由から、やむを得ずこの様に領海外で留まる事になったという訳で。
とはいえ、秘密裏にアメリカ政府からの補給物資がこれでもかと言う程に届けられ。
艦内での生活品備蓄は潤沢、今すぐにでも次の目的地に発てそうな状態だ。
そして恩恵はそれだけには留まらず。
待ちに待った同伴者組の指定品が遂に行き渡り始めたのである。
この時、アルクトゥーンの艦内で勇達の与り知らぬ風が吹く。
その風はまるで勇達の背中を押し上げんとばかりに、優しくも強い想いを乗せていた。
関係者用通路を、勇が一人歩き行く。
進む先に見えるのは魔導技術開発ルームだ。
現在新型魔剣を鋭意開発中ともあってとても慌ただしい。
部屋の外だろうと、中から幾人か声が絡み合って聴こえて来る程に。
「カプロ居るか?」
そんな中を辿り着いて早々に覗き込み、カプロを呼ぶ。
とはいっても、別段用事がある訳ではないのだが。
勇は先程、今後の方向性の話し合いなどを済ませたばかり。
ただその話し合いにカプロの姿は無く。
それが気になってこうして暇潰し―――もとい状況を確認しに来たのである。
しかしその当人はと言えば―――
「今忙しいッスから、用があるなら後にして欲しいッス。 見学は自由、開発進捗は報告書読んでー」
言われた通り、非常に忙しそうだ。
勇がチラリと室内を眺めてみれば、誰もかれもが余裕無し。
カプロだけでなく研究班の人員までもがパソコンや工具、加工機へと釘付けになり、視線すら外せない。
よく見れば新型のパーツであろう部品が机上で無造作に転がっていて。
防犯もへったくれも無い状態で勇も思わず苦笑い。
ここが関係者以外立ち入り禁止でなければ大変な事になりそうである。
いざ手に取ってみれば、【アーディマス】製の部品がその詳細な姿を晒していて。
既に製法も確立しているのだろう、重厚な輝きが勇に微笑みを呼び込む。
胸ポケットから顔を覗かせるア・リーヴェさんもどこか嬉しそうだ。
形状から見るに、マヴォの使う【白迅甲ギュラ・メフェシュ】のバージョンアップ品だろうか。
勇の手ですら隠れてしまう程の大きさの筐体に、思わず「へぇ~」などと感心の声をも誘っていて。
他にもよく見れば小さな手甲や幾つもの鱗板、他にも腕程もある巨大なヘラの様な物までが。
それらが「一体何に使うんだ」などと興味をそそらせてならない。
「邪魔ですどいてどいてー!」
そんな勇ですら歯牙にも掛ける事無く、研究員が遠慮無しに駆けてきて。
台車をその体全体で押す様にして、勇を跳ね飛ばさん勢いで横切っていく。
勇も邪魔してはならないと咄嗟に身を逸らして道を譲る姿が。
アルクトゥーン内において、勇に遠慮する者などもはや極一部しか居ない。
グランディーヴァのメンバーは言わば運命共同体であり、立場などに左右されないのだ。
勇がそうしてくれと頼んだのもあるが、何より誰しもが自分達の役割の重要性を認識しているから。
勇達が戦う事に特化している様に。
研究班は装備の開発設計製造を。
技術班は武装メンテナンスや修理作業を。
管制班は航行制御を。
機関班は艦内駆動設備の制御と点検、整備を。
他にも福留が舵を切る物資管理や食堂運営、共同設備の管理など、様々な人間が自分達しか出来ない役割を果たしている。
そこに優劣などはもはや存在しない。
何一つ欠けてもアルクトゥーンが成り立ちはしないからこそ、皆が誇りを持って仕事に勤しんでいるのだ。
そこに用も無い勇の様な〝素人〟が足を踏み入れれば、配慮する所か邪魔者扱いされるのが当然である。
もちろん勇もそれをわかっているからこそ。
彼等の邪魔をしない様にと隅を這う様にして部屋を進んでいたのだ。
すると、そんな勇の視界に予想だにもしないとある人物の姿が映り込む。
「え……あれ?」
彼は本来そこに居るはずの無い人物。
しかも研究班に混じってパソコンを弄り、器用に操作までしているという。
そう驚いてしまう程の人物とは―――
「なんで親父がここに居るんだ……?」
そう、勇の父親だったのだ。
彼はいわば同伴組、つまりは非関係者である。
本来はこの場所に立ち入るどころか、関係者用通路の先にすら入れはしない。
確かに勇の親族ともあって信用はされているのだろう。
それにしたってこの機密の塊とも言える場所にのこのこ入れる様な立場では無いはずなのだ。
「お、勇か?」
勇の声に気付いた父親がワークチェアをぐるりと回してその顔を向ける。
そうして現れたのは、自信ありげに「ニンマリ」としたふとましい笑み。
相変わらずの重量級を感じさせる勇の父親らしい笑顔である。
「実はな、お父さんも何か協力出来ないかと思ってカプロ君にお願いしたんだ。 ほら、お父さんこれでもエンジニアだからさ、こういう時こそ力になれるかもってなぁ」
彼の背後にあるディスプレイに映るのは三次元モデル。
普通の工業部品などとは訳が違う仰々しいデザインが目を引いてならない。
それも当然か……何せこの場所は魔剣工房。
そこに映り込んでいたのは―――新型魔剣のデザインモデルなのだから。
「そうしたら3DCAD(キャド)使えるからって事で、五日前くらいから魔剣のデザインをする事になったんだ。 まさかこんな仕事する事になるとは思っても見なかったけどな!」
つまり、アメリカとの戦いでの準備をしている間に勇の父親が魔剣設計者になっていたという事である。
まさかの事実に勇の開いた口が塞がらない。
ついでに言うとア・リーヴェさんも口が窄んで動かない。
想像を超えた展開は、揃って丸い目を向け合う程の驚きを呼び込んだ様だ。
「とはいえ基礎デザインは皆さんの描いた物だから、お父さんはモデル化するだけなんだけどな」
「それでも十分凄いだろ……」
「トールさんには助けられてますよ。 一人でも人手が欲しい所でしたから」
会話の傍から研究員の一人が横槍を入れ。
空かさず勇の父親が息子顔負けの謙遜を「いやいや」と仕草付きで見せつける。
実際助かってはいるのだろう。
魔剣を造る上でそういった三次元モデルは必須だからだ。
全員がカプロの様に三次元モデルを必要としない魔導加工機を扱える訳ではなく。
その殆どはモデルデータを読み込んで動く一般的な工作機械を利用して部品加工を行っている。
しかし研究班が三次元モデルを普通に造っていては時間は全く足りない。
モデル作成と部品加工は全く別物で、並行して行う事は不可能なのだから。
だからこそ、勇の父親の様なモデル作成経験者が何より心強い協力者となるのである。
「福留さんにもオペレーター増員要請したんスけどね、ちょっと限定的過ぎてキツいらしいんス。 だから親父さんが居てくれて助かったッスよ」
カプロにも聴こえていたのだろう、加工機を操りながらそんな声を大声で飛ばしていて。
どうやら勇の父親は想像以上にこの魔導技術開発ルームにおいて重要な存在の様だ。
思いがけぬ事実の連続に、勇はもう驚く事さえ疲れ果て。
抑える事の出来ない程に内から湧き出る喜びが、堪らず「ニシシ」としたニヤけ面を誘い込む。
「それとな、こんな仕事をしてるのはお父さんだけじゃないぞ。 皆、自分達が出来る事をやろうって行動を始めてるんだ。 お母さんだって仲良くなったベティさんと簡易美容院を始めたしな」
「そ、そうなの?」
ちなみにベティさんとはグランディーヴァ機関部で働く金髪イケメン、ダニエルの妻だ。
ダニエルは先日の合コン騒動で吉岡がお持ち帰りしたという男性である。
既婚者と知らずお持ち帰りしたと宣った吉岡が不憫であるが、自業自得なので庇う余地は無い。
「ああ、そうだぞ。 道具が揃ったから始められるってな。 相沢さんは喫茶店を始めたし、他の皆さんも出来る事を始めてる。 ちなみに元締めは園部さん夫婦だ。 もちろん福留さんも一枚噛んでるけどね」
知らなかった事実の数々に、勇の口から「福留さぁん……」という声が漏れたのは言わずもがな。
サプライズとも言える事なのだ、きっと福留は敢えて教えていなかったのだろう。
もっとも、色々と忙しい余りに居住区へと足を運ばなかった勇も悪いのだが。
「居住区はこの数日でかなり変わったから、暇が出来たら行ってみるといい。 きっと驚くぞぉ」
それが楽しみでもあり、また数日空けていた事への罪悪感もあり。
またしても自信満々に答える父親を前に、勇も堪らずその顔を笑いと困惑を混ぜた様な複雑な形へと歪ませる。
「トールさん、無駄話はそれくらいにしておきましょう。 出来れば今日中に【ペルパリューゼ】の筐体データは完成させたいですから」
「も、申し訳ない! 急ぎます! それじゃな、勇!」
間髪入れずにそう返す姿は挨拶をも惜しむかの様で。
勇の父親が空かさずワークチェアを再びぐるりと回してパソコンへと向かう。
その様は勇に見せた事の無い仕事人としての父親の姿。
道具を鋭く刻む様に操りながら仕事をするその姿勢はまさに職人そのもの。
初めて見る父親の雄姿は勇にほのかな希望を与えてならない。
そしてそれだけではない。
こうして認識する事で初めて気付いたのだ。
「アルクトゥーンにはこんなにも希望が溢れていたのか」と。
目では見えなくとも心で感じる事は出来る。
勇も、ア・リーヴェさんも。
希望を力に換える天士として。
それに気付く事が出来たから―――勇にとって今日はとても幸福な日となっただろう。
現代の雷神は金槌ではなく電気信号を送る。
そしてその先に繋がるのは破壊では無く創造。
至る世界に諦める事無く彼等は紡ぐ。
至らない為に、生き残る為に。
彼等は……こうして明日への架け橋を築き続ける。
勇達の乗るアルクトゥーンはと言えば―――
ワシントンD.C.の丁度真東、大西洋中腹部にて滞空していた。
アメリカ政府の目論み通りとは言えど、グランディーヴァとは戦争を行った者同士。
いくら休戦を結んでも、その旗艦が直後に領土内で滞在する訳にはいかない。
国民感情などの理由から、やむを得ずこの様に領海外で留まる事になったという訳で。
とはいえ、秘密裏にアメリカ政府からの補給物資がこれでもかと言う程に届けられ。
艦内での生活品備蓄は潤沢、今すぐにでも次の目的地に発てそうな状態だ。
そして恩恵はそれだけには留まらず。
待ちに待った同伴者組の指定品が遂に行き渡り始めたのである。
この時、アルクトゥーンの艦内で勇達の与り知らぬ風が吹く。
その風はまるで勇達の背中を押し上げんとばかりに、優しくも強い想いを乗せていた。
関係者用通路を、勇が一人歩き行く。
進む先に見えるのは魔導技術開発ルームだ。
現在新型魔剣を鋭意開発中ともあってとても慌ただしい。
部屋の外だろうと、中から幾人か声が絡み合って聴こえて来る程に。
「カプロ居るか?」
そんな中を辿り着いて早々に覗き込み、カプロを呼ぶ。
とはいっても、別段用事がある訳ではないのだが。
勇は先程、今後の方向性の話し合いなどを済ませたばかり。
ただその話し合いにカプロの姿は無く。
それが気になってこうして暇潰し―――もとい状況を確認しに来たのである。
しかしその当人はと言えば―――
「今忙しいッスから、用があるなら後にして欲しいッス。 見学は自由、開発進捗は報告書読んでー」
言われた通り、非常に忙しそうだ。
勇がチラリと室内を眺めてみれば、誰もかれもが余裕無し。
カプロだけでなく研究班の人員までもがパソコンや工具、加工機へと釘付けになり、視線すら外せない。
よく見れば新型のパーツであろう部品が机上で無造作に転がっていて。
防犯もへったくれも無い状態で勇も思わず苦笑い。
ここが関係者以外立ち入り禁止でなければ大変な事になりそうである。
いざ手に取ってみれば、【アーディマス】製の部品がその詳細な姿を晒していて。
既に製法も確立しているのだろう、重厚な輝きが勇に微笑みを呼び込む。
胸ポケットから顔を覗かせるア・リーヴェさんもどこか嬉しそうだ。
形状から見るに、マヴォの使う【白迅甲ギュラ・メフェシュ】のバージョンアップ品だろうか。
勇の手ですら隠れてしまう程の大きさの筐体に、思わず「へぇ~」などと感心の声をも誘っていて。
他にもよく見れば小さな手甲や幾つもの鱗板、他にも腕程もある巨大なヘラの様な物までが。
それらが「一体何に使うんだ」などと興味をそそらせてならない。
「邪魔ですどいてどいてー!」
そんな勇ですら歯牙にも掛ける事無く、研究員が遠慮無しに駆けてきて。
台車をその体全体で押す様にして、勇を跳ね飛ばさん勢いで横切っていく。
勇も邪魔してはならないと咄嗟に身を逸らして道を譲る姿が。
アルクトゥーン内において、勇に遠慮する者などもはや極一部しか居ない。
グランディーヴァのメンバーは言わば運命共同体であり、立場などに左右されないのだ。
勇がそうしてくれと頼んだのもあるが、何より誰しもが自分達の役割の重要性を認識しているから。
勇達が戦う事に特化している様に。
研究班は装備の開発設計製造を。
技術班は武装メンテナンスや修理作業を。
管制班は航行制御を。
機関班は艦内駆動設備の制御と点検、整備を。
他にも福留が舵を切る物資管理や食堂運営、共同設備の管理など、様々な人間が自分達しか出来ない役割を果たしている。
そこに優劣などはもはや存在しない。
何一つ欠けてもアルクトゥーンが成り立ちはしないからこそ、皆が誇りを持って仕事に勤しんでいるのだ。
そこに用も無い勇の様な〝素人〟が足を踏み入れれば、配慮する所か邪魔者扱いされるのが当然である。
もちろん勇もそれをわかっているからこそ。
彼等の邪魔をしない様にと隅を這う様にして部屋を進んでいたのだ。
すると、そんな勇の視界に予想だにもしないとある人物の姿が映り込む。
「え……あれ?」
彼は本来そこに居るはずの無い人物。
しかも研究班に混じってパソコンを弄り、器用に操作までしているという。
そう驚いてしまう程の人物とは―――
「なんで親父がここに居るんだ……?」
そう、勇の父親だったのだ。
彼はいわば同伴組、つまりは非関係者である。
本来はこの場所に立ち入るどころか、関係者用通路の先にすら入れはしない。
確かに勇の親族ともあって信用はされているのだろう。
それにしたってこの機密の塊とも言える場所にのこのこ入れる様な立場では無いはずなのだ。
「お、勇か?」
勇の声に気付いた父親がワークチェアをぐるりと回してその顔を向ける。
そうして現れたのは、自信ありげに「ニンマリ」としたふとましい笑み。
相変わらずの重量級を感じさせる勇の父親らしい笑顔である。
「実はな、お父さんも何か協力出来ないかと思ってカプロ君にお願いしたんだ。 ほら、お父さんこれでもエンジニアだからさ、こういう時こそ力になれるかもってなぁ」
彼の背後にあるディスプレイに映るのは三次元モデル。
普通の工業部品などとは訳が違う仰々しいデザインが目を引いてならない。
それも当然か……何せこの場所は魔剣工房。
そこに映り込んでいたのは―――新型魔剣のデザインモデルなのだから。
「そうしたら3DCAD(キャド)使えるからって事で、五日前くらいから魔剣のデザインをする事になったんだ。 まさかこんな仕事する事になるとは思っても見なかったけどな!」
つまり、アメリカとの戦いでの準備をしている間に勇の父親が魔剣設計者になっていたという事である。
まさかの事実に勇の開いた口が塞がらない。
ついでに言うとア・リーヴェさんも口が窄んで動かない。
想像を超えた展開は、揃って丸い目を向け合う程の驚きを呼び込んだ様だ。
「とはいえ基礎デザインは皆さんの描いた物だから、お父さんはモデル化するだけなんだけどな」
「それでも十分凄いだろ……」
「トールさんには助けられてますよ。 一人でも人手が欲しい所でしたから」
会話の傍から研究員の一人が横槍を入れ。
空かさず勇の父親が息子顔負けの謙遜を「いやいや」と仕草付きで見せつける。
実際助かってはいるのだろう。
魔剣を造る上でそういった三次元モデルは必須だからだ。
全員がカプロの様に三次元モデルを必要としない魔導加工機を扱える訳ではなく。
その殆どはモデルデータを読み込んで動く一般的な工作機械を利用して部品加工を行っている。
しかし研究班が三次元モデルを普通に造っていては時間は全く足りない。
モデル作成と部品加工は全く別物で、並行して行う事は不可能なのだから。
だからこそ、勇の父親の様なモデル作成経験者が何より心強い協力者となるのである。
「福留さんにもオペレーター増員要請したんスけどね、ちょっと限定的過ぎてキツいらしいんス。 だから親父さんが居てくれて助かったッスよ」
カプロにも聴こえていたのだろう、加工機を操りながらそんな声を大声で飛ばしていて。
どうやら勇の父親は想像以上にこの魔導技術開発ルームにおいて重要な存在の様だ。
思いがけぬ事実の連続に、勇はもう驚く事さえ疲れ果て。
抑える事の出来ない程に内から湧き出る喜びが、堪らず「ニシシ」としたニヤけ面を誘い込む。
「それとな、こんな仕事をしてるのはお父さんだけじゃないぞ。 皆、自分達が出来る事をやろうって行動を始めてるんだ。 お母さんだって仲良くなったベティさんと簡易美容院を始めたしな」
「そ、そうなの?」
ちなみにベティさんとはグランディーヴァ機関部で働く金髪イケメン、ダニエルの妻だ。
ダニエルは先日の合コン騒動で吉岡がお持ち帰りしたという男性である。
既婚者と知らずお持ち帰りしたと宣った吉岡が不憫であるが、自業自得なので庇う余地は無い。
「ああ、そうだぞ。 道具が揃ったから始められるってな。 相沢さんは喫茶店を始めたし、他の皆さんも出来る事を始めてる。 ちなみに元締めは園部さん夫婦だ。 もちろん福留さんも一枚噛んでるけどね」
知らなかった事実の数々に、勇の口から「福留さぁん……」という声が漏れたのは言わずもがな。
サプライズとも言える事なのだ、きっと福留は敢えて教えていなかったのだろう。
もっとも、色々と忙しい余りに居住区へと足を運ばなかった勇も悪いのだが。
「居住区はこの数日でかなり変わったから、暇が出来たら行ってみるといい。 きっと驚くぞぉ」
それが楽しみでもあり、また数日空けていた事への罪悪感もあり。
またしても自信満々に答える父親を前に、勇も堪らずその顔を笑いと困惑を混ぜた様な複雑な形へと歪ませる。
「トールさん、無駄話はそれくらいにしておきましょう。 出来れば今日中に【ペルパリューゼ】の筐体データは完成させたいですから」
「も、申し訳ない! 急ぎます! それじゃな、勇!」
間髪入れずにそう返す姿は挨拶をも惜しむかの様で。
勇の父親が空かさずワークチェアを再びぐるりと回してパソコンへと向かう。
その様は勇に見せた事の無い仕事人としての父親の姿。
道具を鋭く刻む様に操りながら仕事をするその姿勢はまさに職人そのもの。
初めて見る父親の雄姿は勇にほのかな希望を与えてならない。
そしてそれだけではない。
こうして認識する事で初めて気付いたのだ。
「アルクトゥーンにはこんなにも希望が溢れていたのか」と。
目では見えなくとも心で感じる事は出来る。
勇も、ア・リーヴェさんも。
希望を力に換える天士として。
それに気付く事が出来たから―――勇にとって今日はとても幸福な日となっただろう。
現代の雷神は金槌ではなく電気信号を送る。
そしてその先に繋がるのは破壊では無く創造。
至る世界に諦める事無く彼等は紡ぐ。
至らない為に、生き残る為に。
彼等は……こうして明日への架け橋を築き続ける。
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鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
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※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
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