時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」

~今こそ青空へと舞わん~

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 勇とちゃなを乗せた二つの櫓が空へ行く。
 ジョゾウ達とドローンに引かれるまま。
 北北西の山岳部へと進路を向け、街の上を飛び越える様にして。

 そうして飛び上がり続ける事ものの数分。
 空を覆う程の厚い雲がとうとう勇達のすぐ目前に。

 本来ならば手に届く場所になど来るはずも無かった。
 だからか二人とも興奮の余り、思わず手を伸ばしていて。
 飛行機の中からとは違う雰囲気を、まるで綿を扱う様にして愉しむ。

 掴めそうで掴めない。
 でもなんだか触れている様な気がする感触があって。
 軟膏のお陰で温感は無いから、気持ちがそう錯覚させているのかもしれない。

 それでも良かったのだ。
 滅多に体験出来る事でも無いから。
 戦いの前の余興としては充分だから。

 そんな勇達ももう櫓の上は馴れたもので。
 ジョゾウ達とドローンの牽引も安定しているし、命綱もあるから心配も無いのだろう。

「勇殿、ちゃな殿、これより雲入りに御座る。 多少揺れ申すがご心配なさらぬよう!」

「わかった。 俺達は櫓に掴まってるから少しは無茶していいよ」

 しかし余興はここまでだ。

 視界の悪い雲の中においてはジョゾウ達の感覚だけが頼りとなる。
 ドローン達の補助があっても、難易度は目に見える時とは遥かに違うのだ。
 油断をすれば空気の層から滑り落ち、仲間もろとも真っ逆さまとなりかねない。

 故にジョゾウ達の顔が一層引き締まる。
 彼等にとってはここが一つの正念場だからこそ。

 そんな彼等の力強い羽ばたきの下、とうとう勇達が雲の中へ。
 するとたちまちその視界が薄灰色に染まり上がっていく。

 雲とは言わば空に浮かぶ濃霧で、その性質は基本的には同じだ。
 上昇気流によって持ち上げられた水蒸気が凝結・凝固。
 空間に滞留したまま見える程までに成長したものを指す。
 なので僅かに空気が重いともあり、先ほど勇達はそれを感じ取っていたのだろう。
 
 ただこうして全身を突っ込んでしまえば少し訳が違う。

 重さというよりも重圧プレッシャーが来るのだ。
 先が見えないという不安と、空を飛んでいるという事実が心を煽る故に。
 同様の条件下で飛行操縦士パイロットが陥り易い、空間識失調現象の前触れである。

 それもあって勇もちゃなも身を屈ませている。
 膝を付いた方が不安も減ると、杉浦から教えられていたから。
 そんな予備知識もあったから、二人とも不安はあっても堂々としたもので。

 そう落ち着いていたお陰で、見えるとは思っていなかったモノが視界へと映り込む事に。

「ジョゾウさん、あの光は!?」

「太陽に御座る。 この辺りはまだ陽が通る程に霧が薄いのであろう」

 そう、太陽である。
 木漏れ日の如く、薄雲所の隙間からチラチラと露光が差していたのだ。

 今は日中、昼にもならない時間帯だから陽光は強い。
 お陰で厚い雲でさえも所によってはこうして光が抜けてくる。
 今まさにその中に居る勇達ならば特に。

 しかも、それが今なら空への指標ともなるだろう。

「然らば好機! 皆の者、陽を頼りに空へ行かん! 全速前進ッ!!」

「「「エイホー!!」」」

 雲の中が不安なのは、天地の向きがわからないという事にある。
 しかし太陽があるとわかるならば、自分達が飛んでいる場所もおのずとわかるもので。

 たちまち不安を仰いでいた翼に自信が満ち溢れていく。
 天に瞬く太陽へと向け、その力強さが更なる高みへ。



 そして視界が灰色から逆光の真白へと変わった時、彼等は垣間見るだろう。

 試練を乗り越えた先に待つ、大空という世界のその姿を。



「はわぁ……!!」

 その景色には、飛行機に乗っていてはわからない壮大さがあったのだ。
 こうしてちゃなが思わず大口を開いたまま感激してしまう程に。

 雲を抜けたその先は、一面の青空が待っていた。
 遥か彼方まで青の続く、一切の曇り無き蒼天が。

 それも見渡せば、その全てが均一のグラデーションを保っているという。
 思わず違いを探したくなる程のとても整った色彩のままに。
 更には水平線の彼方へ続く程に薄くなり、目下に広がる雲と混ざるかの様で。

 まるで世界が空で完結している。
 地上とは全く別の世界なのだと思わせる光景がそこにあったのである。

 なまじ雲が厚いから地表が見えなくて。
 そのお陰で世界が独立している様にも見えたのだろう。
 でもそんな理屈などわからないから、とても幻想的だった。

 少なくとも、こんな光景を初めて観た二人にとっては。

「思うていたより風が強し! 気を付けよ!」

 けれど空に嗜み慣れた者にとっては過酷な世界でもある。
 そんな声が聴こえてふと見れば、ジョゾウ達の羽根々が激しく煽りを受けていて。

 そこで二人もようやく気付いた様だ。
 自分達が如何な突風に見舞われていたのかを。
 空に夢中だったから今の今まで気付かなかったらしい。

「杉浦さん、空はかなり風が強い方みたいだ!」

『了解した。 だがドローンに問題は無い。 多少制動はあるが想定内だ。 牽引はまだ要るか?』

「ジョゾウさん、そろそろドローン切り離しのタイミングです! どうですかっ!?」

「構わぬ! 後は我等がやってみせよう!」

 ただそれでも今はジョゾウ達の得意なフィールドである事に変わりはない。
 地上での柔らかな雰囲気とまるで違い、今のジョゾウ達は非常に堅牢な様を見せている。
 このまま飛ぶ事を託せそうな程に逞しい飛翔姿だ。

 なら遠慮する必要はもう無い。

 間も無く、ドローンに下げられていたワイヤーが切り離されていく。
 それと同時に勇達もが櫓側の固定具を離し、たちまちワイヤーが空の彼方へ。
 地上へ落ちる事となるだろうが、炎の弾が落ちるよりはずっとマシだ。
 自衛隊が後処理をしてくれる予定だからこそ、ここも遠慮は不要なのだから。

 するとドローン達はその間も無く後方へ下がり、雲の中へ。
 彼等なりの配置へと戻ったのだろう。

 しかし一方で、たちまち櫓にも突風の影響が。
 土台が煽られて揺れ始めたのだ。
 ドローンの補助が無くなり、傾きが僅かに変化した所為で。
 となれば今度は二翼の頭を張るボウジとミゴの見せどころだ。

「「二翼揚頭! オーホー!」」

 その叫びと共に二人だけが上昇を始めていく。
 するとどうだろう、櫓が徐々に傾きを変え、揺れが収まっていく。
 風に乗ったのだ。
 まるで波に乗るサーフィンの如く。
 これも全てジョゾウ達の采配がもたらした賜物だと言えよう。

 やはり彼等は空の事をよくわかっている。
 例え支えるのが持った事の無い物だとしても、どう扱えばいいかは熟知しているのだろう。

「皆凄いッ!!」

「それほどでもあろう! オッホー!!」

 だからこそジョゾウ達も上機嫌だ。
 自分達の凄さをこうして見せつける事が出来たから。
 それに勇達がこう正直に応えてくれるから、それもなんだか嬉しくて。

『よし、予定通りこのまま山岳部上空へ向かってくれ。 現在の向きより一時の方向だ』

「わかりました! ジョゾウさん向こうの方角へ舵を切ってください!」

 ならば羽ばたく翼にも力が籠ろう。
 まるで勇達から命力を分けて貰ったかの如く。



 逆風にも負けず、重しにも負けず。
 ジョゾウ達が必死に翼を仰ぎ、空を突き抜けていく。

 向かって来ているであろうロゴウ達を迎え撃つ為にも。

 勇達の翼となりし者達は今、その使命をも風に乗せて羽ばたこう。
 

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