時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
1,183 / 1,197
第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」

~想えよ戦士達、今はただひたすらに~

しおりを挟む
 ずっと後悔していた。
 ずっと借りを返したかった。
 学生時代に衝突してからずっと。

 何の理由も知らずに突っかかって。
 その上で自ら巻き込まれて。
 魔剣を取った理由だって本当は自分の為で。
 そんな理由を隠したまま、色々と勇を振り回して困らせて。

 そうして何度も迷惑を掛けた。
 勇が天士として覚醒した時だってそう。
 愛だなんだと言って止められた理由も考えず、また衝突してしまった。

 そんな後悔の連続だったから思いもするだろう。
〝これだからきっと天士になれないのだろう〟と。
〝余りにも人間的過ぎた、人間の枠を越えられなかった〟と。

 なので借りを返せる機会はもう来ないかもしれない。
 天士となった勇と自分とではもう何もかもが違い過ぎるから。

 ならせめて自分の出来る事はしたい。
 そう思って止まらなくて。



 だからこそ今、心輝は勇達を背にしていた。
 迫る崩力球との間を割る様にして。



「後悔なんてよおッ!! 死ぬまでとっときたいなんてェ思うモンじゃあねーぜえッ!!!」



 この時、獄炎が迸る。
 自身を、勇達をも包む程に激しく強く。
 更には瞬時にして渦巻き、島直下へと向けた巨大な紅竜巻をも形成していて。

 その直後、竜巻周囲が無数の爆発を起こす事に。

ズゴゴゴゴーーーッッッ!!!

 するとたちまち崩力球までもが崩壊・爆裂していく。
 連鎖誘爆を引き起こしているのだ。

「死力を尽くしたいって思うのは茶奈だけじゃねぇ。 俺達だってまだ戦えるんだってよぉ!」

「シン……」「シンさん……」

「だったらよ、俺達にも頼ってくれよ。 何だってしてみせるからよ」

 そんな爆発の包む竜巻の中を三人が落ちていく。
 思いの丈をぶつけながら。

 後悔なんて、借りなんてもうどうでもいい。
 今はただ勝ちたいから。
 死力を尽くす勇と茶奈と同じ様に。

 それが親友として、仲間として成すべき事だと誰よりも強く思っているから。

「その為だったら俺はッ―――」

『その身を捧げるかあ!? 肉らしく喰われてえッ!!』

「「「―――ッ!?」」」

 しかしその想いを全て伝える間も無く、醜悪な声が遮る事に。
 なんとアルトラン・アネメンシーが炎渦えんかを突き破って現れたのだ。
 その二本の腕で強引に引き千切りながら。

 しかも更にはもう二本の腕を掲げ、合わせた拳を振り下ろすという。
 三人纏めて叩き潰せる程の勢いで。

 その中で心輝は何を思ったのだろう。
 それでも切り抜けられると思っただろうか?

 いや、もう心輝は諦めていた。



 己の保身など、もうとっくに。



 心輝の脚が勇を突く。
 炎の欠片の舞う中を。
 全ての想いを託したままに。

ドギャゴオッッッ!!!!

 そうして勇と茶奈が離れる中、たちまち鈍い音がその場に響いた。
 心輝が巨大な拳を叩き付けられた事によって。

 己の身を顧みず、勇と茶奈を庇ったのだ。
 この後での戦いに全てを賭けて。

「シィィィーーーーーーンッッッ!!!?」

 直後、打たれた心輝の身が大地へ向けて突き抜ける。
 大量の血飛沫を後に舞わせながら。

 まだ意識は有る。
 でももう動く事さえ叶わない。
 それ程強く砕かれてしまったから。
 身体も、魔剣も、自慢の反骨心さえも。
 
「全く、世話の焼けるッ!!」

 しかしその直下には瀬玲が待ち構えていて。

 展開した命力の網でしっかりと受け止める。
 出来る事と言ったら精々これくらいだから。

 でもお陰で心輝の落下死は免れたと言えよう。
 もっとも、生きているかどうかも怪しい状況だけれど。

 だが―――
 
 

『鬱陶しい蠅共が!! 消えてしまえええーーーーーーッッッ!!!!』



 アルトラン・アネメンシーの標的は既に切り換わっている。
 まともに飛べない勇達から、戦いの邪魔をした心輝と瀬玲へと。

 一度芽生えた殺意は相手が消滅するまで収まる事は無い。
 それが怨恨憤怒を司る邪神である故に。

 その怒りが大地へと黒閃光を解き放たせる。
 まるで先程の仕返しと言わんばかりに。
 瀬玲が呆然と空を見上げる中で。

 ただの人にしか過ぎないこの二人に崩烈閃を防ぐ手立てなど無い。
 そして速過ぎるからこそ、逃げる事さえ叶わなかったのだ。

 この攻撃からは逃げられない。
 そう悟ってしまって。



パパキィィィーーーーーーンッッッ!!!!



 しかし放たれし崩烈閃は全て、あらぬ方向へと曲がっていた。
 二人の頭上を覆う、虹の壁によって。

 何物をも通さないという強い意志の下に。



「これ以上はこのデューク=デュランがやらせはしない。 彼等は人類の、この宇宙の希望なのだからッ!!」



 その背後にて、デューク=デュラン立つ。
 持てる力を心輝と瀬玲を守る為に全て注いで。

 いや、この場に居る全ての者達を守る為に。

 そう、やっとがやって来たのだ。
 【六崩世神】を退けた全ての仲間達が、デュランと共に。

 【忘虚】を無に還した獅堂、ズーダー、ディック、バロルフが。
 【憎悦】を消し飛ばしたイシュライト、アルバ、サイが。
 【諦唯】を圧し返したアージ、マヴォ、エクィオ、ピューリーが。
 【憤常】を叩き潰した剣聖、ラクアンツェが。
 【劣妬】を断ち切ったナターシャ、アンディが。
 【揚猜】を砕き祓った福留、莉那が。
 全員が一堂にして集結したのである。

「アンタ達……!?」

「重ね重ね、遅れて済まない。 だけどこれで全ての御膳立てが済んだ。 後は私が勇の代わりに君達を守ろう、何があろうとも」

「だからってなんで皆まで!?」

 でも、だからこそ瀬玲が疑問を隠せない。
 戦える者ならともかく、ほぼ誰しもがボロボロで。
 おまけに中には命力を持っていない人間だっている。
 どうしても戦いの邪魔になるとしか思えなかったのだ。

『お前がもう一人の天士、デューク=デュランという奴か。 小賢しい肉がまた一人増えよって』

 突如として現れたグランディーヴァの面々に、アルトラン・アネメンシーも不快さを見せつける。
 特に、もう一つの懸念だった存在へと。
 やはり茶奈を通して知ってはいたのだろう。

「ああ。 だが私は戦わない。 何故なら、貴様の相手はもう決まっているからだッ!!」

 ただデュラン自体は戦意よりも何よりも防御の姿勢を貫いている。
 それは単に、自分がこの場でどんな役目を担っているか知っているから。 

 そう双方が言葉を交わした直後だった。
 空の彼方から紅光の塊が高速でやってくる。
 勇と茶奈がようやく復帰出来たのだ。

 それどころか勢いのままにアルトラン・アネメンシーへと斬り掛かっていて。

 勇も茶奈もまだ全然諦めてなどいない。
 庇ってくれた心輝の為にもと言わんばかりに。
 故にたちまち双方が空へと飛び上がり、攻防が再開する。

 またしても天地を揺るがす激音を鳴らしながら。

「ねぇデュラン! ししょ達を助けてあげてよ!」

「いや、私では二人の力にはなれないんだ」

「それよ。 なんでアンタは皆を連れて来たのさ!?」

 そんな戦いを見上げながらも、瀬玲が疑問を投げかける。
 仲間達と共にボロボロの心輝を寝かし、再び膝枕をする中で。

 仲間が戦いに加われないのはデュランだって知っているはずで。
 なら仲間達を置いて自分だけで参戦すれば戦力になるのだと。

「それは私の力が彼程に強くないからだ。 人々の期待の受け皿も、根本的な力の使い方もね。 だからまず役には立たないだろう。 でも君達は違う。 君達には可能性があるんだ。 私が参戦するよりもずっとずっと有利になるくらいの」

 どうやら他の仲間達も同様には思っていたらしい。
 だからこそ今度は皆がデュランに視線を向け、答えらしい答えを期待する。

 どうすれば勇達の力になれるのかと、一同にして。



「誰よりも強い絆を結んだ君達が応援する事で、勇の力はもっと大きく増加するんだ。 より近く、より高らかと、より強く願えばなお。 それを成せるのが天士という存在だから」



 でもその答えは考えずともわかるくらいに、何よりも簡単シンプルだった。

 そう、勇の天士としての心は人の想いにより強く反応する。
 それは物質的距離にも影響するほど敏感に。
 しかも関係性を持てば持つほど掛け算の倍率が増える。

 だからデュランは勇の力を高める為に仲間達を連れて来たのだ。
 そして彼等を守る為に防御に徹しようとしている。
 それが何よりも勝利への近道となるからこそ。

「んじゃヒーローショーを観る子供達みたいに応援しろっていう事かい!?」

「ああそうさ。 でも必ずしも声に出す必要は無いよ。 想いの強さが何より大事なんだ」

「おやおや、羞恥心のある紳士淑女にも優しい能力なことで」

「だが、声を出す事で何よりも昂れるだろう。 ならば俺は叫ぶぞ、二人の為に!!」

「おまえらぁ、腹から声出せェ!! あの邪神野郎がウザがるくらいになあッ!!」

 そうと知ればもはや叫ばずにはいられない。
 ただただ想いのままに、願うままに。

 力なんて関係無い。
 勇と茶奈を想うからこそ叫ぶのだ。
 二人に絶対に勝って欲しいから。
 邪神を退け、その上で生きていて欲しいから。



 この時、場の全員の願いが空へと渡る。
 友を想いし純粋な心の欠片が揚々と。

 そしてまた一人、願わずにはいられない者からも。



「へ、へへ……、なら、よぉ……」

「シンッ!?」

 震えたその手が高く仰ぐ。
 光瞬く青空へと向けて。
 届かなかった空に、届けたかった想いを乗せて。

「ブチ貫きやがれェ、お前の……意志、を―――」

 誰よりも強く、純粋に。
 その気高き想いはなお―――不動。



 例え、天差す手が崩れ落ちようとも。
 


 仲間達の想いを受けて、勇と茶奈の力が迸る。
 以前よりもずっと強く、速く、激しく唸る程に。

 その姿こそが世界への希望となろう。
 今はまだ意図が全てに届かなくても。

 願いは巡る。
 想いは走る。
 距離も大気さえも抜け、世界を越えて。

 今この危機を乗り越える為にも。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...