時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」

~生きたい、ただその願いを力へと換えて~

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 虹と黒の光柱がぶつかり合う。
 共に星を滅する程の力を以って。

 もし黒光―――崩力が勝てば地球は消滅するだろう。
 そうさせない為にも勇と茶奈が己の持つ力を全て注ごう。

 今となっては茶奈の命力もまた天力へと変換される。
 現界物質で構築された【双界剣】を介する事によって。
 故に今、合わせて四つの想いが超神剣より迸っていた。

 世界の安定を求めるア・リーヴェと。
 友の希望を叶えたいカプロと。
 安寧の明日を願う茶奈と。
 その愛する人と過ごす未来を望む勇の想いが。

 この押し合いだけは絶対に負けられないという強い意志と共に。

 世界の空模様は今この時、余りにも強い力の衝突によって幾度と無く変化している。
 それこそ虹の様に、昼も夜も関係無いくらいに。
 弾けて世界を巡った天力と崩力が大気をも押し流し、彩光を捻じ曲げたからだ。
 その所為で空の映像までが歪み、もはや正しい姿を映す事は叶わない。

 だからもう人々はただ願うしかなかった。
 勇達が邪神を倒してくれる事だけを。
 もうそれだけが彼等の希望だったから。

 例え異形達と戦っている最中だろうとも。
 例え人を救い出す為に炎中を走ろうとも。
 例え仮想世界で他人を諭す中だろうとも。

 世界は望む。
 勇達の勝利を。
 希望の明日を。



 だがそれでも、届かない現実がここに在る。



 なんと、虹光が押され始めていたのである。
 徐々にではあるが、それでも確実に黒光が地球に圧し迫っていく。

「ぐぅぅぅ!!?」

 全ての力を振り絞っているはずだった。
 勇と茶奈の無限力を注いでるはずだった。

 しかしそれでも僅かに届かない。
 幾百億のときを経て積み重ねられた怨念の力を超えるまでには。

『単純な力でお前達如きが勝てる訳も無いッ!! 悠久の時を経て培われた我の力はもはや全てを超越しているのだからッ!! 今までは我が悲願成就に付け込んで調子に乗っていただけに過ぎぬとおッ!!』

 それどころか、黒光が更に力を増している。
 アルトラン・アネメンシーの掴む崩力球がますます膨れ上がっていて。
 徐々に徐々に黒柱もが太くなり、虹光を包まんばかりに降り注いでいたのだ。

 その強大な力はもはや際限無し。
 有史より捻り出された絶望がこれ程までに業深かったのかと思える程に。

『故に呑まれろ! 我が絶望に!! この星ごと黒く塗り潰されてしまえぇぇぇッッ!!!』

 そして邪神自身の怨念と意志もが混ざり合い、注がれる力が勢い付く。
 虹と黒の比率を大きく変えてしまうまでに。

「うおおおッッ!!?」
「ううう~~~ッ!!!」

 その反発力は二人を潰さんばかりに凄まじい。
 かつてない程の力圧として降り注いでいた故に。
 余りの威力に周囲の大地が砕け、隆起し、光に呑まれて消し飛んでいく。

 余波は更に虹光自身にまで。
 虹光の表層が余りの威力により割れ始めたのである。
 しかもその破片が突如として飛び交い、勇達を襲う事に。
 押し返してくる殺意が剥離した虹光片を変質させたのだろう。

 肌を裂き、刺さり、叩き打って。
 たちまち二人から幾つも血飛沫が弾け飛んでいく。

 更には勇の左目をも削り、鮮血と共に顔を跳ね逸らさせていて。

 けれど、それでも直ぐに持ち直そうとしていた。
 力を僅かにも緩める事も無く。

 必死だったのだ。
 ここを退く事は絶対に出来ないのだと。
 それに、少しでも緩めれば背後の瀬玲達が先に余波へと巻き込まれてしまうから。

 そのお陰で瀬玲達は無事だった。
 二人の力が彼女達を守りきれていたからこそ。

 だからこそ瀬玲達は思わずにはいられない。
 「いっそ自分達を切り捨ててくれた方が良いのでは」などと。
 でもそう口に出す事が出来ないのは、その手段が悪手だとわかりきっているから。
 彼女達が居なくなった方がずっと勇達の不利となってしまうだろうと。

 だからこそ彼女達もまた、ただただ願い叫ぶ。

「勇ッ!! 茶奈ッ!! お願いだから勝ってえッ!!」
「我等は二人を信じているぞッ!!」「何があろうともッ!!」
「「負けるなししょー!!」」
「私達の想いもどうか貴方達の力にッ!!」
「俺達にゃアンタらしかいないんだってェ!!」
「世界を救えるヒーロー、それは君達しかいないのさッ!!」

 もうこれ以上皆の想いは力にはならないかもしれない。
 力になれても届かないかもしれない。

 でも叫ばずには居られなかったのだ。
 例え保身の為なのだとしても、欲望の為なのだとしても。
 生きたいと願う事が力になるなんて、彼女達が誰よりずっとよく知っているから。

 そして人をも良く知るかの者だからこそ、その中で只一人空を仰ごう。
 世界が、人が、生きようとしているその証を眼に捉えて。



「ええ、ええ。 でもね、どうやら世界はもう君達に託してくれたようですよ」



 福留が何故その光を見る事が出来たかは定かではない。
 命力を得ている訳でも、天力に目覚めた訳でもないのに。

 でも、それでも確かに見えたのだ。
 人々の意思が、希望が、夢が。
 遥か彼方全周より、流星群の如く閃光筋を引きながらやってきていたのを。

 しかもその光達が勇達へと向けて一直線に降り注いでいた事も。

「やはり君達の歩んで来た道は正しかった。 そうでなければきっと、世界はここまで素直に応えてくれなかったでしょうから……」

 福留は知っている。
 世界が如何に歪み、頑なだったのかを。
 多様性に肥え過ぎた余り、他を受け付けなくなってしまっていた事を。

 けれどそれを勇と茶奈は変えてみせた。
 世界を巡り、救い、その姿を示した事で。
 それも救世主などという象徴としてではなく、なんて事の無い男女として。

 きっとその姿が世界に最も寄り添っていたのだろう。
 愛し合いたいが為に戦う、そんな最もわかり易い目的を礎としていたから。



 だからこそ今、世界は紛れも無く一つになっていた。
 心の流れ星が一つへと繋がり、勇達へと注がれた事によって。



『なんだあの光はッ!?』

「うッ!? これは……世界の、願い!?」

 その閃光はとても暖かかった。
 これ以上に無く心を高揚させ、それでいて清らかにさせてくれるくらいに。
 まるで清々しい空気を胸一杯に取り込んで膨らませたみたいな。 

 その想いを茶奈もまた受け取っていて。
 故に、二人揃って微笑まずには居られない。
 余りの心地良さに、世界への愛さえ抱かずには居られなかったから。

「気持ちいい……私にもわかります。 これが皆の願いの形なんですね」

「ああ、やっぱり皆願っているんだ。 今日で終わりたくないってさ」

 世界の愛が、願いが、暖かな光となって二人を包む。
 所々煌めく夢の様な光景を魅せながら。

 その輝きが不思議と、人の姿を象っていく。
 カプロとア・リーヴェ、超神剣の中に秘められた二人の姿を。

 そんな二人の手が、勇と茶奈の腰に回していた腕にそっと触れる。
 まるで彼等を支えるかの様に、それでいて力を分け与えながら。

 そうして気付けば四人、顔を合わせて頷き合っていて。

『皆、二人の事を待ってるッスよ。 だからちゃっちゃと終わらせちゃいましょ』

『えぇ。 過去よりも今を、明日を願う命の為にも……』

「うん、だってきっとこれからの方がずっと大変でしょうから」

「ああ。 人生で積み重ねる苦労は、こんな戦いなんかよりもな」

 彼等はわかっているのだ。
 今のこの押し引きよりも、今までの戦いよりも。
 これからの人生の方がずっとずっと難しいという事を。

 見えない明日を創り続ける方がずっと大変なのだと。

 だから勇と茶奈が再び空を見据える。
 そんな二人に背を押されるままに。

 もう何も怖くはない。
 背を支えてくれるのはカプロとア・リーヴェだけじゃないから。
 瀬玲達やデュラン達だけでもないから。

 世界が支えてくれる。
 今足に付く地球さえ支えてくれる。
 この星に生きる命全てが託してくれたから。



 だからこそ今、その世界が想いの全てを超神剣へ。

 生きたい―――ただその願いを力へと換えて。


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