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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
~二人は今、ゼロへと到達す ナターシャ達 対 劣妬⑤~
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――――
――
―
「アータ達の持ってる魔剣は、もしかしたら最初期に造られた物なのかもしれないのネ」
あれは南米での出来事より三日ほど前の事だ。
呼び出したナターシャとアンディの前で、ピネは突然こう言い放った。
最初は新型魔剣が出来たからと言われて、意気揚々と訪れたのだが。
そうして始まったのが何の脈絡も無い事だったから、二人ともさぞガッカリした事だろう。
でもあのカプロとそっくりなピネが語り始めたら止まらないのは言わずもがな。
たちまち困った顔を浮かべ、腕を組んで鬱々と聴き入る二人の姿がそこに。
「アータ達の話では、魔剣同士が共鳴して加速し、未来が見えるって言ってたネ?」
「うん、そうだよ。 ボク達は確かに未来を見てた。 それでその通りに動いたら、全部本当になったんだぁ」
「俺はあんまり憶えてないなー。 でもナッティがそう言うならそうなんだろ」
しかし今度はピネの方が腕を組む事に。
半ば溜め息交じりの一呼吸も添えて。
「その現象をピネなりに考察してみたんだけどネ、理論的に言えばそれは未来じゃなく【現来】、在るべき形への思考準拠なのね」
「カプロにも言ったんだけどよ、俺達難しい話わかんねーんだけど」
「聞いた通り、ほんと面倒臭い奴等なのネ」
おまけにこんな小言まで漏れる始末だ。
とはいえ、科学理論的な話が理知的でもない少年少女にわかる訳も無く。
オマケにわかるつもりも無いのだから仕方の無い事なのだが。
するとどこからともなく、一枚の小さな脚付き白板が引き寄せられる。
ピネにも扱える、凄く凄く足の短いホワイトボードだ。
「ハッキリ言えば魔剣の力でも未来は見えないのネ」
「でもラクアンツェの婆ちゃんは未来見えるって言ってたぜ?」
「アータ、二言多いって言われないのネ? 黙っといてやるから黙って聴くのネ」
そのホワイトボードに渦巻の様な絵をキュキュキュと描き上げて。
その間も無く、続いて横線がズイーっと引かれていく。
そうして描かれたのは矢印だ。
「アータ達の力を【越界共感覚】と呼んでいるのは知っているのネ? その力は簡単に言えば、巻鉄線みたいに事象を巻いて、一定以上の力まで溜め込んだ時に解き放つ。 するとその反力で一気に時間を飛び越える、という感じのものなのネ」
ただ、その矢印の先に描かれたのはと言えば―――クエスチョンマーク。
更にはペン先でコンコンと叩いてアピールしていて。
「じゃあその先に行き付くのはどこになるか、わかるのネ?」
「んー未来?」
「コイツラ、ピネの話まーったく聴いてないのネ……ハズレ、答えはゼロ、事象の終着点なのネ」
ピネの話を代弁するなら、詰まる所こうだ。
ゼンマイ自体が溜め込んでいたのはただの巻き数であって、力ではない。
故に力はゼンマイが回って広がる所では無く、鉄線が接着された地点に向かうのだと。
その接着固定された地点こそが事象の終着点。
つまり、二人の魔剣を使う事で見える【現来】の場所である。
簡単に言うと〝来たるべき未来予想図への到達〟という事だ。
すなわち二人が見えるのは、〝成せば成る〟現実への道筋という事。
運命、と言った方が伝わりやすいかもしれない。
しかもその運命が自分の思う通りの結果になるという。
こんな便利な力があっていいものなのだろうか。
そう疑問が浮かびそうな特異力が、二人の魔剣に備わっているらしい。
「そこでアータ達に質問ネ。 そのゼロに行き着くという事がどういう意味か、わかるかネ?」
「いや、わかんねーよ。 ていうか黙ってろって言ったのに質問すんなよ……」
「……チッ、これだからおこちゃまは。 少しは考える脳を鍛えた方がいいのネ。 よく聴くのネ、これから話す事はアータ達の存在意義すら揺るがす事実になるからネ」
「えっ」
でもそんな物は物理的に有り得ない。
少なくとも、事象をコントロールするなど常人では到底不可能だ。
そう、常人では。
「ピネの言うゼロとはすなわち、天力転送の事を言うのね」
「「ッ!?」」
「そう、あの力こそがゼロそのもの。 事象の全てを飛び越える【第四の門 ナ・ロゥダ】の力なのネ」
その仕組みは勇やア・リーヴェからも訊いたのだろう。
だからこそ理解出来た。
だからこそ読み解けた。
【レイデッター】と【ウェイグル】の持つその真価を。
「恐らく、その二つの魔剣を造った奴は天士を知っているのネ。 それも高度の、【創世の鍵】の使い道を知る者を」
「それってまさか……!?」
「多分アータの推測は正しい。 でもそれはあくまで推論であり答えじゃないからここまで。 でも少なくとも備わった力は間違い無くそれに匹敵する。 それだけは確実よ」
「あ、『のネ~』って言ってない!」
「……とにかくなのネ。 その二つの魔剣なら疑似的な天力転送が再現可能だって事なのネ。 ただ、問題はその疑似天力転送に肉体が耐えられない。 アータ達の心は純粋だけどネ、肉体的な進化量がどうしても届かないのネ。 だからコイツを造ってみたのネ」
でもその真価を成し遂げる為には条件がある。
使い手が天士あるいは相応の力を持つ者でなければならないという条件が。
その条件を克服する為に、ピネが遂にあの魔剣を差し出した。
【アーデヴェッタの双心】である。
金銀の輝きに彩られたその魔剣を前にして、二人の期待は計り知れない。
デザイン的にも、彩り的にも、二人が今まで欲してきた物そのものだったから。
「もしコイツの能力を発動する時、アータ達は疑似的な天士になる。 今の人類に出来るのはそれくらいなのネ。 でもそれだけに見合う力はあると自負するのネ。 だからこそ忘れないで欲しい。 アータ達は二人で二つ、その自答を繰り返す事を」
「自答?」
「そう、自答なのネ。 この魔剣の能力を発揮したらきっと、事ある度に何度も『自分は誰か』と質問される。 だから『自分は自分だ』と答えるのネ。 それを怠ればその瞬間、アータ達の内の弱い方の心が死ぬ」
その煌びやかな様相と打って変わり、秘めたる力は実に禍々しい。
まさに魔剣と言う通名に相応しい、実にリスキーな力が備わっている様だ。
ただそれでも、二人は魔剣を手に取っていた。
この力ならば、もっと勇達の力になれるのだという期待のままに。
「怖くないのネ?」
「怖いけど、やりたい事があるから。 その為なら平気だよ」
「ま、アータ達ならそう言うと思ってたけどネ。 だから託すネ。 でももう一つ忠告しておくのネ。 その力を使えるのはたった一回のみ。 それ以上は、魔剣が持たないのネ」
「わかった。 ありがとな、ピネおばさん」
「ギリギリギリ―――」
―
――
――――
――――――
こうして二人は新たな魔剣を受け取った。
来たるべき戦いに向け、その力を奮う為に。
そしてその時が遂に訪れたのである。
もう互いに力も加速も充分と高まっている。
その先に進めばもう、越界の領域へと進める程に。
自問自答も済んだ。
むしろ戦闘中、うっとおしいと思えるくらいに答えて来た。
だから自分を見失わない、見失わせない。
二人は二人で在り続けながら、勇んで世界を越えよう。
その想いが通じ合った時、二人の掴む魔剣が光を放つ。
【レイデッター】が、【ウェイグル】が、【アーデヴェッタ】が。
まるで共鳴するかの如く同時に。
そうして解き放ちしは七光。
勇が放つ創世剣の輝きとも遜色変わらない―――神至の虹光である。
今、間違い無く二人は天士だった。
煌めき輝く二刃を携える、天士になったのだ。
あのペルペインが目を見開き震わせて動揺する程の。
だがもう、その眼が次に彼等を捉える事は無かった。
全ては、気付かぬまま終わっていたから。
その時はもう、二人の拳がペルペインの側頭部を撃ち貫いていたのだから。
ドッガォウッッッ!!!!
二人の加速は既に〝ゼロ〟に到達している。
これ以上速くならないという事だ。
すなわち二人は今、ゼロの時間を行き来しているという事。
ならば、成す事ももはや天士の域へと達しよう。
ペルペインの頭が打たれた時、僅かにその顔が歪む。
痛みで、歪んでいく。
しかしその歪みが始まった時にはもう、次は終わっていた。
ガグンッッッ!!!!
ナターシャの膝が小さな腹を蹴り、アンディの肘が首裏を打っていたのだ。
なれば顔が歪みきる間も無く、ペルペインの世界が回る。
超重の身体が―――浮いた。
それ程までの威力の二撃が加えられた事によって。
いや、少しそれは違う。
今の二人は天力を纏っているのと同じ。
故にペルペインの持つ謎の力に効果的だからこそ、威力を跳ね上げたのである。
しかもそれだけに留まらない。
宙でくるりと回るペルペインに間髪入れぬ追撃が加えられる事に。
兄妹二人の同時蹴り上げだ。
そのシンクロリティは疑似天士となった今も変わらない。
言葉を交わす必要は無い。
意識を交わす必要も無い。
ならばもうわかっているのだろう。
追って跳ぶ必要さえ無いのだと。
既にペルペインは空高く。
何が起こったのかも認識出来ぬまま、苦悶をその顔に映すのみ。
破壊された街を目下に、重い体がぐるりと空をも仰ぎ始めていて。
しかしてその二瞬、闇を斬り裂く光刃が瞬いた。
その数、四つ。
ズダンッッッ!!!!
その瞬きがペルペインを貫いた時、それは起きる。
細くて小さな両腕両脚が、刎ね飛んだのだ。
その根元から容赦無く。
それもほぼ同時に。
そう、同時ではない。
ゼロとゼロ繋ぎ合わせて生んだ―――二瞬である。
もはや物理的加速は不要。
ただ意識し、考えるだけで体はもうゼロへと到達しよう。
二人はもはや光さえも超え、予備動作さえも必要無い。
無間攻撃。
二人の動きは今、その領域にまで達していたのだから。
「あ、あ……ペルは、ペルは……」
その怒涛の攻撃を前にして、ペルペインはもはや成す術も無かった。
謎力による転送もアルトラン・ネメシスの意思で行った事に過ぎなくて。
例え準神と言えど、天士には匹敵しないからこそ。
だからこそ、二人の攻撃を躱す事など不可能。
少なくとも、天士とは程遠い彼女の様な存在では。
目前に迫る四本の剣を前にして、ただ眺める事しか出来はしない。
ドドズンッッッ!!!
その剣達が容赦無くペルペインへと突き刺さる。
額に口に、胸に腰に、貫かんまでに深々と。
それも、大地へと突き落とす程に勢いよく。
「べ、べる"あっ!! べる"うああッ!!」
それでもなお、ペルペインの声は止まらない。
異音交じりの奇声はもはや悲鳴ですら無い。
でもそんな声にも惑わされず、二人はひたすらに力を込める。
彗星の如く落ち行く中で、二尾を引きながら。
―――次が最後だ。 盛大に決めようぜ―――
―――うん、ボク達がこの子を止めるんだ!―――
直後そう意識が交錯した時、二人の姿がペルペイン上から消え失せる。
光の粒子を微かに跳ね上げて。
そしてペルペインの身体が大地へと到達しようとしたその瞬間―――
大地に、二刃の残光が刻まれていた。
ペルペインの背中全てを覆い尽くす程の、巨大な十字の輝きが。
虹光双閃。
この光、まさに創世剣による裂光斬撃が如し。
それ程までの力が今、ペルペインの身体を焼き尽くす。
その奥に潜む本体もろとも。
バッキャァァァーーーーーーンッッッ!!!!
それと同時に、【アーデヴェッタ】もが砕け散る事に。
役目を終え、全ての力を使い果たしたのだ。
だがこれできっと魔剣は本望だっただろう。
この時の為に産まれ、使われたのだから。
だからこそ想わずには居られない。
ナターシャもアンディも、柄だけとなった魔剣を握り締めては胸へと添える。
この激戦に勝利をもたらしてくれた功労者へ、感謝を込めて。
その誇らしげな顔は空へ。
〝自分達はやりきったよ〟と仲間にも応える様に。
そうして背を向け微笑む二人はもう―――大人の様にただただ、凛々しかった。
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「アータ達の持ってる魔剣は、もしかしたら最初期に造られた物なのかもしれないのネ」
あれは南米での出来事より三日ほど前の事だ。
呼び出したナターシャとアンディの前で、ピネは突然こう言い放った。
最初は新型魔剣が出来たからと言われて、意気揚々と訪れたのだが。
そうして始まったのが何の脈絡も無い事だったから、二人ともさぞガッカリした事だろう。
でもあのカプロとそっくりなピネが語り始めたら止まらないのは言わずもがな。
たちまち困った顔を浮かべ、腕を組んで鬱々と聴き入る二人の姿がそこに。
「アータ達の話では、魔剣同士が共鳴して加速し、未来が見えるって言ってたネ?」
「うん、そうだよ。 ボク達は確かに未来を見てた。 それでその通りに動いたら、全部本当になったんだぁ」
「俺はあんまり憶えてないなー。 でもナッティがそう言うならそうなんだろ」
しかし今度はピネの方が腕を組む事に。
半ば溜め息交じりの一呼吸も添えて。
「その現象をピネなりに考察してみたんだけどネ、理論的に言えばそれは未来じゃなく【現来】、在るべき形への思考準拠なのね」
「カプロにも言ったんだけどよ、俺達難しい話わかんねーんだけど」
「聞いた通り、ほんと面倒臭い奴等なのネ」
おまけにこんな小言まで漏れる始末だ。
とはいえ、科学理論的な話が理知的でもない少年少女にわかる訳も無く。
オマケにわかるつもりも無いのだから仕方の無い事なのだが。
するとどこからともなく、一枚の小さな脚付き白板が引き寄せられる。
ピネにも扱える、凄く凄く足の短いホワイトボードだ。
「ハッキリ言えば魔剣の力でも未来は見えないのネ」
「でもラクアンツェの婆ちゃんは未来見えるって言ってたぜ?」
「アータ、二言多いって言われないのネ? 黙っといてやるから黙って聴くのネ」
そのホワイトボードに渦巻の様な絵をキュキュキュと描き上げて。
その間も無く、続いて横線がズイーっと引かれていく。
そうして描かれたのは矢印だ。
「アータ達の力を【越界共感覚】と呼んでいるのは知っているのネ? その力は簡単に言えば、巻鉄線みたいに事象を巻いて、一定以上の力まで溜め込んだ時に解き放つ。 するとその反力で一気に時間を飛び越える、という感じのものなのネ」
ただ、その矢印の先に描かれたのはと言えば―――クエスチョンマーク。
更にはペン先でコンコンと叩いてアピールしていて。
「じゃあその先に行き付くのはどこになるか、わかるのネ?」
「んー未来?」
「コイツラ、ピネの話まーったく聴いてないのネ……ハズレ、答えはゼロ、事象の終着点なのネ」
ピネの話を代弁するなら、詰まる所こうだ。
ゼンマイ自体が溜め込んでいたのはただの巻き数であって、力ではない。
故に力はゼンマイが回って広がる所では無く、鉄線が接着された地点に向かうのだと。
その接着固定された地点こそが事象の終着点。
つまり、二人の魔剣を使う事で見える【現来】の場所である。
簡単に言うと〝来たるべき未来予想図への到達〟という事だ。
すなわち二人が見えるのは、〝成せば成る〟現実への道筋という事。
運命、と言った方が伝わりやすいかもしれない。
しかもその運命が自分の思う通りの結果になるという。
こんな便利な力があっていいものなのだろうか。
そう疑問が浮かびそうな特異力が、二人の魔剣に備わっているらしい。
「そこでアータ達に質問ネ。 そのゼロに行き着くという事がどういう意味か、わかるかネ?」
「いや、わかんねーよ。 ていうか黙ってろって言ったのに質問すんなよ……」
「……チッ、これだからおこちゃまは。 少しは考える脳を鍛えた方がいいのネ。 よく聴くのネ、これから話す事はアータ達の存在意義すら揺るがす事実になるからネ」
「えっ」
でもそんな物は物理的に有り得ない。
少なくとも、事象をコントロールするなど常人では到底不可能だ。
そう、常人では。
「ピネの言うゼロとはすなわち、天力転送の事を言うのね」
「「ッ!?」」
「そう、あの力こそがゼロそのもの。 事象の全てを飛び越える【第四の門 ナ・ロゥダ】の力なのネ」
その仕組みは勇やア・リーヴェからも訊いたのだろう。
だからこそ理解出来た。
だからこそ読み解けた。
【レイデッター】と【ウェイグル】の持つその真価を。
「恐らく、その二つの魔剣を造った奴は天士を知っているのネ。 それも高度の、【創世の鍵】の使い道を知る者を」
「それってまさか……!?」
「多分アータの推測は正しい。 でもそれはあくまで推論であり答えじゃないからここまで。 でも少なくとも備わった力は間違い無くそれに匹敵する。 それだけは確実よ」
「あ、『のネ~』って言ってない!」
「……とにかくなのネ。 その二つの魔剣なら疑似的な天力転送が再現可能だって事なのネ。 ただ、問題はその疑似天力転送に肉体が耐えられない。 アータ達の心は純粋だけどネ、肉体的な進化量がどうしても届かないのネ。 だからコイツを造ってみたのネ」
でもその真価を成し遂げる為には条件がある。
使い手が天士あるいは相応の力を持つ者でなければならないという条件が。
その条件を克服する為に、ピネが遂にあの魔剣を差し出した。
【アーデヴェッタの双心】である。
金銀の輝きに彩られたその魔剣を前にして、二人の期待は計り知れない。
デザイン的にも、彩り的にも、二人が今まで欲してきた物そのものだったから。
「もしコイツの能力を発動する時、アータ達は疑似的な天士になる。 今の人類に出来るのはそれくらいなのネ。 でもそれだけに見合う力はあると自負するのネ。 だからこそ忘れないで欲しい。 アータ達は二人で二つ、その自答を繰り返す事を」
「自答?」
「そう、自答なのネ。 この魔剣の能力を発揮したらきっと、事ある度に何度も『自分は誰か』と質問される。 だから『自分は自分だ』と答えるのネ。 それを怠ればその瞬間、アータ達の内の弱い方の心が死ぬ」
その煌びやかな様相と打って変わり、秘めたる力は実に禍々しい。
まさに魔剣と言う通名に相応しい、実にリスキーな力が備わっている様だ。
ただそれでも、二人は魔剣を手に取っていた。
この力ならば、もっと勇達の力になれるのだという期待のままに。
「怖くないのネ?」
「怖いけど、やりたい事があるから。 その為なら平気だよ」
「ま、アータ達ならそう言うと思ってたけどネ。 だから託すネ。 でももう一つ忠告しておくのネ。 その力を使えるのはたった一回のみ。 それ以上は、魔剣が持たないのネ」
「わかった。 ありがとな、ピネおばさん」
「ギリギリギリ―――」
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こうして二人は新たな魔剣を受け取った。
来たるべき戦いに向け、その力を奮う為に。
そしてその時が遂に訪れたのである。
もう互いに力も加速も充分と高まっている。
その先に進めばもう、越界の領域へと進める程に。
自問自答も済んだ。
むしろ戦闘中、うっとおしいと思えるくらいに答えて来た。
だから自分を見失わない、見失わせない。
二人は二人で在り続けながら、勇んで世界を越えよう。
その想いが通じ合った時、二人の掴む魔剣が光を放つ。
【レイデッター】が、【ウェイグル】が、【アーデヴェッタ】が。
まるで共鳴するかの如く同時に。
そうして解き放ちしは七光。
勇が放つ創世剣の輝きとも遜色変わらない―――神至の虹光である。
今、間違い無く二人は天士だった。
煌めき輝く二刃を携える、天士になったのだ。
あのペルペインが目を見開き震わせて動揺する程の。
だがもう、その眼が次に彼等を捉える事は無かった。
全ては、気付かぬまま終わっていたから。
その時はもう、二人の拳がペルペインの側頭部を撃ち貫いていたのだから。
ドッガォウッッッ!!!!
二人の加速は既に〝ゼロ〟に到達している。
これ以上速くならないという事だ。
すなわち二人は今、ゼロの時間を行き来しているという事。
ならば、成す事ももはや天士の域へと達しよう。
ペルペインの頭が打たれた時、僅かにその顔が歪む。
痛みで、歪んでいく。
しかしその歪みが始まった時にはもう、次は終わっていた。
ガグンッッッ!!!!
ナターシャの膝が小さな腹を蹴り、アンディの肘が首裏を打っていたのだ。
なれば顔が歪みきる間も無く、ペルペインの世界が回る。
超重の身体が―――浮いた。
それ程までの威力の二撃が加えられた事によって。
いや、少しそれは違う。
今の二人は天力を纏っているのと同じ。
故にペルペインの持つ謎の力に効果的だからこそ、威力を跳ね上げたのである。
しかもそれだけに留まらない。
宙でくるりと回るペルペインに間髪入れぬ追撃が加えられる事に。
兄妹二人の同時蹴り上げだ。
そのシンクロリティは疑似天士となった今も変わらない。
言葉を交わす必要は無い。
意識を交わす必要も無い。
ならばもうわかっているのだろう。
追って跳ぶ必要さえ無いのだと。
既にペルペインは空高く。
何が起こったのかも認識出来ぬまま、苦悶をその顔に映すのみ。
破壊された街を目下に、重い体がぐるりと空をも仰ぎ始めていて。
しかしてその二瞬、闇を斬り裂く光刃が瞬いた。
その数、四つ。
ズダンッッッ!!!!
その瞬きがペルペインを貫いた時、それは起きる。
細くて小さな両腕両脚が、刎ね飛んだのだ。
その根元から容赦無く。
それもほぼ同時に。
そう、同時ではない。
ゼロとゼロ繋ぎ合わせて生んだ―――二瞬である。
もはや物理的加速は不要。
ただ意識し、考えるだけで体はもうゼロへと到達しよう。
二人はもはや光さえも超え、予備動作さえも必要無い。
無間攻撃。
二人の動きは今、その領域にまで達していたのだから。
「あ、あ……ペルは、ペルは……」
その怒涛の攻撃を前にして、ペルペインはもはや成す術も無かった。
謎力による転送もアルトラン・ネメシスの意思で行った事に過ぎなくて。
例え準神と言えど、天士には匹敵しないからこそ。
だからこそ、二人の攻撃を躱す事など不可能。
少なくとも、天士とは程遠い彼女の様な存在では。
目前に迫る四本の剣を前にして、ただ眺める事しか出来はしない。
ドドズンッッッ!!!
その剣達が容赦無くペルペインへと突き刺さる。
額に口に、胸に腰に、貫かんまでに深々と。
それも、大地へと突き落とす程に勢いよく。
「べ、べる"あっ!! べる"うああッ!!」
それでもなお、ペルペインの声は止まらない。
異音交じりの奇声はもはや悲鳴ですら無い。
でもそんな声にも惑わされず、二人はひたすらに力を込める。
彗星の如く落ち行く中で、二尾を引きながら。
―――次が最後だ。 盛大に決めようぜ―――
―――うん、ボク達がこの子を止めるんだ!―――
直後そう意識が交錯した時、二人の姿がペルペイン上から消え失せる。
光の粒子を微かに跳ね上げて。
そしてペルペインの身体が大地へと到達しようとしたその瞬間―――
大地に、二刃の残光が刻まれていた。
ペルペインの背中全てを覆い尽くす程の、巨大な十字の輝きが。
虹光双閃。
この光、まさに創世剣による裂光斬撃が如し。
それ程までの力が今、ペルペインの身体を焼き尽くす。
その奥に潜む本体もろとも。
バッキャァァァーーーーーーンッッッ!!!!
それと同時に、【アーデヴェッタ】もが砕け散る事に。
役目を終え、全ての力を使い果たしたのだ。
だがこれできっと魔剣は本望だっただろう。
この時の為に産まれ、使われたのだから。
だからこそ想わずには居られない。
ナターシャもアンディも、柄だけとなった魔剣を握り締めては胸へと添える。
この激戦に勝利をもたらしてくれた功労者へ、感謝を込めて。
その誇らしげな顔は空へ。
〝自分達はやりきったよ〟と仲間にも応える様に。
そうして背を向け微笑む二人はもう―――大人の様にただただ、凛々しかった。
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