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エタリティ_1
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ジュジュジュ……チチチッ……
目を背けくなる程の朝の日差しが照り付け、緑が生い茂る小枝の隙間から小鳥が囀りを上げながら羽ばたき飛んでいく。
そんな日常の風景を映すある日の日曜日、俺……大園 昂輝は人生最大の勝負へと挑んでいた。
「ずっと玲香の事が好きだった!! 俺と付き合ってくれないか!!」
頭を深々と下げ、その手を突き出した相手……それは俺の想い人であり、幼馴染である相原 玲香という女の子。 彼女は容姿こそ整ってはいるが言う程美人という訳ではない。 だが明るく優しい性格で、人にとても好まれやすい。
そんな彼女の事を慕う人間は多い。
焦りを感じていた俺は……彼女に愛の告白を行う一大決意をし、そして今に至るという訳だ。
「えぇ~……ん~どうしよっかなぁ~」
焦らす様に彼女が体を左右に振り、間を作る……そんな彼女の仕草が俺の緊張をより強く引き締めた。
「ふふっ、なんてね、冗談っ」
いじらしい顔を向けながらそんな言葉を放った時、俺は一瞬どういう事なのだろうかと首を傾げそうになった。俺の言った事が冗談だと思ったのか? それとも、俺と付き合う事は冗談にもならないという事なのだろうか?
思考が巡り、そして真っ白になっていく。
「ありがとう、そしてごめんね」
――ダメか――……そんな言葉が俺の中に何重にも響いた。
「こうちゃんにそんな事言わせてごめん……本当は私から言いたかった事なのに」
「えっ……?」
真っ白になった思考が色彩を取り戻し、視界が広がっていく。 俺はゆっくり上体を起こしながら彼女の顔を見つめた。
彼女のその顔はニッコリとした笑顔で俺を見つめ返し……その時、透き通った様な淡い茶色の瞳が視線と合わさった。
「私もこうちゃんの事が好き……ずっとずっと、好き……」
「玲香……」
―――
――
―
俺、大園 昂輝は青春真っ盛りの『普通』の高校1年生。 敢えて『普通』を名乗るのは、たった今こうしてリア充の仲間入りを果たしたからだ。
決して容姿端麗でも無ければ学力が高い訳でも無い。 強いて言うなら学力は割と高い方だと思ってはいる。
……思うだけなら自由だろう?
それに対し彼女……相原 玲香は前述に加え、おまけに頭脳明晰で理系の出、器量もよく面倒見がいいのが堪らない。 ふわりと柔らかさを体現するキメ細かい長髪は、風に煽られる事でその美麗さを初めて体現させる。 個人的に言わせてもらえば、そこらの可愛い子とはベクトルが違う……大人の色香を持った子だ。
彼女とは幼稚園の頃から共に暮らし、家族とも親交深く付き合いをしている。 共に旅行に行った事もあれば、小さい頃に一緒に風呂に入った事だってあるくらいだ。 彼女の趣味は知っているし、彼女の癖や口癖だって知っている。 勿論それは彼女側もそうだ。
つまり俺達はよく知った者同士……それでいて、お互いが認め合える同志。
きっと、こうなったのは必然だったのかもしれない。
―
――
―――
「幼馴染」から「恋人同士」に関係を昇華させた俺達はその日……勢いに任せ、初めてのデートを行う事となった。
別に着飾る訳でも無く、お互いがよく着慣れた衣服を身に纏い、歩き慣れた街を歩く。 俺達が住む街は人が暮らすには十分過ぎる程の衣食住、娯楽に溢れた発展街……例え慣れていたとしても、飽きる為にはいささか時間を必要とするだろう。
当初はそんな街でいつもの様に過ごそうと繰り出した訳だが……ふと、彼女の目にある物が留まった。
「世界の鉱石展 開催中」……とてもシンプルにそう書かれた立て看板だ。
どうやら市役所隣の展示場にて定期的に行われる博覧会の様であった。
彼女はパワーストーンだとかそういった「不思議な力」を感じる物に興味を持っている。 それが彼女の目を惹いた理由なのだろう。
「アレ、行ってみたいな」
彼女が足を止め、そう呟く。 それを引き留める理由も無かったし、何より俺も興味があった。
「いいよ、行こう」
二つ返事で互いが頷き合い、足を同じ方向へ向けて踏み出した先……建物越しに見えるのは、博覧会の会場である市立展示場。
展示場内は会場に入った際の一目で一望出来る程の広さしかなく、客の入りもまばらだ。 カップルが3組と老人の男性が一人……市がお戯れで開催する展示会なのだからこの規模なのも仕方のない所だ。
クラシックすら流れない無音の空間が僅かな音を反響させて響き、片隅から聞こえてくる話し声や独り言まで耳に入って来る。
「凄い……原石綺麗……」
うっとりとした顔で見つめる玲香……展示場に並ぶショーケース越しの鉱石の数々が目線を惹く。 大抵の女性は磨かれ輝きを放つ宝石を求めるものだが……彼女はそうではなかった。 彼女曰く「原石が素敵な所は目に見えない理想がある事。 土や岩に隠れた先に、宝石の塊があって、人の手が入っていない自然の美しさが詰め込まれている」からだそうだ。
見えない美しさ、想像する事の面白さ、彼女はそこに惹かれているのだろう。
そしてそれを理解出来るからこそ……
「凄いよな、見る角度で色が変わって見えるよコレ」
光を取り込み、虹色に換えて放つ原石……くすんだ輝きでも、それはまるで「自分を見てくれ」と言わんばかりに視界に光を送り訴えてくる。 これが宝石になればどれだけ美しいだろうか……そんな想像を掻き立てられてやまない。
そう思うと、途端欲しくもなってくる。
「これ、どこで採れるんだろうな。 採れる場所が判ったら玲香の為に取ってきてあげるよ」
「子供みたいな事言わないでよぉ~」
俺は半ば本気だったが、冗談と取られた様で……なにやら恥ずかしい気がして、反論するのは避ける事にした。
大小様々な鉱石が並び、余すことなく目を通していく。
鉱石と言っても、決して宝石の原石だけではない。 金属や貴金属の素材となる鉱石も同様に展示され、主な有用素材に関しては用途までを記した資料が添えられていた。
みすぼらしい風体を晒すその鉱石が身の回りにある物へと加工されていく様は、なんとも言えない親近感を誘う。
一つ一つ丁寧に順を追って説明資料などに目を通していると……ふと、一つの鉱石がその視界に留まった。
「なんだろうこれ……」
妙に気に成り、順を割って近づいてみると……直下に置かれた名札に書かれた「隕鉄」という文字が、照明の光の反射から外れて姿を晒す。
「隕鉄……?」
「それって、隕石に含まれてた鉄って事じゃない?」
遅れて付いてきた玲香が教えてくれた隕鉄……見た目は手で握れる程しかないただの岩の塊。 だが所々に鈍い光沢を持った滑らかな表皮が見え隠れし、如何にも鉄という雰囲気を露わにしていた。
その見た目に反して、「隕石だったモノ」という存在感が妙に好奇心を煽る。 気付けば二人してまじまじと舐める様に見つめ、それぞれの想いを馳せていた。
「この石がさ、何万年も、何億年も、宇宙を漂って地球にやってきたんだよね……それを思うとさ、なんだか宇宙の神秘を身近に感じちゃう」
「うん……壮大なロマンを感じるよ」
どこかの星がぶつかって、砕けて、公転軌道から外れたその欠片が……広がる宇宙を横断して、誰にも気付かれる事無く、ごく小さな地球という星にぶつかる。 ここに在る隕石という存在そのものが、それを成した奇跡とも言える存在なのだ。
隕石の中には地球に存在しない元素が含まれている事もあるという。 ここに在るという事はつまりそんな物質が含まれていない、ただの岩と鉄の塊に過ぎないのだろう。 だが、例えそうであっても俺達にとってはそんな事は関係ない。 ただ、ここにそれがある……それだけで十分なんだ。
すると、不意に俺の目にチラリと……隕鉄が放つ光が目に映りこんだ。
それはほんの少し光が増した程度の光。 恐らく複数ある照明の光が重なって目に入ってきたからだろう。
僅かに怯み、眉を細めると……それに気付いた玲香が心配そうに、上目遣いで顔を覗き込んで来た。
「こうちゃん大丈夫?」
「あ、うん……」
そんな彼女の心遣いもさることながら、その仕草が凄く可愛くて……胸の鼓動が自分でも判る程に高鳴り始めていく。
彼女の事が好きだった奴……すまないが、この笑顔はもう俺の物だ。
そんな邪な心を胸に抱きつつも、彼女の良心に笑顔で返し……俺達は再び別の鉱石へと足を進めていった。
その後に続く鉱石はと言えば、どれもパッとした物も無く……あっという間に残る全ての展示物の閲覧が終わってしまった。 とはいえ、それなりに時間は費やした様で……展示場を後にした時には、空の彼方にほんのりとした赤みが白い空のキャンパスを滲ませ始めていた。
この後、軽く夕食を済ませて帰路に就く。 恋人同士の大事なデートとはいえ、学生であり家族が居て門限もあるのだから早く終わってしまうのはいざ仕方のない事だ。 幸い相手が俺という事もあり、彼女側の両親もこの事を知っている訳で……彼女と、彼女の両親の顔を立てる為にも、家のルールくらいは守ってみせるという気概は持ち合わせている。
名残惜しさを投げ捨て彼女を家に送り届けると、軽く別れを済ませて隣の自宅へと歩を進めた。
今、自宅には両親は居ない。 自慢では無いが両親は共にキャリア持ちであり、互いに仕事関係で別所への単身赴任中。 月に2~3度程帰って来る事はあるが、基本は家に居ない。 その間、俺は約束された自由を満喫する事が出来るという訳だ。
自宅に戻り、一人だけの家で寂しくテレビを点けてはバラエティ番組を見ながら笑いを飛ばし、 スマートフォンを覗いては玲香や友人からのSNSでの会話に華を咲かせる。 そんな日常の有体を今日も晒した事に満足し……玲香と懇意になった事に想いを馳せつつ布団へ潜りこんだ。
「明日の学校が楽しみだ」
何気なく漏らした独り言を最後に、俺の意識は暗い闇の中へと落ちていった……。
目を背けくなる程の朝の日差しが照り付け、緑が生い茂る小枝の隙間から小鳥が囀りを上げながら羽ばたき飛んでいく。
そんな日常の風景を映すある日の日曜日、俺……大園 昂輝は人生最大の勝負へと挑んでいた。
「ずっと玲香の事が好きだった!! 俺と付き合ってくれないか!!」
頭を深々と下げ、その手を突き出した相手……それは俺の想い人であり、幼馴染である相原 玲香という女の子。 彼女は容姿こそ整ってはいるが言う程美人という訳ではない。 だが明るく優しい性格で、人にとても好まれやすい。
そんな彼女の事を慕う人間は多い。
焦りを感じていた俺は……彼女に愛の告白を行う一大決意をし、そして今に至るという訳だ。
「えぇ~……ん~どうしよっかなぁ~」
焦らす様に彼女が体を左右に振り、間を作る……そんな彼女の仕草が俺の緊張をより強く引き締めた。
「ふふっ、なんてね、冗談っ」
いじらしい顔を向けながらそんな言葉を放った時、俺は一瞬どういう事なのだろうかと首を傾げそうになった。俺の言った事が冗談だと思ったのか? それとも、俺と付き合う事は冗談にもならないという事なのだろうか?
思考が巡り、そして真っ白になっていく。
「ありがとう、そしてごめんね」
――ダメか――……そんな言葉が俺の中に何重にも響いた。
「こうちゃんにそんな事言わせてごめん……本当は私から言いたかった事なのに」
「えっ……?」
真っ白になった思考が色彩を取り戻し、視界が広がっていく。 俺はゆっくり上体を起こしながら彼女の顔を見つめた。
彼女のその顔はニッコリとした笑顔で俺を見つめ返し……その時、透き通った様な淡い茶色の瞳が視線と合わさった。
「私もこうちゃんの事が好き……ずっとずっと、好き……」
「玲香……」
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俺、大園 昂輝は青春真っ盛りの『普通』の高校1年生。 敢えて『普通』を名乗るのは、たった今こうしてリア充の仲間入りを果たしたからだ。
決して容姿端麗でも無ければ学力が高い訳でも無い。 強いて言うなら学力は割と高い方だと思ってはいる。
……思うだけなら自由だろう?
それに対し彼女……相原 玲香は前述に加え、おまけに頭脳明晰で理系の出、器量もよく面倒見がいいのが堪らない。 ふわりと柔らかさを体現するキメ細かい長髪は、風に煽られる事でその美麗さを初めて体現させる。 個人的に言わせてもらえば、そこらの可愛い子とはベクトルが違う……大人の色香を持った子だ。
彼女とは幼稚園の頃から共に暮らし、家族とも親交深く付き合いをしている。 共に旅行に行った事もあれば、小さい頃に一緒に風呂に入った事だってあるくらいだ。 彼女の趣味は知っているし、彼女の癖や口癖だって知っている。 勿論それは彼女側もそうだ。
つまり俺達はよく知った者同士……それでいて、お互いが認め合える同志。
きっと、こうなったのは必然だったのかもしれない。
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「幼馴染」から「恋人同士」に関係を昇華させた俺達はその日……勢いに任せ、初めてのデートを行う事となった。
別に着飾る訳でも無く、お互いがよく着慣れた衣服を身に纏い、歩き慣れた街を歩く。 俺達が住む街は人が暮らすには十分過ぎる程の衣食住、娯楽に溢れた発展街……例え慣れていたとしても、飽きる為にはいささか時間を必要とするだろう。
当初はそんな街でいつもの様に過ごそうと繰り出した訳だが……ふと、彼女の目にある物が留まった。
「世界の鉱石展 開催中」……とてもシンプルにそう書かれた立て看板だ。
どうやら市役所隣の展示場にて定期的に行われる博覧会の様であった。
彼女はパワーストーンだとかそういった「不思議な力」を感じる物に興味を持っている。 それが彼女の目を惹いた理由なのだろう。
「アレ、行ってみたいな」
彼女が足を止め、そう呟く。 それを引き留める理由も無かったし、何より俺も興味があった。
「いいよ、行こう」
二つ返事で互いが頷き合い、足を同じ方向へ向けて踏み出した先……建物越しに見えるのは、博覧会の会場である市立展示場。
展示場内は会場に入った際の一目で一望出来る程の広さしかなく、客の入りもまばらだ。 カップルが3組と老人の男性が一人……市がお戯れで開催する展示会なのだからこの規模なのも仕方のない所だ。
クラシックすら流れない無音の空間が僅かな音を反響させて響き、片隅から聞こえてくる話し声や独り言まで耳に入って来る。
「凄い……原石綺麗……」
うっとりとした顔で見つめる玲香……展示場に並ぶショーケース越しの鉱石の数々が目線を惹く。 大抵の女性は磨かれ輝きを放つ宝石を求めるものだが……彼女はそうではなかった。 彼女曰く「原石が素敵な所は目に見えない理想がある事。 土や岩に隠れた先に、宝石の塊があって、人の手が入っていない自然の美しさが詰め込まれている」からだそうだ。
見えない美しさ、想像する事の面白さ、彼女はそこに惹かれているのだろう。
そしてそれを理解出来るからこそ……
「凄いよな、見る角度で色が変わって見えるよコレ」
光を取り込み、虹色に換えて放つ原石……くすんだ輝きでも、それはまるで「自分を見てくれ」と言わんばかりに視界に光を送り訴えてくる。 これが宝石になればどれだけ美しいだろうか……そんな想像を掻き立てられてやまない。
そう思うと、途端欲しくもなってくる。
「これ、どこで採れるんだろうな。 採れる場所が判ったら玲香の為に取ってきてあげるよ」
「子供みたいな事言わないでよぉ~」
俺は半ば本気だったが、冗談と取られた様で……なにやら恥ずかしい気がして、反論するのは避ける事にした。
大小様々な鉱石が並び、余すことなく目を通していく。
鉱石と言っても、決して宝石の原石だけではない。 金属や貴金属の素材となる鉱石も同様に展示され、主な有用素材に関しては用途までを記した資料が添えられていた。
みすぼらしい風体を晒すその鉱石が身の回りにある物へと加工されていく様は、なんとも言えない親近感を誘う。
一つ一つ丁寧に順を追って説明資料などに目を通していると……ふと、一つの鉱石がその視界に留まった。
「なんだろうこれ……」
妙に気に成り、順を割って近づいてみると……直下に置かれた名札に書かれた「隕鉄」という文字が、照明の光の反射から外れて姿を晒す。
「隕鉄……?」
「それって、隕石に含まれてた鉄って事じゃない?」
遅れて付いてきた玲香が教えてくれた隕鉄……見た目は手で握れる程しかないただの岩の塊。 だが所々に鈍い光沢を持った滑らかな表皮が見え隠れし、如何にも鉄という雰囲気を露わにしていた。
その見た目に反して、「隕石だったモノ」という存在感が妙に好奇心を煽る。 気付けば二人してまじまじと舐める様に見つめ、それぞれの想いを馳せていた。
「この石がさ、何万年も、何億年も、宇宙を漂って地球にやってきたんだよね……それを思うとさ、なんだか宇宙の神秘を身近に感じちゃう」
「うん……壮大なロマンを感じるよ」
どこかの星がぶつかって、砕けて、公転軌道から外れたその欠片が……広がる宇宙を横断して、誰にも気付かれる事無く、ごく小さな地球という星にぶつかる。 ここに在る隕石という存在そのものが、それを成した奇跡とも言える存在なのだ。
隕石の中には地球に存在しない元素が含まれている事もあるという。 ここに在るという事はつまりそんな物質が含まれていない、ただの岩と鉄の塊に過ぎないのだろう。 だが、例えそうであっても俺達にとってはそんな事は関係ない。 ただ、ここにそれがある……それだけで十分なんだ。
すると、不意に俺の目にチラリと……隕鉄が放つ光が目に映りこんだ。
それはほんの少し光が増した程度の光。 恐らく複数ある照明の光が重なって目に入ってきたからだろう。
僅かに怯み、眉を細めると……それに気付いた玲香が心配そうに、上目遣いで顔を覗き込んで来た。
「こうちゃん大丈夫?」
「あ、うん……」
そんな彼女の心遣いもさることながら、その仕草が凄く可愛くて……胸の鼓動が自分でも判る程に高鳴り始めていく。
彼女の事が好きだった奴……すまないが、この笑顔はもう俺の物だ。
そんな邪な心を胸に抱きつつも、彼女の良心に笑顔で返し……俺達は再び別の鉱石へと足を進めていった。
その後に続く鉱石はと言えば、どれもパッとした物も無く……あっという間に残る全ての展示物の閲覧が終わってしまった。 とはいえ、それなりに時間は費やした様で……展示場を後にした時には、空の彼方にほんのりとした赤みが白い空のキャンパスを滲ませ始めていた。
この後、軽く夕食を済ませて帰路に就く。 恋人同士の大事なデートとはいえ、学生であり家族が居て門限もあるのだから早く終わってしまうのはいざ仕方のない事だ。 幸い相手が俺という事もあり、彼女側の両親もこの事を知っている訳で……彼女と、彼女の両親の顔を立てる為にも、家のルールくらいは守ってみせるという気概は持ち合わせている。
名残惜しさを投げ捨て彼女を家に送り届けると、軽く別れを済ませて隣の自宅へと歩を進めた。
今、自宅には両親は居ない。 自慢では無いが両親は共にキャリア持ちであり、互いに仕事関係で別所への単身赴任中。 月に2~3度程帰って来る事はあるが、基本は家に居ない。 その間、俺は約束された自由を満喫する事が出来るという訳だ。
自宅に戻り、一人だけの家で寂しくテレビを点けてはバラエティ番組を見ながら笑いを飛ばし、 スマートフォンを覗いては玲香や友人からのSNSでの会話に華を咲かせる。 そんな日常の有体を今日も晒した事に満足し……玲香と懇意になった事に想いを馳せつつ布団へ潜りこんだ。
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