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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~恋に雷、虚に失意の報い~
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恋―――それは儚きもの。
愛―――それは幻想。
カタチが無いからこそ、繋ぎ止めねば消えていく。
想いを伝えねば、霞の如く溶けていく。
例えその願いが如何に大きくとも。
それはリデルが父親との再会に一身で応えていた時の事。
しんみりとする勇達の背後では、実は全く違う空気が覆っていた事を知っていただろうか?
これは、そんな空気を作った珍騒動劇。
一人の青年の淡い恋から始まった、儚くも全く尊くない残念なお話である。
会議が終わり、勇とデュランが席を離れた時。
エクィオが仲間達の視線を掻い潜り、素早い動きで机を回り込む。
その速さ、まさに蒼雷の如く。
……厳密に言えば、瀬玲の死角を突いて机の影を移動していただけだが。
向かう先は当然、気になる相手の下。
そう、ナターシャである。
やはり彼も男で、例え別世界の人間であろうとも恋をする。
決定的な身体相違があろうとも、好きになってしまえばもう雷の如く止められない。
それはさながら心輝やイシュライトの様に。
ではなんでエクィオが唐突にもナターシャの事を好きになってしまったのだろうか?
そのキッカケはご察しの通り、戦闘の時に行われた共感覚同調。
それのお陰でナターシャはエクィオの心境を知り、無事退ける事が出来たのだが。
でもその共感覚は当然、エクィオ側にも影響が出ていて。
ナターシャの心に触れたあの瞬間、彼は見た。
その素顔が母親の面影とピッタリ重なったのを。
理想像である純真さにも触れながら。
トドメにあの笑顔である。
好きにならない訳が無かったのだ。
負けた悔しさなんて【烈紅星】によってもはや消し炭と化した。
というかあの技を撃たれた時点でもう心が揺れ動いていた。
直撃を受けてしまったのはもっぱらそれが原因。
しかもこうして和解したのならば、蒼雷となって駆けつける事さえ厭わない。
「ナターシャさんっ!!」
「んっ?」
そうもなれば事は早い。
瞬時にして辿り着き、立ち上がったばかりのナターシャを前に正姿勢をキメる。
その様子はまるで、雷を受けた避雷針の如く堅牢。
余りの緊張ゆえか、ガッチリと固まる姿はまさに大地と言わんばかりだ。
「あ、あのですね、そ、その、な、なんていうか」
なお、口も同等の硬さな模様。
ナターシャを前にして、緊張が最高潮へと高まった様で。
キョトンとして見つめる姿がエクィオにはどれだけ輝いて見えた事か。
「ぼ、ぼぼくは君の事が、ですね!」
「うん?」
でもエクィオはずっと紳士的なデュランを見て来たから。
リデルの様な美しい女性を前に臆する事無く、自分を曝け出すデュランの姿を。
憧れとして、目標として、「彼の様になりたい」と強く願いながら。
だからこそ、想いを決めた今―――やっと覚悟を決める事が出来る。
「スゥ……ナターシャさん、僕は君の事が―――」
だが、現実はデュランの様に上手くいくとは限らない。
「ナターシャさぁん!」
エクィオがその一言を発しようとした瞬間、傍の扉が「バタン」と開かれて。
なんと、その先からあの竜星が飛び出してきたではないか。
これにはナターシャも堪らず大喜びだ。
「ワオ! りゅー君待ってくれてたの!?」
「うん、今終わったって聞いたからさ! 早く遊びに行こ、待ってたゲームが手に入ったんだ!」
「ホント!? やったぁ、楽しみー!!」
たちまちナターシャもピョンピョンと飛び跳ねる程に喜びを露わにしていて。
しまいには竜星と手を組んで一緒に跳ねて遊ぶ程。
きっと余程楽しみにしていたのだろう。
その待ってたゲームとやらを。
エクィオが続けようとしていた一言よりもずっと。
「ちょっと待ってくれ」
でも、エクィオとしてはそう簡単に引き下がる訳にはいかない。
折角覚悟を決めて、心にまで決めてこうして駆け付けたのだから。
「君は一体……ナターシャさんとどういう関係なのかな?」
ただ、今のエクィオはちょっと怖い。
闇を落とす程に顔を強張らせていて。
全身に蒼雷を駆け巡らせ、【蒼雷双銃ワトレィス】を握り絞めた腕をクロスさせる姿が。
何故か無駄に闘志が漲っていて、いつでも戦闘可能状態である。
例え相手が一般人であろうとも、男たるもの恋路の敵に容赦する気は一ミリたりとて無い。
「ん、りゅー君はボクの恋人だよ!!」
ただし、現実を打ち明けるまでの一ミリの間だけ、であるが。
その無垢で残酷な一言がエクィオの認識を妨げる。
現実逃避すら許さない程に、彼の意識を凍結させる。
その身が真っ白に固まる程に。
「りゅー君はすっごいんだあ。 ボクの好きなことすぐにわかってくれるの! だいすきっ!!」
「わわっ、ナ、ナターシャさんっ!?」
更に追い打ちを掛けるが如く、ナターシャが竜星に抱き着いては頬へと口付けを。
こんな行為を見てしまえば、固まった体に亀裂が走る程の苦痛をもたらしても不思議ではなく。
「カハッ!?」
遂にはエクィオがとうとう白目を剥いて、膝からガクリと崩れ行く。
それ程までの絶望が彼の恋心を粉々に打ち砕いてしまった様だ。
憐れ蒼雷銃士、一般人にさえ完全敗北。
一発も打ち込む事すら叶わずに。
どうやらエクィオはかの竜星告白動画を見ていなかったらしい。
一応英語やフランス語の翻訳も乗せて公開されたのだが。
無知ゆえの結果とはいえ、散々な仕打ちである。
「どうしたんだろう、この人?」
「うーん、わかんない。 それよりもりゅー君、遊びにいこー!」
「おぉい、俺を置いていくなよー!」
そして無垢なナターシャは壮大な死体蹴りをした事にすら気付きはしない。
共感覚で得られる感情は繋がっている間だけ。
今の彼女にエクィオの気持ちが微塵もわかる訳は無く。
床上にて項垂れるエクィオを捨て置き、アンディと竜星と共に会議室から退室していった。
「世の中は……非情だ。 母さん……」
これにて儚い恋は終わりを告げ、再び現実に打ちのめされる事へ。
出生も育ちも酷なエクィオな訳だが、まさか恋まで悲惨だとは。
もしかしたら彼は悲運の運命から逃れられないのかもしれない。
でも彼の悲運はこれだけには留まらない様だ。
「エクィオ君かわいそう、私が慰めてあげるね……?」
そんな彼の背中にそっと覆い被さったのは瀬玲。
「勝った!」という下心を秘めつつ、女性らしさで包み込む。
橙色を彩る様な優しい声色だが、胸中はこれでもかという程にドス黒い。
―――その心の色をエクィオが読めないとでも思ったのだろうか。
「すいません、僕、お淑やかな女性以外興味無いんで」
そんな彼から漏れたのは、枯れた様に掠れて気持ちの入っていない一言。
しかしその威力は当事者に限り、会心の一撃、致命傷の一刺し並みとなる。
「がハッ!?」
特に瀬玲への効果は絶大だ。
何故なら、瀬玲は今まで負け知らずの女だったのだから。
今の今まで言い寄って来た男は少なくは無く。
そんな者達を払い除けて女としての自信を培ってきた。
更には美を追及し、自分が求める男に相応しい女となれるよう努力を欠かさず。
狙った男は外さない無敵の女だったのである。 (ただし引き分けも多いが)
そんな瀬玲が遂に敗北を知る。
それも弱り切った獲物を相手にして。
その絶望は彼女の自信をマリアナ海溝よりも深いどん底へと突き落とす事に。
たちまち瀬玲もがその場に崩れ落ち、真っ白に燃え尽きる。
理想に近い人物だっただけに、逃した落胆は計り知れない。
とはいえ、女として歪みに歪んだ彼女らしい結末ではあるが。
「ぷぷー! エクィオはこう見えてガードが堅いのよぉん? そんな事も知らないなんて甘過ぎィ!!」
「あ"あ"ん!? この中途半端野郎がまたなます斬りしたろかあッ!?」
そこに嫌悪対象であるパーシィが燃料を注げば、枯れ木の如く燃え上がる事間違いなし。
たちまち二人の間に、エクィオにも負けない程の稲妻が「バチバチ」と迸り始める。
このままでは会議室で再び戦争勃発だ。
「ふはははッ!! 二人ともナイス筋肉の迸りだッ!! そう!! その迸りこそ全ては筋肉ゥ!!」
でもそんな二人の睨み合いも間も無く、黒煌筋肉によって阻まれる。
遂に沈黙を破ったアルバがその巨大な両手で二人を摘まみ上げていたのだ。
暑苦しい筋肉スマイルを見せつける様にして。
「セリィとか言ったな!! んん、実に素晴らしい筋肉だ!! 無駄なく卒なく細く無く!!」
「細いし!!」
「おまけに強靭、鍛錬を欠かさぬ戦士らしき肉体美ィ!! これぞ!! まさしく!!」
「やめれェェェェェ!!」
筋肉の話となればアルバが止まる訳も無い。
例え相手が美貌を求める女性相手だろうとも。
筋肉こそ全て、そこに男も女も美も醜も関係は無い。
それがアルバ。
筋肉の申し子と言うべき存在なのである。
「諦めな。 アルバの頭には脳味噌の代わりに筋肉が詰まってっから」
「そう!! 俺の頭の中も筋肉ゥ!!」
「もぉ勘弁してよぉ……」
アルバの肩の上で座すピューリーももうお手上げだ。
こうなったら止まらないのは嫌という程に理解している身だからこそ。
プラプラとぶら下げられた瀬玲を前に、「シシシ」と子供らしく嘲笑うのみ。
当然パーシィも良く知っているのでもはや無抵抗の御様子。
さすがの瀬玲もこのキャラ性を前にはどうにも抵抗出来ない。
というのも、アルバに対してどこか共感を得ているからだ。
見た目こそ最も濃ゆいと言えるが、その在り方は究極なまでに一貫していて。
それが方向性こそ違えど、美を追求する瀬玲と似通っているから。
徹底する程のこだわり方が自然と同類の匂いとして嗅ぎ分けたのだろう。
それに、アルバはいわゆる瀬玲の天敵とも言える存在だ。
防御を極めた突破型の戦闘スタイルはあらゆる罠を無為と化す。
つまり、戦っても勝ち目が無い類の相手なのである。
ともわかれば抵抗も虚しく、こうして吊られるしかない。
ただ、いつの間にやら瀬玲の落胆はその影を潜めていて。
もしかしたらアルバはこうなる事を見越して摘まみ上げたのかもしれない。
「んん~! ただちょっと軽いなぁ!! もう少し筋肉を多めでも良きッ!!」
―――きっと、多分。
瀬玲の苦悩も、エクィオの絶望も。
こうもなれば誰も拾い上げる事はとても叶わなさそうだ。
愛―――それは幻想。
カタチが無いからこそ、繋ぎ止めねば消えていく。
想いを伝えねば、霞の如く溶けていく。
例えその願いが如何に大きくとも。
それはリデルが父親との再会に一身で応えていた時の事。
しんみりとする勇達の背後では、実は全く違う空気が覆っていた事を知っていただろうか?
これは、そんな空気を作った珍騒動劇。
一人の青年の淡い恋から始まった、儚くも全く尊くない残念なお話である。
会議が終わり、勇とデュランが席を離れた時。
エクィオが仲間達の視線を掻い潜り、素早い動きで机を回り込む。
その速さ、まさに蒼雷の如く。
……厳密に言えば、瀬玲の死角を突いて机の影を移動していただけだが。
向かう先は当然、気になる相手の下。
そう、ナターシャである。
やはり彼も男で、例え別世界の人間であろうとも恋をする。
決定的な身体相違があろうとも、好きになってしまえばもう雷の如く止められない。
それはさながら心輝やイシュライトの様に。
ではなんでエクィオが唐突にもナターシャの事を好きになってしまったのだろうか?
そのキッカケはご察しの通り、戦闘の時に行われた共感覚同調。
それのお陰でナターシャはエクィオの心境を知り、無事退ける事が出来たのだが。
でもその共感覚は当然、エクィオ側にも影響が出ていて。
ナターシャの心に触れたあの瞬間、彼は見た。
その素顔が母親の面影とピッタリ重なったのを。
理想像である純真さにも触れながら。
トドメにあの笑顔である。
好きにならない訳が無かったのだ。
負けた悔しさなんて【烈紅星】によってもはや消し炭と化した。
というかあの技を撃たれた時点でもう心が揺れ動いていた。
直撃を受けてしまったのはもっぱらそれが原因。
しかもこうして和解したのならば、蒼雷となって駆けつける事さえ厭わない。
「ナターシャさんっ!!」
「んっ?」
そうもなれば事は早い。
瞬時にして辿り着き、立ち上がったばかりのナターシャを前に正姿勢をキメる。
その様子はまるで、雷を受けた避雷針の如く堅牢。
余りの緊張ゆえか、ガッチリと固まる姿はまさに大地と言わんばかりだ。
「あ、あのですね、そ、その、な、なんていうか」
なお、口も同等の硬さな模様。
ナターシャを前にして、緊張が最高潮へと高まった様で。
キョトンとして見つめる姿がエクィオにはどれだけ輝いて見えた事か。
「ぼ、ぼぼくは君の事が、ですね!」
「うん?」
でもエクィオはずっと紳士的なデュランを見て来たから。
リデルの様な美しい女性を前に臆する事無く、自分を曝け出すデュランの姿を。
憧れとして、目標として、「彼の様になりたい」と強く願いながら。
だからこそ、想いを決めた今―――やっと覚悟を決める事が出来る。
「スゥ……ナターシャさん、僕は君の事が―――」
だが、現実はデュランの様に上手くいくとは限らない。
「ナターシャさぁん!」
エクィオがその一言を発しようとした瞬間、傍の扉が「バタン」と開かれて。
なんと、その先からあの竜星が飛び出してきたではないか。
これにはナターシャも堪らず大喜びだ。
「ワオ! りゅー君待ってくれてたの!?」
「うん、今終わったって聞いたからさ! 早く遊びに行こ、待ってたゲームが手に入ったんだ!」
「ホント!? やったぁ、楽しみー!!」
たちまちナターシャもピョンピョンと飛び跳ねる程に喜びを露わにしていて。
しまいには竜星と手を組んで一緒に跳ねて遊ぶ程。
きっと余程楽しみにしていたのだろう。
その待ってたゲームとやらを。
エクィオが続けようとしていた一言よりもずっと。
「ちょっと待ってくれ」
でも、エクィオとしてはそう簡単に引き下がる訳にはいかない。
折角覚悟を決めて、心にまで決めてこうして駆け付けたのだから。
「君は一体……ナターシャさんとどういう関係なのかな?」
ただ、今のエクィオはちょっと怖い。
闇を落とす程に顔を強張らせていて。
全身に蒼雷を駆け巡らせ、【蒼雷双銃ワトレィス】を握り絞めた腕をクロスさせる姿が。
何故か無駄に闘志が漲っていて、いつでも戦闘可能状態である。
例え相手が一般人であろうとも、男たるもの恋路の敵に容赦する気は一ミリたりとて無い。
「ん、りゅー君はボクの恋人だよ!!」
ただし、現実を打ち明けるまでの一ミリの間だけ、であるが。
その無垢で残酷な一言がエクィオの認識を妨げる。
現実逃避すら許さない程に、彼の意識を凍結させる。
その身が真っ白に固まる程に。
「りゅー君はすっごいんだあ。 ボクの好きなことすぐにわかってくれるの! だいすきっ!!」
「わわっ、ナ、ナターシャさんっ!?」
更に追い打ちを掛けるが如く、ナターシャが竜星に抱き着いては頬へと口付けを。
こんな行為を見てしまえば、固まった体に亀裂が走る程の苦痛をもたらしても不思議ではなく。
「カハッ!?」
遂にはエクィオがとうとう白目を剥いて、膝からガクリと崩れ行く。
それ程までの絶望が彼の恋心を粉々に打ち砕いてしまった様だ。
憐れ蒼雷銃士、一般人にさえ完全敗北。
一発も打ち込む事すら叶わずに。
どうやらエクィオはかの竜星告白動画を見ていなかったらしい。
一応英語やフランス語の翻訳も乗せて公開されたのだが。
無知ゆえの結果とはいえ、散々な仕打ちである。
「どうしたんだろう、この人?」
「うーん、わかんない。 それよりもりゅー君、遊びにいこー!」
「おぉい、俺を置いていくなよー!」
そして無垢なナターシャは壮大な死体蹴りをした事にすら気付きはしない。
共感覚で得られる感情は繋がっている間だけ。
今の彼女にエクィオの気持ちが微塵もわかる訳は無く。
床上にて項垂れるエクィオを捨て置き、アンディと竜星と共に会議室から退室していった。
「世の中は……非情だ。 母さん……」
これにて儚い恋は終わりを告げ、再び現実に打ちのめされる事へ。
出生も育ちも酷なエクィオな訳だが、まさか恋まで悲惨だとは。
もしかしたら彼は悲運の運命から逃れられないのかもしれない。
でも彼の悲運はこれだけには留まらない様だ。
「エクィオ君かわいそう、私が慰めてあげるね……?」
そんな彼の背中にそっと覆い被さったのは瀬玲。
「勝った!」という下心を秘めつつ、女性らしさで包み込む。
橙色を彩る様な優しい声色だが、胸中はこれでもかという程にドス黒い。
―――その心の色をエクィオが読めないとでも思ったのだろうか。
「すいません、僕、お淑やかな女性以外興味無いんで」
そんな彼から漏れたのは、枯れた様に掠れて気持ちの入っていない一言。
しかしその威力は当事者に限り、会心の一撃、致命傷の一刺し並みとなる。
「がハッ!?」
特に瀬玲への効果は絶大だ。
何故なら、瀬玲は今まで負け知らずの女だったのだから。
今の今まで言い寄って来た男は少なくは無く。
そんな者達を払い除けて女としての自信を培ってきた。
更には美を追及し、自分が求める男に相応しい女となれるよう努力を欠かさず。
狙った男は外さない無敵の女だったのである。 (ただし引き分けも多いが)
そんな瀬玲が遂に敗北を知る。
それも弱り切った獲物を相手にして。
その絶望は彼女の自信をマリアナ海溝よりも深いどん底へと突き落とす事に。
たちまち瀬玲もがその場に崩れ落ち、真っ白に燃え尽きる。
理想に近い人物だっただけに、逃した落胆は計り知れない。
とはいえ、女として歪みに歪んだ彼女らしい結末ではあるが。
「ぷぷー! エクィオはこう見えてガードが堅いのよぉん? そんな事も知らないなんて甘過ぎィ!!」
「あ"あ"ん!? この中途半端野郎がまたなます斬りしたろかあッ!?」
そこに嫌悪対象であるパーシィが燃料を注げば、枯れ木の如く燃え上がる事間違いなし。
たちまち二人の間に、エクィオにも負けない程の稲妻が「バチバチ」と迸り始める。
このままでは会議室で再び戦争勃発だ。
「ふはははッ!! 二人ともナイス筋肉の迸りだッ!! そう!! その迸りこそ全ては筋肉ゥ!!」
でもそんな二人の睨み合いも間も無く、黒煌筋肉によって阻まれる。
遂に沈黙を破ったアルバがその巨大な両手で二人を摘まみ上げていたのだ。
暑苦しい筋肉スマイルを見せつける様にして。
「セリィとか言ったな!! んん、実に素晴らしい筋肉だ!! 無駄なく卒なく細く無く!!」
「細いし!!」
「おまけに強靭、鍛錬を欠かさぬ戦士らしき肉体美ィ!! これぞ!! まさしく!!」
「やめれェェェェェ!!」
筋肉の話となればアルバが止まる訳も無い。
例え相手が美貌を求める女性相手だろうとも。
筋肉こそ全て、そこに男も女も美も醜も関係は無い。
それがアルバ。
筋肉の申し子と言うべき存在なのである。
「諦めな。 アルバの頭には脳味噌の代わりに筋肉が詰まってっから」
「そう!! 俺の頭の中も筋肉ゥ!!」
「もぉ勘弁してよぉ……」
アルバの肩の上で座すピューリーももうお手上げだ。
こうなったら止まらないのは嫌という程に理解している身だからこそ。
プラプラとぶら下げられた瀬玲を前に、「シシシ」と子供らしく嘲笑うのみ。
当然パーシィも良く知っているのでもはや無抵抗の御様子。
さすがの瀬玲もこのキャラ性を前にはどうにも抵抗出来ない。
というのも、アルバに対してどこか共感を得ているからだ。
見た目こそ最も濃ゆいと言えるが、その在り方は究極なまでに一貫していて。
それが方向性こそ違えど、美を追求する瀬玲と似通っているから。
徹底する程のこだわり方が自然と同類の匂いとして嗅ぎ分けたのだろう。
それに、アルバはいわゆる瀬玲の天敵とも言える存在だ。
防御を極めた突破型の戦闘スタイルはあらゆる罠を無為と化す。
つまり、戦っても勝ち目が無い類の相手なのである。
ともわかれば抵抗も虚しく、こうして吊られるしかない。
ただ、いつの間にやら瀬玲の落胆はその影を潜めていて。
もしかしたらアルバはこうなる事を見越して摘まみ上げたのかもしれない。
「んん~! ただちょっと軽いなぁ!! もう少し筋肉を多めでも良きッ!!」
―――きっと、多分。
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