時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
669 / 1,197
第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」

~操心の悪夢再び~

しおりを挟む
 場の空気はもはや完全にデュゼローの支配下だ。
 相手は素手の片腕を露出しているだけなのに。
 構えもせず、ただ立っているだけなのに。
 一度攻撃タイミングを崩されただけで、見えていたはずの隙がもう見当たらない。

 いや、もしかしたらその隙も敢えて見せていたのかもしれない。
 勇とデュゼロー、二人の力量にどれだけの差があるのかを示す為に。

 亜月に至ってはもはや蚊帳の外だ。
 二人の間で何が起きていたのかなどわからないままで。
 〝勇が退いた〟という事実だけに気付き、間に入る事さえ出来ないでいる。

 でもこれだけは理解出来る。
 二人が今こうしている間も戦っているという事を。

 そこに自分の様な〝至らない者〟が入る余地など無いという事を。

 とはいえ、こうして動きを見せていないのは相手側の魔者達も同じだ。
 デュゼローの背後で腕を組んで立ち、ただじっと勇とのやりとりを眺め続けるだけで。

 だからこそ恐ろしい。
 実力の断片さえも覗かせる事も無く、余裕を見せているのだから。
 もし亜月が業を煮やして手を出せば、どの様な手痛い反撃を返してくるのか予想も付かない。



 たちまち、場が冬の公園らしい静けさを取り戻す。
 周囲を歩いていたはずのカップル達も、異変に気付いて逃げ去っていて。
 今この場に居るのは膠着状態の五人のみだ。

 ただし、一人だけに限っては自由に動く事が出来るが。



「確かに今回は挨拶―――だが、何もしないのも面白みが無い。 少し余興を催すとしようか」



 場を制したデュゼローならば。

 この時、隠されていたもう一本の腕がマントの中から姿を晒す。
 手に小さな四角棒の様な何かを摘まみ持ちながら。

「ッ!?」

 だが、そんなちっぽけな物が勇にこれと無い驚愕を与える事となる。

 勇は見た事があったのだ。
 それに似たとある物を。
 忌まわしき記憶を脳裏に縛り付けたと瓜二つなその物体を。

「これが何か、お前にはわかるだろう?」

「そっ、それはまさかッ!?」

 しかし、気付いた時にはもう手遅れだった。
 デュゼローは既に棒を唇へ充て、力を篭めていたのだから。

「やめろォーーーッ!!」

 あの魔剣の恐ろしさは勇が誰よりも知っている。
 故に、その身を以って味わった恐怖が、嫌悪がその身を突き動かしていた。
 〝成させてはならない!〟と、リズムさえも無視して強引に。



 でもその勢いは―――意思に反し、空かさず止められる事となる。



「がはッ!?」

 突如、飛び出そうとした勇が強引に制されたのだ。
 何者かの両手がその首を掴み取っていたのである。

 半ば飛び出そうとしていた事が逆手となり、喉に強烈な圧迫感をもたらして。
 しかも「ギリギリ」と強引に締め上げられた事で、嘔吐えずきさえもよおさせる。
 余りの力強さ故に喉が潰され、呼吸さえままならない。

「ううッ……!?」

 そして勇は気付くだろう。
 自身を締め上げる者の正体に。



 それはなんと亜月。
 彼女が勇の首を掴み取り、あまつさえ力のままに掲げ上げていたのである。



「あ、ああ、勇君!? イヤ、ダメェ! 体が勝手に動くのおッ!!」

 ただ、その様子は以前の例と少し違う。

 亜月の意識はなお正気のままで。
 首を横に振り、拒否の姿勢を露わにしている。

 でも、それは首から上だけだ。

 手は意思に反して勇を締め上げ続け。
 足は振り落とすまいと、大地を力強く踏み締めていて。
 体からは命力が迸り、その能力を如何なく発揮している。

「ガッ、カハッ……!?」

 これがあの魔剣の恐ろしさの由縁だ。
 以前は思考さえ捻じ曲げ、思い通りに操る事さえ可能とした。
 しかも本人に気付く間すら与えさせずに。
 例えそこに至らなくとも、そのおぞましさは変わらない。

 人を操る魔剣。
 その名も―――



「これは【ラパヨチャの笛】―――の模造品だ。 お前ならよく知っている物だろう?」



 それが、かつてあの獅堂雄英が使っていた操心魔剣【ラパヨチャの笛】。

 二年前では勇自身も操られ、危うく母親を殺しかけた事さえある。
 その能力に翻弄され、更には操られた仲間達に危うく殺され掛けたものだ。

 あの時は茶奈の機転が続き、辛うじて事無きを得たのだが。
 あろう事か、今再びあの恐怖の魔剣が目の前に現れた。
 勇がこうして焦るのも当然だろう。

 だがその能力がもう亜月に注がれてしまった。
 茶奈程では無くとも、常人よりも高い水準の命力量を誇る彼女に。

「効果は本物ほどではないが、人一人の自由あるいは意識だけを奪うくらいなら出来る。 この様にな」

「ウグッ、グゥゥ!?」

「どうした藤咲勇、いっそその女の腕を引き千切ってしまえばどうだ?」

 そう、亜月の持つ全命力が掴み上げる事だけに注がれているのだ。
 余りの強さ故に、振り解こうにも振り解けない。

 しかも勇にはそれを振り解けるが―――無い。

 確かに、勇は極少の命力で強力な力を発揮する事が出来るのだろう。
 しかしそれはあくまで肉体強化の分野に限った事で。
 茶奈や亜月の様な比類なき命力放出量を前にすれば、はどうしても及ばない。

 何故なら、命力の量が筋力に直結するから。
 命力そのものが筋肉や骨格の役割を果たしているからだ。
 ひ弱な茶奈が【フルクラスタ】を纏う事で勇と同等に戦えるのもまた、これが理由である。

 ただ、それでも引き剥がせるだけの腕力が勇にはあるのだろう。
 ……あるにはあるが、実行は不可能だ。



 出来る訳も無い。
 それはつまり、亜月の腕を破壊する事に繋がるのだから。



 今の勇は、言うなれば強烈な命力で縛り付けられた状態だ。
 ただし、そこに命力所持者当人の意思は一切介在していない。

 それはすなわち、怪我や痛みに対する忌避リミッターが無く、それに対する抵抗も無いという事。
 故に、例えへし折れようが千切れようが、その手は掴む事を止めないだろう。
 それを強引に押し開けば、命力よりも先に腕本体の方が容易に壊れてしまう。
 鍛え続けた勇と違い、身体造りを徹底していない亜月の腕はそれだけ脆いのだから。

 もし勇に押し戻せる程の命力があったならば、状況はまだ違ったかもしれない。
 しかし命力が減衰した勇にはそれも叶わない。
 あの命力の針でも、断ち切れる程の深度を再現する事が出来ないのだ。

 そして、それ以外の方法は皆無。
 すなわち、もう亜月の腕を犠牲にするしか道が無いのである。



 それに、抵抗するにも相手が亜月では。
 身体を蹴ろうにも躊躇いが邪魔をして。
 宙吊り状態では力も入らず、抵抗の意味を全く成さず。
 それどころか呼吸さえも困難で、気を抜けば今にも意識が飛びかねない。

 亜月の手の中でただ暴れるしかない勇。
 その姿はまるで、絞められる寸前の鶏だ。

「カッハハァ!! このまま死んじまうんじゃねぇーか?」

「それはそれで面白かろう。 たりし者の憐れなる末路もまた、いと美し」

「フッ、そうだな。 このまま何も知らずに逝く、それも一つの幸福なのかもしれん」

 そんな相手を、デュゼロー達はただただ嘲笑う。
 あまりにも無様な光景だったが故に。

 見届けるだけの彼等に、もはや慈悲は無い。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...